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72.結婚一周年


「もうすぐ結婚一周年じゃない?」

「そうだね」とサランがアッサリ。


 エルフは長生きですからね。誕生日を祝うという習慣がありません。

 数百歳まで生きるのに、いちいち誕生日なんて祝ってられっかということですか。

 なので僕もサランに誕生日を聞かれたこともありませんし、僕もサランが何歳なのかも知りません。まあ別にどうでもいいといえばどうでもいいかな。


 でも僕らは新婚ですし、一年無事に仲良く過ごすことができましたので、これはなにか祝いたいですね。

「エルフではそういうときお祝いとかなにかやるの?」

「別にやらない。エルフは長生きだからね」

「うーん……、あっそうだ!」


 ハンターカードを取り出す。

「もうこれ更新時期じゃない!?」

「えっホント?」


 結婚してすぐサープラストに行ってハンター登録しましたのでね、時期が一緒ですよ。

 僕らハンターは銃砲所持許可証をもらってますから、この「更新忘れ」というやつに敏感です。銃砲所持許可の更新は三年に一度、誕生日の一か月前に十一枚もの書類(※1)を全部そろえて提出で、これ一日でも遅れると許可は取り消し、銃は全部処分、救済措置や例外はありません。良くて試験を受けて最初から全部許可の取りなおしで、その間銃を銃砲店にあずかってもらうとかですか。

 もしライフルを逃したら悲惨ですよ。ライフルは散弾銃を十年所持した実績が必要ですから、一度取り消されたらまた散弾銃十年からやり直しです。


 ここは異世界。銃砲の許可はもう関係ないけど、こういうことはちゃんとしておかないと。こちらのハンターも一年ごとの更新ですから。


「今何級だっけ?」

「僕ら2級だよ」

「いつの間に2級になったんだっけ……」

「ほらあのヒドラ獲った時」

「そうだっけ。ハトばっかり獲ってたから2級って実感ないね」

「ないねえ。あっはっは」

 僕ら農家さんの依頼で害獣駆除ばっかりやってますから。

 

「ハンターなんて資格無くなってもさ、また取り直せばいいし、6級からやり直しでも別に不自由ないからさ、サランが面倒だったら別にいいけど」

「うーん、確かにそうだけど」

「でもせっかくだから街に行っていい宿泊まって美味しいものいっぱい食べてくるというのはどう? 結婚一周年のお祝いを兼ねて」

「いいねっそれ!」

 珍しくサランが乗り気です。まあ街に行くたびに絶対厄介ごとに巻き込まれますから、行くの面倒になってきました。


「サランはどこか行きたいところある?」

「……そう言われると。別にないけど」

「僕は温泉にでも入りたい。できればお米も食べたい」

「オコメって?」

「僕のいたところで食べられてた主食。穀物でね。それ探しに行きたいなあ」

「へえー……」


 よしっ温泉とお米!

 久々にサープラストの街に行きます。

 村長さんに報告し、今回は買い出しは無しで、のんびりしてくることになりました。


「行くよ――!」

 ぱし!

 きゅー!

 今日は見送り無しで、朝早くからサランが手綱を鳴らし、川イルカくんがカヌーを引っ張り始めました。





「いらっしゃいませ。御用はなんですか?」

 東門ハンターギルド裏、ハンターギルドの事務所。

 受付がバルさんから若い男の人に変わっています。

 前はバルさんがやってましたか。受付のお姉さんが産休だったとか。


「初めてですね。新しく雇われた方ですか?」

「はい。まだ入って一週間ですので、至らない所がありましたらお許しください。とりあえずこちらの窓口を任されております。トウルと申します。よろしくお願いします」

「ラクーンヘッドのシンとサランです。よろしく。ハンターになって一年になりますので更新をと……」

「たぬき頭!!」


 いや、新人さんにもその名前で通ってるんですか……。

 トウル君、壁に駆け寄って紐をカランカランと引っ張ります!

 何事ですか!


 どどどどどたたたたたた!

