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75.真打登場


「……シン、何とかなるか?」

 ファアルさんが上空を見上げます。

 プテラノドンはまだ旋回しています。

 チーム・ジャスティスの連中もなぜかまだ帰りません。

 あんな奴らの前で発砲して見せたら厄介になるに決まってるんで帰ってほしいんですけど……。


「まあなんとかやってみますよ」

 

 サランと二人で厩舎に行って、一輪車にわらをたくさん乗っけて二人で羊さんのところまで歩いていきます。

 わらを敷いて、まあるくふかふかにしまして、そこで二人で寝ころびます。

 上空ではまだプテラノドンが旋回していますね。

 僕は指で四角を作って覗き込み、カウントします。

「1、2、3、4、うーんと、1秒で翼長の0.6倍。秒速12mかな。サラン距離」

「120、122、122、121……」

 サランがレーザー測長計を覗き込みながらカウントします。

 これは読めるように教え込みました。


「そのままカウントしてて」

 120mってことは着弾まで0.15秒。

 リードは1.8mってとこですか。ちょうど体長の半分ですね。

 クチバシを狙いましょうか。それで胴体に当たるはずです。

 角度ほぼ90度。ちらっとストックに書いた着弾ズレ量を見る。

 100mで12cmか。無視していいな。


「撃つよ――っ!」

「どうぞ――っ!」


 ショック吸収用のわらの上に寝転がったまま真上にレミントンM700を向けて、

スコープで追いながらくちばしを狙います。


 ドォ――ン!!


 はずれたかっ!

 シャキッカシャッ!

 リードを少しずらしてもう一発!


 ドォ――ン!!


 ぱぎゃっ



 プテラノドンがおかしな声をあげて、口を開き、翼を丸めて落ちてきます。


「命中!」

 素早く立ち上がって見回します。

 落っこちたところにいたりしたら笑い話です。逃げないと。


 落下地点は30m先!


 どずーん!

 土煙をあげて落ちました。

 チャキッカシャッ!

 ボルトを操作して、次弾装填。


 片膝ついて狙い、バタバタ暴れるプテラノドンの胸に。


 ドォ――ン!!

 動きにぶくなってきた!

 もう一発!!

 

 ドォ――ン!!


 胸に二発打ち込んでやると、頭を落として、ピクッピクッと痙攣しています。


 歩いて近づき、排莢口(エジェクションポート)から一発放り込んで頭を狙い……。

 狙いって、脳どこだ? 恐竜って、脳が未発達で小さいんだよね確か。

 ま、目と目の間でいいか。

 どの生物でも、脳と目をつなぐ視神経って最短距離にあるのが普通だからね。


 

 ドォ――ン!!



 終了。


 大勢の人に見られてますんでね。さっさとマジックバッグ出してライフルを収納し、サランが持ってた距離計とか、ポケットの残弾とかも全部放り込んでマジックバッグ消して、あとは知らん顔です。


 みんな駆け寄ってきます。

「いやあ凄かった。さすがだ、シン!」

 ファアルさんと、領兵さん、それに牧場主のナトラルさんがぱちぱちと拍手してくれましたよ。



 チーム・ジャスティスが騎馬のまま走ってきて馬を止めます。


「おいっお前! 今なにやった!」

「なにって、魔法ですけど」

「あんな魔法があるかっ!」

「どんな魔法を使おうと僕の勝手です」

「俺たちより強力な魔法を放てるやつがいるわけがないっ!」

「そうでしょうね」

「だから、どんな魔法だっ!」

「そりゃハンターだったら誰だって秘密にするでしょう。教えませんよ」

「いーや、答えてもら……」


 ガキンッ!


 髭面が僕に突き付けた剣をサランが抜き打ちで片刃の背で叩きつけ、真っ二つに折るっ!

 直刀の片刃ですから、刃で斬りつけるのも背で叩きつけるのも両方できます。

 この世界最強のバール剣です! これに横から殴られたら並以上の剣でもひとたまりもありません!

 いきなり剣を折られた髭面が目を剝きます。


「人の旦那に剣突き付けてタダで済むと思うのかい。私が相手になるよ」


 サランが僕の前に立ったところでマジックバッグからソウドオフショットガンを取り出す。こいつはすでに装弾が4発装填済み。

「いえ、相手だったら僕がしますが」


「いい加減にしろチーム・ジャスティス!」


 後ろからファアルさんが声をあげます。

「俺の友人でもあるラクーンヘッドの二人に手を出すことは俺が許さぬ。この二人にかかわることはハクスバル家を敵に回すと考えよ。早々に立ち去れ。領主ハクスバル伯爵として命ずる」


