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君がいた町

作者: 波星海空

Twitterの企画の、

#リプできた単語を組み合わせてストーリーを作る

で作ったやつです。


頂いた単語

・きつね

・鹿威し

・ミュンヒハウゼンのトリレンマ


ある日の教室

時刻は丁度夕方。真っ赤に焼けた空を背に、カラスたちがカーカーとなきながら飛んで行くのが見える。

夕子と充は18歳。卒業を間近に控えた高校3年生だ。

彼らの出会いは、夕子の両親が夕子を連れて充の家に遊びに行った時まで遡る。保育園に入る以前の話だ。



夕子は人見知りで、学校でも、一人でいることの方が多かった。充も、一人で読書をしていることが多かった。そのため必然的に、二人はよく話すようになっていて、周りからは「似た者同士」と思われていたようだ

お互いを意識することになったのは小学校4年生の頃の、ある出来事がきっかけだった。

ある日の帰り道。それはそれは寒い吹雪の日だった。

二人は一緒に帰っていると、脚から血を流して倒れている、一匹のきつねを見つけた。

「あ、あの子、怪我してる...」

「本当だ。どうしようか...?」

「とりあえず手当してあげないと」

「うん、気をつけてね」

きつねには、「エキノコックス」と呼ばれる寄生虫が潜んでいる場合がある。雪国の子供の間では、親からよく注意するよう促されるので、常識なのだ。

夕子は、ミトン手袋つけたまま、足から血を流したきつねを拾い上げた。

きつねは弱っているのか、抵抗しない。

「大丈夫かな...」

夕子が、心配そうに問う。

「どうだろう、寒さで血も固まってるみたいだし、とりあえずは大丈夫じゃないかな」

そう聞いて夕子は、安堵の表情を浮かべる。

「よかった...この子、どうしようか...?」

「とりあえず、『ムツゴロウ先生』のとこにでも持っていってみよう」

「ムツゴロウ先生」とは、二人の家の近所に住んでいるおじさんのことで、趣味で生き物を沢山飼っているため、周辺住民の間では、「ムツゴロウ先生」と呼ばれていた。

「そうだね。じゃあ行こっか」

二人はきつねを抱えたまま、また寒い寒い帰り道を歩き出した。


「ムツゴロウ先生」の家は、住宅街にあるのだが、周囲の一般的な家々とは対照的に、豪邸であった。

和風なものが好きなようで、雪が沢山振るためいわゆる「日本家屋」は、雪国には適さないのだが、彼の家は日本庭園を始め多くの日本的なものがある。

夕子と充は、人3人分ほどの門の前で、インターホンを鳴らした。

「もしもし、河本おじさん。お願いしたいことがあって来ました。」

「河本おじさん」というのは、「ムツゴロウ先生」のことだ。

しばらくすると、ムツゴロウ先生が扉から出てきた。

「きつねか...ケガをしているようじゃな」

二人を見るなり挨拶もしないでムツゴロウ先生はそう言った。

「はい。手当がしたいって夕子が」

「よかろう。入りなさい」

ムツゴロウ先生は二人を屋敷の中へと招き入れた。

「ありがとうございます」

二人は礼儀正しくお辞儀をし、門をくぐった。


「ふむ、こりゃあトラバサミにかかったんじゃな」

きつねを診ながら、ムツゴロウ先生は言った。

「トラバサミ?」

「そうじゃ、狩猟に使う罠の一種じゃ」

トラバサミとは、わなの中央の板に獲物の足が乗ると、ばね仕掛けによりその上で2つの半円ないし門型の金属板が合わさり、脚を強く挟み込むものである。(wikiより一部引用)

