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83.暴君竜


 ステンドグラスが破られた大聖堂、街の中央から大勢の人が悲鳴をあげながら一斉に逃げてくる。

 こんな非常事態に警備兵たちが連携した動きなどとれるわけもない。

 電話も無線も無いんですこの世界、正気に戻った一部兵が市民の避難誘導がせいぜいですか。

 建物の中に逃げ込んだり、建物と建物の間の狭い小道に逃げ込んだり、ティラノサウルスの周りにはだいぶ人がいなくなりました。

 逃げ遅れた人、倒れた人などを足で押さえつけては引きちぎって口に咥えてます。

 凄惨な光景です。


 頭がでかいです。全長12mはやっぱりありますね。

 城壁では正門から人が大勢逃げ出してます。

 街はかがり火が倒れ、火事になり始めています。

 その明かりに照らされて、ティラノ、立ち上がって見回していますね。


 咆哮したりしません。

 威嚇しなきゃならんほど強い相手がいるわけじゃないですし。

 さっきのごおお――――っていう声は、喉笛でしょうか。

 恐竜には声帯がありませんので、鳴くってことが無いんですねやっぱり。

 全身に羽毛はありません。大人だからでしょうか。


 子供の時は保温のため羽毛があったかもしれません。でも動物が大型化すると今度は内部にたまる熱を放熱しなければならなくなります。アフリカゾウの耳が大きいように。

 巨大化した動物には羽毛は不要でしょう。

 鳥は暇があれば自分の羽根の手入れをしてます。大型の鳥ほど首が長いのもそのためです。ティラノサウルスにそんなことできるわけがありません。全身ダチョウのように羽毛で覆われたティラノサウルス想像図とか見たことありますけどアレは無いです。


 身を低くして音を立てずにゆっくり歩いています。

 映画みたいにズシンズシンとは歩きません。

 歩くのがとても上手です。モデルウォークとでも言いますか、あの巨体で猫のようなしなやかさを感じます。

 体を上下させず、体を左右に振らず、足音をさせず、二本足でとても滑らかに歩きます。映画のイメージと全然違います。

 死体を食いあさってたやつの動きではありません。でっかくても、やっぱりハンターなんですね……。


 城壁から見て距離4~500mってとこでしょうか。

 もっと近づかないといけません。

「あんなのどうやって倒すの!? シン! 無理だって!」

「無理じゃない。弱点はちゃんとある」

「どんな!」

「体重」


 城壁の石段を下りて街に立ちます。

 そのまま裏通りを走ります。大勢の人がもう建物に逃げ込んでいますので案外、人はいませんね。

 大口径ライフルを両手で持って、裏通りの小道、建物と建物の間から顔を出してはティラノサウルスの位置を確認します。

 ゆっくり歩いてますね。走る必要が無いからです。

 ヤツにとっても知らない土地。むやみに走り回ることはしないようです。


「大丈夫だよサラン。あいつは狭い道には入れない。こうやって建物の間を移動していけば近づける」

「危ないと思ったらすぐにシンを抱えて逃げるからね私は!」

「うん、そうして。でももうちょっと我慢して」


 二階や三階から恐る恐る顔を出して様子を見る市民の人。

 ぐわっと口を開いて頭を上げるティラノサウルス。

 二階を超える高さまで届く感じでしょうか。とにかくデカいです!

 ベランダがガラガラと崩れ、中の人が悲鳴を上げて部屋の奥に逃げ込みます。


 走って、走って、建物の陰に隠れ、息を整えます。

 100mぐらいまで近づきましたか。もうちょっと近づきたいです。


「うおおおお――――!!」

 なんか兵? いや、ハンター? 十人ぐらいが出てきて突撃していきました!


「あっバカ……」


 魔法ぶつけてます。あんまり効いてないようです。

 槍投げてますが、跳ね飛ばされてます。一本ぐらいは刺さりましたが。

 今度はティラノ、ドスドスドスと足を踏み鳴らしてハンターたちを襲います。

 次々に踏みつぶされ、咥えられ、散らされていくハンターたち。

 覚えありますアレ。王都の1級ハンター、チーム・ジャスティスです!

