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94.ティラノサウルスズ


”テス、テス、聞こえるシン君、サランさん”

「感度良好ですブランさん」

「聞こえてるよ勇者さん」

”いやあ凄いことになってるよ”


 うん、わかります。

 試射に使った分の弾を補給のため、弾倉に弾を一発詰め直してますが、ちょっとイヤープロテクターを外してみたところ物凄い歓声、ブーイングがこちらまで聞こえて来ます。ちょうど勇者さんがこちらに背中を向けています。

 僕から攻撃しやすいようにしてくれているんですね。


”俺は王国のたくらみにより、不正を行った上で卑怯な手段でミドルドラゴンを倒し、勇者キーリスを殺害し、その栄誉をかすめ取ったニセの勇者なんだとさ”


「はあ……。最悪ですね」


”ここにその罪を罰し、処刑を行うんだって”

「いきなり死刑ですか。何様のつもりですかねえ」


”正勇者教会の特別の温情により、ニセの勇者に魔王と戦わせる機会を与える。次の人生で己の罪を悔い改めるがよいだとさ”

「自分たちの使役してるのが魔王って認めちゃっていいんですかね?」

”魔王をも使役するわれらの術思い知れってさ。その辺の判断も出来なくなってるほどおバカなのかもしれないな。はあ……”



 闘技場リングの奥の大扉が開き……。

 のっしのっしという感じで出てきたのは……。


 ティラノサウルスが二頭!!


”えええええ――! 聞いてないよ!”

「なんで魔王が二頭いるんでしょうかねえ」

”そこじゃなくて――――! アハハハハハ!”


 もう笑うしかないですか勇者さん。


 二頭とも大口開けて威嚇します。

 スコープのズームの倍率を変えてティラノサウルスの全体が余裕をもって視界以内に入るように調整します。


 普通だったらね、一度自分のお気に入りの倍率を見つけたらもうスコープの倍率は操作しません。ずーっと同じ倍率のままなんです。ズームリングを回したらそれだけで照準ズレちゃうってヘボいスコープは安物にいっぱいあるんです。

 中でレンズが移動してるんですからね、その時微妙にズレるんです。

 同様に、ピントリングを回すとズレるスコープもあります。

「あれーなんでスコープずれてんだ?」としょっちゅうターレットをいじってる方、ズーミングを多用してはいませんか?

 ズームは触らないか、銃より高いスコープ買うかしましょうよ。

 僕のスコープは銃より高いですから。マーチですから。日本製ですから!


 ティラノサウルス、首輪つけてますね。あれが使役の魔法がかかってるなにかなんでしょうか。トリケラトプスにはついていませんでした。新しく開発された魔法かなにかなんでしょうか。

「で、どうします」

”いやいやいやいや無理無理無理無理! 二頭は無理! たすけてえシンくうん!”

 半笑いで言っても説得力が無いですよブランさん……。


「どっちからにします?」

”右っ! 右お願い!”

「わかりました。一応勇者様の魔法ってことにしますので適当になにかぶつけてくれますか?」

”了解!”


 ごおおん。

 ドラが鳴って試合開始!

 僕はイヤープロテクターをすぐに装着してボルトを操作し、第一弾を装填して構え。

 弾頭はフルメタルジャケットです。

 フルメタルジャケットじゃ貫通しちゃうんじゃないかって?

 あんなデカいやつどこ撃ったって貫通するわけ無いじゃないですか。遠慮なしでいかせていただきます。


 勇者ブランバーシュさん、まだ剣は抜かず両手で火球作って右、左と順に順にとぶつけてます。

「サラン右の口見てて」

 僕は右のティラノに照準して、口を開くタイミングを狙って……。


 ラプアマグナムの弾速は秒速900mちょい、520mでのタイムラグは0.6秒!


 ドッゴォオオオオ――――――――ン!!


 三脚が衝撃で振動し、マズルブレーキが吹き上げ、爆圧が僕の体にも感じられる!

 物凄い反動ですが、三脚とマシンレストとマズルブレーキのおかげでだいぶ軽減されています。もうすでに数多く撃ってますのでね、ビビりませんよ。

 すぐにボルトを操作します! でっかい薬莢が飛びます!


「当たったと思う。口閉じてのけぞったから」

 サランの報告。まあ口の中じゃ、わかんないよね。

”口の中狙ってんのお!”

「効くはずですよ? 口より高く飛び跳ねたりしないでくださいね。ブランさんに当たります」

”やめてよ――――!”