「助かるんですか?」

「あぁ、大したことはない。2、3日もすれば歩けるくらいにはなるじゃろう。」

「そうですか。よかった...」

夕子は再び安堵の表情を浮かべた。

「そういやお二人さん。きつねには直接触れなかったじゃろうな?」

「大丈夫です」

「それなら良かった。5日後くらいには治るはずじゃろうから、どうだ?お前さんたち、このきつねの世話をしてみんか?」

唐突な提案に、充と夕子が驚く。

「え、良いんですか...?」

「あぁ、ちゅうても、学校帰りにうちに寄ってきて、餌を与えたりするくらいじゃが」

「良いです。やらしてください!」

「よかろう。では毎日学校帰りに、うちに寄っていくといい。ただし、親には面倒だからいうんじゃないぞ?」

「はい。ありがとうございます!」

こうして二人は、きつねの世話をすることになった。

「よかったね〜あのきつね、可愛いなぁって思ってたんだ」

珍しく夕子のテンションが高めだ。

「うーん」

充が、心ここに在らずといった風に答えた。

「もう、どうしたの?全然乗り気じゃないね」

夕子が充の顔に少しだけ自分の顔を寄せながら言った。

夕子は、何か相手に不満を伝えようとする時こうする。夕子は、「上手く言えなかった時顔を近づけて表情をみてもらった方が伝わりやすいかなって」と言っていたが、これはただの癖だろう。充が何度か、「鬱陶しい」と言っても、夕子はこの癖を直そうとしなかった。そのため、充は夕子がこうする時いつもそっぽを向くようにしていた。

「別に。ところでなんであの爺さんの家って、家の中に鹿威しがあるんだろうな」

たしかにムツゴロウ先生の家の中、ムツゴロウ先生の寝室には鹿威しがある。おそらく冬場は自宅の庭をブルーシートで覆ってしまっているため、冬場でも鹿威しの音が聴けるようにだろう。

「はぁ?それ今関係ある...?」

「別に...ただ気になっただけだよ」

夕子は再び不満そうな表情を浮かべた。

充は決して悪い人間ではない。が、あまり他人に関心が無い。充が一人でいることが多いのも、夕子のように「人と話すのが苦手だから」というより、「人と話すのが面倒だから」という方が強かった。夕子もそれを理解していて、あまりしつこくするとすぐにでも嫌われそうな気がして、それ以上は言わなかった。

二人はそのまま家に帰り、今日のことは家族の誰にも言わなかった。


その日から、二人はきつねの世話を始めた。

学校帰りは毎日ムツゴロウ先生の家に通い、休日は一日中きつねを見たりしていた。

しかし、一向にきつねは回復せず、足の傷が治ってからも、元気を取り戻すことはなかった。

「ムツゴロウ先生...なんでこの子よくならないんですか...?」

また夕子が不安そうに尋ねる。

「うーむ...もしかしたらもうダメなのかもしれないな...」

「え...ダメって、どういうことですか!?」

今度はテーブルに乗りだして言った。

「もしかしたら、このきつねはそう長くは無いのかもしれない。今のうちに、たっぷりと見ていてあげなさい」

2日後、きつねは亡くなった。どうやらすでになんらかの病気にかかっていたらしい。夕子は泣いて、充に抱きついていた。「どうして...どうして...!」充はなんとも言えないような表情で、自分に抱きつく夕子を見ていた。その時微かな声で、「大丈夫だよ...」といった充の声が、今も夕子の頭の中に残っていた。


それから、充は相変わらず人とはあまり接することなく過ごしていたのだが、夕子は中学、高校と陸上部に所属していたため、その仲間といることが多くなった。部活仲間の彼氏すらも出来た。充は、そんな夕子とは対照的にドンドン一人でいることが多くなり、気がつく頃には、もう誰も彼を気にも止めなくなっていた。

そんなある日である。

夕子が、忘れ物を取りに教室へ行くと、そこには充がいた。

二人は不仲になったわけではない。ただ、なんとなくお互い話さなくなってしまっていただけである。同じ中学、高校に進学したが、影でブツブツ言いながら難しい本を読んでいるような人間と、仲間と共に部活に励み、引退直前の大会でやっと努力が実りインターハイへの切符を手に入れたような人間とでは、歴然とした差があった。その差が、二人の間の壁となり、お互いを隔ててしまっていただけである。

「あ...なんか...久しぶり...だね...?」

夕子が気まずそうに言った。

「別に...いつも会ってるだろ...クラスメイトなんだから」

「それも...そうだね...」

二人の会話はぎこちない。

夕子は、きつねの話を思い出した。毎日一緒にきつねの世話をしにムツゴロウ先生の家に行った日々を。前々から仲は良かったが、あれ以来もっと仲良くなった気がした。そしてあの時充にかけてもらった言葉、いつも冷たいような態度をとる充からもらった唯一の暖かい言葉。すごく嬉しかった。

(そう。私は、充に恋していた。今はどうだろう...)

