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北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた  作者: ジュピタースタジオ
第一章 本物のハンター、異世界に行く
7/108

7.異世界には銃刀法も鳥獣法も無い


 さて、カラスとアライグマ(※1)とキツネです。

 これはやっぱり散弾だよな。

「レミントン ショットシェル 12ゲージ BB」

 どごっ。

 うん、散弾用の弾は25発で一箱ずつ売ってるんだよね。

 15ドル。

 BB弾は4.5mmの散弾がバラ玉で入ってます。


 弾が買えるなら安心ですね。これで換え銃身に手が出せます。

「換え銃身、レミントン・モデル870、12ゲージ26インチスムースボアバレル」

 どこっ。


 不思議なんだけどねえ、マジックバッグ、本当に底が無いというか、長い物でもちゃんと入ってるね。

 引っ張り出す……。

 これ、僕のだ。


 僕がガンロッカーに入れておいた換え銃身だ!

 だってほらこの銃身が入っている袋覚えがあるし!

 今回は現金が減ってないです。

 ってことはタダだ。

 生前持っていたものがそのまんま取り寄せられたんだ!

 すごい機能……。

 銃口を見ると、全絞り(フルチョーク)がついてる。(※2)

 30mでBB弾を撃つと50cmぐらいに広がるセッティングです。


 いや、自分のガンロッカーから取り寄せられるんだったら……。


「RWS ダイアナ M52」

 うおお――――!

 もう一つの僕の愛銃。ダイアナだ!


 ダイアナはドイツ製の空気銃。スプリングピストン方式です。

 空気銃とは言ってもサバゲーで使うエアソフトガンとは別物だよ。

 狩猟用の本物のエアガン。弾丸は直径4.5mmの鉛弾。カラスの首ぐらいなら貫通する威力があります。有効射程距離は40m。

 僕はこの空気銃でベンチレストなら50mで2.5cmのグルーピングが出せるのになんでサボットスラグだと同じベンチレストで50mで5cmになっちゃうんだろうね。サボットの精度がそれぐらいしかないってことなんだと、僕は思ってるけどね。


 これもおじいちゃんの遺品。

 カラス駆除やハト駆除にはもっぱらこれを使ってました。

 散弾銃を使うまでもない獲物用だね。弾代が一発7円ぐらいだから安いんです。

 火薬を使った装薬銃よりずっと音は小さいし、取り扱いも簡単です。


 今はこれ人気ないんだよね。ほら空気ポンプで200気圧まで内蔵タンクに貯めて、その圧力で撃ち出すプリチャージ式(※3)って、強力な空気銃が今の主流。

 そっちだと射程距離は100m近い……。

 でも、こういう物を使うのが、おじいちゃんらしいよね。


 スプリングとは言ってもエアソフトガンよりずっと強力なバネを使うから人間の力では圧縮できません。だから長いレバーをテコの要領で折り曲げて強力なスプリングを圧縮します。空気圧のピストンで弾を発射するというとてもシンプルな構造をしていてものすごく頑丈です。鳥撃ち用なので12倍のでっかくて重いスコープがついてる。総重量は4.5kg……。

 M870といいダイアナといい、まるでおじいちゃんは僕が異世界で猟師するのを予測してたようなラインナップだよ……。


「サラン、カラスってどうやって獲ってたの?」

 うん、最近は呼び捨てです。

 いいかげん「さん」付けはやめてくれと怒られました。


「カラスはねえ獲れないよ。追い払うだけ……。案山子(かかし)とか鏑矢(かぶらや)で」

 ああやっぱり?

 カラスはねえ獲るのが難しいんです。日本でもそうでした。

 なにしろ頭がいいからねえ。射程距離外にすぐ逃げます。


 カラスがたかって大変だと言うヤギ牧場に行って、ホロ付き荷馬車の中に隠れて、バシュッ、バシュッ、バシュッ!

 次々に十羽ほど落としました。

 百羽近いカラスが仲間が次々にやられていくことで危機を察知し、ガア――ガア――と警戒音を発しながら大乱舞しております。今度は散弾銃に持ち替えて、空中を飛ぶカラスに対空砲撃!

 ドウン! ドウン! ドウン!

