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Satellite  作者: 奥州吾妻
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闘いの始まり

~プロローグ~


人類が地球という星を飛び出し、かれこれ1000年も経った。

全く科学の力ってのはァすげぇもんで、それまで人の住める環境じゃなかった星を住み良い土地に変えちまう機械を作っちまった。


まぁ、なんだ・・・ある日、重力とか大気とか、そういったものを機械ひとつ、ポンと置いてダイヤルを合わせるだけで、人が宇宙服も無しで、それなりに活動できる環境にしちまう代物を作った、頭のいい科学者が現れた。


火星だの金星だのに拠点を作ったら、そこからはもう一気の拡がりだった。


太陽系の端から端まで、地面のある星はみんな人が住んじまいやがった。


それぞれの星で文明が独自の発展を遂げ、かつて地球の国々がそうだったように、文化、芸術、伝統、生活スタイルを持つようになった。


人間も所詮は生き物で、結局は同じ事を繰り返すということなのだろう。


経済成長、衰退、戦争、一時の平和・・・どこの星でも飽きずにそんな歴史の繰り返しで、それでも人類は前進を続けている。


こんな壮大なスケールの中でもやってることは代わり映えしない人間社会の中で、俺の仕事は・・・宇宙の平和を司る、正義の味方。いやマジで。


世界ってのは上手いことできてるもんで、ここ1000年で進歩したのは宇宙に出るための科学だけではなく、なんとまぁ、それまでフィクションの世界だった怪異、魔法、超能力、超肉体などなど・・・。


薬を飲んだり、特殊な手術をしただけで、いろいろとぶっ飛んだ事象が実現してしまう世の中になってしまった。


そんな時代なので、楽しいことも増えたが笑い事だけではなく、人間の性というか・・・悪用する連中もいるもので、そういう不貞な輩を懲らしめるのが俺の仕事だ。


これから綴るのは、俺が調停してきた「平和」の物語。




~怪異の星で~


「・・・ZZZ」


「ビーッ!!」


「うおぁああっ!?」


「ホウコク!目的地、火星衛星フォボス到着マデ、1時間デス」


「ああ・・・もう着くのか・・・速ぇなぁやっぱ・・・」


さっきステーションを出て、少しばかり眠ろうかと思ってベッドに潜り込んで目を瞑ったと思ったらもう到着かい。


狭い太陽系、亜光速のヴィトル機の買い物は不要の代物だったか?


「まぁ、今回に関しちゃ急ぎの依頼のようだし、しょうがねぇやな・・・」


昨日のことだ。


ひとりの少女が訪ねてきた。


「えーと・・・ひとりでどうしたの?受付も通さずに俺の部屋まで来て・・・」


いや、正確には。


受付どころではなく。


俺の部屋の鍵も閉まっている筈なのだが。


黒く長い前髪で右目を隠したツインテールの少女が、俺の目の前に立っていた。


「・・・助けてほしいんです」


「うん、まぁ、そんな唐突な登場をするくらい困ってるっぽいから、助けるのは約束するよ。・・・君の自己紹介をしてくれるかな?」


アポなし訪問でも、初対面なら自己紹介は社会人としての基本中の基本だ。


・・・次回の訪問の際には、まずドアのノックを覚えてもらって、相手がパンイチの状態で出迎えさせる凌辱を味会わせないマナーを身に付けてもらいたいものだ。


相手の面子を立てるのが、人にモノを頼むときの重要なテクニックだということを教えてあげたい。


「あ、えっと・・・私は火星衛星フォボスにいます。名前はシュリカです」


「シュリカちゃんだね。宜しく。おにいさんはゼファーって言います」


はい。


ゼファーです。


以後宜しく。


最初の自己紹介は社会人の基本だ。


散々喋ってからの自己紹介なんて社会人失格だろう。


社会生活は難しい。


「知ってます。だから来ました」


うん。


なかなか手強いぞ。


無駄話が嫌いなタイプの女の子みたいだ。


人間は無駄話や雑談などの何気無い会話で、相手とコミュニケーションが取れるかどうか確認しているらしい。


相手との距離感を測るために言葉のキャッチボールを交わすのだが、今回はだいぶ距離を感じたよ。


「そうなんだ・・・それで、何を困ってるのかな?」


「私の国が侵略されてるんです」


「フォボスが侵略されてる?そんな情報あったかな」


「フォボスじゃありません。私の国です」


「ああ・・・お嬢ちゃんの住んでる街が」


「国です」


やたら拘るな国に。


まぁ、気持ちがわからないでもない。


愛国心や郷土愛が強い教育をされていたり、別段教育をされていなくとも、住み良い風土や人間関係があれば、生まれ故郷を愛する気持ちを持つのはわかる気もする。


俺の場合は住む場所を転々としているが、やはり久々に故郷に帰ると落ち着くものだ。


・・・同時に自分の知られたくない過去を知ってる腐れ縁がいたりするのも故郷であるのだが。


「それで、侵略してる連中はどんな奴らなの?」


「奴らは・・・ゴーストバスターです」


「・・・」


えっと。


幽霊を退治する人・・・ということでいいんだよな?


それ以外の意味があるなら教えてほしい。


「ゴーストバスター・・・ねぇ。まぁ、そういう胡散臭いことで商売する人達はいるよね。それに迷惑をかけられてるのかな?」


「父が捕まってます」


「おおう・・・急に深刻度が増したぞ」


「時は一刻を争います。明日の夜、フォボスの首都フィラントに来て下さい」


「お父さんが捕まってるとなりゃ相手が胡散臭い連中でも話が変わってくらぁな。任せな。俺がなんとかするぜ」


「・・・ありがとうございます」


ちゃんとお礼が言える良い子だった。


なんだかんだ言ってきたが、不器用でもなんでも、感謝を表現できる人間が一番信用できる。


コミュニケーションだの面子だのといった茶番よりずっと大切なものだ。


この子は、信用したい。


「じゃあ・・・宜しくお願いします」


そう言って俺に背を向けて、星空が見える窓の方に歩き出すと、彼女は足元からスウッと透けて消えていった。


「・・・ゴーストバスターねぇ」


まぁ、こんな時代ならなんでもアリなのだろう・・・。


続く

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