夕子は、自分と充が長い間関わりを持たなかったのを改めて悔いた。話しかけようとは思っていた。けど、できなかった。

そんなことを考えていたら、夕子はなんだか泣きそうになってきた。

必死に涙を堪え、気まずさに押しつぶされそうになるのも堪えながら、用事を済ませ教室を後にしようとしたその時、充が言った。

「卒業、おめでとう」

「えっ?」

夕子は、あまりにも突然の事に驚いた。

「そ、卒業って...まだ卒業してないよ...?」

「でも、今のうちに言っといた方がいいだろう?言えないままでいるよりは」

その瞬間、夕子はハッとした。充も同じだったのだ。充はたしかに、他人にあまり関心を持たない性格だった。しかし、彼も彼なりに夕子のことを気にしていたのだ。

夕子は改めてあの言葉を思い出した。

『大丈夫だよ...』

もしかしたらあれは、彼の精一杯の愛情表現だったのかもしれない。

「充...あなた...もしかして...」

夕子は、真っ直ぐ充を見つめながら尋ねた。ちょうど夕日が、教室中を照らし、赤く染め上げている。

「...夕子...『ミュンヒハウゼンのトリレンマ』を知っているか?」

「えっ?」

夕子は、わけのわからないタイミングでわけのわからないことを言ってくるのは相変わらずなのだなと思った。でも、少し嬉しかった。

「はぁ?知らないわよ...っていうか、それ今関係あるの?」

ふと小学生時代の会話を思い出した。

(そういえば、前もこんな会話した気がする...懐かしいな...。どうせこの後「別に」って言うんだろうな...)

「俺はお前と喋らなくなってから、誰とも喋らなくなってから、ずっと哲学について考えていたんだ。まぁ、本当に考え始めたのは、あのきつねの時からかもしれんがな...」

「それが...なんなのよ...」

と言いつつ、内心充がきつねの話を覚えていてくれたことが少し嬉しかった。いや、かなり嬉しかった。

「『ミュンヒハウゼンのトリレンマ』っていうのはな、『前提のおかない議論は果たして可能か?』っていう考察なんだよ」

「だから、それがなんなのよ!」

今度は少し強めの口調で言った。

「お前はどう思う?これについて」

夕子は、今度は少し間の抜けたような表情になった。不意をついた問いだったため、少し考えてから

「...それだけ言われてもよくわからないわよ...第一、私はべつに哲学に興味を持ったことなんてなかったし...」

今度は、充が少し考えたような表情をした後、夕子の顔を覗き込むような姿勢になって言った

「でもお前、ロマンチストだろう?」

「え、まぁ...うん...そうかもね」

「じゃあわかるはずだ。ロマンチストは哲学に強い」

「そ、そんなこと、決めつけないでよ!」

すかさず夕子が否定した。

「ふん、まぁ言い」

(自分から振っといてなんなのよ...)

夕子は少しムッといた

「つまりだな、俺が言いたかったのは、なんの知識もないでこの世に生まれ落ちた俺たちのこの感情に、理屈なんて無かったってことだ」

「ん...?よくわからないよ...」

「いいか、俺は考えた。人が何かを好きになるのはなぜなんだろうと。それと別れて傷ついたりしてしまうリスクを背負ってまで人が人を好きになってしまうのはなぜなんだろうと」

夕子の推測はいよいよ確信に変わった

(充も私の事好きだったんだ...ずっと私をみててくれてたんだ...でも私は...)

「...それで...答えは出たの...?」

「出なかった」

充は即答し、続けた

「当たり前だ。本能なのだから。それこそ『ミュンヒハウゼンのトリレンマ』だった。理屈なんて、意味なんて見出そうとする方が野暮だったんだ」

「まぁ、そうよね」

「だから俺は、自分の気持ちに正直になることにしたんだよ」

(ゴクリ...)

夕子は唾を呑んだ。

部活の先輩にいわゆる「下駄箱入りのラブレター」で呼び出され、校舎裏で、まだグラウンドで練習している野球部の怒号が聞こえる中告白された、あの時と同じ緊張感だ

「うん...それで?」

「俺はお前が好き『だった』」

「だった?」

「あぁ、過去形だ。だが、そんなに遠くない過去のだ」

そう...なんだ...

