表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/108

76.王都の休日


 結婚一周年記念旅行。王都は今日が最終日です。

 これから乗合馬車に乗って、帰ろうというわけでして、駅馬車の駅に行こうと宿を出ますと、「よう!」と騎馬の騎士さんに止められました。


 ……近衛隊長さんです。

 ジラスハル・タンラさんと言いましたか。

 前に国王暗殺未遂事件の時に一緒に警備の仕事をしました。


「お久しぶりです。偶然ですね」

「偶然じゃないんだが。お前たちが入国したという報告が来て探してた」

「偶然ということにしといてください。僕らもう帰りますんで」

「その前にちょっと王宮に寄ってほしいんだけどな」

「命令ですか?」

「命令って程でもねえんだが……」

「王宮発行の召喚命令書がありましたら見せてください」

「……そう来るか」

「僕らこの国の国民じゃありませんので」

 隊長さんが難しい顔になります。 


「確かに。命令とか召喚とかそういう物はなにもねえ。俺たちもそこまで大げさにしたくねえ。固く考えないでほしい。いろいろ意見を聞きたいってだけだ」

「お断りしたいです」

「あーもう、どうしてそう用心深いんだよ!」

「僕らこの国では平民の外国人ですからね。全く覚えのない罪でいきなり縛り首なんてことにいつも怯えて生きているからです」

「俺らそんなふうに思われてんのか……。お(かみ)はそれほど無慈悲じゃねえよ。世話になった客人にそんなことするわけないだろ」


 ……。


「今日中に帰れるのであれば」

「いいだろう。俺が保証しよう。来てくれ」


 まあキリフさんやファアルさんも信頼している王様ですから、いきなり危険分子として処刑とか、ないでしょう。


「ん、あー。そういえば馬車がねえな。探すのが大変で忘れてた」

「かまいませんよ。歩いていきましょう」

「すまん」

 そう言うと隊長さんも馬を降り、くつわを取って僕らと並んで歩きます。

 隊長さんが通るとみんな道を開けてくれますので、歩きやすいですね。

 市民の皆さんも隊長さんに怯えたりはしてません。笑顔で挨拶とかしてくれてます。

 この国ではそう権力が恐れられている存在というわけでもないんですね。

 それなら少しは安心できます。

「だいじょうぶなのシン?」サランが小声で聞きます。

「ま、大丈夫でしょ。僕らをどうかしたいならとっくにやってるはずだし。それに隊長さんが保証してくれてるんでしょ」

「もちろんだ。安心してくれエルフのお嬢さん」

 そう言って、隊長さんがにっと笑います。


「『王の盾たる前に、臣民の盾であれ』」

「?」

「陛下のお言葉である。それが、ジュリアール近衛隊だ。俺はお前たちを守るのも仕事なんだ」


 なんかスゴいなそれ……。近衛兵って王様を守るのが最優先でしょう普通。

 いろいろと型破りな感じがします。




「コレだ」

 大きな王宮に連れてこられて、建物の中をどんどん進んで案内された一室に、あの教会の召喚勇者が使ってた銃が置いてありました。

 なんかいろいろ分解されてます。

 分解したはいいけど組み立てられなくなっちゃったのかな? まあよくあるよね。

 あの対物ライフルですか。それとベレッタ。


「いろんなやつに見てもらったが、結局これが何なのかまったくわからん。お前らわかるか?」

「聖書に出てきたガンだとしか」

「いろいろいじくりまわしてみた。どう使うのやら」

「使うつもりなんですか?」

「そりゃあお前、優秀な武器があれば採用していくのも軍人の仕事の一つだからな」

「犯人が持っていたのはこれだけですか?」

「そう」

「犯人どうなりました?」

「すぐ縛り首になったよ」

「じゃあもうダメじゃないですか。いろいろ聞きだしておけばよかったのに……」

「やっぱりそうか……。ガッカリだぜ」


 対物ライフル。バレットM99でしたか。

 時計塔から落ちましたから、もうあちこちひん曲がっててこれはもうダメですね。

「この鉄の長い筒を通って(つぶて)が飛びます。この筒が曲がってる時点でもう使えません」

「叩き出して真っすぐにするのは?」

「無理ですね、だいいち撃ち出す礫が犯人が持っていたものしかないでしょうし」

「そうかー……」


 実際は鉄砲って多少銃身が曲がってても発射はできます。でも弾薬が無いんじゃね。


 拳銃のベレッタのフレームを手に取ってみます。フレームが割れてへこんでいます。そのせいでマガジンが抜けずにこちらはまだ弾が入ったままです。このまま使うのは危ないでしょうね。


