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第二会場

《第二会場》


●『色めく世界と比翼の旅鳥たびがらす

・第一印象


においを、感じる

くろとしろのたいひ?


・感想とか


 いやあ、書き出し祭りの作品を読んでると、割と“早くて”“インパクトが強いの”が目についちゃうんですけど、こういう雰囲気があるのもいいよね……!

 すっごく曖昧な表現で申し訳ないのですが、匂いとか、湿度とか、淡く彩度低めの色彩とか……そんな感じの印象が伝わってきて、すき。

 タイトルと内容を合わせて考えると、黒髪の主人公とアルビノの少女、あたりが「色めく」とか「比翼」とか「旅烏」なんかに相当するのかなぁと思います。わくわくの要素がいっぱいですな。

 最後のくすっとくる掛け合いもいい感じで、ふたりの行く末が気になりました。

 

 で、全体的には好きな雰囲気なんですけど、個人的には4000文字で判断するのは難しそうかな……とも思います。

 正直な話、書き出し祭りの4000字だと、物語のテーマだとか、事件が起こりそうな雰囲気とか、主人公に立ちはだかる壁……みたいなものの気配が感じられませんでした。この作風なら、感じられなくてもいいのかなとさえ思います。ゆったり世界と、人々の関係性にしずんでいくという体験はとても心地いいものなので。

 だけどやっぱり4000字としては引きが弱いかもなぁ……なんて思ったり。

 引き、というのは次のページをめくらせるための動機付けなんて表現してもいいのでしょうが、その要素が薄い気がします。もしかしたら、薄くすることによってこの雰囲気が出ているのかもしれません。

 結局、どうするのが正解なんじゃろうなぁ……と他人様の作品なのに、頭をひねってみたりして。

 

 うん、これだけだと判断できないので続きが読みたいです。


●『今も僕を束縛する、三人の彼女の話をしよう』

・第一印象


School Daysかと思ったらミステリーだった


・感想とか


 いいですね、いいですね! 面白い試みです。

 被害者の手記から始まり、その内容がだんだんと乱れていくのですが、その時の光景を想像するとかなりゾクゾクします。後ろからのぞき込まれてる状態で書くのってすごく緊張するよね。

 しかも包丁を突き付けられながら、書かされ続けている。

 あれ、ミステリーかと思ったけどホラーかな?

 塗りつぶされている表現とかも怖いし。

 

 私はたくさんミステリーを読むわけではないので、被害者の手記――しかも途中で犯人が現れて、同席しながら書かれている――から始まり、その後探偵が謎解きをしていくという形式が斬新なのかどうかはわかりません。でも新鮮な気持ちで読ませていただきました。

 

 『ワタシハ ダーレダ?』という一文があるのですが、ここら辺を考えさせることが作品の面白みであり、次のページをめくらせるモチベーションなのかな……とは思うのですが、それにしては情報の出し方がちょっと引っかかりました。

 前半は「僕」の手記ですし、後半の探偵役の語りは冗長性が高いので、おそらく読者が頭の中で情報を整理するのは難しいんじゃないかなと思います。

 文体自体は好みの問題なので、いいか悪いかは判断しませんが、謎解きを読者に仕掛けるにしては、情報が読み取りにくいのが気になったところです。

 なんというか……読みながらいろいろ情報を整理したら、女たらしの男が手記を書きながら殺されました。容疑者は三人いるはずが二人しか見つかっていません。しか謎がなくて、どうにも煙に巻かれた気分になるというか。


●『万年筆のインクが切れた』

・第一印象


ふんいきがあって、えろい



・感想とか


 タイトルと同じ一文で始まる作品。

 インパクトがすごく強い、というわけではないのだけれども、その後の雰囲気とも合っていてよい入り方だなぁと感じました。

 「何を書いているんだろう?」と読者を引っ張っていき、「彼女」という文字が登場、恋愛ものかな……と思わせつつ、「憎き男」の文字が踊り、彼女の詳細なプロフィールを覚えている「僕」と、どんどん不穏になっていくのも、読者を物語に引き込んでいく工夫なのでしょうか。まんまと引き込まれました。

 

 「もう、いいか」という一言から、物語が答え合わせへと動き出します。

 初読時には「GPSで位置を確認」が何のことかわからなくて、その後の「楓さんのストーカーなんだろ」のあたりで、意味が判明。主人公をストーカーとしてミスリードさせようとしているのか……と思いつつ、「半分しか使わせてもらえないクローゼット」みたいな文言もあるし……。

 どうなるんだろうなーとワクワクしながら読み進めていったら、結局、主人公はストーカーというわけではなく、「愛の証拠」を書くために、寝取られのようなことをする狂ったカップルがいたという。

 こまごました伏線が貼ってあったので、どんでん返しという感じではなかったのですが、奇妙な関係性のカップル(の気味悪さと純粋さみたいなもの)が描けていて、とても楽しい作品でした。