夕子はホッとしたような残念なような感情に襲われた。

「俺はこの『ミュンヒハウゼンのトリレンマ』を知るまで、この気持ちがわからなかった。わかろうとしていたからずっと好きでいたのかもしれない。だが、これを知って、好きに理屈なんてねぇってことに気づいた時、吹っ切れたんだよ」

「へぇ...それで...?」

夕子は少し不機嫌そうに答えた。

「俺は高校卒業後すぐ、アメリカに行く」

「え!?」

突然の告白に夕子はまた驚いた

「父親の海外赴任が決まって、家族でついていくことにした。べつにもう高校生でもなくなるんだから、行くかどうか迷ってたんだ。でも、決心がついた。俺はあっちで父親の仕事を手伝いながら生活する」

「そう...なんだ...でも、なんでそれを私に?」

「言ったろ、お前が好きだったからだ」

夕子はまたわからないといった表情をした

「俺が決心がついた最大の理由はな、お前と別れることの踏ん切りがついたことなんだよ」

夕子はまた改めて充に目を見た。決心がついた目。いくらいっても変えない。そんな目だった

「それは...その...私に未練があったからってこと?」

「そうだ。だから、ありがとう」

「え、なんで?」

「お前が直接何かしたわけじゃないが、間接的に決心がついたのはお前のおかげだからだ。だから、ありがとう」

「うん...どう...いたしまして...」

そういうと、充は微笑み、教室から出て行こうとした

「え、ちょっと!」

「ん?」

「それで終わり!?それ言いたかっただけなの!?」

「あぁ!そうだ!今まで世話になった!!」

充はそういうと小走りに階段を降りて行った。

教室に一人取り残された夕子は、一人ぽつんと充が走って行った方を見ていた。

「世話になった...か...私は全然何もしてないんだけどな...」

気がつくと夕子の目からは一筋、涙が流れていた


それから数日後、夕子と充は卒業式を迎えた。

空には雲ひとつない青空が広がっていた

「よ!おつかれ!!」

そう気さくに夕子に声をかけるのは、夕子と同じ元陸上部で夕子より一つ上の、宮部春明。つまるところ夕子の彼氏だ

「先輩!来てくれてたんですね」

嬉しそうに夕子は言う

「おう!可愛い後輩兼彼女の卒業式だ!事故にあってまでも来るさ〜」

「事故にあったらちゃんと病院に行ってください、先輩」

「いやぁ相変わらず夕子ま真面目だなあ!」

会話しながら、夕子は辺りを気にしていた。充のことだ。

結局あれから全く話していない。一方的に会話を切られたので、夕子からもお別れくらいは言いと思っていた。

(うーん見つからないなぁ...もう行っちゃったのかなぁ...)

「どうした夕子?」

自分の話に身が行ってないと察知した宮部が訪ねる

「え、あ、なんでもないです先輩」

「そうかぁ?まぁいいか。ところで、いつまで敬語なんだよ、もう付き合って2年くらい経つぞ?」

「うーんでも...もう習慣ずいちゃってますし...べつに不自由ないですし...」

夕子は少し困ったような表情を見せる。こういう時の夕子の表情は、格段に可愛い。夕子は誤魔化すのが上手いのだ

「う、うん...まぁ、そうだな!」

「はい!先輩!」

今度はとびきりの笑顔。

ちなみに夕子は誰と話すときも基本的に少しあざといような風に喋る。慣れない人とも一生懸命喋ろうとした結果こうなり、夕子の癖になっている。それは自分自信でも自覚していることだった。しかし、充と喋るときは、こうはならなかった。

「それはそうと夕子、これから陸部のオフ会でもしようと思うんだが、どうだ?」

「すみません先輩...ちょっと用事があるので、遅れます...」

「おう、そうか?じゃあ『焼肉海空亭』で2時から4時くらいまでやると思うから、来れたらこいよ!」

「はい!必ず!」

そういうと夕子は走って充の家に向かった。学校から充の家までの距離は、そう遠くはなかった。

(ピンポーン)

