66.僕の新しい能力(なお連載66話目にしてやっと)
無事にトープルスに戻りますと、ファアルさんとキリフさんが待ち構えていましたね。勇者教会の司祭さんもです。
「なんとかやっつけることができたぜ!」
バーティールさんが親指を立てると、「矢はどうでした!!」と司祭さんが勢い込んで聞いてきます。
心配なのはそっちですか。
「バッチリだ! さすがは勇者教会だぜ!」
おおおお――――!
司祭さん、教会関係者も大喜びです。これで教会の株が上がるという物でしょう。大司教さんが去年、連続貴族暗殺事件、国王暗殺未遂事件で縛り首になり、教会の権威が地に落ちてしまっていますのでね、まあこれは嬉しいかもしれませんね。
面倒になると面倒ですのでね、面倒が無いように、僕のことは内緒にして、教会の矢でとどめを刺したってことにするようにみんなに頼んでおきました。
「相変わらずだなあシンは」とバーティールさんは言いましたが、正直怖かったです。またこんなことやらされるのはゴメンです。
銀のショットシェル。残り13発。
いざという時のために大切に取っておきましょう。
「残りの矢は?」
「はい」
サランが5本作った矢のうちの使わなかった2本を渡すと、司祭さんが大喜びです。「教会の宝にします!」とか言ってます。
あの……、それ元々サランの矢なんだから、矢代をいただきたいんですが。
ま、本物の女神様の祝福がかかっていますからねそれ。教会の魔除けになるでしょうね。
日本の神社でも魔除けの破魔矢とか売ってますから、教会の新しい商売になるかもしれません。
サランが教会から金貨10枚もらってました。
高いんだか安いんだか。
ファアルさんのお屋敷でみんなでご馳走いただいてお祝いし、翌日、キリフさんを護衛してみんなでサープラストに帰還します。
途中、まだ燃えカスが残ってる街道のワーウルフを燃やした跡をみて、「よくやってくれたよサランさん」とキリフさんが礼を言います。
「本当はね、旦那が倒してくれたの」
あっさりとサランが白状します。いやっそれ絶対あとで厄介になるからね!
「シン、本当のこと言わなきゃダメ。またあんなのが出た時に、みんなで教会の矢で倒せるなんて本気で思ってたら、今度こそ死人が出るよ。いいのそれでも?」
「そうか……。サランはそこまで考えているんだね」
「シンが倒したのかい? アレを?!」
「サランの矢と、僕の鉄砲でです。バーティールさんが盾で防いでくれていなかったらみんなやられてました。僕は全員で倒したと思っています」
「シンは……アレをどうやって倒したのかは教えてくれないのかい?」
「あーもうイライラすんな! 全部正直に話しちまえよ!」
話を聞いていたバーティールさんが御者台から声をかけます。
「異教徒は火あぶりにされたりしますからねえ」
「そんなことは僕が許さない」
「勇者と一緒だった魔女さんが火あぶりにされたとか」
「あれは特別さ」
「つまりその辺は領主や教会の匙加減一つ」
「……そうだ」
「じゃあダメです」
「シンんんんんんん――――!!」
そりゃあそうだよね。あっはっは。
「あれを倒せたのはですね」
「うん」
「……僕の女神様の気まぐれですね」
「ええええ……」
「ま、僕にもいろいろ話せない秘密があるってことで」
「用心深いなあシンは。わかったよ」
ワーウルフが暴れてましたのでね、街道には野盗も魔物も出ずに無事にサープラスト到着。
「領主である僕から今回の報酬。一人金貨20枚ずつ。ファアルから預かってる分と合わせて」
バリステス大喜びです。
「こっちは商人ギルドからだ。街道の安全確認できてからになるが、シンとサランには先にやっとくわ。どうせお前らもう帰るだろ」
ハンターのギルドマスターのバルさんからこちらは一人金貨10枚。僕とサランの二人で全部で金貨60枚の儲けになりました。
「やっぱりシンと一緒に仕事すると儲かるよな! また何かあったら声かけてくれ!」
「バーティールさんも調子いいですねまったく……。今回僕ら一歩間違えたら死んでましたよホントに」
「それでもさ」
ほんとヤクザな商売ですねハンターって。一攫千金ばかり狙ってると長生きできませんよ?