 連射しまくってさらに五羽。

 合計十五羽を取りました。さすがに全部逃げちゃった。


「くうきじゅうも凄いけど、てっぽうも凄いねえ! よく飛んでるものに当たるねえ!」

 サランもびっくりさ。矢で飛んでいる鳥なんて当てられませんもんね。

 散弾はちっちゃい弾が百発以上一気に広がりながら飛んでくるからね。

 これはカラスもひとたまりもないさ。


「これをぶら下げておけばカラスが寄り付かなくなりますから」

 そう言ってカラスの死体をヤギ農家さんに渡しておきます。

 近隣の農家さんにも配っておいてあげてくださいね。




「アライグマとかキツネってさ、夜来るんだよね」

 ……夜行性だからね。そこは鹿も同じだけど。

 アライグマって北米の動物で、日本にいなかったんだけど、アニメのせいで個人で飼おうとするやつが現実のアライグマの凶暴さに放してしまって、野生化して日本の北海道でも増えているから僕も見たことがある。

 箱罠の中に捕まっていたっけ。

 ガーガー唸って、人間に噛みつこうとします。めちゃめちゃ凶暴です。危なくて箱罠から出せないんで網の隙間から銃口突っ込んで脳天に空気銃撃ち込んで止め刺したことありますよ。全くかわいくないですからね。

 

 日本では日没後の発砲は銃刀法違反です。

 絶対やったらいけません。

 でもここは異世界です。お構いなしですな。


 満月の夜、アライグマが出るという畑にサランと一緒に待ち構えます。

 のそのそとやってきました!

 これを空気銃で……。

 スコープ見えん……。


「(サラン……頼む。)」

「(了解……。)」


 サランが僕のマグライトでぱっと照らす。一瞬動きが止まるアライグマたち。

 そこへ! バシュッ!

 一匹当たりましたけど、当たったのに全員逃げた!

 ……そりゃそうか。いくらなんでもスプリングの4.5ミリじゃアライグマには威力不足ですわ。キツネもね、この空気銃では獲れたこと無いです。

 空気銃は50メートルで威力は70%、70メートル飛ぶと半分になってしまいます。

 スプリングのエアライフルは鳥用ですね……。


 翌朝サランと二人で欠伸します。徹夜したけど一匹も獲れなかった……。


「やめやめやめ! やっぱりアライグマにはトラばさみだよ!」

 日本で使用を禁止されているトラばさみの罠。でももちろんここは異世界、おかまいなしです。

 箱罠はね、ダメです。滅多に取れません。

 目の前に美味しい野菜や果物たちが並んでいるのになんでわざわざ箱罠の中のエサに誘われるんです? ありえませんて。箱罠使うならまず畑に入れないように電柵で囲わないと。

 野生動物は「もったいない」という感覚がありません。野菜の美味しい所だけを一口ずつかじっていきます。一匹が満腹になるまで何十個という野菜がダメになります。それが何匹も、毎晩来たらそれだけで野菜畑が全滅です。

 トラばさみが禁止になった理由は、あれ踏むだけでかかるし、かかった動物は例外なく足をケガするからです。猫や犬がかかったら大変なんで、役人が禁止にしたがるんです。箱罠だったらケガさせることなく捕獲できて、犬猫だったら逃がせるから安全なわなだと言えるんですが、あんなもんよほど運が無いと獲れませんね。


 一個40ドルか……。アメリカでは禁止されてないんだ……。

 十個買うか……。


 これを大量に仕掛けましたらねえ、一晩二匹。

 一週間で九匹も捕まえましたよ。キツネも一匹。

 捕まっているアライグマには空気銃で脳天に止め差します。

 アライグマやキツネ持っていったらみんな喜んだねえ。

 毛皮にするってさ。


 一週間ぐらいしたらね、子供たちがみんなアライグマの毛皮の帽子かぶってました。

 帽子の後ろにね、あのふさふさのシマシマしっぽがぶらぶらしてるんですよ。

 かわいいですね!





