タオルと石鹸が無いよ~~!
「姉さん、ただいま~~」
「おそかったじゃないか?」
「いろいろとありまして」
「なにがあったんだい?」
「勝間屋で、篠原さんと出逢ったり、変な男に撃たれたり」
「変な男に撃たれたり?なんだいそれは?」
「オモチャの銃で撃たれたんですよ。蛍光BB弾で」
「蛍光BB弾?」
「悪魔を倒せる、光る玉です」
「悪魔を倒せる?なんのことだ?」
「そう言ってました」
「なんで、お前を撃ったんだい?」
「悪魔と間違えた、と言ってました」
「それで?・・」
「仲間から、無線機で連絡がきて、去って行きました」
「変なはなしだねえ」
「ですよねえ」
「で、篠原さんが、こんな時間に、勝間屋にいたのかい?」
「悪魔退治の、ロウソクと線香を買いにきていました」
「また悪魔かい?悪魔が出たのかい?」
「お母さんが、近くにいると言ってたそうです」
「近くに?・・」
「転軸山公園に」
「ほんとかよ~~?」
「さっきの男も、転軸山公園に向かって去って行きました」
「転軸山公園にねえ?どっちも、不気味なはなしだなあ・・」
「行ってみましょうか?」
「冗談じゃないよ。ほんとうに悪魔がいたら、どうするんだい?」
「そんなのいませんよ」
「わからないよ」
「そんなのいません。非科学的です」
「恐いんだよ~~~、人をマイナス思考にして、病気にして殺すんだよ~~」
「迷信ですよ。あああ、馬鹿馬鹿しい」
「馬鹿馬鹿しいのは、あんたの単純な電子脳」
「そうですか。失礼しました」
「なんだい、それは?」
「お風呂には入ったんですか?」
「今から」
「人間は、お風呂に入れていいですねえ」
「幸せな気分になるよ」
「幸せ?どんな気分ですか?」
「幸せな気分だよ」
「さっぱり分かりませんねえ~~」
「ロボットには無理だな」
「分かりました!血行が良くなって、身体が温かくなって、気持ちが良くなるってことですね」
「まあ、そういうことにしよう」
「なあんだ、そういうことか」
「気味が悪くなってきたので、わたしも、線香を立てて、お風呂に入ろうかな」
「ここには、線香なんてありませんよ」
「福之助、隆二さんのところに行って、もらってきてくれない?」
「いいですよ」
老婆
「わたし、お線香、持っていますよ」
「えっ?」
「わたし、死んだから、自分の為に持って来たんです」
「自分で自分に、線香をあげる?」
「はい」
福之助
「おもしろいな~~」
「じゃあ、それ1本ください」
「はい」
ハンドバッグから、線香を取り出した。
「困ったわあ、立てる物がないわ」
福之助
「それじゃあ、選択ハサミで挟んで立てましょう」
「あんた、頭いいねえ~~」
「どういたしまして」
姉さんは、線香を立てると、「根占さんを頼むよ」と言って、お風呂場に入って行った。
老婆は、相変わらずに、氷川きよしの歌を、一生懸命に鑑賞していた。
「根占さん、氷川きよし、大好きなんですねえ」
「はい、大好きですよ」
「どこが好きなんですか?」
「ハンサムで、歌が上手くて、明るいところ、かな」
「ふ~~~ん」
「あなたたちは、高野山は長いの?」
「いいえ、最近来たばっかりです」
「その前は、どこに?」
「福岡の博多です」
「博多!わたしも博多にいたのよ」
「いつごろですか?」
「そうねえ、37歳までいたわ」
「今、おいくつですか?」
「85」
「じゃあ、48年前ですね」
「そんなになるのか・・」
「どのあたりに?」
「二又瀬って、ところよ」
「知りませんねえ~~、何区ですか?」
「東区」
「そっちは分からないなあ・・」
「板付飛行場の近く」
「ああ、福岡空港ですね」
「あなたたちは?」
「中央区の唐人町です。大濠公園の近くです」
「ど真ん中ですね」
「どうして、横須賀に?」
「主人の仕事の都合で」
姉さんが、風呂場から叫んでいた。
「福之助~~、タオルと石鹸が無いよ~~!」
「どうすればいいんですか~~?」
「下着で洗うから、石鹸を借りて来てくれ~~」
「は~~~い!」




