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「小説家になれなかった」ぼくたちへ メイキング&反省会

 みなさま、こんにちは。スイカです。

 ペンネームは百里芳ももさと かおるというのですが、とりあえずスイカの人で覚えていただけると嬉しいです。


 書き出し祭りにて投票をしてくださった皆様ありがとうございました。

 感想をいただいた方々、とても嬉しかったです。


 さて、これから第三回書き出し祭りに提出した『「小説家になれなかった」ぼくたちへ』をどのように作ったのか、使っている技術は何かを解説……というかメモしていこうと思います。


「ちょっと評判が良かったからって、調子にのってるんじゃないの?」


 確かに少し浮かれてますごめんなさい。

 でももともと、評価が低くてもやろうと思っていたことです。


 今回の作品を読んでくださった方、感想をくださった方、投票をしてくださった方へのお礼として、

 執筆で使った技術を公開します。


 ※書き出し祭り部分のネタバレあり

 ※細かく解説されると物語に入り込めない/しらけるという方は読まないほうがいいと思います。




●前提

 私は、普段ゲームのシナリオを書いているシナリオライターです。

 そのため、小説を書く人とは少し視点が違うかもしれません。


●書き出す前に決めたこと

 「普段小説を読まない中高生でも読めるものにしよう」というテーマにしようと決めました。


 これは書き出し祭りの戦略として、広い人に読んでもらえるかも……という考えがなかったわけではないのですが、それ以上に自分の力を試してみたいという思いがあります。


 中高生(特に女子)が読める・楽しめる作品は、日本において「お金が動きやすい」という傾向があります。

 イメージとしては、小説に人気が出て映画化・ドラマ化……みたいなコースですかね。

 例えば、ちょっと古いですが「世界の中心で、愛をさけぶ」とか、なろうでいうと「君の膵臓がたべたい」みたいな作品です。


 さすがに、映画化を狙う! という大それた目標はないのですが、ある程度売れそうな作品を意識的に書けるかどうかというのは、シナリオライターとしては重要な技術です。

 今の自分にそれだけの力があるのか……書き出し祭りという場を借りてやってみようと考えました。


 そのため、具体的には、

・わかりやすく、身近な内容

・青春、恋愛的なテイスト

・簡潔な文章

 を方針にしようとを決めました。


 その後、自分で取り扱える中で青春かつ、人の心が大きく動きそうなテーマとして、「表現活動と才能」を選択しました。

 世の学生にとっては、アイデンティティや進路にかかわる部分なので、より多くの人に刺さりそうかなという選択です。


●今回の縛り


 私は小説を書くときは大体自分のなかでルールを決めます。

 今回は、「普段小説を読まない中高生でも読めるものにしよう」がテーマなので

・設定で殴らない(今まで見たことないような設定で読ませようとしない)

・文体で殴らない(文学的表現や、癖のある文体=作者のキャラクターで読ませようとしない)

・人間ドラマのみで読者をひきつける

 を縛りとしました。



●先行作品の読み込み

 いったい、どんな内容が読者に受けているのか。調べるためにいくつか作品を読みました。

 正直書くのよりも時間がかかってます。


 読んだ作品

・『ハチミツとクローバー』羽海野チカ

・『左利きのエレン』かっぴー

・『君の膵臓がたべたい』住野よる

・『悪意』東野 圭吾

・『チョコレートコスモス』恩田陸

・『響~小説家になる方法~』柳本光晴


 多分他にも読んだような気がするけど……手元に見当たりません。

 んで、先行作品が何かの参考になったかというと、あまりなってません。

 それでも、情報を頭に詰め込んでおくと何かの拍子にアイディアのタネになってくれたりするのでとりあえず読んでおきます。


●プロットの組み立て


 今回はプロットなし。

 3000~4000字は得意な範囲なので、手癖で書いてもその範囲に収められるだろうなと考え、詳細なプロットは立てませんでした。


 その代わりに、「読者の感情をどうコントロールしていくか」という青写真を描きます。


 今回私は書き出しの役割を「読者にその作品を読ませる理由をつくる」と定義して制作を始めました。

 そのために、

・心理的に大きな衝撃を与えること

・ページをめくることでカタルシスを感じられそうなこと

 を意識します。


 一般論として、書き出しでは「インパクトがあること」「主人公が早めに提示されること」「次への展開が期待されること」がポイントとされますが、これはすべて読者の感情にかかわる項目です。