「来たか! 遅せえよお前ら!」

 ……ギルドマスターのバッファロー・バルさんが物凄い勢いで階段を降りてきました。もう悪い予感しかしないんですけど。



「二階来い!」

「その前にカードの更新を」

「後でいい!」

「何の用か知りませんが僕らはカードの更新に来ただけですからね。今回は結婚一周年で旅行に来てるだけですから絶対どんな仕事もしませんからね」

「……これだから女房持ちのハンターはめんどくせえ。とにかく話だけでも聞いてくれよ。そうでなきゃ更新させてやんねえぞ」

「じゃ、更新はいいです。また6級からやり直しますから、次に来た時にお願いします。さ、行こうかサラン」

「お前な――――!」

「……はいはい」




 二階でお茶を出されました。こちらも人が増えて女性が出してくれてます。

「トープルスの領主とサープラストの領主の合同依頼だ。お前らが来たらすぐに寄こすようにってな」

「ファアルさんとキリフさんですか。何事ですか?」

「トープルスの農場でワイバーンが出てる。どうしても退治出来ねえ」

「ワイバーンって?」

「……あいかわらずだなシン。ワイバーンってのは翼竜だ」

「そんなの僕じゃ獲れませんよ」

「だから話だけでも聞いてやれよ。伯爵様の依頼なんだからな」

「……しょうがないですね」


 つまり、隣領トープルスの領主、ファアルさんが僕たちに依頼があり、それをサープラストの領主キリフさんに伝えてきたということですね。二人とも僕らの友人ですから、断りにくくなりましたね……。


「お前らそろそろ更新だからもうすぐ来るはずだってことで待ってたんだよ」

「とにかく更新はやってくださいよ。でないとなにも引き受けられません」

「なんでだよ!」

「だって、有効期限切れのカードじゃハンター仕事が引き受けられないじゃないですか」

「ぐぬぬ……。そりゃあそうか。わかった。おいサリー。やってやれ」

 やっぱりゴリ押しには正論で返すのが一番ですわ。


 はい、サリーさんはさっきお茶を出してくれた中年の女性事務員さんで、こちらも初顔合わせです。

「はい、えーと、タヌキ頭さんですね。えーとえーと……」

「タヌキ頭じゃありませんよ『ラクーンヘッド』ですよ」

「え? タヌキ頭ってのはなんでなんですか?」

「アライグマの帽子かぶってましたからね僕ら。それでタヌキ頭って呼ばれるようになっちゃって」

「今日は帽子ないんですか」

「今回は更新だけでハンターの仕事をする予定は無いんで」

「おい!」

 バルさんうるさい。


「えーと、この一年の実績は、ハト駆除、リス、キツネ、コヨーテ、カラス、プレイリードッグ、シカ、クマ、ラバラスワニ、盗賊、ゴブリン、ヒドラ…、ヒドラ!? ワーウルフ!!、ゾンビハト……。新規登録してたった一年でよくぞこれだけ……」