「はい、って...お前か」

「お前かはないでしょう?幼馴染と最後の別れになるかもしれないから挨拶くらいしようと思ってきたのに」

そういうと充は微妙な表情になり、「まぁ入れよ」と夕子を部屋の中へ招き入れた。

「嫌な顔したでしょ」

え、と充はとぼけた表情をした

「さっき挨拶に来たって行った時。そんなに嫌かい?この前も自分の言いたいこと言ったら颯爽といなくなっちゃうしさ」

「いや...嫌じゃねぇよ...」

「じゃあなんでさ?」

「...一度別れ言ったのにもう一回会うのは恥ずかしいだろ...」

「まぁ、なんとなくわかるわね」

そういうと、充はだんまりした。夕子の出方を伺っているようだった。

ちなみに、夕子は制服でミニスカートの上あぐらをかいているため、正面に座っている充からはパンツが見えている。それもあって余計充は気まずいのだ

「でもこの部屋久しぶりねぇー小学生以来よね?」

夕子が部屋を見回しながら言った。二二人がよく遊んでいた頃と、あまり変わってはいない。部屋の隅に大きなダンボールが置いてある以外は

「まぁ...もうすぐここともお別れだけどな」

「...本当に...いなくなっちゃうんだね...」

夕子は寂しそうに俯いた。

「なんだよ、今頃寂しくなったのかよ」

「べつに...私寂しくないなんて一言も言ったことないよ?」

「え...?」

充が少し驚いたような表情を見せる

「私、ずっと喋りたいって思ってたんだよ?でも部活の仲間が常に周りにいてくれたし、あなたも喋りかけ難い雰囲気醸し出してるし...本当はもっともっと喋りたかったし一緒に居たかったよ...」

夕子が上目遣いで憂いを帯びた、どこか儚げな表情で言う

「そんなの...今更言われても...俺はたしかに人から話しかけられるのは嫌いだったけど、お前とは昔っから喋ってたし、別によかったんだよ...でもお前の周りには常に人がいたろ...」

再び二人の間に沈黙が流れる

「私、あなたのこと好きだったよ。って言うか、多分今も好きだよ」

充は表情を変えなかった。悟っていたのだろうか、それともただ単に特別驚くようなことじゃないのだろうか

「でもお前...彼氏いるだろ...」

「うん...今の彼氏のことも好き...」

夕子の表情を見ると、下唇を噛んで涙を堪えていた

充は何も言えなかった

「ねぇ...充...あなた、私のこと嫌いなわけじゃないのよね?」

「それはない」

「じゃあ、これくらいいいよね....」

そう言うと、夕子は充を押し倒した

「おい...」

「大丈夫、ただ抱きしめてもらいたいだけ...昔みたいに...」

夕子の声は震えていた

「...いいよ、別に...」

充は夕子を全身で包んだ

夕子は小柄ではないのだが、充は肩幅はないが身長は高かった

「ありがとう...」

夕子はそういうと、充の胸に自らの顔を埋めた

30分ほどこうしていただろうか、夕子は泣いて赤くなった目を真っ直ぐ見開いて、充に言った

「本当に...ありがとう...元気でね...」

充はその時は何も言わなかったが、夕子は去り際、かすかに「こちらこそありがとう」と呟いたのを聞いた気がした


それから8年後

夕子はすでに結婚し、6歳になる子供が出来ていた。相手は宮部春明だ。

金銭的な都合で宮部の実家で二人は暮らしていたのだが、3年ほど前から二人は新居で暮らすようになっていて、今日は夕子は里帰りをしていた。

8年前、高校の卒業式の日、あの日以来充とは会っていない。電話もしていない。手紙も出していない。充は夕子に自分の連絡先や住所を何一つ言わないで行ってしまった。

夕子は充の家があった場所、今は空き地となってしまった場所の前に立っていた。

「8年...随分と立ったんだね...」

充との思い出は、今もなお鮮明に残っていた。

おそらくこれからもずっとずっと残り続けるだろう。

充と会うことがあるかどうかはわからない。もしかしたらこれから先ずっと会わないかもしれない。現実的に考えれば、その可能性の方が高いだろう。

しかし夕子は、またいつか、どこかの町で、充を見かける予感をしていた。そしてまた、訳のわからない事を問われるのだろうと。なぜなら二人は、「似た者同士」なのだから。


秒速5センチメートルをちょっとだけ意識しました

単語難しいですね...

結構久しぶりに書いたんですけど、やっぱり小説って難しい...

まだまだ作りたい話は沢山あるので、また今度やるかもしれませんがかなり後になると思います


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