 インパクトがあることで、読者の注意を引き、

 主人公が提示されることで、読者の自然な感情移入を呼び込み、

 次への展開を期待させて、ページをめくらせる。


 その中で注意しなければならないなーと思うのが「インパクト」。

 私はインパクトを与えるというと、どうしても大きな事件や、今まで見たこともなかった設定を描こう……としてしまいがちなのですが、恐らくそれだけでは読者の感情を動かせません。


 例えば、次の二つの例文、


・ヌヌンガッポップル星では双子星であるリリリンガサロベツ星との大規模な戦争が起き、毎秒10億人ものヌヌンガッポップル星人が死んでいます。

・昨日、ぼくのじいちゃんが死んだ。


 では、明らかに前者の方が壮大な事件が起こっていますし、おそらく見たことのない設定が描かれています。。

 しかし、読者としては全然感情移入ができません。なんだよ、ヌヌンガッポップル星って。

 一般的な読者としては、「ぼく」の「じいちゃん」が亡くなったということの方が、心理的なインパクトが大きいはずです。起こってほしくないけど、起こりえる=身近な題材でしょうから。

(おそらく、「昨日、ぼくのじいちゃんが死んだ。傭兵として、ヌヌンガッポップル星の戦争に参加していた」みたいな書き方をすれば、変な設定でも多少は読みやすくなってくる……はず)


 ということで、読者に感情移入できる範囲で、心理的インパクトのある内容を考えました。

 テーマの「青春」「表現活動と才能」あたりで、インパクトのありそうなトピックとしては……


①自分の表現が認められる(褒められる、受賞する)

②自分の表現が認められない(けなされる、見向きもされない)

③他人の表現が認められる(他人の創作物に感動する、感銘を受ける)

④他人の表現が認められない(アイツの作品スゲー褒められてるけど、自分には駄作に感じられる)


 と考えました。

 ①は、書き出しというよりは物語のゴールの方がカタルシスが大きそう。

 ③は、爽やかな成長ものではあるパターンですが、書き出し祭りだと若干インパクトが薄そう。

(むかし見た○○に感動して、自分も○○を志す、みたいな流れですね)

 ④は、さすがに暗すぎかな……。


 ということで、今回選んだのは③の「自分の表現が認められない」。

 ここで注意したのは物語が暗くなりすぎないこと、主人公がかっこ悪くならないこと。

 悩み苦しみながらも立ち上がっていく人は好かれますが、うじうじする人は嫌われる……みたいな感じですね。


 ここまで考えて冒頭文の「才能があるやつなんて死んじまえばいい」を思いつきます。

 ちょっと暗めだけれど、他人の才能を妬んだりすることは大なり小なり多くの人が体験しているでしょうし、それを大げさに書くことでインパクトっぽくなるだろうな、ということで採用。

(悔しさをバネに頑張れる、ということもあるのですが……恐らくはマジョリティではないはず。心理学にも、失敗が多ければ多いほどやる気を失うのが人間であろうと思います)


 ただし、本当に「死んじまえ」と考えているような主人公はあまり好かれないでしょうから、

・自分で自分の才能を認められずに

・他人の才能を妬んでしまったが

・そのことを自分で後悔している

 みたいなラインにとどめることに決めました。


 さらに、ヒューマンドラマで最もインパクトのある出来事の一つが「人の死」でしょうから、それも冒頭にからめることを考えました。

 今回の設定でどんな死が身近に感じられるだろうか……と考えると「身内」「友人」「ライバル」「尊敬する人」あたりが思い浮かびます。

 さらに、青春ものと言えば恋愛テイストを絡めたほうが売れやすい、ということで相手を異性に。

 まるっと全部組み込んで「友人でもありライバルでもあり、尊敬している異性の『相棒』」までをつくりこみます。


 ここまで考えたら、後は読者が共感してくれるように要素を配置するだけ。

 嫉妬と人の死、という強い感情が動くトピックを先頭に持ってきて、そこから主人公の心理に少しずつ共感されるように配置していく。


 こんな感じで前半部分の回想部は決定。

 ここまで読んでもらえば、恐らく主人公の心情――自分では解決できないような葛藤や苦しみ、がある程度共感されているはずなので、後半はそれが「解決されそうな」配置をしていきます。