 

 この、悟くんと楓さんの恋愛を軸にした奇妙な関係はすごく惹きつける力があると感じるので、そこら辺がもっと丁寧に描かれれば、より多くの人に刺さるのではないかな、というのが精読した感想です。

 丁寧にというけれど、別に現状が雑なわけではありません。

 構成もきちんとしているし、文章もキレイ。きっと書きなれている人なんじゃないかなぁ、と思います。

 だからこそ、変人であるところの悟くんと楓さんのパワーにひきずられているのか、「一般人」である読者に共感できる形になっていないように感じてしまうのです。

 だって普通の人は、恋人を他人と付き合っているふりをさせて、その間に想いを原稿用紙(200枚)にしたためるなんてしませんし。し、しないよね……? 感情移入が難しいのではないかと予想します。

 変人を描く方法としてよくあるのが、奇妙で苦しい行動だと一般的な感覚で理解しているけどそれをせざるを得ないいう風に書くとか、変人の隣に常識人を配置してつっこませるとか。まあ、方法はなんでもいいのですが、そう言った配慮がもう少しあったほうが、わかりやすかったのかなと。

 

 きっと、こんなふうに感じてしまうのは、悟くんと楓さんの関係性がエキセントリックすぎて、ふたりがどういう経緯で付き合っているのかとか、ふたりの日常がどんなのかとか、悟くんがどう思っているのかとかが深堀りされなかったのが原因なんじゃないだろうか。

 万年筆のインクが切れた、というのがこの作品のタイトルですが、調べてみたら万年筆のインク一瓶で原稿用紙300枚くらいは書ける……らしいのです。

 書き直しの分もあるだろうから200枚完成させたときにインクが切れるのはおかしくありません。「いつもより少ないね」というセリフがあることから、普段はもっとたくさん書いていて、途中でインクを買いたしたりしていたのでしょう。

 気になるのは、楓さんがいつインクを買い足していたのかということ。

 「久しぶりに玄関に僕と彼女の靴がならぶと思うと」という文中の表現を見る限り、悟くんが原稿用紙を書いている間は楓さんと会っていないみたいです。

 だとすると、楓さんはインクが切れたことを知ることができるはずもありません。

 いつもはどうやって買い足していたの?

 悟くんは、楓さんが堂島貫先輩と付き合っている(フリをしている)間の行動を把握していますが、どうやって知ったのか。GPSでは細かいところがわからないだろうし、メールやラインでと考えると汚されてる感が薄まるし、ストーキングしてるとしたらいつ原稿書いてるんだってなるし。

 そもそも大学?二年生の悟くんは、何故インクの一つも買えないのか。ペットだから?

 

 ここら辺のことは、正直重箱の隅だと思いますし、4000文字の書き出し祭りだと描き切れないところだとは思います。

 でも、私は読みたいの! 悟くんと楓さんの変な関係がこの作品の一番の魅力になってくるはずだから、深いところまで知りたいの!!

 ウワァァァンヽ(`Д´)ノ




●『シルバー・ブレッド ~墓場鳥は鎮魂歌を謳う~』

・第一印象


かっこいいのもりだくさん



・感想とか


 超雰囲気あるじゃんよ……やべぇ。

 冒頭からしっかりと描写があるのは、書き出し祭りというイベントでは有効に働かないことがあるのですが、この作品はそこら辺が上手く処理されていたと思います。

 小さな体に古びたロングコート、まとめられた長い髪、そしてレバーアクションのライフル。

 すごく映像的で、漫画やアニメにした時にも映えるんじゃないかしら。

 (作者さんは、映像を思い浮かべて書く派?)


 銀の杭が取り付けられたライフル、投げられたコイン、決闘に割って入る少女の声、自らを撃ち抜く悪魔……一つ一つのモチーフは、ぶっ飛んでるというわけではないのですが、組み合わせによってオリジナリティがしっかり出ていて、しかもカッコいい。

 世界設定はしっかり作りこんであって、長編にしても耐えうるんじゃないかなと感じます。


 あと、ヒスイちゃんがかわいい。明記されてないけど、女の子だよね? ボクっ娘……だよね?


 緊迫した冒頭を終えたら、数時間前の場面へ。

 主人公のティーと、ヒスイの会話の場面。ここら辺は世界設定を示しながら、キャラを描写していくパートだと思うのだけれど、まあ、出てくるわカッコいい設定が。

 魔女に、ソロモンの小瓶、列王記。「義兄」の関係あたりも、いい感じのエピソードが出てきそう。


 というわけで、楽しく読みました。

 ……と言えるのは、私が細かく読んでいったからなんじゃないかなぁ、というのが感想です。


 上記の通り、ひとつひとつはとてもカッコいい!