「ぐぬぬっ……」



 髭面、馬を蹴って向きを変えさせ、引き上げていきました。



 やれやれ……。面倒事が増えたみたいな気がします。




 プテラノドンの死体を滑車で荷台に引き上げます。

 いやあでかいでかい。翼長20mですから。

 僕も子供の時に恐竜図鑑とか読んで大興奮してた小学生でしたから、いろいろ知識はあるんですが、こんなふうに異世界で本物に会えるなんて感激です。本当は飛んでいるところずっと眺めていたかったぐらいです。

 翼は膜なんですけど、胴体の一部だけ保温のためか薄い羽毛で覆われていますね。地球では鳥の祖先になる前に絶滅してしまいました。

 コイツが鳥の祖先になっていたら、地球の鳥はみんな羽根じゃなくて膜で飛んでてどいつもこいつもコウモリみたいに気味悪い鳥ばっかりになってたでしょう。絶滅してくれてよかったです。


 荷台に対して横向きにして、羽をロープで引っ張って丸めさせ、なんとか乗せまして、帰ることになりました。ナトラルさんが何度もお礼を言ってくれました。


 プテラノドンは一応ハンターギルドに持ち込んではみたんですが、全くお金にならないそうです。肉はマズくて食べられないし、皮は見た目も悪くて使える部分もありませんで、かといって剥製にするには大きすぎるしで全部家畜の餌にしかならないそうで。持ってこられても困ると言ったとこですか。

 ま、僕はファアルさんから討伐証明もらえれば文句はありません。

 ギルドの掲示板にまだ貼ってあった依頼票にサインしてもらって、ギルドに支払い済の報酬の中から表記通りの金貨五十枚いただきました。


「あの、チーム・ジャスティスってどういう連中なんです?」

 トープルスのギルドマスターに聞いてみます。

「ああ、王都の1級ハンターさ。仕事はできるがカネに汚いので評判悪いな。ムリヤリ仕事を奪ったり手柄を横取りしたり……すっかり悪党さ」

 そりゃ面倒な話ですね。


「ダール」

「こりゃ伯爵様、今回はありがとうございます。腕利きを呼んでいただいて。これでギルドの面目も立つってやつでさあ」

 ギルドマスター、ダールさんと言うんですか。知りませんでした。


「要するにだな、あのチンピラどもが倒せなかった翼竜をこのラクーンヘッドがあっさり落としたもんだから、それで後々面倒になりそうなんだ。お前たちなんとかできんか?」

「ふーむ……」

 ダールさんが腕を組んで頭をひねります。

「王都のハンターギルドに報告はしておきます。とはいっても彼ら大物討伐の常連で実力はあるのは事実ですし、討伐は早いもの勝ちなところは確かにあります。成功報酬の場合は特にね。まあアレは王都でも威張り散らしているようですから、報告したからそれでどうなるってわけでもないでしょうが」


 なるほどね。つまりそのへんのルール整備されてないってことですな。

 僕だって魔物が出たのでその場で駆除なんてこと無かったわけじゃありません。

 ギルドだ依頼だ報酬だとか手続きしてる間に被害が広がっていいわけないです。

 彼らがいきなり魔物に攻撃始めたのを悪いことだとは言い切れません。


「まあ僕らエルフ村から滅多に出ません。あいつらとからむことも今後無いと思いますけどね」

「そうだといいがな。いや、たまにはこっちに来てくれよシン!」

「あっはっは。はいはい」


 君子危うきに近寄らず。今後もなるべくかかわらないようにしていきましょう。

「それじゃあ、僕らはこれで失礼します」

「うーん、やっぱり俺も温泉行きたいよ」

「御領主様でしょ? 我慢我慢」



 せっかくトープルスに来たのです。商人ギルドの商館にも顔を出してみます。

「コメかい。うーん……」

 やっぱりこっちでも取り扱いはありませんか。残念です。

「王都まで行けばあるいはね」

 王都かあ。あんまり寄りたくないけど、どうせ温泉に行く途中ですから寄っていくとしますか。


 王都行きの乗合馬車の席を取りまして、出発です!

 僕らの事、知ってる人もいなくなりましてね、普通に旅の若夫婦って感じです。

 よく整備された街道で、さすが王都のお膝元、要所要所に衛兵の駐屯所がありまして、強盗野盗のたぐいも今回は現れず、順調に宿場町で一泊して、翌日、王都ジュリアール到着。


 国王の暗殺未遂騒ぎの時に一度訪問していますが、あの時はバタバタしてましたのでね、ほとんど何も観ていません。

 せっかくだからいろいろ観光しましょう。

「ずいぶん遠くまで来たって感じするねー」

 サランがとんでもなく大きな街を見回して感嘆します。

 なにかあってもすぐに帰れる距離じゃない。そんなことがちょっと不安なようです。うんわかるよ。旅ってそういう物だからね。


 真っ先に市場に行って、米を探したらありましたねっ!

 5kgぐらいで金貨一枚ですか。すげえ高いっ! でも買うっ!

