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第四試合 フルコンタクト空手VSテコンド― 2

 キムの顔は、あちこちが紫色に腫れ上がりつつあった。折れた左腕だけでなく、右腕もあちこちが内出血している。

「貴様ァ……」と毒づく唇も黒く腫れていた。

「当てるのが上手いよな、あんた。あんなに派手に動いて、よく当てられるよ。凄いと思う。でも、人を倒す技じゃねえな。さっきの飛び回しも、クリーンヒットしても俺は倒せないぜ」

「ほう……」

「空手は武術だ。その差が、今のあんたと俺のダメージの差だよ」

「そうかね。なら、……見せてやろう。テコンドーの、人の倒し方を」

 キムは、右腕を顎先に構えて突っかけた。

「やってみろよ。俺は空手家だ。あんたの軽い打撃じゃ倒れねえ」


『おおっと、キムが踏み込みます! ん!? これは!? 踏み込みが深い! 蹴りの間合いではありません! まさか、手技か!? 片腕が折れているのに!?』

『テコンドーのKOショットは、有名どころでは二つだな。ネリチャギ=踵落としか、あるいは――』

『迅は両腕を、顔の両側から頬を挟むようにガードしています! 顎は空いていますが、前蹴りならば顔を狙われてもかわせるということでしょう! これは堅い守り!』

『――顎への飛び膝蹴りだ』


 キムは、迅が技を出して来ても、かわすつもりはなかった。有無を言わさずに踏み込み、至近距離から右膝を跳ね上げる。それで決まる。

 しかし、キムはついに、膝を入れることはできなかった。

 迅の、顎を空けたガードは誘いだった。キムが最短距離で、まっすぐに向かってくるように。そして、迅が放ったのは――……

「ゲボアッ!」

 悲鳴を上げたのはキムだった。鋭い前進をピタリと止め、棒立ちになったかと思うと、その体が微妙に沈む。


『な、何だっ!? キムが、これは!? 迅は何をしたのか!? 下半身が動いたのは見えましたが! 密着間近の間合いで、空手の蹴りでこれほどの威力が出せたのか!? 回し蹴りではなく、膝でもありません! 一体!?』

『三日月蹴りさ』

『みかづきげり!?』

『正面から飛び込んできたキムにカウンターで入れた。キムにはほとんど見えなかったろうな。迅が適当な挑発も入れてたみてえだしよ』

『三日月蹴り、何ですかそれは!?』

『通常の蹴りよりも近く、突きの間合いで出せる蹴りだ。蹴り足を膝からくの字に曲げ、その分短いリーチで、アバラの下辺り――肝臓を蹴り上げるようにして打つんだが、今のはみぞおちを真っ直ぐに刺したな。。普通は中足(ちゅうそく)っつう、親指の付け根あたりの固えとこを当てるんだが、迅の野郎は尖らせた親指で文字通り突き刺しやがった。足の()き手っていうわけさ。死ぬほどいてえだろうな、今の食らい方じゃ』


 かつて経験のない痛みにキムの体が一瞬無力化した時、勝負は決まった。

 迅の、全体重を乗せたローキックが、まるで稽古のように綺麗に、キムの左腿を打ち抜く。これで、テコンドーの技は殺せた。

 バランスを欠いたキムの体がくず折れるところを、迅の左掌底が顔面を打ち上げて止めた。

 再びキムが棒立ちになるのと、直前の掌底とのコンビネーションで迅の右上段蹴りが放たれるのとは、同時だった。

(食らえ!)


 ガゴッ!!


 もとより左腕が折れており、今やフットワークも使えないキムには防ぐすべもなく、側頭部にハイキックがまともに入った。

「どうだッ、空手の蹴りは!!」

 キムの体が床に沈むより先に、審判が手を上げて叫ぶ。

「一本! それまで!!」


『迅の野郎、挑発に誘い込みに、なかなかやりやがるなァ』

『異種格闘……というよりは、勝手違いの相手との戦いに慣れているということでしょうか!?』

『なかなか見せやがる。計算してのことではねえだろうが、あいつめ……ほとんど蹴り技だけでテコンドーに勝ちやがったぜ』

『あ、ああッ!? そうです、今の試合での迅の手技は、最後の掌底だけ! しかもあれはほとんどダメージのない、フィニッシュのための呼び水でした!』

『別にそれで、空手がテコンドーよりも足技だけでも上だなんて言わねえがよ、嫌らしい勝ち方しやがる』

 我終院がクックッと笑った。

 その時。


「取り消せェッ!」


 一人の男が、放送席に現れた。その顔は、キム・イルファンにそっくりである。まるで双子のように。更に、テコンドーの道着を着ている。

「誰だい、お前さん」

「キムの弟の、キム・グオインだッ! 確かにイルファンは後れを取った! しかし、テコンドーが空手に劣るわけではない!」

「いやねェ、だからそうじゃねえって言ったじゃねえか」

「黙れッ! 神滅館館長であるお前をここで倒し、テコンドーの強さを証明する!」

「ち、しょうがねえ。降りかかる火の粉は払わねえとな。ジョニイ、マイク持って下がってな。……ん? 何だ?」

 対峙する二人の元に、更にもう一人が現れた。Tシャツにハーフパンツという、ラフなスタイルである。

「僕はマイク田之上。この大学のボクシング部のエースだ。立ち技最強のボクサーとして、我終院館長、あんたとは一度やってみたかった。ついでだ、ここでエキシビジョンというのはどうだい?」

「ほォ。二対一かい」

「ふざけるなッ! 貴様はテコンドーの獲物だ! 行くぞ我終院!」

「いいねえ、来な。ちょうど俺もなあ、ストレスが溜まってたところなんだ。いや、確かに早乙女や迅は勝ったぜ。空手家万歳だ。だがな、早乙女はまともに突き蹴りしちゃいねえ。迅は誘いを撒いてからの蹴りでの勝利だ」

 我終院が構え、顎を引く。その眼は、鈍くも、不気味に力強く光っていた。

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