006 記憶と精神世界と
あれからどの位時間が経っただろうか、数分かもしれないし、数時間かもしれない。もうそんな事を気にしていられない位気持ち悪い。
(もう、本当になんなのこれ。あとどれくらい続くの?もういい加減にして)
今まで経験した事のない感覚にプリシアはもう限界だった。
(もう、だめだ。気持ち悪すぎて正気を保っていられない)
・・・・・・・・・。
プリシアが苦しんでいる頃、村長はひとつ、またひとつと、プリシアのアストラルサイドと言う名の絡まった糸を解きつつ、奥へ奥へと進入して行った。
(ほんとがんじがらめじゃのう。ここまで厄介なのは初めてだわい。しかし、こんなに絡まっていては耐えるのも辛かろうて。・・・そろそろ意識が飛ぶ頃かの?)
そんな風に呟きながら、ゆっくりと慎重にまた確実に進んでいった。
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(さっきの変な夢は一体?
・・・と言うかここはどこだ?)
少年が辺りを見回すが真っ暗だ。ただただ意識だけがはっきりしている。
(身体の感覚がねーな。俺は一体どーしたんだ?)
相変わらず辺りは真っ暗。
(なんでこんな事になってるんだ?まてよ?最後の記憶は確か。)
(だめだ。何も覚えちゃいねぇ。名前すら。なんなんだ?この状況は・・・ん?なんだありゃ?)
少年は小さなヒカリを見つける。そして、近づこうとするが、やはり身体の感覚はない。だが確実にヒカリに近づいていく。いや、ヒカリが近づいてきているのか。それは定かでない。
やがて、ヒカリが目の前に来る。
(同じ様に、手をのばしてみるか。やっぱり感覚がねぇのな。)
その小さなヒカリを手にする?と少年の頭の中に風景が入ってきた。
(これはニホン。ん?ニホンてなんだ?2本??・・・いや日本?そうだ日本だ。何故それを忘れてたんだ?)
少年は日本の風景を描いて、思い出した。
(あっちにもヒカリがあるな。)
同じ様な行動を取って光り輝くそれを手に取る。
(今度は俺の街や家の風景?少しずつだけど、思い出してきたぞ!)
その後もいくつもの小さく光っているものを手に取っていく。
(もしかして、このヒカリは記憶の欠片なのか?)
(・・・俺の名はさくや。・・・椿朔夜だ。)
(なら、何故ここにいる?)
(まぁ、記憶の欠片を集めて見ればわかるか。)
そうすると、サクヤは無数にある欠片を片っ端から集めていく。
(完全に思い出した。俺はあの時確かにナイフで刺されて、そして気づいたら、ここにいた。)
(いや?違う。さっき見た夢。小さき者。プリシア、セフィロス、フェンリル。)
(それにしてもファンタジーな夢にしては現実味が半端なかったな。でも、俺が女になって異世界らしき所で右も左もわからないまま、右往左往してるなんてな。しかも、魔法なんてものもぶっ放したし。人も殺してしまった。感覚や感触もあったけど、その傍ら映画かなんかを観てる感じでもあった。あーなんなんだ、この変な感覚は。)
(おぉ、おぉ、やっと見つけたわい。こんな所に居ったんじゃな?)
頭の中を整理していた朔夜に突然、爺さんらしき声が届く。
(誰だ?)
朔夜は驚きながらも平静を装う。
(ワシじゃよ、ワシ。)
(・・・こっちの世界にも俺俺詐欺があるのか?)
(ふむ。その俺俺詐欺が何か解らんのじゃが、コッカラ村の長をやらせてもらってる者じゃ。)
(コッカラ村の村長だぁ?なんで、夢に出てきたヤツがここにいる?)
(夢?覚えておらんのか?プリシア殿のアストラルサイドに潜り込むって言ったじゃろうが?)
(プリシアのアストラルサイドって・・・だから、夢の中の話しだろう?)
