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おうこく!  作者: 伊達 虎浩
17/33

第2章1 神さまの訪問

『登場人物』

 水瀬 りの

 現役高校生アイドル。不運な事故にあって死んでしまったが、神さまが半分生き返らせてくれた。

 生き返る為には、何もない荒野に国を作る事である。

 アリア

 りのの手助けをする為、神さまからいただいた妖精。

 1日3回まで、お助けアイテムをだしてくれる。


【本編】


 りのが死んでから、丁度2週間が過ぎた日の事であった。

 いつものようにアリアを連れて、森に入って湖で顔を洗ったり、歯を磨いたりするりの。


 ひしゃくですくった水で、口をすすいでから、手桶に新しい水を組み直して、牛小屋に帰る。


 帰ったらスイカの種を植えた畑と、四花(よばな)に水をやり、体操をするのが、りのの朝の日課となっていた。


「ぷーらぷら。ぷーらぷら」


 干物妹うまるちゃんの、エンディング画面を脳内放送しながら、元気良く踊るりの。

 流石は現役アイドル。

 キレっキレな動きを見せるりの。

 体操のはずが、ダンスに見えてしまう。

 そんなりのをよそに、頭の上に乗っているアリアは、アクビをしながら、ぐでーんとしていた。


「アリアもほら!一緒に踊ろうよ!」


「ふにゃ。体操してたんじゃなかったのか?」


 目元を擦りながら、アリアは首を横にふり、りのの提案を断る。


 朝は大体こんな感じであった。

 朝からお昼までは、牛小屋から森までの穴を掘る作業に明け暮れ、お昼になれば、お昼ご飯と夜ご飯の確保に明け暮れる。


 基本的には、果物をとったり、魚を釣ったり、卵をとったり、食べられそうな草を探しまわったりし、温泉に入って牛小屋に帰る。


 夜になれば、焚き火をたいて、夜ご飯を食べて寝る。

 明日はどうしようか?

 明日はこうしようよ!

 アリアと話し合いながら、気づいたら眠ってしまっている。


 決して、楽しいわけではない。

 携帯もない、雑誌もない、大好きなアニメも見れない生活。

 しかし、寂しいと感じないのは、りのが一人ぼっちではないからだろう。

 生意気な妖精に、怠け者の牛、頼りになる大臣(さる)にりのは心の中で感謝し、そして今日が終わりを告げる。


 そんなある日の事であった。

 いつものように、アニソンを替え歌にしながら、くわを振って穴を掘っていると、どこからか声が聞こえてきた。


「お〜い。久しぶりじゃのぉ」


 どこかで聞いた声なのだが、姿が見当たらない。


「何?アリア?」


「私がこんな汚い声なわけないだろ」


「汚いとは何じゃ!!」『うわ!?』


 突然姿を現した人物を見て、りのとアリアが驚く。

 現れたのは、りのを半分生き返らせてくれた神さまであった。


 半分生き返らせてくれたというのは、実際りのは死んでしまったのだが、神さまのはからいで、何もない荒野に国を作れば、生き返らせてくれると、約束してくれた為である。


 りのは、異世界では生きていて、現実世界では植物状態になっている。

 国を作れば、現実世界に返してくれるという意味だろうと、勝手に解釈していた。


「お、お久しぶりです!神さま」


 相手は、自分の運命を握っている相手だ。

 なるべく失礼のないようにと、丁寧にお辞儀をする。


「な、何しに来た!ジジィ」


 そんなりのの心配をよそに、アリアは失礼な態度で接している。

 よりにもよって、自分(りの)の頭の上で、失礼な態度をとるアリアに、イラッとするりの。


(私が、生き返れるかどうかがかかっているのよ)