 リング端まで追い詰められましたブランさん、右のティラノが大口開けてますが口の中からダラダラ血流してます。

 体を貫く謎の激痛に棒立ち状態といいますか。

 そこをブランさん右ティラノの足元を走り抜け、振り返りざま抜刀して足に剣を叩きつけました!

 右ティラノ、大口開けて咆哮します。

 その口の中にもう一発!


 ドッゴォオオオオ――――――――ン!!!


「今度はまともに入ったね!」

「なんでわかんの?」

「血が飛ばなかったから」

 なるほど、どこにもかすらず体の奥深く入っていったってことですか。


”腱も斬ったぞ!”


 今ブランさんが斬ったのはまさにティラノのアキレス腱!

右ティラノ、どたっと倒れます!

 さすがバール剣!


 ティラノサウルスは体を水平にして二本足で歩きます。

 そのティラノの正面から、大口開けているところにフルメタルジャケットのラプア・マグナムを撃ち込むとどうなるか。

 弾丸は体の奥深く内臓を引きちぎりながらエネルギーを失って止まるまで前進し続けるんです。二発の弾丸により内臓がズタズタです。

 即死はさせられないかもしれませんが、内臓からの大量出血死はもう100%避けられないでしょう。致命傷です。

 倒れてもがきながら大量に吐血してます。


”ひゃあ――――!”

 もう一匹のティラノサウルスの追跡を受けてブランさんがリングの端から端まで走ります。そりゃあ逃げるよね。今は僕にティラノの背中が見えてます。

 人間ワザとも思えないほどのスピードでいきなり方向を変えたブランさん、

 また走り抜けながらティラノの足を斬りつけます!


 大口開けて悲鳴を上げるティラノサウルス。

”ちょっと浅かったかっ。こいつらやっぱりなんか魔法かかってるううう!”

「そいつはどうします?」

”ん、自分でやってみる。ありがとね”


 手前に走って戻ってきたブランさん、振り返ってティラノと対峙。

 向こう端まで行ったティラノ、振り返って大口開けて威嚇します。

 ティラノサウルスは口を開けるか閉じるかのアクションしかありませんね……。

 しょうがないか。手があんなんですからね。


 倒れてるほうのティラノサウルスはこちらも大口開けて虫の息です。

 止め差しときますか。

 ……口の中、上あごの裏からだったら弾丸が脳に到達するかもしれません。

 弱点としてはピンポイント過ぎますが。


 ドッゴォオオオオ――――――――ン!!


 これもまともに当たったようです。ケイレンを始めました。


 口の中ばっかり撃ってるのはこれが勇者戦だからです。

 あとで死体を調べて弾痕があったらマズいでしょ? だから口の中に撃つんです。

 どんなに外皮が丈夫でも、口の中が弱点。生物に共通ですわ。


 倒れてるティラノサウルス、ぐねっぐねっと身をよじらせて悶絶しています。

 ほっとけば死ぬでしょう。口からの吐血が大変なことになってます。赤い小川になってリング外に滝のように流れ落ちています。


”ねえシン君”

「はい」

”あの首輪斬ったらどうなると思う?”

「まあ犬だったら喜んで逃げていくと思いますけど」

”だよね――――っ”


 ブランさん、剣をちゃきっと斜め後ろに向けて構えて、抜き打ちっぽいポーズです。

 両手で持ってますけど。

 両手剣をわざわざ片手で持ったりはしません。さすがです。

 両手剣を片手で抜き打ちして最速だの最強だの無いですわ。誰が言い出したんだか知りませんけど。


 どすどすと近づいてくるティラノサウルスが大口開けてブランさんに噛みつこうとしたところを、横っ飛びに避けて剣を振り抜きながらジャンプします。

 うまいっ!

 首輪が切れました!

 血が噴き出します。首も少し斬れたかな?


 ティラノサウルス、首を下げ……。


 今度は首を上げ、口を開いて咆哮します。

 天に向かって吠えるように。

 首筋から血をダラダラと落としながら吠えてます。

 まだ吠えてます。


 ずっと、天に向かって吠えまくってます。

 どうしたんでしょう?



 ティラノ、浅く斬られた足を引きずりながら、ブランさんに背を向けてリングの端まで行きました。勝手にリングを降りていきます。


 あの入ってきた大扉。もう閉じている大扉。

 あれに何度も体当たりしています。

 ドズンッ、ドズンッ。

 数回体当たりして扉が壊れました!

