第2章2 新世界 中
神さまから、この国の言語を授けると言われたりの。
これからどうしようかと考えていたりのは、アリアに相談をしていたのだが、何処からか若い男の声が聞こえてくる。
何処からか?それは森から帰ってきた猿、モッキーであった。
りのとアリアは驚き、モッキーから離れるように走り去るのだったが、直ぐに追いつかれてしまった。
「オィオィりのっち。かけっこで俺に勝とうなんて200バナナ早いZE」
「ハァ、ハァ。そ、その200バナナが解らないけど、ハァ、ハァ。確かにそうね」
人間と猿がかけっこをしたら、猿が勝つであろう。
オリンピック選手なら勝てるかもしれないが、りのはアイドルであり選手ではない。
※余談だが調べてみた所、猿の速さは50mを7秒ぐらいらしい。
そう考えると勝てそうな気がするが、女子高校生の平均は8.9男子高校生で7.5ぐらいなので、女子高生では勝てないだろう。
ちなみに、1位のチーターは100mを3秒台と書かれている記事を見つけたが、もしそれが本当ならば50mは単純に半分の1.5秒台なのだろうか?
一番驚いたのは、ゾウがランクインしていた事である。
第20位で100mを9秒台で走るらしい。
あっ本編に戻ります笑
りのは両手を膝につき、下を向いて息を整える。
だが、日頃の畑仕事のおかげか、ダンスレッスンの成果か、直ぐに息は整った。
「ねぇ、モッキー?喋って・・るわよね?」
りのは、自分の気のせいでない事を確認する。
りのに質問されたモッキーは両手をあげる、いわゆるお手上げポーズでりのに答えた。
「オィオィりのっちよ。俺はずっと喋ってたZE」
そう言われるが、ウキーとかキーとかしか聞き取れていなかったりのは、ようやく神さまの言葉の意味を理解する。
人間ではない。
会ってみれば解る。
神さまからいただいたこの国の言語とは、いわゆるドラえもんのあのコンニャク的なヤツなのだろうと、りのは自分に言い聞かせた。
(妖精がいる世界だもんね)
妖精が喋って、猿が喋るのはおかしいのか?
そう自分自身に問いかければ、答えはノーである。
「オイ!モッキー!何処で何してたんだ」
アリアはりののつむじの辺りから、モッキーに話しかけた。
若干攻撃的に聞こえてしまう言い方だったのだが、モッキーは気にした様子もなく、アリアに答えた。
「何って森に行ってバナナを取りに行ってたんだYO!しかし、ちょっとマズイ事になってたんだZE」
「も、森で何かあったの!?」
モッキーの言葉を聞いて、りのは驚き不安になった。
森に異変が起きたとなれば、りのにとっては一大事である。
水や食料の調達。
温泉など、森にはだいぶと言うかかなりお世話になっている。
今後入れなくなってしまったら、死活問題なのだ。
りのが心配そうに見つめる中、モッキーは落ち込んだ様子で、りのに話しかけた。
「聞いてくれるか?りのっちyo」
「う、うん」
最後の語尾が弱々しい。
これは只事ではないと、りのは姿勢を正した。
「実はな。ロザリーが結婚しやがったんだze」
「そうなんだぁ・・・え?」
りのは一瞬落ちこんで顔を下げたのだが、直ぐに顔をあげ、モッキーを見た。
「聞いてなかったのかyoだからな・・」
「いやいやいや!聞いてたわよ。ロザリーが結婚したんでしょ?」
結婚したらマズイのだろうか?
りのは不思議そうな顔でモッキーを見る。
「そうなんだYO!畜生俺っちが幸せにしてやるハズだったのにyo」
「・・・あっそう」
地面に肩肘をつき、肩肘に顔をつけて、右手で地面を叩きながら、ロザリー!!っと叫ぶ猿を見ながら、りのはホッと胸を撫で下ろした。
要するに好きだった子、嫌、猿が誰かと結婚したらしい。
とりあえず慰めた方がいいのだろうか?
りのが困っていると、モッキーが何やら呟いた。
「せっかく見たくないから、りのっちについて行くって決めたのにyo何も今日じゃなくてもいいじゃねぇかyo」
なるほど。
ようやく謎が解けた。
猿山連合国から何故かついてきた猿モッキー。
何でついて来たのか解らなかったりのであったが、どうやら元カノが結婚するのを見たくなかった為ついて来たらしい。
「ま、まぁ元気だしなよ」
「そ、そうじゃ。他にもいい子がおるハズじゃ」
流石にアリアも気の毒に感じたのか、モッキーを慰める。
「オィオィりのっち、アリアっちよ!ロザリーはな、ロザリーなんだYO!他なんてあるのかYO」
そう言われればその通りなのだが、他に何て答えを返せばいいのかが解らない。
「そ、そのロザリーとは、元々付き合っていたの?」
りのはとりあえず、ロザリーとの関係を知る事にした。
それが解らない事には、かける言葉が見つからない。
「いや。ずっと片思いだったさ・・」
「告白すれば良かったじゃないか」
「オィオィアリアっちYO。俺っちにそんな度胸があると思うのかYO」
知らんがな。
りのとアリアの気持ちが、一つになった瞬間であった。
「とりあえず・・森の中に異変はなかったのよね?」
「異変だらけだZE」
「・・ロザリー以外でよ」
バッっと飛びついて来そうなモッキーを、右手で制しながら、りのはモッキーの抱きつきを阻止する。
「どうしたんだyoりのっち?この前と態度が違うじゃねぇかyo」
「それは・・アレよ」
以前は動物、嫌、ペット的に思っていたりのは、抱きしめたり、お風呂に入ったりしていたが、言葉が解る今、何故かダメな気がしてならない。
モッキーは猿とはいえ、男の子の声からして、オスだろう。
アイドルとしての職業病的なものなのかもしれない。
「オィオィりのっちYO。全裸ダンスしあった中じゃねぇかyo」
「・・・!?」
ピキっとりのの何かが響く音がした。
固まるりの。
「忘れたのかyoホラ右手を腰にあて・・てんべ」
「イイ?次その事を喋ったらりの帝国から追放するわよ?」
右手でモッキーの口元を塞ぎ、笑顔で注意するりの。
笑顔ほど怖いものはない。
モッキーだけではなく、アリアまでもが、りのの迫力に圧倒されていた。
コクコクうなずくモッキーを見たりのは、右手を離し、後悔する羽目になる。
全裸ダンスもそうだが、全裸を猿とはいえ、男の子に見られてしまった。
パパラにもし、ネタ提供されたらどうしよう。
アイドル生命が、終わってしまうかもしれない。
両手を地面について落ち込むりの。
アイドル戦国時代と呼ばれる現在、スキャンダルは大きな意味を持っている。
人気の低迷だけならまだいい。
芸能界から追放される何て事も、珍しい話しではない。
ロザリーと地面を叩く猿モッキーと、私のバカバカと、地面を叩くりのを、アリアは遠い目で見つめていた時であった。
「やれやれ全く。騒がしすぎて寝られないわよ」
馬小屋がパカっと開かれ、男の声が聞こえてきた。
「ちょっとアンタ達。騒ぐならもう少し向こうでやりなさい」
現れたのは言うまでもない。
ゴン太であった。
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