 解ってる?と目で合図を送りたいが、アリアはりのの頭の上だ。

 丁度、つむじの部分から、ベーっとするアリア。

 しかしりのの心配は、杞憂におわる。


「相変わらずのおてんばぶりじゃのうアリア」


 白く長い髭をさすりながら神さまは、りのの顔の前に降りてきた。

 初めて見た時は、ラジコンのオモチャか何かと勘違いしてしまったが、ちゃんと見ると筋斗雲だとわかる。


「・・か、神さま。失礼を存じ上げます。何をしに来られたのですか?」


「く〜。無理をせんでよい。お主、国語が苦手であろう。馬鹿がバレるわい」


 しに来られたではなく、なさりに来られたが正しい使い方であり、りのは失礼のないようにと、敬語を使ったつもりだったが、どうやら違ったらしい。


「ふむ。りのよ。アレから2週間経つがどうじゃ?何か困ったりしておるか?」


 この質問に、りのはホッと胸を撫で下ろした。

 神さまがもし視察にきたとか、テストをしに来たとか言い出したら、間違いなく不合格で地獄行きである。


「どうって言われても、困っているとしか言えないです」


 堅苦しい言葉をやめ、りのは正直な気持ちを打ち明けた。

 相手は神さまだ。

 嘘をついてもバレるだろう。

 しかしそこが問題ではない。

 神さまに嘘をつく行為が、駄目というより罰当たりな気がして、りのは正直に話す事にした。


「何に困っているのじゃ?」


「そりゃぁ色々です。お米かパンが食べたいですし、夜は暗くて寝る事しかできません」


 りのはこれまでの事を、神さまに話した。

 羽の生えた蛇に襲われたり、猿に襲われそうになったり、変な草に会ったりと色々だ。

 りのの話しを一通り聞いた神さまは、りのにたずねる。


「ふむ。少しは大変な思いを体験できたようじゃの」


 少しじゃないです!とりのは言いかけたが、言う前に神さまが続ける。


「ここでの暮らしはどうじゃ?」


 さっきと同じような質問に戸惑うりの。


「現実世界なんかより、こっちの方がいいんじゃないかのぅ?」


「それは絶対にないです」


「ホッホホ。その気持ちが大事じゃ。忘れるでないぞ」


 人は慣れていく生き物である。

 それはいい意味でもあるし、悪い意味でもある。

 最初は否定していても、それが当たり前になってくると、否定から賛成に変わってしまう。


 諦めたとかではない。

 当たり前の環境が、否定している自分がおかしいのかと、思わせる。


 神さまは諦めるなと、念を押してくれているのだ。

 りのはハイ!と返事をする。

 そんな二人のやりとりを見ていたアリアが、声をかける。


「そんな事より何しにきたジジィ」


「ちょっとアリア!神さまに何て失礼な事を言うの」


 流石に黙っていられない。

 自分の運命を握っている神さまに対して、その態度は何だと、りのは怒った。


「りのは騙されておるだけじゃ!そのジジィはのぞきの常習犯じゃぞ!」


「う、嘘ですよね?神さま・・」


 自分の運命を握っている人が、のぞきなどしないし、神さまがそんな事をするはずがないと、りのは神さまを見た。


「そんな事はせんわい。ワシは、下界の様子をうかがっておるだけじゃ」


「ほら!みなさい!神さまがそんな犯罪を犯すはずがないじゃない!」


「女風呂の様子をうかがってどうするのだ?」


「・・・・」


 少しの間、流れる沈黙。


 りのの目は軽蔑の目へと変わっていく。


「た、たまたまじゃ!たまたまのぞいたらお風呂だっただけじゃわい」


「エロジジィ!早く帰れ」


 ベーっとするアリア。

 あまり変な事しないで!と考えるが、同じ女性としては、アリアを援護するべきなのだろう。

 しかしそれでも、相手は神さまだ。

 りのは何も言わず我慢する。


「りの気をつけろ!エロジジィにのぞかれていたかもしれんぞ」


「え?」


 思い返せば、温泉に入る時は全裸だ。

 どうせ誰も見ていないんだからと、全裸で湖に飛び込んだりもした。

 全裸で、謎のダンスの開発をしたりして、遊んだりもした。

 それはマズイ。

 私は現役アイドルであり、トップアイドルでもある。

 のぞかれてもおかしくない立場にいる。

 りのは、自分の胸を隠すようにしながら、神さまから距離をとったのだが、神さまから衝撃発言が飛び出る。


「そんなペチャパイに興味などないわい」


『なんですって!!』