「さて、サランさん」

「はい」


 サランの家で、改まって向かい合って座ります。

 いやもう僕の家でもありますけどね。

 居候ですけどね。


「僕はエルフは狩猟民族だと思っていたのですが、このような狩りをする方は他にはいないのですか?」

「最近はあんまり……。もっぱら私がやってる」

「だから手が足りずに村を怖がらない野生動物が増えて被害が拡大してるんですね」

「そうだねえ」

 なんか日本の農村の事情を思い出します。おんなじですね。


「さて、サランさん」

「……さん付けやめて」

「ところで、僕たちの収入はどうなっているのでしょうか?」


 エルフ村に来て二週間。すでに日本円で十万円ぐらい使っちゃってる。

 弾代、罠代、その他狩猟グッズ。

 大したことないようで、現金収入が無い現在、これはゆくゆくの破綻が目に見えてます。


「農家さんたちから野菜や果物をたくさん分けてもらってる」

「うん、最近食卓がとても豪華です。サランの料理も大変美味しいし、僕はとても満足しています。ありがとうございます」

「どういたしまして」


 ニコニコしてる。

 うん、ダメだ。サランはなんにも考えていないな。

「ところで、この村には人間の商人が来るのですよね」

「はい」

「商人はどのようなものを買ってくれますか?」

「毛皮とか、角とか。木の実、ヤギのチーズ」

「うーん……」


 以前、鹿の角をマジックバックに突っ込んでみた。

 何も買えなかった。どうやら物々交換はNGらしい。

「現金収入が欲しいんですよね……」

「お金かい」

「そう。今の生活はお金はいらない。十分幸せ。それはわかります」

「うん」

「でも、鉄砲の弾を買うには、お金がいるんですよね……」

「そうなんだ……」

「どうしましょう」

「……」


 エルフの人たちと言うのは、お金儲けに全く興味がない。

 それはしょうがない。

 でも、価値あるものをひどく安く買いたたかれている可能性はかなりある。

 なにしろ塩と毛皮を交換と言うぐらいだからね。


「……一度、人間の街に行ってみる必要があるかもしれませんね」

「……村長に相談してみよっか」



――――作者注釈――――

※1.アライグマ

 米国の子供たちはあらいぐまマラスカルを読んで「アライグマは野性味が強く絶対にペットにできない」と学ぶ。だが日本の視聴者はアニメを見て「成長して手に負えなくなったら山に返す」と間違って学んでしまい、全国でのアライグマ農業被害が広がってしまった。現在アライグマの飼育は鳥獣法で禁止されているが、あのアニメが「アライグマ回虫症に感染して主人公が死ぬ」という最終回にしてくれていれば昨今のアライグマ農業被害は無かったのではないかと悔やまれる。現在北海道のアライグマ出没マップは大雪山の山頂をわずかに残し真っ赤であり、撲滅は絶望的な状況である。

 昨今のアライグマ被害の状況を見ればこれも再放送が不可能なアニメの一つかもしれない。


※2.チョーク

 絞り。銃身の先端近くで少し直径が小さくなるように絞ってある。散弾の弾の散らばり具合をこれで調整する。通常、銃口にねじ込んである円筒形のパーツを交換してセッティングする。当然絞り量が大きいほうが弾の散らばりは少なくなる。

 最近、直径の大きな鉛散弾の使用が禁止され鉄散弾や合金散弾に代られているが、旧式銃だと鉄弾を撃つと破損する場合があるので対応しているかメーカーに確認が必要である。


※3.プリチャージ空気銃

 高圧の空気ボンベを内蔵し、あらかじめ外付けのポンプにより200気圧もの圧縮空気を注入して、その圧縮空気を放出して撃ち出す方式の空気銃。パワーが大きく鳥だけでなく、キツネ、タヌキ、アライグマなどの四つ足動物まで獲ることができ、射程距離も100メートル近い現在最も人気のある空気銃。空気ボンベに余裕があるため一度チャージすると数十発撃てるので、弾倉を装備し連発できるタイプが多い。精密機械なため価格は三十万円以上とヘタな散弾銃やライフルよりも高価である。

 ここ数年の間に6.35mm(25口径)や7.62mm(30口径)の大口径プリチャージ空気銃が製品化されており、銃刀法によりライフルでの射撃が禁止されているキツネ、タヌキ、アライグマの猟やわなにかかったシカの止め差しで使用される例が増えている。

 立法された当時から比べれば桁違いに高性能、強力になった空気銃は、何か事故か犯罪があれば直ちに規制されてしまう可能性が非常に高い。くれぐれも悪用禁止。

次回「エルフ村のおだやかな日々」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 北海道シリーズ 大好きです。 何回も読みなおしています。 [一言] 7.62mmは30口径では…
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