 なんか召喚士らしい人が大勢、場外からなにか魔法をかけまくってるように見えますけどまったく効いていませんね。

 ティラノ、扉の奥に行ってしまいました……。


 僕とサランは、イヤープロテクターをはずし、顔を見合わせます。

「……終わりかな?」


 ブランさん、ものすごいブーイング浴びてます。

”なんかうまくいったみたい”

 通信が入ります。

「では会場にご挨拶を」

”そうだね、忘れてた”


 スコープで見てると、剣を布でふき取って、鞘に納め、帽子を取って会場にお辞儀しております。

 右に、左に、前に、後ろに。


 優雅です。さすがは勇者です。


”ありゃりゃ、なんかおかしいぞ?”

 うわー、兵士たちがリングに上がってきましたよ!

 ゾンビ兵です!

 勇者さんを遠巻きに取り囲んでしまいました。

 なんとしても生かして帰すなってことですか。


”なんか納得いかない人がいるみたい。ちょっと相手してあげようか”

「お好きに。気が済んだら戻って来てくださいね」

”了解!”


「サラン、撤退準備」


”うわっ凄いよこの剣! ゾンビが一撃で倒れるんだけど!”


 そりゃあよかったですね。

 女神ナノテスさんの祝福がかかってますからねえ。


 マジックバッグを床に置いて口を開けます。

 そこに、マシンレストから外したレミントンM700ラプアマグナム、マシンレストを慎重に入れます。精密機械ですから。

 これこれ、これもやっとかないと。

 あわててラプアマグナムの巨大な空薬莢も拾い集めます。転がってるのは二発分。

 一発はまだ薬室(チャンバー)に入ったままです。三発しか撃ってないや。


 サランがスポッティングスコープがついたままの三脚を突っ込み、更に僕がパタンパタンとたたんだ三脚を突っ込んだところで、サランが慌てます。


「シン! 下からなにか登ってくる!」


 気付かれましたか。さすがにドカンドカンと音を立ててましたからねえ!


 サランが抜刀し、僕は残りの弾丸を全部マジックバックに放り込んでから、愛用しつづけたM870を引っ張り出し、更にバックショット弾を二箱、バッグから出して左右の大型ポケットに一箱ずつザラザラと流し込み、マジックバッグを消しました。

 スラッグ弾は5発一箱とか10発一箱なんですが、バックショットとかの散弾は25発一箱で売ってるんです。咄嗟に取り出すならこっちです!


 振り返って窓から遠くに見るとゾンビ兵の輪の中でブランさんが斬りまくってますね!

 さすがナノテスさんの祝福付きのバール剣です!


「ブランさんなんかこっちにも敵来てるみたいなんですけど!」

”えっそうなの、じゃ、戻るね!”


 シャキッシャキッシャキッっと僕がM870に弾込めしてるあいだに上ってきたゾンビ兵にサランが剣を叩き込みます!

 ガタガタガタガタ――――ッと後続を巻き込みながら階段を転がり落ちていきます。

 仲間の体を乗り越えながら、さらに階段を登ってくるゾンビ兵!

 僕はサランの横に並び、片膝ついてフォアエンドを一回引いて戻し、狙いをつけてその顔面にバックショットを叩き込む!


「うわあすげえ数!」

 五十人以上登って来てるんじゃないですかね!

 ドゴンッドゴンッドゴンッ!

 連射して片っ端から下に叩き落とします!


 数が数です、時間の問題かもしれません!

「来たよシン君!」

 僕の背後からブランさんが声をかけます。転移で飛んできたんですね!


「ブランさんジャンプできる?!」

「ちょっと待ってちょっと待って、ちょっとだけ時間稼いで!」


 そんなあ。


 ブランさん、なんか空間から瓶取り出してラッパ飲みしてます。

「なんですかあそれ!」

「ポーションだよ! 魔力無くなっちまったから補充だよ!」


 サランが剣を振り降ろして階段を上ってくるゾンビ兵を叩き落してます!

 僕の嫁さん怖ええ!


 僕もショットシェルを補充して、次々に撃ち込みます。大混乱です!


「よしっ二人とも俺につかまって!」


 引き返して僕が銃を握ったまま転んでブランさんの足にしがみつき、サランがブランさんに抱き着いたところで!


「いい……」


 いやそれどころじゃないでしょブランさん。


「あ、ゴメン。ジャンプ!」




 どてっ。



 僕らは、気が付いたら三人、草原にコケて寝転がってました。



 サランが真っ先に身を起こします。

 僕も。


「どこ? ここ」


 見回します。

 あー……。


 向こうに城壁が見えます。




 ラルトラン正教国の郊外です。

 もう大丈夫ぽいですね。



次回第十一章最終回「みんなツンデレ」

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