87.勇者の戦い方
勇者、ブランバーシュさん。
いきなりオークたちのド真ん中に飛び込んで……。
ずざざざざ――――!
コケました!
おいいいいいいい――――!!
たちまち取り囲まれ斧や剣を打ち込まれそうになる勇者様。
はいつくばって剣を振りまわしオークたちの足を斬るブランバーシュさん。
あぶな!
ドォ――――ン!!
カシャッシャキッ!
ドォ――――ン!!
カシャッシャキッ!
勇者様の援護のため次々オークを撃ち倒していく僕。
勇者さん、「クソッ! このヤロー!」とか叫びながら剣を弾きオークの腹を横殴りに斬り飛ばします。
危なっかしくて見ていられません。
オークが振り下ろした剣に、「うわあ!」と吹き飛ばされて倒れます。
そこへまたオークたちが攻撃するのですが、素早く転がってかわします。
どこかやられましたか!?
勇者さんに集まってるオークの後ろからさらにライフル弾を撃ち込みます!
ドォ――――ン!!
カシャッシャキッ!
立ち上がってオークの腹を切り裂いた勇者さん、フラフラです。
そこへ襲ってきたオークを振り向きざまに袈裟に斬り、その勢いでまた倒れます。
なんて弱い……。
いや、あんな大口叩いておきながらこの戦い方は無いわー。
あの闘技場での魅せる闘いっぷりはどこへ行ってしまったんです!
無様に倒れた勇者さんに斧が叩きつけられそうになりますが、それをなんとかかわして足で蹴り飛ばした後、オークの腹を横なぎに斬りつける勇者さん。
とにかく僕はその勇者さんを援護するため、次々に弾丸を撃ち込んでいきます。
三十匹はいたオークがもう残り十匹。
勇者さん、ぜえぜえ肩で息をしながら正面のオークに正対します。
ブンと剣を振ってきたオークをカウンターで斬りつけ、そのまま振り向いて背後のオークを逆袈裟に斬り上げました。
今の動きはすごかった!
でも剣を地面に立てて杖にしてハアハアいいながらへばってます。
その勇者さんを襲ってくるオークをさらにもう一匹射殺します。
残り七。
ドオ――――ン!!
勇者さんを狙う斧持ったオークをもう一匹射殺!
残り六!
勇者さん、たまらず祠の方に逃げ出します。
それを追うオーク。
そのオークをもう一匹射殺して……。
勇者さん、急にすくっと立って剣を正面に構え、僕に向かって親指を立てます。
え?
ずざ!
ブランバーシュさんが一瞬で五匹のオークの間を走り抜け、ひゅんと剣を振ります。
剣をゆっくりと横に払い、ハンカチーフを取り出して剣を拭いて納刀しました。
バタバタと内臓をまき散らしてオークたちが倒れます。
一度に五体も……。
ヤラセですか!
演技だったんですか!
なんだったんですあの弱そうな闘い方!
「……たいした男だねえ」
サランがつぶやきます。
勇者さんがこいこいと手招きします。
「気配なし。いこうかシン」
サランが立ち上がって、頷きました。
勇者って、すごいなあ……。
苦労してヒイヒイいいながら山を下りますと、三十体のオークの死体が散らばってて血だらけで凄惨ですね。
勇者ブランバーシュさん、ピンピンしております。
どこも切られていませんし、かすり傷一つありません。
「やあ、凄いねシン君。半分以上やられちゃったな。俺の負けだよ」
「いやあ、僕だけだったら半分以上逃げられちゃいましたよ。演技だったんですね」
「そうさ、あれだけわけわからない方法で仲間を倒されて、それでさらに俺みたいのが飛び込んできて暴れたらこいつら逃げるだろ。でも相手が弱そうで、もうちょっとで倒せそうなやつだったら、あいつらだって逃げずにかかってくる。一匹も逃さず全滅させるための作戦さ」
さすがは勇者です。今まで一人で闘い慣れているんですね。僕なんか足元にも及びません。
僕は山を下りてくるうちに銃を散弾銃のレミントンM870に持ち替えてます。
倒れてるオークのうち腹をやられたり斬られたりしてまだ生きてる奴の頭を一匹ずつバックショットで撃ち飛ばしていきます。
「そのガンも凄い……。それに用心深いなシン君は」
「倒れた敵は討たないのは騎士の心得かと思います。でも僕はハンターですから、死にそうに苦しんでる獲物はなるべく早く楽にしてやるのが作法なんですよ」
「なるほど……。勉強になるよ」
「ブランバーシュさん」
「ん?」
「これで僕の戦い方、僕の弱さはわかったと思います」
「……そうだね」
「僕は全く戦えません。弱いんです。サランに殴られただけで死にます」
「わたしゃそんなことしないよ!」
あっはっは。ごめんごめんサラン。
「ブランバーシュさんは別に僕がいなくてもこいつら全部倒せたでしょう。でも僕はこいつらの半分も倒せない。逃げられたら終わり、襲われたら終わり。反撃されたら死んじゃいます。パーティーメンバーにするのは諦めてください」
勇者さんが頷きます。
「俺だって君みたいに綺麗な嫁さんがいて、幸せな家庭持ってたら勇者なんてやらないさ。危ないことなんて一切やりたくない。サランさん、今までの失礼お詫びさせてくれ。君の旦那さんは最高だよ」
そういってブランバーシュさんが笑ってくれました。
「完敗です。さすがは勇者さん」
「いやあ、それほどでも」
意味が解ってくれたようですね。ブランバーシュさんが右手を出してくれます。
その手を掴んで、握手します。
「さ、早く村に戻りましょう。別動隊がそっち行ってるかもしれませんし、急いで村に報告もしないと」
「了解だ」
村に戻って、オークのことを報告すると直ちに村長が村に厳戒態勢を敷きました。男ども総出で村の周囲の監視をします。
倒したオークの死体三十体はそのまま放って置きです。そっちに人手を割けません。どうせオオカミどもが処分してくれるでしょう。
ブランバーシュさんが村に残ってくれまして、一緒に警戒してくれます。
安心です。
僕も村の中央の櫓に上って、銃を横に置いて双眼鏡で監視をします。
夜はかがり火を焚いて警戒。
サランと交代で。
一日経ちましたが、何事も無しです。
どうやらこれ以上の敵襲はなさそうです。
「しかし祠の前にあんな魔物が集まっていたとはな。これも魔王復活の前兆なのか」
いやそんなこと無いと思いますよブランバーシュさん?
考えすぎです。
あれはただエルフ村攻め込むのにちょうどいい休息場所ってだけですよきっと。
一応後でナノテスさんに聞いてみますけどね。
次回第十章最終回「勇者さんに謎の一勝」