「お前それどういうものかわかるか?」

「自分の身を守る程度の用途に使う武器だと思いますね。ガンの一種です。ヒビ入ってますし使えば壊れるでしょう。きっと撃った人が大ケガしますからこれも放っておいたほうがいいですね」

「そうか……。細工が細かすぎてな、どの鍛冶師に見せてもこんなものは作れないとお手上げさ。魔法使いに見せて、魔力を込めさせてもなんの変化もねえ。いろいろいじくりまわしてるうちに元に戻せなくなっちまった。まったくおかしな魔道具だぜ……」

「こっちの大きいほうを使って、700ナール離れたところから陛下を殺そうとしてたのは間違いないんですけど」

「ああ、そんな武器そこら中にあったら危険でしょうがねえ。今後どうするか、それをお前さんに聞きたいわけさ」

「ガンを違法にし、今後使ってる奴は誰でも取り締まり、縛り首にするってことですか?」

「最悪そうなる」

「それは困りますね。僕もガン使いですから」


 こうなったら白状してしまうしかありません。今後僕が銃を使えなくなります。


「やっぱりか。そうじゃないかと思っていた」

 うんうんと隊長さんが頷きます。


「お前はどうしたい」

「そうですね……」

 ちょっと考えます。


「僕はハンターです。ガンは猟師の仕事で使っています。農家さんの畑を害獣から防ぐために働いています。魔物が出れば討伐もしています。旅の途中で野盗強盗が現れれば捕殺することもあります。つまり剣士のハンターや、魔法使いのハンターさんが仕事をしているのと同じです。やり方が違うだけです」

「……確かに」

「ガンを禁止にしたいならすればいいでしょう。でもそれで困るのはガンを持っている人だけなわけですから、困るのはこの世界で僕一人だけということです。僕一人のために新法を作って法整備しますか? 僕だけのために新しく法律を作ってくれるわけですか? それも凄い話になりますが」

「いや、そこまでは……」


「禁止されれば僕はもうこの国でどんな仕事も出来なくなります。縛り首にならないようにそんな法律ができる前に帰り、エルフの村から一歩も出ないで静かに暮らすことになるでしょう。残念ですが」


「なるほどな。シン君の言うとおりだ」

 そう言って、一人のオジサンが入ってきました。

 飾り気はありませんが、なかなかいい服を着ています。

「あ、陛下。いらっしゃい」

 気さくに対応する近衛隊長。


 陛下……。


 この人が国王陛下?


 えーと、この場合どうしましょうかね。

 とりあえず頭を下げて90度。

 サランもあわてて剣を鞘ごと抜いて後ろに置き、頭を下げます。


「頭をあげてくれ。公式な面会ではない。シン君、サラン殿」

 一度さらに深く頭を下げてから、顔を上げます。

 なんで僕が君で、サランが殿なのかについては突っ込みません。


「暗殺未遂の件では世話になった。ちゃんと報告はもらっている。余にとっての命の恩人だ。なにも心配しないように。固くなるな」

 そういって笑ってくれます。

 よかった。いきなり危険分子として処刑とかはなさそうです。


「ガンは武器と一緒。このまま規制せず野放しにせよと言うか?」

「ご意見してもよろしいのでしょうか」

「もちろん」

「ガンは危険な存在です。剣や弓と同じです。現在もハンター以外の一般市民は武器を所持できないことになってますよね。規制して市民が持てなくするようにすることは治安の維持の点からも必要でしょう。でもそれは大量に出回っていればの話です。召喚勇者が捕まった今、使っているのはもう僕だけですが、これを畑を荒らす害獣や魔物の討伐や野盗強盗の対策にも役立ててきたという自負が僕にはあります。僕はこれを使ってこれからも仕事がしたい」