 五袋買いましたよ。

 僕がメチャメチャ喜んでるのを見てサランが不思議そうです。

 調味料もたくさんありますね。

 ホント言うとカレーライスが作りたいんですが、さすがにカレー粉だのカレールーだのそんなもんは無いです。

 僕は日本ではあれほどたくさん食べていたにもかかわらず、カレーってなにから出来てるのか全く知らないんです。いや、日本人の大部分はそんな感じでしょうね。リンゴとハチミツぐらいしか……いや、それ違うか。

 それにソース、ケチャップ、マヨネーズに相当する物はありますが、醤油、みりんに相当する物はありません。洋食の世界って感じです。

 しょうがないですね。

 せっかくなので知っている香辛料をいっぱい買います。どれも高いですねえ……。

 あと忘れちゃいけない、米を炊くためのお釜。

 適当なものが無いんで、土鍋にしました。土鍋でもお米は上手に炊けます。

 村へのお土産にお酒とかも買い込みまして、マジックバッグが大活躍です。


 サランには美容院に行ってもらって、髪を整えてもらいます。

 いつも僕が切ってあげてますけどね、ちゃんとした職人さんにやってもらったほうがいいでしょう。前から一度、ちゃんとしてあげたかったんです。

 貴族の方も利用するような全身美容のお店ですよ。

 エステみたいなものですかね。たまにはこういうのもいいでしょう。可愛い奥さんに大サービスです。


 僕はその間、中央図書館に行きました。キリフさんの紹介状見せたら普通に入れてくれましたね。

 図書館とは言っても、本屋さんです。館内のみで閲覧できる部屋、貸出してくれる部屋、本を購入できる部屋に分かれています。

 どれも別料金。いちいちお金がかかります。

 購入できる本屋さんについては、無料です。本を販売することで利益が出ますからね。


 あった!

 真新しい恐竜……じゃなくて魔物図鑑! 最新刊です。

 パラパラとめくってみます。ライルスライムの欄が充実してます。僕の書いた報告書がさっそく追記されてるみたいです。これは買っていかないと。

 金貨八枚!

 ……こちらの本は高いですね。皮張りの立派な本で上手に製本されていますので無理も無いですが、印刷技術、製本技術共にまだ完成している世界じゃありません。 一冊一冊が手作りのほぼオーダーメイドと言っていい物。仕方ないか。


 美容院、というかエステサロンにサランを迎えに行くと、すっごい綺麗になってました。金髪の髪はサラサラ。柔らかにカールされて、お肌つるつる。エステすげえ……。こんなにきれいな人を、僕はずっと野暮ったくさせてたわけですか。反省です。


「どう?」

「……綺麗」

「もうっ!」


 その日は、王都でもかなり大きな宿屋に入りまして、でっかい風呂付部屋を借りました。

 サランと二人で並んで、足を延ばして入れるお風呂です。

「見て見てっ!」

「わぁお」

「あちこち脱毛されたり剃られたりしちゃった」

「うわぁお」

「これが(みやこ)の今の流行なんだって。ムダ毛は全部処理するのが淑女のたしなみなんだって。脇の毛も下の毛も全部剃るんだよ。なんかヘン」

「……素敵です」

「……そう? じゃ、これからもそうする?」

「いやあ、僕はサランの自然な綺麗さって大好きだよ。ぽやぽやしてるのも色っぽくて大好き。でも今日は夜更かししたい」

「馬鹿」

 あっはっは。


「ふあー……」

 ぽちゃっ。


「ねえシン」

「ん?」

「考えてること正直に言っていい?」

「うん」

「もう帰りたい」

 あっはっは。僕ら田舎者ですからね。こんな都会は居心地悪いや。


「うん、僕も……」

 ぽちゃっ。

「これだけ大きいお風呂入れたら、もう温泉いかなくても十分な気がしてきた。ファアルさんの屋敷のお風呂も大きかったし」

「あははははっ!」


 実はですねえ僕、プテラノドン見て、子供のころからのあこがれの恐竜、生で見られたってことにすごい満足しちゃって気が抜けちゃったかな。お米も買えたし、恐竜図鑑も買えましたし。


「でもさ」

「うん」

「僕らの家でも、ちゃんとお風呂作ってみようか」

「うん、賛成!」


 大きな桶と、ボイラーですね。

 サープラストで特注できますかね?

 エルフの村まで運んでくるのが大変かな。

 水を汲むのはどうしよう。それに排水。いろいろ実現するには課題がありますな。

 ま、それはあとあと考えるってことで。


 二人で、お風呂でベッドで大暴れして、その夜は贅沢な王都の夜を堪能しました。

 満足です。明日にはもう帰りましょうね!



次回第八章最終回「王都の休日」

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[一言] スカッといかないなぁ
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