(何を言っているのじゃ?と言うか、お主はほんとにプリシア殿か?声色も話し方も違うとおもうのじゃが?)
(そっちこそ何を言ってるんだ?俺はプリシアなんかじゃないぞ?)
(ふむ。これはどーした事じゃ?ワシはプリシア殿のアストラルサイドに潜ったのは間違いない。にも関わらず、居たのはプリシア殿に似ても似つかずの者。さて、どーしたものかの?)
(おい、そもそもこんな真っ暗な中でどうして、あんたを村長と信じる?)
(それもそうじゃな?なら、ほれ!)
村長はそう言うと、あたりが一瞬真っ白になった。朔夜は眩しいと呟くが、その刹那自分ともう1人のシルエットが浮かんできた。
(これは、お互いの意識が具現化した魔法じゃ、まぁ、幻影とも言うのじゃがな。それより、声やしゃべり方が違うと思ったが、まさか、性別すら違うとは思っても見なかった。これはどーした事じゃ?)
(あ?そんなの知るか!俺は俺だ。他の誰でもない!)
(まあまあ、そんなに興奮しなさんな。では、サクヤ殿と言ったか?お主はプリシアと言う人間を知らぬのだな?)
(だから、夢の中の話しなんか知らねーよ。)
(ふむ。その夢はどんな夢だったのじゃ?)
(その夢ってのは・・・)
朔夜はプリシアとして活動していた事と、映画を観ている様な不思議な感覚に捉われている事を話した。もっとも、この世界に映画なんてないので説明が難しかったのだが。
(夢を見てるのに、現実に体験している様に感じておるのじゃな?)
(だから、そう言っている。)
(これはますますわからんのぉ?まるで、もう1人居る様な言い草じゃな?)
(何を馬鹿な事を言って・・・)
言っているんだ。と朔夜が言おうとした所で、第三者の声が届く。
(・・・あの、もう1人居たりして。)
申し訳なさそうに、弱々しい声がした。
(誰だ?)
朔夜は数十分前と同じ台詞を言い、村長はそんな筈はないと、びっくりする。
(な、なんじゃ?何が起こっておるんじゃ?)
(ごめんなさい。話し声が聞こえたから来てみたら、出るに出られなくて。村長さんに、そっちは・・・えっと朔夜くん?)
(だれだ?お前はって、・・・雪乃か?)
(そうだよ。雪乃だよ。村長さん。プリシアは私です。)
(なんじゃと?ひとつのカラダにふたつの魂が入ってるじゃと?そんな事聞いた事がないわい。)
(おい、雪乃がここに居るって事は俺はあの時、おまを助けられなかったって事なのか?)
(・・・うん。ごめんね?朔夜くんが身体を張ってくれたのに、私も殺されちゃったみたい。)
(そんな。なんで、なんでこんな事に。)
(私もね、さっき全てを思い出したのよ。苦しくて苦しくてどうしょうもなかったの。でね、いつの間にか気を失ったみたいで。どの位気を失ってたかわからないけど、気がついたら苦しみも消えてて、目の前に小さな光があってそれをいくつか手に取ったの。そしたら思い出して。)
雪乃が苦しみから解放されたのは村長が糸を解いて、サクヤの所にたどり着いた事が要因なのだが、それをサクヤと雪乃は知らない。
そして、村長は2人がどんな関係で、状況でここに居るのかは知らない。
(す、すまんが、ワシにも状況確認をじゃな・・・)
(ごめんなさい。村長さん。私は東雲雪乃といいます。こっちが、椿朔夜くん。)
(シノノメユキノ?ツバキサクヤ?変わった名前じゃのう?お主らは一体?)
(私達は、こことは違う世界で生きていました。そして、2人一緒に殺された・・・と思います。)
(なんじゃと?詳しく教えてくれんかの?)
(分かりました。)
そうして、これまでの事を雪乃は村長に話し始めた。