 とは言ってもすぐに解決できそうではつまらないので、主人公の心理的な問題を、物理的な問題に置き換えていくという作業を行います。

 心理的な問題というのは解決したように見せるのが難しいので、「現実世界のこの問題を解いて行けば、それに従ってカタルシスが得られるよー」ということを読者にみせる、という感じですね。


 方策として出したのが

①ボーイミーツガール(三浦との出会い)

②過去の象徴(ミヤの創作ノート)

③過去からの問題(“最後の10枚”)

 でした。


 謎めいてるけど、この問題が解決すれば、主人公の心理的な問題も解決されそう……と思わせることを意識して配置します。


 ということで、前半の回想パート、後半の現実パートの青写真を描き終わりました。

 あとは書くだけ。


●執筆


 書く内容が決まっていればあとは筆を動かすだけ。

 それでも今回はなかなか筆が進まず、4000字弱を書くだけで2時間もかかってしまいました。

 平均の執筆速度の2倍くらい時間がかかっています。

(早い! と思う方もいるかもしれませんが、私は出来高制のライターなので、執筆の遅さは即収入の低下につながります)


 細かく一文一文に仕掛けはあるのですが……さすがにそれは説明しきれないし、あまり興味もないと思うので割愛。

 知りたいという人がいたら、ツイッターや感想で声をかけてもらえれば……。



●小ネタ

 今回は、「8月4日からスタートした4000字の書き出し祭り」だったので、

 ミヤの命日が「8月4日」、キーの一つが「最後の10枚(4000字)」だったのですが誰からも指摘が入らなかった(´・ω・`)


●反省

 今回は幸いなことに好評をいただいたのですが、作者としては反省点の多い作品です。


【反省①】

 暗すぎない?


 主人公、暗い子……。書き出しだけならそれでいいのですが、長編にしていくとなるとこの暗さをどう処理していくのかがポイントになりそうです。

 暗すぎると読者を嫌な気分にさせてしまうので、暗くありつつも共感を呼び、なおかつカッコいい、というところまで人物を昇華していく必要がありそう。

 できるかなぁ……。


【反省②】

 小説、という題材について。


 今回、書き出し祭り/なろうでも評価されたい! という色気が出てしまって、小説というテーマを選んでしまいました。

「普段小説を読まない中高生でも読めるものにしよう」という一番最初に立てた目標を考えると、これは明らかなミスです。

 普段小説を読まないということは、小説を書くという行為に対しても身近に感じられないということでしょうから。

「表現することとは」「創作活動とは」、もっと広げて「自分のしたいことについて考える」「自分の才能と向き合う」くらいにしないと、感情移入しにくくなってしまいそうです。

 もし設定が高校2年や3年なら進路の問題と絡めて描いて行けるのですが、主人公・坂口と三浦のボーイミーツガールを描くために高校1年生にしてしまったのでこの方法も使えません。どうしよう。


【反省③】

 長編、苦手……。


 私は、1000字、3000~4000字、10000字あたりのライティングは経験が多いのですが、長編小説となると経験がほとんどありません。長編シナリオに関してもあまり評判は高くないんじゃないかなと思います。

「続きが読みたい」という意見をたくさんいただいたので、連載にチャレンジする予定なのですが、今からやばい香りがぷんぷんします。


【反省④】

 メイキング、長すぎない?


 余計なことを書いたと、反省しております。



 以上、長くなりましたがメイキング&反省です。

 多分あまり参考にならないと思いますが、すこしでも創作の手助けになるのなら、これほどうれしいことはありません。

 もしちょっとでも参考になったという人がいたら、ご自分なりにメイキングや反省などを書いていただけると、私が喜びます。皆さんの技術、盗ませてください。

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