 オリジナリティがあるけれど、とっつきにくくなるほどの狂った設定でもないと思います。

 気になるのは、情報の詰め込み方について。


 全体を通して言えることは、新しい情報が次々と出てきすぎだということ。

 設定やキャラクターがしっかり作ってあって、これだけ作りこんでるなら作者としては書きたくなるだろうなぁ、というのはわかります。

 しかし、新しい情報というのは理解するのに労力が必要なので、読者としてはなかなかつらいものがある。

 前半はシーンとしてカッコいいところが多いので割とすんなり読めたりするのですが、後半はただ二人が会話している中で情報がどんどん出てくるので、より読みにくくなっているという……。

 少年漫画の第1話とかは、そこら辺を上手く作っていて、一番最初にインパクトのあるシーン、次いで日常シーン。日常が崩れる事件が起こって、主人公の活躍で解決で〆。

 

 まあ何が言いたいかというと、設定はすごくカッコいいので、そのカッコよさが伝わる方法を選べれば、もっとたくさんの人に楽しんでもらえるんじゃないかしらということ。具体的には、情報の出す順番やシーンの検討、読者の気持ちを誘導する方法の考察……まあ、言うは易く行うは難しなのですが。

 うん、シルバーブレットがどんな仕組みで、どんなふうに決闘するのか見てみたい。




●『先日、妹が逝きまして』

・第一印象


みうちの、お葬式を思い出した

か、カーテンって夏と冬で変えるものなの……!?


・感想とか


 おにいちゃん……(´;ω;`)ウッ

 妹が亡くなって落ち込むおにいちゃんが、妹の友人である真由ちゃんと出会い止まっていた時間が動き出しそうな、やや変化球のボーイミーツガール?

 こういう感情で引っ張る人間ドラマは、多くの人に楽しんでもらえるいい題材だと思います。

 (ただ、書き出し祭りでは評価されにくいかも……)


 この書き出しでは、「カーテン」「窓」「日光」みたいなものがモチーフとして使われていて、こういうところも好印象。

 冒頭部ではカーテンの隙間から外を眺めるばかりだった主人公。しかも、その隙間さえ閉じてしまっています。

 妹が亡くなって以来引きこもっていて、大学にもいっていないことの暗喩としても作用しています。

 そこに真由が現れて、厚いカーテンが開かれる。光が満ちて、主人公の人生に再び色が指していく。


 人間ドラマは、人間同士の関わり合いと掛け合いで進んでいくことが多いので、どうしてもセリフやモノローグばかりになってしまいがちですが、この作品ではうまく動きを付けて画を作り上げててすごいなーと思いました。

 文学・文芸的なテーマではありますが、文体があんまり重くないのでもしかしたら映像関係の人とか……深読みしすぎですね。


 4000字の範囲内だと、普通の人間ドラマ的な感じですが、もしかしたらこの後ほんのりファンタジーになったりしそうかな……という香りがします。ファンタジーというか、ひと夏の奇跡的なものが起こりそうな感じ。

 

 ……こんな感じのことが、感想というか私がいいなと思ったところなんですが、もっと工夫すれば作品全体のテーマが伝わりやすくなるんじゃないかなーとも感じています。

 

 この作品を読んだ時に読者がハラハラドキドキするポイントは「お兄ちゃんはどうなっちゃうの?」だと思います。

 なんで妹に嫌われたのか、どうして兄に直接謝らずに真由にメッセージがいったのか、兄の心の問題……ここら辺のことが綺麗に解決して人の心を動かす、というのが王道かしらと思います。

 そのカタルシスは主人公である兄に読者が感情移入すればするほど、大きくなっていくものですが……妹が亡くなって大学にもいかなくなるほどの兄に、どれくらいの人が共感できるのでしょうか。

 確かに妹くらい距離が近い身内が亡くなればショックも大きいでしょう。

 しかし、ずっと仏壇の前に陣取り「よく普通に飯が食えるな」と親? に向かって思えるほどショックを受けるのは、大学生の男の子としてはやりすぎかなと……。

 例えばですが、

①両親が死に、妹しか身内がおらず、アルバイトで稼ぎながら病気の妹を支えて、最後の最後にケンカした状態で逝ってしまった。

②妹とはずっと仲が悪く、最後に口うるさくののしってしまった。

 ……みたいな、兄と妹の関係値やシチュエーションによって感情移入の深さや方法、できる人の数が変わってくるはずです。

 今回の書き出しだと何も示されていないため「ほ、ホントに感情移入していいの? ただの繊細な人だったり、シスコンだったりしない?」みたいな気分です(´・ω・`)


 個人的には、心に傷を負った人が、何かしらの経験を通して、復活・成長していく、という物語は大好きなので、「ここまで感情移入しろよ!」「感情移入できるポイントをしっかり作っといたから、安心して泣けよ!」みたいな漢気を見せられると、きっとすぐ惚れます。きゅんとします。



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