 いいとこ見せようとしたんでしょうか。バカばっかりです。

 今のうちに大通りを走って横切ります。


 窓ガラスが割れた建物に、M700のストックをぶつけて窓ガラスを割り広げ、中に入ります。

 ブティックですか、服がいっぱいハンガーにかかって並べてあります。

 お店の人はいません。夜まで営業してないですから。

 距離50m。

 窓ガラスをぱりんと割って銃身を突き出し、スコープで狙います。


 ティラノサウルスの弱点。

 やや斜め後ろから……。



 ティラノサウルスの前に人が立ちました。

 ひるがえして赤いマント。

 ブランバーシュ!

 今日の武闘会の優勝者です!

 ブォワアアアアア――――!

 ものすごい火柱上げてます!

 魔法ですか! 魔法も使えたんですか! さすがです!

 たじろぐティラノサウルス! イイ感じに足止めしてくれました! ありがとうございます!


 そこへ!


 ドッガア――――ン!!

 片足立ちになって全体重がかかっているティラノサウルスの右足の関節!

 ボコンッ!

 着弾! 50mです、外しっこありません。


 ごぉおおおおおお――――!!

 ティラノ、おおきく喉笛を吹きながら崩れ横倒しに!

 ドズーンッ!

 派手に倒れました!


 体重6トンが転んだんです。あばら骨の数本は折れたかもしれません。

 ティラノ、ケガした足を踏み降ろして立とうとします。

 チャキッカシャッ。 次弾装填。

 その足にもう一発!


 ドッガア――――ン!!

 ケガした足の側に傾いて起き上がろうとしてたんです。そっちの足に全体重がかかってます。

 そこにもう一発撃ち込まれたんです。

 ぼぎい! 足が折れました!


 ごおおおお――――!!

 ティラノが叫びます。

 片膝ついてなおも立とうとするティラノサウルス。

 今度はその反対側の足を……。


 ドッガア――――ン!!

 がくん!

 完全に腹ばいになって身動き取れなくなったティラノサウルス。

 首を振り回し、口を開いて目の前のブランバーシュさんを威嚇します!



 ティラノサウルスの弱点、ずーっと考えてました。

「足だ」

 結局僕が行きついたのはそこです。


 ティラノサウルスは鳥に近い特徴を持っています。絶滅してしまったので鳥にはなれませんでしたが、ティラノと古くに分かれた二足歩行の恐竜が羽毛を持ち、鳥に進化しています。

