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第二試合 フルコン+実戦空手VSブラジリアン柔術 1

 第二試合。 

C早乙女志郎(さおとめしろう)。フルコン+実戦空手。十九歳。身長一七八センチ、体重七十八キロ。道着にバンテージ。

D伝奇堂(でんきどう)アラン。ブラジリアン柔術。二十三歳。身長一八一センチ、体重八十七キロ。黄色のカラー道着、オープンフィンガーグローブ。


『さあ第二試合は空手道の早乙女VSブラジリアン柔術のアラン! かつて世界を席巻した最強の格闘技ブラジリアン柔術が、どのように空手と戦うのか!』

『ブラジリアンは一時期から、めたくたに研究されたからなあ。いくらタックルが低く速くても、そう簡単に空手家も捕まらねえだろ』

『両者開始線について、礼! 始まりました!!』


 早乙女は、重心を浮かしながら一歩後ろに引いた。フットワークを意識する。

 組技系の恐ろしさは、これまでに何度も味わっている。地上最強の格闘技に空手を挙げる人間は多いが、空手家も、空手だけをやっていて最強を名乗ることはできない。

 一方のアランは、既に身を低くして体を前後にクイクイと細かく揺らしている。

 ブラジリアン柔術にも諸派があり、特に近年は戦い方も細分化されてきた。だがアランの流派、エメレウル・ロッキオは、全ての技がタックルから始まる。

 体格ではアランが有利。捕まれば空手に勝ち目はない。それは会場中が確信していた。


『空手家としてはやや小柄な早乙女! その空手は、フルコン+実戦とのこと! これは寸止め空手と揶揄されがちな伝統派空手に対し、当てまくりのフルコンタクト空手に対しても皮肉となりますねえ!』

『フルコンの、顔面なしってのは実戦派と呼ぶにはどうもなあってのはまあ分かるぜ。顔を打たねえってことは、打たせねえ方法も守り方も発達しねえってことだ。異種格闘で顔面ありのルールでは、ま、後れを取るわな。空手屋として、不様を晒さねえことを祈るぜ』


 アランが踏み込んだ。低空の片足タックルで、早乙女が前に出していた左足を狙う。

 早乙女も踏み出す。左の膝をそのままアランの顔面に突き出して迎撃するためだ。

 だが、アランが止まった。慣性も完全に殺して、早乙女の膝まで数センチのところで制止し、左右の拳でワンツーを打ち上げる。

 早乙女はバックステップでかわした。アランの構え方を見て、必ず、組む前に打撃があることを読んでいた。使う流派の初手が組技のみだからといって、個人がそうとは限らない。

 アランは、突き出した両腕を戻さず、再び前方にダッシュした。その両手が早乙女の両腿を掴む。一気に体を引き寄せ、アランの側頭部が早乙女の腰に重ねられた。

 両足タックル。この局面、空手に耐えようはない。難なく、早乙女は押し倒された。

 仰向けになった早乙女の上で、アランの体がコマのように一回転する。起き上がろうとした早乙女の体が、大きな圧力を上方から受けて、再び畳に押しつけられた。

 圧力の正体は、アランの両足だった。

 仰向けになったアランの体は、早乙女の体と十字に交差し、アランの左足の膝の裏が早乙女の顎に、右足が胸に当てられている。

 早乙女の右腕は、アランの股間を通して、その胸の前で手首を掴まれている。

 つまりアームバー――腕ひしぎ十字固めの体勢になっていた。

 アランが背を反らしていく。早乙女の右肘が徐々に伸びていった。

「ちいっ!」


『は、入ったあ! 初手からの展開、勝ったのはアラン!』

『いや、早乙女の右腕は伸び切ってねえ。まだ極まってねえな』

『しかし、早乙女の上半身は完全にアランの両足で抑え込まれています! 左腕も、アランの足先で抑えられています! 空手に、ここからの反撃があるのでしょうか!?』

 我終院はぐにゃりと笑う。

『ま、なくはねえさ。空手なら(・・・・)――な』


「グオアアッ!!」

 会場に響いたのは、右肘を破壊された早乙女の絶叫――ではなかった。

 観客たちが、驚愕の声を上げている。何が起きたのかを正しく理解できたものは、観客席にはいなかった。

 アランが自ら拘束を解き、試合場を転がっていたのだ。それも、苦悶の声を洩らしながら。


『な、なんだあ!? 何が起きたのか!? おっと、今早乙女が立ち上がりました! アランはまだ立てない! 何やら足を……? 押さえているようですが?』

『ハッハア。早乙女の野郎、空手をやりやがったな』

『ま、まさか!? あそこから金的を!?』

『馬鹿言ってんじゃねえ。よく見てみろ。アランの足だ』

『あ、足? おっとこれは!? 流血しています、アラン流血!』


 アランは自分の右足首を見降ろした。出血している。そしてその凄まじい痛みの理由が、ようやく分かった。

 アキレス腱の辺りの皮膚が、引きちぎられている。いや、抉り潰されていた(・・・・・・・・)

 さすがにアキレス腱が断裂しているわけではないようだが、それにしても恐ろしい痛撃だった。まだ、立ち上がることができない。

「どうした、柔術。駄目じゃないか、素手の空手家とあんなに長い時間密着したりして」

「貴様……!」

「極めたなら一秒で折れ。できないなら逃げろ。空手家とやる時はな」

「ガアッ!」

 気を吐いたアランが飛び出す。ただし片足が使えないため、速さはなかった。

「そらあ!」

 早乙女が前蹴りで迎撃した。基本通り、足の裏の中足(ちゅうそく)――親指の付け根下の部分――で顔面を狙う。

 教科書のようなその蹴りを、アランが手繰った。相手の足を上に持ち上げるのではなく後ろへ引く、ブラジリアン柔術のタックル。

 再び早乙女は引き倒された。今度はアランは、早乙女の下半身に取り付いた。

 アランが、早乙女の右足を己の左脇の下へ抱え込む。足で早乙女の上体を上から抑えつけ、そのまま背を反らした。


『アキレス腱固め! アキレス腱固めです! 足首には足首でお返しだあ! タップ必至の伝家の宝刀、炸裂ウウ!』

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