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おうこく!  作者: 伊達 虎浩
22/33

第2章3 森の外 上

『登場人物』

 水瀬 りの

 現役高校生アイドル。不運な事故にあって死んでしまったが、神さまが半分生き返らせてくれた。

 生き返る為には、何もない荒野に国を作る事である。

 アリア

 りのの手助けをする為、神さまからいただいた妖精。

 1日3回まで、お助けアイテムをだしてくれる。


【本編】


 りのは緊張していた。


「だ、大丈夫・・だよね?」


 神さまからいただいた魔法のおかげで、色々な人?動物?と話せるようになったりの。

 毎日通っている森ではあるのだが、話せるようになってから、初めての森である。

 ゴン太や、モッキーのように、何かの生まれ変わりが、この森の中にいるかもしれないと思うと、緊張してしまうのも、仕方がなかった。


「うむ。大丈夫じゃ」


「一応聞くけど、その根拠は?」


「ない!」


「・・・・」


 りのの頭の上で、自信満々に告げるアリアであるが、相変わらずの調子であった。

 しかし、少し緊張がほぐれたりの。

 いつもと変わらないアリアを見て、少し安心したからである。


 右手を胸にあて、軽く深呼吸し、りのは森の中へと入っていく。


 ーーーーーーーーーーーー


 いつもと同じ景色なのに、いつもと違ってみえるのは何故だろうか。

 りのは、一歩一歩慎重になりながら、森を歩いて行く。


「気持ちの問題なのかしら」


 病は気からという言葉があるように、普段とは何も変わらない事や、風景が違って見えた事がないだろうか?

 例えば、落ち込んだ時に見る白い花と、ハイテンションで見る白い花とでは違って見える。


 要は受け取り方の問題ではないだろうか。


 りのはいつも通りの森にいる。

 しかし、昨日とは違って言語が解るりの。

 いつものようにはいかなかった。


「お嬢ちゃん。迷子かい?」


「キャッ!?」


「おやおや。驚かせてしまったね。すまない」


 森の中を歩いていたりのは、右から急に声をかけられた為、驚いて思わず体が仰け反ってしまう。

 バッっと、飛び退いて声がする方に顔を向けると、他の木とは違う色をした大きな木が、りのに向かって喋りかけてきたようだ。


「あっ、いえ。こちらこそすいません」


 驚かせてすまないと謝罪する木に、りのも少し大げさだったかなと思い、頭を下げる。

(こんな木・・あったかしら)

 いつも通りの森で、いつも通りの道を歩いていたりの。

 当然、いつも通りなのだから、何かが変わっていれば、それはいつも通りではない。


「それで、迷子にでもなったのかい。お嬢ちゃん」


「あっ、いえ。迷子ではないのですが・・あの。失礼な事をお聞きしますが、もしかしてお爺さんも、生まれ変わりか何か・・ですか?」


 最後の方で少し歯切れが悪くなるりの。

 声で、ご年配の方だと思い、お爺さんと言ったが、違ったらマズイ。

 先に年齢から聞くべきだったかと思い、歯切れが悪くなってしまった。


「ほ、ほ、ほ。お嬢ちゃん、いい事を教えてあげよう。なぁに、年寄りの戯言よ」


「いい事・・ですか?」


 最後の年寄りと言う言葉で、お爺さんと言ったのは、大丈夫だったと安心するりの。

 いい事とは何なのだろうかと、首をチョコンと傾けて、言葉を待った。


「言葉遣いだけが礼儀ではないよ」


「す、すいません」


 りのは慌てて頭を下げた。

 そんなりのを見て、お爺さんは嬉しそうに続けた。


「お嬢ちゃんは素直じゃの。どれ、先ほどの質問じゃが、生まれ変わりではない」


「そ、そうなんですか」


 生まれ変わりの人が集まる世界なのかと思っていたりのにとって、これは貴重な情報であった。


「お嬢ちゃん。生まれ変わりの人ばかりだとしたらどうだね?」


 お爺さんに質問されたりのは考える。

 そもそも生まれ変われたとした場合、全員が生まれ変われるだろうか?


「気付いたようだね。お嬢ちゃん。天国と地獄を信じるかね?」


「はい。信じています」


 りのは即答する。

 実際に神様から聞いているということもあるが、神様に会う前からあると信じている。


「ふむ。では天国と地獄の違いは何だと思うかね?」


「違い・・ですか?」


 天国とは良いイメージであり、地獄とは悪いイメージである。

 しかし、何故そういうイメージなのかを聞かれると、答えに詰まってしまう。

 りのが困っていると判断したお爺さんは、再度質問する。


「ほほ。質問を変えようかね。では、どちらにも行けない場合はどうかな?」


「それじゃぁ・・生まれ変わりって」


 りのは驚きを隠せなかった。

 生まれ変わりがあったらいいなっと思っていたりの。

 しかし、生まれ変わりの理由が、どっちにも行けない為なのだとしたら・・。


「お嬢ちゃん。もし天国に行けるとした場合、生まれ変わりたいと思うかね?」


「そ、それは・・思わないかもしれません」


 天国がどんな所なのかは解らない。

 しかし、いい所だと思っているし、いい所であってほしいと思っている。

 いい所に行けると解っていて、引き返す人がいるのだろうか?


