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82.大惨事再び


「よう」

 サープラストのハンターギルドマスター、バルさんがやってきました。

 なんか安心しますね。ほっとします。


「やっぱり宿取れなかったかお前ら。たぶん野宿してると思ったよ」

「まあね」

「ハンターッスから。まあこれぐらいは普通ッス」


 年間通して国で一番大きなイベントの開催時期ですからね。

 この期間は夜でも正門は解放されていて火も焚かれて明るく、夜中でも人が盛んに行き来してます。膨大な観光客が訪れ、王都にお金を落としていくのですから、オリンピックみたいなもんですかね。



「どうなったか、話聞いてます?」

 ほんとあの後どうなったんでしょうねえ。


「負傷者は将棋倒しになった客もいれて百人以上だ。死んだやつは何人いるかまだわかんねえほどだ。大惨事だぜ」

 バーティールさんの横にどかっと座って、バルさんがサランからお茶のカップを受け取ってます。


「召喚士のキーリスは逮捕、拘束。今教会で裁判というか取り調べやってる。優勝者はブランバーシュで決まりだが、お抱えのバルドラート公爵様も国王陛下も今回の大惨事に喪に服す様子だから、表彰も無くしばらくはなんにもねえな」

「誰の責任問題になるんでしょうね」

「ハンターギルド総会でもその話でもちきりだった。召喚士が悪いとか、アレを暴れさせたのはブランバーシュだの、対戦相手に責任があるわけないだろとかむちゃくちゃでよ。俺は途中でウンザリして抜けてきちまったよ。そもそもハンターには全然関係ねえ話だからな」

 それもそうですね。


「抜けてきてもいいんっスか!?」

 副リーダーミルドさんがびっくりです。

「俺らみたいな田舎ギルド何の話も来やしねえよ。こうなったらもうミドルドラゴンの肉を売る話も出ないだろ。食ったヤツにはタタリがあるぜ? なんてな」

 死亡者がたくさん出ましたからね。気味悪いですよねえ。

「ま、俺たちはこんなくだらないことにヘタにかかわらないようにさっさと王都を離れるのが得策だろうな。お前らもこんなこと関わってなんにもいいことないからな。首突っ込むなよ。シンもだ」