 過酷な恐竜の世界で生き残るために大型化を選んだティラノサウルス、その無理は全て足に来ています。


 ティラノの寿命はわずか30年。それ以上長生きした化石は見つかっていません。

 生きている限り大きく成長していく恐竜としての限界がそこにあるのです。

 これ以上大きくなったら自分で自分を支えきれない。その大きさがティラノサウルスの場合12mなのであり、30歳ということになりますか。

 ティラノの骨は鳥のように空洞で、軽量化されています。

 あの重い体重を少しでも軽くするための工夫ですね。


 ガラスの足。


 ティラノサウルスの化石は必ずどこか骨折しています。

 足だったりあばら骨だったり、あの巨体を維持することができなくなった時点で死んで化石になったのだろうと言われています。

 そして、ティラノサウルスの足は鳥のように、皮一枚下は骨です。

 筋肉で覆われてはいません。ふとももから伸びた長い腱で支持しています。

 撃つならそこです。

 6トンの全体重がかかっている片足立ちの一瞬に、骨の一部でも砕くことができれば、そこに6トンの荷重が加わり足の骨は自ら折れる。腱を傷つければ勝手に切れる。

 四本足なら逃げられます。でも二本足じゃあ一本折られたらもうダメです。


 思った通りになりました。

 映画のようにドスンドスンと歩くのではなく、スムースに滑らかに歩くのを見て確信しました。足に負担をかけないようにあのように歩いていたわけです。

 ティラノサウルスは十二歳から十八歳が一番成長します。その後成長はゆるやかになります。

 学者さんは成長スピードがそうなってるって思ってますけど僕は違うと思いますね。

 一番エサが食べられるのが十二歳から十八歳なのであって、その後は食べられなくなるんですよきっと。

 若く、体がまだ小さかった成長期は軽やかに走り、跳び、獲物を襲っていたはずのティラノは成長と共に自らの体重でだんだん動けなくなり、ノロマな恐竜しか食べられなくなり、死体をあさり、最後には寿命が来る前に餌が獲れなくなって死んだのではないでしょうか。


 ごおおおおお――――。

 口を開いてなおも威嚇を続けるティラノ。

 そこへブランバーシュさんが次々に魔法を投げ込んでいきます。


 兵たちが集まって来ました。今度はちゃんと投げ槍をもっています。

 身動き取れずヘビのように体をのたうち回らせるティラノに向かって次々と槍が投げつけられます。

 ブスブスと刺さっていきます。大量の血が流れます。

 ゾンビならともかく、大量出血で死なない動物なんているわけないです。

 勝負ありですね。あとは時間の問題です。


「……もう大丈夫だよ」

「ホントになんとかしちゃうんだ。シン……」

「さ、見つからないうちにさっさと行こう」

 サランの体に触れると、震えてますね。

 そりゃあ怖いよね。あんなの。

 銃をバッグにいれ、飛んだ薬莢も拾ってポッケにいれて、さっさと退散です。



 本当はティラノサウルス、近くで見たかったな。

 僕だって子供のころ恐竜図鑑とか見て喜んでたし、大人になってからもテレビで恐竜のドキュメンタリー番組とかやってたら必ず見てました。

 でもここは我慢、我慢です。

 ダイノドラゴンをも倒せる銃を持った人間。

 そんなのがこの王国にいることがバレたらなにされるかわかりません。

 知らん顔してるのが一番です。

 手柄はぜんぶ今日の優勝者、ブランバーシュさんが倒したってことになるでしょう。

 そのほうがいいですね。



 まだ逃げ出している大勢の市民たち。

 その人たちと一緒に城壁の正門をくぐり、外に出ます。

 みんなテントを撤収して、逃げ出す準備をしている中、あきれたことにバリステスのメンバーが僕らのテントの前でまだ焼肉やってました。


「なにやってんですか。逃げましょうよ」

「お前ら待ってたんだよ。で、どうだった?」

「今日優勝した勇者さんが倒しちゃいましたよ。ブランバーシュさん」

「えええええ――――!!」


 バリステスのメンバー、驚きです。

 そりゃそうか……。


「さすが勇者」

「ダイノドラゴンを倒しちまうとは……」

「とんでもねえな」

「素敵ねえ……」

「賛成です」


「でもよう、なんかドガーン、ドガーンって、シンのてっぽうの音してたような」

「そりゃ勇者さんです。魔法撃ってましたから」

「なんだつまんねえ。またシンが大手柄上げたのかと」

「余計なお世話でした。出る幕なかったですね」


 夜中なのに周りの人たちは馬車を出したりして移動開始です。

「今日はもう大丈夫でしょう。僕らはバルさんと一緒に帰らないと」

 あれっ? バルさんは?


「マスターは王都のギルドに戻ったぜ。非常事態だからな」

 そうですか。明日の朝まで来ませんね。


「じゃ、寝るとしますか。疲れました」

「……よく寝られるなシン」



 そうして、僕らはゴミだらけになってる城外の特設キャンプ場で、テントの中でサランと二人で一緒の大きな寝袋に入って寝ました。

 サランの抱き枕状態になってる僕。ま、いいか。今日ぐらい。



次回第九章最終回「さらば王都」

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