 ふむ、国王陛下が頷きます。


「そのためにはどうしたらよいと思う?」

「こういう危ないことはコソコソばれないようにやるのではなくてですね、危ないことほど、ちゃんと必要な手続きを取って、許可をもらって、大っぴらにやるべきだと思っています」


「むう……。つまりシン君は自分のガンについては許可が欲しいと」

「はい」


 この世界でも銃砲所持許可をもらいたい。

 うん、つまりそう言うことになります。

 僕をいつでも好きな時に違法にして好きな時に逮捕できる。そんな状況にいるのだとしたら面倒です。


「だがこれらのガンは暗殺に多く使われた負の面もある。シン君は暗殺についてどう思う」


 ……うーん。考えてみれば僕エルフ誘拐団の首領を暗殺したことあるんですよね。

 でもここは模範解答しておきますか。実際僕の正直な考えですし。


「全く無駄なことだと思いますね」

「ほう」


「誰かを暗殺することによって歴史が変わってしまう、そんなことは実際には無いんです。歴史の大きな流れという物は変えられません。必ず代わりをする人が現れるんです。それに暗殺をしても、実行犯が誰かわからなくても、暗殺を命じたのは誰かってのはわかります。そんな人間が暗殺した人間の代わりになれるでしょうか。暗殺は悪手なんです」


 殺し屋にお金を払って銃で暗殺してもらえば誰もがやりたいように世の中を変えてしまえると言うほど、世界はもう単純じゃありません。週に一度は暗殺のニュースをテレビで見るなんてことがありますか。暗殺が物事を解決するためのいい手段だと考えるのはもう時代遅れなんです。少なくとも現代はそうです。


「いや、諫言(かんげん)耳が痛い。その通りだ。我ら王侯貴族は暗殺の歴史という一面を持っておる。暗殺で事が片付く。そう安易に考えておる馬鹿共は少なくない。実際にはそんなことでは何も解決しない。」

 陛下がうんうんと頷きます。


「余のすること、家臣が、臣民が、いつも見ておる。王たるにふさわしい男かをな。どんなに反対があろうとも、やらねばならぬ事なれば、説得を惜しまず、正式に手続きを取り、多くの者の支持を取り付け、公式にやらねばならぬ。それが(まつりごと)なのだ。敵対する者を消すのは愚策だ。そんな人間誰も信用してくれぬ。シン君は若いのによくそのことを知っておるな」


 陛下にそう言ってもらえると嬉しいですね。

 とりあえず僕の首は安泰のようです。


「このガンは凄い。教会の召喚勇者が持ち込んだこの世ならざる物。我らにはマネのしようがない。武器として軍事力を上げる役には立たないだろう。またこのようなものの出現、いらぬ戦乱の火種となる。やはりこれらのガンは封印しよう」

「そう願います」


 近衛隊長が指示をすると、部下さんが対物ライフルとベレッタを持って行ってしまいました。もうこの世界に現れないでしょう。よかったです。



「あと、シン君にはガンの使用許可をあげよう。具体的には……。そうだな。君のガンに王家の紋章を焼き印するのではどうか。暗殺事件阻止の褒美(ほうび)として余から下賜(かし)したということにするわけだ。どうかな?」


「それは嬉しいですね。ぜひお願いします」


「君の使うガンを見せてもらってもかまわないかね」

「そうですね。では」

 しゃがんでテーブルの下でマジックバッグを出します。

 そこから一丁だけ取り出して、テーブルの上に置きます。


 レミントン M870散弾銃


 僕と一番付き合いの長いこれが、やっぱり僕の分身です。


「異次元袋を持っておるのか。さすがだ。……しかしこれはなかなか使い込まれておる。どんなふうに使うのだ?」

「これは鳥とか動物。野盗相手にも使いますね」


「ほおー!」

 王様も近衛隊長も僕の持つ銃に興味津々です。

 しょうがないか……。これを見せることは僕にとってものすごいリスキーだと思いますが、見せずに済む話でもありません。今後のことを考えるといつかは通らなければならない鬼門と言えます。


