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第二試合 フルコン+実戦空手VSブラジリアン柔術 2

「一秒で折れ、だったなあ! ぬうんっ!」

 アランの背が更に反る。早乙女は僅かにポイントをずらしていたが、極まるのは時間の問題だった。

 だが、早乙女の目の前には、アランの血まみれの足がある。

 それでもアランは動じなかった。

「空手マン、また俺のアキレス腱を潰すか!? だが今度は、たとえ足首をちぎられても外さん!」

「ブラジリ野郎、学ばん奴だな。とはいえ、さすがに、その血まみれの右足首に指突っ込むスプラッタ気分にはなれん。だから――両足もらうかああ!」

 早乙女の五指が、今度はアランの左足首に牙を剥いた。

 先ほどと同じように、アキレス腱に全力で指先を食い込ませる。

 めき。ぶち。

 アランの体の内側が壊れていく感触が、早乙女の指に伝わった。

 早乙女も、たとえ己のアキレス腱を切られたとしても、この指を外す気はなかった。自分が片足を失っても、アランの両足を()げば勝てると、胸算用しているからだ。

 だが、アキレス腱断裂の痛みは想像を絶すると言う。耐えられるとは限らない。

 柔術家の関節技と、空手家の指先。どちらが先に、相手の足首を破壊するか。

 覚悟を決めた早乙女の全神経が五指に集中した。

 そのために、一瞬反応が遅れた。

 決して放さないと宣言したはずのアランが、技を解いた。

 そしてまたも高速で体を入れ替え、上半身を起こしている早乙女のバックを取る。

 全身運動の勢いによって、さすがに早乙女の指もアランの足首から外された。

 リアネイキッドチョーク。

 その技名が早乙女の頭に去来した。後ろからの、首へ腕を巻き付ける絞め技である。だが、やすやすと首などくれてやる気はない。回されてくるはずのアランの両腕に、早乙女は瞬時に警戒する。

 しかしアランの腕が狙ったのは、早乙女の首ではなかった。その空手衣(からてぎ)(えり)である。

「何――?」


『カラーチョーク! 背後から襟を使って絞め上げる、ブラジリアン柔術のカラーチョークです! 空手衣ならば効果は充分!』

『空手家は全身武器が売り文句だが、柔術家は袖だの襟だの、()も武器化しやがるな!』

『――入った! チョークが入りました! アランはこれを狙っていたのでした! 恐らくアキレス腱を潰された後から狙っていた! アキレス腱固めをフェイントに使い、左足首を差し出してまで仕掛けたトラップ! 極まっている、極まっています! みるみるうちに早乙女の顔色が赤――あ、いや青いッいや白いッ! これは落ちるか、落ちるか、……落ちた! 落ちましたア!! 勝負あり!! 勝者は、アラン――ではないぞ!? 早乙女志郎だ! なんと、空手家の勝利イイイイイ!!』


 観客たちは再び、何が起きたのか分からずにいた。

 試合場には、確かに絞め技を極めていたはずのブラジリアン柔術家が横たわり、対照的に空手家が二本の足で立っている。

 その残心に見降ろされながら、アランは失神していた。


『しかしなぜ! どういう逆転劇なのでしょう!?』

『柔術家ってのは、レスリングや総合と同じでとにかく頭がいいんだよなあ。その場その場でド突き合いしてる俺から見たら、本当に大したもんだぜ。二手先三手先を平気で読みやがる。それが、空手家の指なんぞでブチ壊されたらたまらねえだろうな』

『ゆ、指!? ですか? また!?』

『早乙女は、まず左手で、カラーチョークを絞めているアランの人差し指を取った。アランの掴みがいかに強力だろうが、早乙女が五指で掴めば指一本なら容易に引き剥がせる。そうしてカラーチョークを弱体化させておいて、早乙女はてめえの右手で、ド(たま)のすぐ後ろにあるアランの首を掴んで絞めたのさ。といってもただ握り締めたわけじゃねえ。親指を頸動脈に、寸分の狂いもなく食い込ませて、完全に血流を止めた。これは他の四指がしっかりと反力を生むからこそできるグリップだ。不完全なチョークと完全なグリップ、血流の停止は数秒で差が出るぜ』


『なんということでしょう! アランのIQ戦術を、実に原始的な――こんな言い方は失礼極まりなくも――大変原始的な武力、指の力が上回りました! アランの柔術を破ったのは、実に、早乙女の握力!』

『技ではアランの方が上だったなあ。グローブしてりゃ、結果はまるで逆だった。だが、これが空手だぜ』

『そ、そういえば! 早乙女志郎、ただいまの試合、正拳突きも回し蹴りも当てていません! いえ、打撃自体ほとんど使わずに、勝ってしまいました! 』

『胸・腹叩くだけが空手じゃねえのよ。組んじまえば勝ち、なんて思い込んでる野郎は可愛いもんさ』


 試合場を後にしながら、早乙女はタオルで汗を拭く。

 早乙女は、大流派・神滅館の門下ではない。町道場の、丸菱流という小さな流派だった。

 そこでは、指を徹底的に鍛えられた。突きよりも蹴りよりも、ずっと多くの時間、指を鍛えた。

 その後フルコンタクトの大道場にも通ったが、そこで培った技術で今日使用したのは、あっさりと手繰られた教科書通りの前蹴りだけである。勝利に役立った技はひとつもない。

「ひとつ勝ちましたよ、師匠」

 早乙女は、痛めつけられた全身の筋や腱をかばいながら、何とかリカバリーカプセルに向かった。


第二試合

C早乙女志郎○

D伝奇堂アラン●

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