田舎の少女とその出自
シルヴァートン邸に戻ったシャーロットは、茫然と自室のベッドに腰を降ろした。
もともと不確かだったここでの自分の存在が、ますますあやふやになってゆくのを感じる。
自分の本当の母親は、自分が行方不明になってすぐ死んだ。今の母親は父の再婚相手だ。
足場がガラガラ崩れてゆくような、頼りない感覚に眩暈がする。
「どうして誰も教えてくれなかったの?」
コリンズを問いつめてみると、
「申し訳ありません、お嬢様」
言い訳ができない実直な執事は、恐縮しきった様子で詫びた。
「ですが、使用人の口からそのようなことは」
「それはそうね」
シャーロットはため息をつき、サテンの室内履きを乱暴に脱ぎ捨てる。コリンズを責めても仕方がない。
それにしても、コリンズも知っていたとは。知らないのは自分だけだったということか。
「それで、お嬢様」
コリンズが恐る恐る問いかけてきた。
「どうなさるおつもりです」
「どうって言われても」
シャーロットは曖昧な返事をすると、ベッドの上で膝を抱えて思案する。あらためて自分と両親との関係を考えさせられる。シルヴァートン夫妻の目には、一体自分の存在はどう映っているのだろう。
シルヴァートン夫人にとって、私は夫の前妻の子だ。血の繋がりはないし、夫がかつて愛した女の娘など、傍においていて楽しいとは思えない。
シルヴァートン氏にとっては、一応実の娘ということになるが、もう彼の中では過去の存在になっている、死んだ妻が産んだ子供。すでに新しい妻を迎え平穏に暮らしていたところに、いきなり私が現れて、内心複雑なのではないだろうか。初めて自分に会ったときにシルヴァートン氏が見せた、驚愕に打たれたような表情を思い出す。お母様にそっくりね。あのときシルヴァートン氏が驚いたのは、私が死んだ元妻にあまりによく似ていたからなのだ。シルヴァートン夫人も同じような反応を示したのは、彼女もまた夫の元妻の顔を知っていたからなのだろう。
つまり、二人とも私の顔を見るたびに、死んだ前妻のことを思い出さずにはいられないわけで。
同じ屋敷に住みながら、滅多に自分と顔を合わせようとしない父と母。
上流階級の親子関係とはこういうものだとブリジッドやコリンズに説明されて、それで納得していたが。それが理由ではなかったのかもしれない。
前妻のことを思い出させる私の顔を見るのが嫌で、避けられているのだとしたら。
「だったら、初めから私のことなんか引き取らなきゃよかったのよ」
シャーロットは思わず呟いていた。そうだ、あのまま農場においていてくれればよかったのだ。どうして今になって私を引き取ったりしたのだろう。行方不明になって十四年も経って。たまたま私の消息を掴んだから、引き取るのが親としての義務だと思ったのだろうか。義務感から引き取られたなんてちっとも嬉しくない。
一度、シルヴァートン夫妻に話してみてはどうだろう。義務感から私を引き取ったなら、農場に返してくださいと。その方が私も幸せだし、お父様とお母様も、前妻に似た娘が同じ屋根の下にいることで気まずい思いをしなくてすむ。農場の家からは一通の手紙もこないけど、戻りたいと言えば、拒否されるとは思えない。それで、もし返事がこなくても、戻ってしまえば父さんも母さんもロジャーも私のことを追い出したりはしないわ。それに、今のお母様と血が繋がっていないのなら、農場の血の繋がっていない家族と一緒に暮らすのに何の問題があるの?
シャーロットがそんなことを考えていると、部屋のドアをノックする音がし、シルヴァートン夫妻が連れ立って入ってきた。コリンズが事情を話したのだろう。二人とも固く唇を引き結び、深刻な表情でこちらを見つめている。