「これを使うには魔法がいるのかね?」

「まあ……そうなりますね」

 いるのは弾薬ですけどね。


「召喚勇者が持っていたものに比べるとかなり小さいな」

「そりゃあ勇者にはかないませんよ」

「シン君はこれをどうやって手に入れたのか」

「祖父から譲り受けました」

「ふむ……。祖父殿が作られたのか?」

「いえ、今はもう亡くなった職人さんの作ったものです」

「もう失われた魔法技術と言うことになるのかな」

「そうなります。これを使う人間は僕で最後になりますね。残念ながら」

「そうか……。いや、祖父の形見であるな。大切にしてくれ。」


 ストックの部分に焼き印を押してもらえました。王家の紋章です。

 これでこの国ならばどこでも大っぴらにこれを使っていいことになりました。

 日本風に言えば要するに(あおい)の御紋ですね。水戸黄門ですか?

 今後何かトラブルになりそうになったらコレを見せればいいってことになります。

 ありがたいです。


 逆に言うと(かん)ぐればこれを理由にいつか銃を召し上げられてしまう可能性もあります。

 お取り上げですね。

 それはいいんです。やりたかったらやればいい。弾のない銃なんて何の価値もありません。

 僕は銃を取り上げられて追放されても、またマジックバッグから新しく銃を買えばいいんですから、今は王様の言い分を素直に聞いておくのが得策でしょう。


「こほん。わかってると思うが……」

 近衛隊長が釘を刺します。

「これを使って国に弓引き、陛下に(あだ)成すことの無いように。君にとっても大変に不名誉な結果となる。陛下の信頼を裏切ることのないように頼む。言うまでもないことだが……」

「信頼には信頼で応えます」 

「その必要はないぞタンラ」

 そう言って陛下が笑います。


「代々国に(ろく)をもらっておる軍人の諸君らと、わが国を訪問して厄介ごとを引き受けてくれているシン君では守るべきものが違うのだ。こんな焼き印一つ押すだけの褒美(ほうび)でいちいちそこまで恩に着せ忠誠を誓わせるようなケチ臭いことを余に申せと言うか」


「しかし陛下」


「余に不義あらばエルフの民が立つことがあっても良い。それぐらいはわきまえておる」


 ……大人物ですね。



「礼がまだだったな」

 そういって、国王が右手を差し出します。

「余の暗殺を防いでくれたこと、礼を申す。あれで教会の不正も一気に暴くことができ、教会の聖教改革にも弾みがついた。またそれだけのことをやってくれながらも君が地位も名誉も望まず、野心無きこともよく理解した。君が王侯貴族や俗物共に利用されるようなこと無きようにこれからも取り計らう。余の臣民らの畑、家畜を守ってくれていることも心得ておる。今後の活躍も期待しておる」


 その国王陛下の手を握り返し、頭を下げます。

「謹んでお受けいたします。ありがとうございました」


「サラン殿も」

 陛下がサランに手を出します。


「エルフとはいろいろあったことは存じておる。多くの苦しみを与えてきた人間の歴史のこともな。全て許せとは言わぬ。だがこうして友好、交流を続けていければいつかは時が解決してくれると余は信じる。その点は疑わないでほしい。今後もエルフに限らず他民族の拉致誘拐、奴隷売買は厳罰を処してゆく。約束しよう」


 さすが国王。いろんなこと、何もかも承知の上なんですね。

 サランも手を握って、頭を下げます。


 そして国王が退席し、やっと僕らも解放されました。

 へなへなとへたり込む僕とサランを見て近衛隊長が笑います。


 いやー、ここまで長かった。

 でもようやく僕の鉄砲にお墨付きがもらえまして、これからはこの国で公式に鉄砲を使っていくことができるようになったわけです。

 


 ほんのちょっと、遊びに来ただけの今回の訪問。

 思った以上にいろんなことがあって、たぶん有意義な旅でした。




――――――――――第八章 END――――――――――




次回第九章「暴君、君臨」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