 りのとアリアがハモる。

 神さまがのぞいていなかった事は良かった。

 しかし、女性として譲れないものがあるのだ。


「ふむ。そんな事より、りのよ。大事な知らせをしにワシは来たのじゃ」


「大事な事?」「ごまかされるなりの」


 そんな二人のやり取りをよそに、神さまは続ける。


「りのよ。国は作れそうかの?」


「・・・作ります。りの帝国は必ず完成させます」


 本当は作れませんと言いたい。

 しかし、作らないと生き返れないのだ。


「りの帝国のぉ・・ふむ。りのよ。自分なりに頑張ってはいるみたいじゃがこのままでは作れんぞ」


「・・つ、作れない・・ですか」


「勘違いするでない。国は誰でも作れるものじゃ」


 りのの表情を見た神さまは、りのの頭を杖で軽く小突き、 そんな事を言ってきた。

 これは以前、アリアに教わった事でもある。


「どういう意味ですか?」


 どういう()ではなく、どういう()()なのかをたずねるりの。


「ふむ。りの帝国はもうできておる。しかし、このままでは地獄行きになってしまうじゃろう」


 神さまはそういいながら、杖を畑や四花に向ける。

 それは、りのが自分なりに考え、アリアのお助けアイテムや知恵をかりて作った物である。


 りのは何故地獄行きになるのかが解らず、神さまの次の言葉を待っていた。


「りのよ。国とはなんじゃと思うておる?」


 この言葉を聞いたりのは、固まってしまった。

 国とは何か?

 ちゃんと考えた事など、もちろんない。

 正確にいえば、国を作れと言われて考えたが、それは違う意味で考えていた事であり、神さまが今聞いているのは違う意味だろうと、りのは理解した。


「・・国とは、人ではないでしょうか」


 自信がある答えではなかった。

 神さまとアリアから向けられる目。


「ふむ。何故そう思う?」


 りのは、自分の考えを正直に話した。

 人は一人では生きていけない。

 それを死んでからというもの、毎日痛感させられる。

 アリアがいなければ、きっと自分は・・。


「なんじゃその目は?バナナはやらんぞ」


「い、いらないわよ」


 アリアと目が合ってつい、いつものように返してしまう。

 りのは小さく深呼吸して、神さまに向き合った。


「何かをやるにしても、一人では絶対にできません」


 りのは自信たっぷりに宣言する。


「ホッホホ。それに気づけただけでも大したものじゃわい。最近の若い者は、すぐ誰かに頼ったりする癖がある。しかも頼ってばかりのくせに、何でも自分でできると思うておるじゃろ」


 そう言われてりのは、何も返せなかった。

 思い当たる節がたしかにあったからだ。

 神さまは嬉しそうに笑い、りのに向けて杖をふる。


「よいかりの。今、この世界の言葉をそなたに授けた。この世界で人を集めるのじゃ」


「ひ、人がいるんですか!!」


 それが本当なら、今度から全裸ダンスは封印しなければならない。

 いゃ、それよりも、人がいるんだったら会っておきたい。

 りのはソワソワしだした。


「人ではないぞ?まぁ会ってみれば解るわい」


「か、神さま!何処に行かれるんですか!」


 神さまは、りのの頭上を高く飛んでいく。


「暴れん坊黄門がはじまってしまうのじゃ。頑張るがよい」


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 聞きたい事が山ほどある。

 両親の事、ファンの事、りえの事。


 神さまは突然やって来て、突然去っていく。

 この時りのは、いつかアリアもそうなってしまうのではないだろうかと、心の中がざわついてしまっていた。


何故このタイミングで、そんな事を想像してしまったのだろうか。


 いつかがこないでほしい。


 バナナを食べる小さな妖精を見ながら、りのは心の中で祈るのであった。


 次回第2章2 新世界 上

さて、いかがだったでしょうか?

前回も触れましたが、第1章では、りのとアリアの性格や、普段何気ない日常の中で、どれだけ楽な思いを我々がしているのか。

そんな感じでお届けしました。

第2章から、本格的に冒険がはじまります。

どうぞご期待下さい。

では次回もお楽しみに。

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