「なら逆に、地獄行きの人を神様は生まれ変わらせると思うかね?」


「た、確かに・・」


 地獄に行く人は悪い事をした人であろう。

 悪い事をした人が生まれ変わった場合、また悪い事をするかもしれない。

 悪い事をしたのだから当然、反省しなくてはならない。

 反省させる為には、生き返らせる事はしないだろう。


「ま、待ってください。それじゃぁ・・私は・・」


 りのの顔色が変わる。

 もしかしたら自分は、この世界に生まれ変わっているのではないのかと思ったからだ。


「りの。それは無いから安心せい」


 アリアがりのの鼻先をつつきながらそう告げてきた。


「ほほ。妖精さんの言う通りじゃよ」


「・・どうしてそう言い切れるんですか?」


「エロジジィの言ったことを思い出してみろ・・ジジィは言っておったじゃろ?本来あそこで、死ぬべき所じゃなかったと」


「お嬢ちゃんからは精気を感じるからのう」


 アリアとお爺さんにそう言われて、少し安心するりの。

 神様はこう言った。

 本来地獄行きだったのだが、いいことをして、死んでしまったりのに、いい事をしたのに地獄に行けと言うのは間違っていると。


 この荒野に国を作れば、生き返らせてあげると。


 つまりどういう事なのかと言うと、生まれ変わりではなく、よみがえらせるという事だ。


「それじゃあ、お爺さんは何なんですか?」


「ワシか?この森の長じゃよ」


「・・・え?・・ええええ!」


 今日いちの衝撃であった。

 りのは慌ててお辞儀を繰り返す。


「あ、あの。いつもお世話になっております」


 温泉だったり、湖だったり、食べ物だったりと、りのはこの森に大変お世話になっている為、深々とお辞儀をする。


「おぉ!ジジィ偉い奴だったのか」


「こ、コラ!アリア」


「ほ、ほ、ほ。妖精さんはどうやらおてんばさんのようじゃの」


「・・すいません」


 少し頬を赤らめ、りのは謝罪する。

 何だか、アリアの保護者になった気分であった。


「さて、お嬢ちゃん。生まれ変わるのは、未練がある人じゃよ」


「未練・・ですか?」


「左様。未練もしくは使命じゃな」


 お爺さんは続ける。

 そもそも人が生まれるのには意味がある。

 しかし、その使命を果たせずに死んでしまった人が、生まれ変わりを果たして、また使命をもらう。


 例えば、明日、交通事故に巻き込まれ、死んでしまったとしよう。

 特に悪い事もいい事もしていない。

 神さまはそんな人達に対し、生まれ変わりを提案するのだという。

 しかし、生まれ変わるには条件がいくつかあるのだそうだ。


「それは何なんですか?」


「ふむ。それはワシにも解らん」


「アリアは?何か知ってる?」


「知らん。まぁ、神のみぞ知るということじゃな」


 今度ゴン太やモッキーに聞いてみようか・・。

 嫌、聞けない。

 お爺さんから聞かされた話しだと、未練があるからだと言っていた。

 どんな未練なのかを聞くということが、躊躇われてしまう。

 それにもし未練がなくなってしまったら?


 いなくなってしまうかもしれない。


 りのはうつむいた。


 悲しい表情を見せない為に。


「お嬢ちゃん。もしも、誰かに助けを求められたら助けてあげなさい」


「それは・・もちろん・・です」


 質問の意図が分からず、りのは首をかしげながら答えた。


「それによって、いなくなってしまうは、いい事じゃよ」


「!?」


 お爺さんは、りのが何を考えていたのかがわかっていたようで、りのにアドバイスをする。


 未練がある人に対し、積極的に助けるのではなく、助けてと言われたら助ければいいんだと。


「そうじゃな。ジジィはいい事を言うな」


「もう!アリア!」


「ほ、ほ、ほ。気にせんで良い。久しぶりに人と喋れて満足じゃわい。時にお嬢ちゃん。名は何と申す」


「水瀬りのです」


「良い名じゃ。また来ると良い」


「はい。ありがとうございます」


 りのはぺこりと頭を下げ、その場を後にする。

 この世界の謎が少しだが、解った気がした。


 今ではない、遠くない未来にでも、ゴン太とモッキーに話しをしようと心に誓いながら、りのは歩きだした。


 次回第2章3 森の外 中

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