「なんで僕が首突っ込むんですか」

「ん、いや、なんかそんな気がしてさ。悪かった」

 そういってバルさんがニヤッて笑います。


「ここしばらく、事件の影にタヌキ頭有り、ってのが続いてたからよ」

「物騒なことを言わないでください。僕ら悪いことなんてなんにもしてませんて」

「そうだな……。お前らのやったことって大っぴらにできねえことばっかりだ。もったいねえ話だがな」


 バルさんが遠慮なく鍋をすくって食事にします。

 パンとかも買い込んでありますので、そちらもどうぞ。


「俺はとぼけといたが、ハンター総会でもタヌキ頭のことはチラチラ話題になってたぜ。ヒドラを捕らえたとか、国王暗殺を防いだとか」

 ぶっ。

 バリステスのメンバーが吹き出します。


「お前らいつの間にそんなことを……」

「いえ、ハト駆除のついでで、なんかそういう成り行きになっちゃって」

「ついでって、ハト駆除のついでで国王暗殺防げるもんかね!」

「その話本当なのかい?」

「んー、まあ、本当です」


 マジックバッグからレミントンM870を出します。

 木製ストックのヒール近くに、王家の紋章の焼き印が入ってます。

「それのおかげで、国王陛下にこのお墨付きをいただきました」

「王家の紋章じゃねえか! 王様から直接下賜(かし)されたのかよ!」

「はい」

「……とんでもねえな」

 バルさんもびっくりです。


「お前、それもらった意味わかってんだろうな」

「まあだいたいは」

「あとで国にてっぽう取り上げられるかもしれねーぞ?」

「そういう意味じゃないんです。この国で鉄砲正式に使っていいって許可なんです。今後鉄砲持ってる危険人物だから逮捕なんてことにはしないよっていう国王のお許しですね」

「……そういうことか。まあ、それならよかった」


「国王に会ったのか!」

「はい」

「どんな奴、いや、お人だった!」

 バーティールさん食いつく食いつく。

「よくできた方だとお見受けしました。寛大です。また、僕らのこともよく知っておられます。その上でいろいろ見逃してくれて、お礼も言ってくれました」

「なるほど……。いや、今の王の治世はなかなか善政なのは俺らもよく知るところさ。そうか。シンがねえ……」

「お抱えの話とかは無かったのか?」

「なかったです。エルフの村で静かに暮らしたいという僕らの希望をよくわかってくださいましたし」


 考えてみればかなり稀有なことですね。

 僕なんかを脅して利用できるだけ利用して使い捨て、なんていくらでもありそうな話ですから。こんな封建社会では。

 僕って、いろいろ恵まれてるし、運も良かった。

 つくづく、どこで死んでしまってもおかしくないことばかりでした……。




「おう――――い!!」


 見上げると、ニートンさんとおネエさんが城壁の上にいます。

「おいでよー! 眺めいいよ!」

「へえ、城壁の上って解放されてるんですか」

「普段は閉鎖されてるけどな。武闘会開催期間だけな」


 それって警備上問題あるんじゃ……。

 いや、平和な世界だし、武器とか持ってたらそりゃ警備に捕まるだろうし。

 なんといっても武闘会はお祭りですしね。


 僕らもメンバーと一緒に石段を上がって城壁に上がりました。

 警備兵の人たちもニコニコと上機嫌です。たくさんの人たちが城壁の上を散歩してます。

 街はあちこちでかがり火が燃やされ、夜でも明るいですね。今でいうライトアップされている感じです。

「うわーきれいー……」

 サランが大喜びです。


「あっち! あっちがオススメなの! 大聖堂のね、ステンドグラスがすごく綺麗なんだから、行こう行こう!」

「賛成です」

 おネエさんとニートンさんが珍しくはしゃいでいますね。


 人気のスポットなのでしょうか、人がたくさん集まっています。

 大聖堂から大通りまで道が開けています。正面に大聖堂が見えるんです。

 大聖堂の中では夜まで勇者を称えるミサが行われているそうで、中で明るく火が焚かれていますので正面のステンドグラスがキラキラと輝いて美しく彩られています。これは確かに見ものですね。


 勇者の英雄物語か……。

 歴史上現れた五つの魔王。

 それを倒す勇者たち。

 凄いですね。巨大クマ、巨大ティラノサウルス、巨大ワシ、巨大オオカミ、巨大……なんだかわからないもの。

 あんなものが昔、大暴れしてたんですね。



 ごおおおおおおおお――――――っ。

 なんだか物凄い音しました。

 ビリビリこちらに響きます。

 なにごとっ?


「……なに今の音?」

「なんだあ?」

 サランもバーティールさんも、周りを見回します。


 大聖堂の正面扉。人が悲鳴を上げて逃げ出してきます。僧服を着てますね。

 聖堂の中で何かあったんでしょうか。



 ガシャーンッ!

 ステンドグラスが砕け散りました!


 あれ……。あれって……。


 ティラノサウルスじゃないですか!

 砕けたステンドグラスから顔を出してます。


「だ、だ、ダイノドラゴン!!」


 ガシャーン! メキメキ、バキーン!

 ステンドグラスを押し破って、正面広場に出てきました!

 なんてこった!


 なんでこんなところにティラノサウルスが出るんです!?

 教会ですよ? 王都ですよ?

 どうしてこんなことに!?


 ぼこん!

 いきなり目の前にマジックバッグが現れます!

 これはアレか。女神がらみなんですか!?


 みんながボーゼンとティラノサウルスを見守っているうちに僕はマジックバッグから無線機を取り出してみんなの後ろに回ってこっそり通信します。


「ナノテスさん聞こえます!?」

”大変です中島さん! ティラノサウルスが出ちゃいました!”

「出ちゃいましたじゃないですよ! 何が起こっているんです!?」

”ほらあの召喚士の男いたでしょ。アレが今教会の奥でやってた裁判で死刑判決出たんでティラノサウルス召喚したんですよ!”


 うわあ……。最悪です。

 脅しなのか、逃げようとしたのか、腹いせなのか、とにかく最後の手段ってことなんでしょうね。で、また暴走してると。


”な、中島さん、なんとかできますっ?”

「そんなこと言われても……。コレ、魔王なんですか!?」

”違います! 例の恐竜大陸から、召喚士のバカが転移させてきたヤツですから! どこにでもいる普通の野生のティラノサウルスですから!”


 ティラノサウルスに普通とか野生とかってあるんですか。


 とにかく無線を胸のポケットに突っ込んで、城壁の内側に戻ります。

 大惨事になってますよ。

 ティラノサウルス、我が物顔に街を歩いて、逃げる人間を踏みつぶして、足で押さえつけては咥えて千切り捨ててます。

 お腹いっぱい食べようとしてるわけじゃありませんね。ただ生き物を(なぶ)ってるって感じです。ドスンドスンって足音は聞こえません。意外と軽快に歩いてます。

 警備兵たちも槍など持ってますが逃げていきます。市民も兵もこれは逃げるしかないでしょう。

 剣や槍で立ち向かえる相手じゃありません。

 市内の警備をしている兵が弓や投げ槍持っているわけもありません。

 槍持っていてもそれ投げちゃったら丸腰です。投げ槍として持たされている槍じゃないのでどうしようもないですね。


「サラン行くよ!」

「ダメ――――ッ!」

「サラン!」


 サラン泣きそうです。

「ダメよシン! あんなの相手にしちゃダメ。逃げよ! こんなの私たちにはなんにも関係ないんだから! ね! シン!」


「大丈夫。倒せる」

 頷いて見せる。

「大丈夫だから。ダメだよサランあんなの放っておいたら。倒そう。倒すだけ。危なくなったらちゃんと逃げる。だから行こう」

「行こうって、おめえよう……」

 バーティールさんがあきれ顔です。


 僕は街に降りられる石段に向かって走り出した。

 サランがついてくる。

 他は誰もついてこない。

 あんなのと闘おうなんて僕どうかしてるかも。

 でも、これはやらないと。

 たぶん僕にしか倒せない。


 走りながらマジックバッグからレミントンM700を出す。

 375H&Hマグナムの弾薬もありったけ。

 ボルトを開いて、装填しながら走る!



次回「暴君竜」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なぜ女神様がこの一つの出来事を解決させようとしているのか不思議です。魔王でもないし世界中他にも色々ある気がして。
[気になる点] ”捕まっている召喚士が、死刑判決されたんで、腹いせに召喚する”そんなバカバカしいストーリー展開ありえないでしょ、、、 こんな大問題起こした張本人が野ざらしにされているんですか、、、 銃…
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