 記録をめくりながらサリーさんが驚いております。


「ああ、それでもこいつらの場合は記録に載せられない大仕事のほうが多いぐらいだ」

「キリフ・ラ・アルタース子爵様とトープルス領主、ファウル・ラス・ハクスバル伯爵の推薦状、こ、こ、こ……国王陛下の感謝状!? 何者なんですこの人たち!?」


「そんなの僕らもらってたんですか」

「ああ、そこに掛けておいたぜ」

 ギルド事務所のカウンターに国王の感謝状が額に入れて飾ってあります。

「……なんで僕らにくれないんですか?」

「お前たちの名前が載ってないからだ。一応うちのギルドあてになってるからな」

 僕らの名前が書いてないのは国王の配慮でしょうね。

 あれ僕らが解決したってことが知られたら、教会に目の敵にされそうです。


「なんでこんな人たちが2級なんですか! もう1級でないとおかしいでしょ! 私たちがどれだけ人材に不足してると思ってるんですか!」

「そんなことはわかってるよ! コイツら昇級してやるって言うとすげえ嫌な顔するんだよ!」

「えっなんでですか?」

「知らねえよ。そいつらに聞いてくれ」

「面倒な仕事を押し付けられるのが嫌だからです」

 そう言うとサリーさんがあきれますねえ。


「……1級になればそれだけでまず依頼料は金貨百枚以下は無いですよ?」

「そんなお金取ってたら農家さんが駆除頼めないじゃないですか。なに言ってるんですか」

「……わかったか? そういう奴らなんだよ」

「……もったいない」


「あの、サリーさんはどちらから来た人なんですか?」

「ああ、サリーは王都のハンターギルドが派遣してくれた新しい事務員さんさ。最近俺らも儲かって来たからな。監査も兼ねてる。お目付け役さね」


 きらり。サリーさんのメガネの奥の目が光ります。

 ああーそうか。きっとこの人有望そうなハンターのスカウトを兼ねてるんですな。


「あなたたち、王都に来てみない?」

 さっそくですか。早すぎます。

「お断りします」

「もっといい仕事があるわよ?」

「僕らエルフ村で暮らしてて、たまにこっちに来るだけですから」

「……それでこれだけの仕事を。ますます欲しくなったわ」

「おいサリー、やめてやれ」

 バルさんが顔をしかめる。


「それができるぐらいならとっくにサープラストに住んでもらってるよ」

「あきらめないわよ」

「諦めないでどうにかなる話じゃないですよ」

「国王陛下の要請ではどうかしら? 王都ハンターギルドの推薦で」

「そういうのは自国の国民なら通用するかもしれませんが、僕らはここの国民ではありませんので」

「それは国王陛下に対する不敬と受け取ってもよろしいかしら?」

「好きなようにお受け取り下さい」


 僕らが国王暗殺計画を止めたのはいくらなんでも伝わっているはずです。

 僕らを利用したいのならとっくになにかあるはずだと思いますね。


「サリー、お前なあ……。そんなことに勝手に陛下の名前を出したら王都ハンターギルドこそが不敬罪になるだろが」

「……。冗談よ。陛下の名で動くような小物かどうか見てみたかっただけ」

「そいつらは国王陛下の命の恩人だぜ? 手を出したらお前がヤケドで済まなくなるぞ。やめとけやめとけ」


 ……僕ら国王陛下に会ったことも無いんですけどね。

 まあ、むこうでもまだ様子見してるってとこでしょうか。

 いつか変なことにならなければいいと思いますが。


「……更新手続きお願いします」

「あ、はいはい」

「2級ですからね? 6級に落としてもらってもいいですけどね。十分食べていけますので」

「ちっ」


 舌打ちはやめてくださいサリーさん。勝手に1級とかで発行されたら困ります。


「はい、新しいカードです。一年間有効です。手数料は二人で金貨四枚です。どこのハンターギルドでも更新はできますが、一年間ギルドへの貢献が無いと抹消されますのでお気を付けください。自分のランクにふさわしい仕事をしていないと次回更新の際は降格される場合がありますので2級相当の依頼を一度は受けることをお勧めします」


 新しいカード作ってもらえました。いろいろスタンプ押されて汚かったカードがまっさらで新しくなりましたね。やっぱりこっちのほうが気持ちいいです。

 一応2級ですね。ヘタに小細工されてなくてよかったです。


「はい、ありがとうございます。それじゃ」

「おい!」

「キリフ様に話を聞きに行けばいいんでしょ?」

「……頼むわ。ワイバーンなら十分2級の仕事になる。やっといたほうがいいぞ」

「はいはい」




――――作者注釈――――


※1.銃砲所持許可更新に必要な書類


 ・銃砲所持許可更申請書

 ・履歴書

 ・同居家族書

 ・使用実績報告書

 ・医師の診断書

 ・身分証明書(役場発行)

 ・経験者講習修了証明書

 ・三か月以内に撮影した写真2枚

 ・銃砲・空気銃所持許可証

 ・身辺調査表(猟銃等を所持する友人・仕事上の友人・その他の友人・親交ある隣人等)

 ・技能講習終了証(空気銃または害獣駆除等により免除されている場合を除く)

 ・害獣駆除従事者証(害獣駆除により技能講習終了証を免除されている場合)


   以上である。


次回「翼竜」

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