今回は考えさせられることがたくさんありました。
みんなに守られて銃に頼っている自分が情けない。
敵も順調に強くなっているような気がします。
カンベンして下さいよナノテスさん……。
「ねえナノテスさん」
サランがお風呂に入っているうちに宿のベランダで通信します。
買い出しが全然終わってませんので、今日は宿屋さんに一泊です。
「今度あんなのが出てきたら、僕じゃあもうどうしようもありません。なんとかなりませんか?」
”なんとかって言っても、私が出してるわけじゃありませんし”
「ほんとですよねそれ」
”ホントですってば!”
「魔王のせいでいろいろ魔物が増えてるとか無いですよね」
”ないです”
「ならいいんですけど……」
”でもこのままじゃあ中島さん死んじゃいますよね”
「おおおおおいいいいい!」
”うーん、この先闘っていくのはちょっときついかも……”
「僕嫁さんいるんですよサラン守ってサラン食わしてサランと一緒に暮らすんですなんでそんなのと闘っていかなきゃいけないんですか!」
”……なんか爆発してもらったほうがいいような気がしてきました”
そんなあ……。
”……じゃあですね、マジックバッグに加護かけてあげます”
「どんな?」
”マジックバッグに入れた武器や、取り出した武器に私の祝福がかかるようにしておきましょう”
「それってマジックバッグで買った弾にも自動的にナノテスさんの祝福を与えてくれるってことですか?」
”はい。あと、奥さんの矢とかも一度バッグに入れてもらえば、取り出したときに祝福がかかりますから、武器ならなんでも”
「あ……ありがとうございます。それって鉛の弾でも銅の弾でもいいんですか?」
”はい。弾だけじゃなく鉄砲にもかかりますから、後から銀に付加するより強力にかかりますんで”
「そりゃあよかった……」
”よく考えたら他の世界でもよくある聖剣とかも加護かかってるんですけどあれも鉄ですもんね。銀が祝福かかりやすいって迷信かもしれませんね”
……いや女神様が迷信信じてどうすんですか。そういうの正すのもあなたの仕事でしょ?
うん、それなら大丈夫かも。
僕、ここに来て初めて新しい能力もらいました。
今までずーっと、最初にもらった能力だけでよくここまでやってきました僕。
「ほんとありがとうございます」
”今後マジックバッグでのお買い物は値段が五割増しになります”
「おいいいいいい!」
なんで女神様がマージン取るのお~~~~!!
”あははは! 冗談です”
「ああああ……。心臓に悪いです」
”でもこれで、ゾンビも大丈夫ですね。じゃ、通信終わり!”
「えっゾンビってなに待って待って待ってえええええ~~~~!!!!」
「なに騒いでんのシン。お風呂あがったよ」
……次はゾンビなんですか。
バイオハザードですか。
ホントにこの世界守っていく気があるんですかナノテスさん……。
僕バイオハザードって2しかやったこと無いですからね?
小学生の時友達の家でやった記憶しかないですからね?
むぎゅっ。
「ど、どしたのシン?」
「お風呂、一緒に入って」
初めてワーウルフを撃った時、血が出ませんでした。
ワーウルフの持つ何かの能力を突き破れなかったことになります。
でも今回はちゃんと通用しました。物凄いタフでしたが。
ショットガンの素の攻撃力が通って、あのダメージだったということになります。
今後魔物? 魔人? が出現したら、たとえナノテスさんの祝福があっても、もっと強力な奴をぶつけないと倒せないってことになるのかな。
考えてもしょうがないですね。
また出会えばわかるかもしれないけど、もう出会いたくありません。
でもまた、出会うことになるんでしょうね。
ここはそういう世界です。
……。
「……元気になーれ。元気になーれ……」
バスタブの中でサランが後ろから手を回して、耳元でささやいてくれます。
そうだね。元気出さなきゃ。
あっちょっ。
――――――――――第六章 END――――――――――
次回、第七章「ゾンビとショットガンと僕」