第2章3 森の外 中
森の長と言っていた、木のおじいちゃんと別れ、りのとアリアは森の奥へと進む。
奥に進む途中、いつものように湖で水を飲み、顔を洗って、少し休憩をするりの。
「ね、ねぇアリア。そ、その・・大丈夫よね?」
「大丈夫かどうかは、りの次第じゃな」
大丈夫と言ってあげたいのだが、その根拠は?っと聞かれてしまったら、答えられない。
アリアは、正直に返事をした。
「そ、そうだよね。良し!大丈夫、大丈夫!」
大丈夫、大丈夫とは、魔法の言葉でもあり、破滅への言葉でもある。
破滅への言葉とは、時と場合によっては、大丈夫、大丈夫ではなく、危ない、危ないが正しい場合があるからだ。
無論、りのはその事について、言われるまでもなくわかっている。
ポジティブにいこうと、決めた結果であった。
「と、とにかく。一度森を抜けてみましょう」
猿山連合国のような国が、他にあるかもしれない。
自分はこの世界の事を、何も解っていない。
それに・・。
「せめて、普段から使わせていただいてるこの森の事ぐらい、知らなきゃいけない気がするのよ」
「そうかもしれんな。お肉が落ちてるかもしれんしな」
「・・・そうだといいわね」
湖での休憩を切りあげ、りのは再び歩きだした。
希望を胸に抱いきながら、ビクビクしてしまいながら、一歩一歩少しずつ、進むのであった。
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どれくらい歩いただろうか?
汗がベトついて、気持ちが悪い。
「ハァ・・ハァ。ね、ねぇアリア。後どれくらいか解る?」
「・・ふにゃ?何か言ったか?」
「もしかして寝てたんじゃないでしょうね」
「寝てない、寝てない。さて、お助けアイテムじゃったかのぅ」
「・・・まぁいいわ」
怒りたいが、怒る気力がない。
それに、お助けアイテムを出してくれるのであれば、文句はなかった。
「シポル」
アリアは地面に向かって、両手を伸ばし、呪文を唱えた。
アリアの手がひかり、地面から白い煙があがる。
出てきたのは、万歩計であった。
「・・・何コレ?」
「・・・見たことがないな」
「いやいや、万歩計なのは解るわよ!そうじゃなくて、何でコレなのかってこと!」
確かにこの森の事を知らなくてはと、考えていたのだが、今欲しいアイテムはこれではない。
りのは、万歩計をひろう。
「良し!これでこの森の距離が解るわね♪って、出てくるのが遅いわよ!」
「おぉ!噂に聞くノリツッコミじゃな」
「う、うるさい」
万歩計を地面に叩きつけるりのに、アリアは感心したように、手をパチパチさせた。
「・・でも、お助けアイテムには意味があるはず。ねぇアリア。サバイバル本を貸して」
りのは、アリアからサバイバル本を受け取ると、目的のページを開いた。
さて、算数のお勉強の時間だ。
数学と言わないのは、コレは、小学校で習うからである。
速さ、時間、距離のもとめ方をご存知だろうか?
お、は、じ、き、で覚えている人もいるのではないだろうか。
万歩計があれば、だいたい解る。
例えば、距離を計りたいのであれば、時間と速さからもとめられるし、時間を図りたいのであれば、距離と速さでもとめられる。
だがしかし、正確に測る事は難しい。
それは、歩く速さは変わるからである。
歩き疲れだったり、道によっては速くなったり、遅くなったりするからだ。
「懐かしいなぁ。アレ?どれがどうだったかしら?」
こんな方式なんて、一生使わないと思っていたりのは、後悔する。
生きていく中で、足し算、引き算、掛け算、割り算さえ解っていれば、生きていける。
円周率なんて、どこで使うのよ!
