ワク打ちゾンビ人間
よう子とショーケンは、金剛峯寺に向かって、二人でリアカーを引きながら歩いていた。
「よう子ちゃん、そのギター、どうしたの?」
「注文したのが、昨日届いたんです」
「ギター弾けるの?」
「ええ、高校の頃は軽音楽部だったんですよ」
「へ~~~え」
「ギター、上手いんですよ」
「じゃあ、後で聴かせてよ」
「いいですよ」
「よう子ちゃん、リアカーに乗りなよ。俺、引っ張るから」
「大丈夫ですか?」
「電動だから大丈夫だよ」
「でもいいんです。ショーケンさんと歩きたいんです」
よう子は、ショーケンの熱狂的なファンであった。
「ああ、そう」
雨が降りそうな曇り空だった。よう子は、ショーケンの歌をうたいはじめた。
「雨よ、雨よ、降らないで~~♪」
小さな花が、風に揺れていた。
「雨に咲いた、恋の花は、静かい散った~~♪」
「よう子ちゃん、歌うまいねえ」
「そうですか?」
「僕より上手いよ」
「そんな馬鹿な~~。だってこれ、ショーケンさんの歌ですよ」
「実は、その歌、苦手だったの」
「そうなんですか~~~」
「毬藻さん、さっきの彼」
「なんですか?」
「いい人だねえ。てっきり悪人だろうと思っていたんだ」
「わたしもです」
「呪いの幻魔教団っていうから、暗くて邪悪な連中と思っていた」
「わたしも、そう思ってました」
「レッテルだけで、人を判断しちゃあいけないね」
「そうですねえ」
「東京大学卒は偉い。とかね」
「東大卒でホームレスやってる人だって、いますものねえ」
「そうなんだよ。好きでやってるだよなあ」
「価値観の違いですねえ」
「人と競争しないで、自由に生きる」
「何ですか、それ?」
「ヒッピー思想」
「言葉だけは知っています」
「ウッドストック・フェスティバルって知ってる?」
「はい、約40万人集めた、有名なロック・フェスティバルですね」
「そう、あれは、ヒッピーのロック・フェスティバルだったの」
「へええ、そうなんですか。初めて知りました」
「1969年だったかな?よく覚えていない」
「どういう人が多かったんですか?」
「ベトナム戦争反対の学生が多かったのかな。武器ではなく、音楽で世界を変えよう!って主張してたな」
「いい考えですねえ。それは日本でも?」
「日本では、フーテン族がヒッピーって言われていたけど、ぜんぜん関係ないと思う」
「フーテンの寅さんの、フーテンですか?」
「そう、あれは、ただの風来坊だもんね。政治的な主張がない」
「そうですねえ」
二人の横を、白髪の老人が速足で通り過ぎて行った。
「今の人、変な匂いがしたね~~~」
「しましたねえ。生ごみのような」
「あんなに急いで、何かあったのかなあ?」
「ワク打ちゾンビ人間かも?」
「何、それ?」
「例のワクチン打った人は、エキソソームを放出して、変な匂いを出すんだそうです」
「エキソソーム?」
「ウイルスと同じほどの大きさの、細胞のかけらです」
「その匂い?」
「そうらしいです。ワク打ちの人だけ放出されるそうです」
「どうして?」
「それが、メッセンジャーRNA遺伝子ワクチンの特徴なんです」
「遺伝子ワクチン?」
「遺伝子を変えてしまうんです」
「それって、やばいんじゃないの?」
「はい、とってもやばいんです。将来、何が起こるか分からないワクチンなんです。特に子供には危険です。白血病や癌になるとも言われています」
「怖いねえ~~」
「呼気とか、汗とかから放出されるそうです」
「それ、どのくらい悪いの?」
「毒です。近くにいるだけで、蕁麻疹になる人もいます」
「おっかねえなあ~~」
「発熱する人が多いそです。子供は特に」
「危険人物だね~~」
「そうですね~~~」
「匂いの他に見分ける方法はないの?」
「目つきがおかしい。と言われています」
「変質者の目つきみたいな?」
「そうです。実際、変質者になってしまうんです」
「だから、最近、変質者の事件が多いんだ」
「そうなんです」
二人の横を、変な匂いの男が、また通り過ぎて行った。
「いやあ、まいったねえ~~」
「最近、多くなっていますねえ」
「どうすればいいのかなあ?」
「隠れる。とか?」
二人は、顔を見合って笑っていた。
「マスクが必要だなあ」
「マスクは無駄です。ウイルスは入ってきます。目からも入って来ますし」
「目からも入って来るんだ」