その15
驚く相手とは反対に、私は「やっぱり」と思った。
ホルトンに来たばかりの三人組の冒険者。ぴたりと合う符号に真っ先に彼らが頭に浮かんだのだ。
「痛むところ申し訳ないんだけど、そっちに引っ張ってもらえますか?」
横穴は想像していたより狭かった。直径は私が片腕を伸ばしたぐらい。落下途中によくこの狭い穴を見つけ、避難できたものだ。
「あ、ああ」
男の右手はだらりと垂れ下がり、左手に巻きつけてある布は真っ赤に染まっていた。
私は体に巻きつけてあるロープの端を穴の中に投げ入れた。男は左の手首にロープを巻きつけると、穴の奥へと這うように移動する。
水で濡れた土壁は脆い。足がかかったと思えばそこから崩れた。
「もう少し奥へ」
幾度かの失敗のあと、ようやく横穴に体を潜り込ませるのに成功した。
光玉をつくり、内部を照らす。泥だらけの男が三人、薄暗闇の中に浮かび上がった。一人は壁にもたれて目を閉じており、時々うめき声を漏らしていた。足を見れば、脛から骨が飛び出していた。もう一人は地面に体を横たえている。こちらが意識のない人だろう。
首に指を添え、脈に異常がないことを確かめる。髪に血がこびりついていた。出血は少ないが頭を打ったに違いない。
「いつから意識が?」
「穴に落ちる直前だ。崩れた柱が頭に当たった」
「よくここに逃げ込めましたね」
「ダークエルフの兄ちゃんが、蹴り入れた。俺とあいつは魔法の爆風で放り込まれてな」
わ、わあ、力技。
「助かるか?」
私は肯定も否定もせず答えた。
「頭を打ってる。私にはどうしようもないから街に運んで医術師に診てもらいます」
「……そうか」
体に括り付けたロープを外すと、意識のない男の体を固定する。万一途中で意識を取り戻しても暴れられないように雁字搦めにしておいた。
「意識不明者、確保終わり。頭を打ってるけど血は止まってる。上げて!」
頭上の皆に聞こえるよう、声を張り上げて言うと、「引きあげろ」とキーランの声が聞こえた。
お次は開放骨折の男だ。
背中から袋を下ろす。白狐がするりと這い出た。中から痛み止めの薬と包帯を取り出す。
「痛み止めです。気休めだけど」
腕を骨折している男に一粒渡し飲むように指示する。
それから壁に体を預けている男の元へいき、痛みと酒で朦朧とする男の口の中にねじ込み、さらに手拭いを押し込む。
腰に下げた剣を鞘ごと引き抜きながら声をかける。
「開放骨折の整復は経験がありません。けど、知識としては知ってるから心配しないで」
「……お、おい」
「一息にやります」
後ろでもう一人の男が声をかけるのを無視して、私は足に手をかけ一気に力を込めた。
獣の咆哮のようなくぐもった声が男の口から漏れる。
剣を引き抜くと鞘を足に添え、包帯で固定する。
処置が終わったとき、ちょうどロープが戻ってきた。
「絶対に暴れないで。守れないようなら、縛ります」
男の体にロープをかけながらいうと、大量の脂汗を流しながら男は「暴れない絶対に」と呟いた。
「二人目確保! 右脛骨折。固定はしたけど出血あり。上げて!」
男が引き上げられるのを見て、最後の男に向き直る。
「ひっ」
視線が合うと、男は引きつった声を漏らした。
「実は腕の整復も経験がありません。でも知識としては知ってるし、見学しながら医術師に直接教えてもらったので、自信があります」
安心してもらおうとそう声をかけたというのに、男の顔色はどんどん悪くなっていく。
しかし悠長にかまってもいられない。手を伸ばすと男は大人しく従った。
冒険者としての意地だろう。男はわずかな声を漏らすだけで耐えた。さっきと同じ要領で腕を固定する。
「ラグナルが落ちた縦穴は?」
「すぐそこだ。ここよりも狭い。深さは……わからん」
男は奥を指差す。
「絡繰兵も一緒に落ちたんですよね?」
不思議だった。男たちはラグナルに力技でこの横穴に放り込まれた。そうでもしないとこの狭い横穴には入れなかっただろう。
硬いだけで動きがぎこちない絡繰兵がどうやってこの穴に入った?
「兄ちゃんが一番最初に助けたのが絡繰でな。後生大事に抱えてたよ。けど、暴れだした絡繰と一緒に穴に落ちちまった……」
男は肩を落として息を吐いて、血まみれの左手で頭を抱えた。
「仲間は母親が見えたと言っていた。俺には、俺を讃える人間が見えた。話は本当だったんだ。あいつは幻影を見せる」
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