そう思っていたのだが・・。
ペラペラめくっていると、ちゃんと書いてあった。
時間✖️速さ=距離。
距離➗時間=速さ。
距離➗速さ=時間。
「そうなると、ここで万歩計がでてきたのは、間違いではないということね」
出てくるのが遅かったけどと、心の中で再度ツッコミながら、りのは考える。
「この万歩計で歩いた距離が解るとして、時間は時計がないから無理。あれ?速さってどうやって解るのかしら?」
「その方式で求めるんじゃないのか?」
「そ、そうよね!何々。速さは距離➗時間ね」
「無理だな」
「ふ、ふ、ふ。私にいい考えがあるわ」
両腕を組み、ニヤニヤ笑っていたりのは、そういうと、いきなり地面に寝転がった。
「ほ、ほら、アリア!早く線を引いて!」
足元を指さすりのに、ついにおかしくなってしまったのかと、心配になるアリア。
りのの、かかと部分に線を引き、りのは頭の部分に、線を引いた。
訳が解らないといった表情をしているアリアに、
ドヤ顔全開のりの。
超ドヤ顔で、りのは語りだした。
「私の身長が155cm。んで、この線の端から端まで3歩でたどり着く」
「155には見えんがそれで?」
「まぁまぁ。慌てない、慌てない。つまり、身長をmにすれば、1.55m。万歩計で、3000歩あるけば、1550m。ここまでは問題ないわね?」
「問題・・ない・・のかのぉ」
「30歩あるくのに、10秒かかったとしたら、3000歩あるけば、1000秒かかる。つまり、1550➗1000=1.55が速さなのよ!」
グッと、握り拳を握るりの。
そんなりのに対し、アリアはため息をついた。
「よく解らんし、あってるのかもわからん。それで?何が言いたいのじゃ」
「え?と、特には・・アレ?」
アリアに指摘され、首をかしげるりの。
言われてみれば、何故こんな事をしているのだろうか。
「はぁー。ほら!行くぞ!」
「ちょ、ちょっと今、こいつ馬鹿だろうって思ったでしょ!!」
「思っとらん、思っとらん。可哀想なヤツだと、思っただけじゃ」
「そ、そっちの方が、傷つくんですけど!?」
深いため息を吐くアリアに、涙目になるりの。
すい〜っと先に行くアリアを、急ぎ足で追いかけるのであった。
【ちなみに、速さは時速、分速、秒速とわかれており、りのが言っていたのは、秒速である】
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どれくらい歩いただろう。
「ハァ、ハァ。ね、ねぇアリア。まだかな」
「さっきも聞いたぞ」
「デ、デジャヴってやつ?」
「いや、ワシが寝てないから、違うじゃろ」
「やっぱり、寝てたんじゃん」
先ほどより、だいぶ歩いたはずであるが、まだ森を抜ける事ができないでいた。
「戻る体力なんてないわよ」
ゴン太やモッキーが待つ、牛小屋に帰る事を考えるが、無理だと判断するりの。
体力ではなく、気力が持たないのだ。
もう少しでつくと考えながら歩くのと、もうダメだから引き返そうと、考えながら歩くのでは、歩くペースもモチベーションも変わる。
「そ、それに・・ここで見つけなかったら・・私は・・」
引き返したとして、運よく牛小屋までたどり着けたとして、次の日に再度、森を抜けようと考えられるだろうか?
無論、いつかは引き返さないといけないのだが、手ぶらで引き返すのと、手土産を持って引き返すのとでは、意味が変わってくる。
「が、頑張れりの!」
さすがのアリアも心配し、声をかけた。
ここでもし、りのが倒れてしまったら、アリアでは助けられない。
妖精のアリアでは、りのを持ち上げられない。
「ア、アリア。あ、後、どれくらい・・かな」
「も、もうすぐじゃ!ワシには解る!だから、もう少し、もう少し頑張るのじゃ!」
先ほどと同じ質問をするりの。
しかし、今度はりのを励ます為、アリアは嘘をついた。
アリアには解る事と解らない事がある。
当然、りのも同じだ。
「も・・う・・・少しか」
「しゃ、喋るな!疲れるじゃろ?もう少しだから頑張れ!」
アリアは再度、りのを励ました。
あぁ・・そうだった。
応援は力をくれる魔法の言葉だ。
頑張れって言葉で、今までどれだけ救われたか。
りのは、近くに生えていた、きのこ草の茎の部分を拾い、杖がわりにする。
少しずつ、少しずつ、ゆっくり進むりの。
そして、遂に、森を抜けるのであった。
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