62.真冬のハンター
エルフの村、コポリでは冬になりました。
みんな、あんまり外出などしないでのんびり春まで家の中で過ごします。
雪が少なくて積もらないんですけど、ちゃんと毎日朝には氷点下です。
寒い――――!
冬の間、みんな毛皮の服を着ています。
贅沢ですね! 高級品ですよ!
僕とサランは、マジックバッグで買ったちょっといい防寒着を着て、冬の間もハンティングです。靴もいいもの揃えました。
バーンッ!
バーンッ!
ひゅるるるるっぼちゃ!
カモとかの水鳥を散弾銃で落とします。
何羽か獲ったら、カヌーを漕ぎだして回収。
「飛んでる鳥を獲れるって、凄いねえ!」
サランがいつもそんなことを言ってくれます。
それまでは水面の水鳥に矢を放つぐらいしかやってなかったそうで。
冬の間の湖は水鳥たちの楽園ですな。
でも最近はさすがに用心深くなってきました。
猟師としてはねえ邪道ですけど、22LRの小口径ライフルとかも使ってみましょうかね。
プリチャージの空気銃と言うのも、いいかもしれません。
またお金がかかるなあ……。
まあ、散弾銃でカモを獲る、というのは、スポーツハンティングですね。
娯楽です。西洋では狩りはスポーツですから。
散弾銃で撃ち落とすのが王道、まだ飛んでない鳥を撃つのは邪道なんですよね。
僕らにとっては冬の間の貴重なタンパク源です。手段なんてどうでもいいような気がしますが、そこは紳士のスポーツですから。
昭和天皇が皇太子時代に欧州を歴訪したときに、ベルギー王室からFNブローニングオート5を贈呈されました。FN社はベルギーの銃器メーカー。オート5は世界初の自動式5連発で当時の最新式散弾銃ですよね。それを持って次の訪問国、英国で、国王ジョージ五世とカモ撃ちに出かけた皇太子様は、国王に「狩猟はスポーツです。二発撃って逃げられたらそれは鳥の勝ちなのです」と諭され、水平二連銃を贈られたというエピソードがあります。
おじいちゃんに「散弾銃の弾倉、二発って少ないよ」と文句を言った時にこの話をされて怒られましたね。二発撃ってあたらないカモが三発目撃ってなんであたるんだ。無駄弾だってね。
僕もその教えを守って、いつも二発で勝負してます。
ライフルも似たようなもんですね。最初の一発が当てられないハンターに、銃声に驚いて走って逃げるシカに二発目、三発目がなんで当たるんだってやつです。狩猟用ライフルが装弾数や連射性能が全然重視されていないのはまあそういう理由で、一人でも多くの敵を倒せという軍用銃と、一頭獲れたら今日はおしまい、という猟銃は、全く違う銃と言うことができます。
散弾は鉛玉ではなく、スチール弾を使います。環境にも配慮しないとね。
ちょっと高いんですよね……。素材としては鉛より鉄のほうが安いと思うんですが、丸く加工するのが鉛よりお金がかかるということですかね。
でも、これ獲ったら村のみんなに配るんですから、鉛が入ってたらいろいろマズいです。鉄だったら、飲み込んじゃっても害はないですから。
ちなみにレミントン・スポーツマン・ハイスピードスチールロード 1・1/4ozsを使ってます。装弾のパッケージにカモの写真が使われていましてね、いかにもカモ専用弾って感じがしますね。
鉄弾は鉛弾と違って硬いのでね、使い方を間違えると銃を壊してしまうことがあります。その点レミントンの純正弾ならなんとなく安心です。
羽根をむしって、羽毛をわんさかため込んでいます。
これも羽根布団にしたりできますから。
あとは肉を農家さんにもっていくと喜んでジャガイモとか薪とかと交換してくれますよ。もちろん、僕らの食卓も飾ってくれます。
サランがローストダックにしてくれたり、鴨鍋にしてくれたりと冬のご馳走です。
週に一度は山に踏み入って、シカを獲ります。
一頭だけね。サランが背負ってくれます。
これも村に帰ればみんなで山分けです。冬の間は干し肉とかソーセージとかハムとか保存食ばかりのなかでたまに食べられるお肉ということになりますね。
ライフルを使うようになってから楽に取れるようになりました。
300mでも当てられますから。見つけてしまいさえすればこっちのもんです。
冬の間はクマさんが冬眠してますので、怖いのはオオカミぐらいです。まあ、最近は僕らを見ると逃げていきますが。あっはっは。
余った部位の肉は、すっかり湖の主と化した川イルカくんに投げてやると喜んでキャッチしております。水、冷たいのに元気だよね――。
一日の仕事が終わったら、薪を燃やして暖炉で部屋の中をぽかぽかにして、お湯も沸かし、木で作った大きなタライに裸で座りましてね、上からサランにお湯をかけてもらいます。シャワーと言いますか風呂と言いますか……。
冬の間は湖で水浴したりできませんからね。
「熱くない?」
「ちょうどいい」
じゃぶじゃぶじゃぶ。髪を洗って体をこすって、手早く体を洗います。
終わったらサランと交代。
今度は僕がサランにお湯をかけます。
濡れたサランは色っぽくて綺麗ですよ。ほんとに素敵な嫁さんです。
「髪の毛切っちゃおうかな。めんどくさくなってきた」
髪を拭きながらそんなことを言います。腰ぐらいまであるロングヘアですからね。
「うん、似合うと思うよ」
「ホント? シン、切ってくれる?」
あーうん、どうしようかな。
サランはいつも僕が自分で自分の髪を切ってるのを見てますからね。
僕や僕の兄弟は床屋に行ったことがありません。
いつも母親が切ってくれてました。見よう見まねで自分でもできるようになってます。
母は自分だけはしっかり美容院に行くんですよね。
なんか納得いきませんが、それが女というものなのでしょう。
もちろんエルフの村には床屋なんてありませんから家族同士でお互いの髪を切り合うというのは普通の光景です。
女の人の髪かあ。いつもはサランも自分で適当に切ってます。
「後で文句言わないでよ?」
「はいはい。シンがいいと思うようにやってみて」
サランを座らせて、首にシーツを巻きつけまして、切りすぎないように、ハサミで気を付けながらやっていきます。
「これぐらい?」
「もうちょっと」
少し切っては、手鏡で確認してもらいます。
一時間ぐらい四苦八苦して、腰まであった髪を背中ぐらいに。ボリュームがあった髪をすき刈りしてちょっと軽めにできました。ハサミを髪に対して横じゃなくて縦に入れるのがコツですね。うん、なかなかよくできました。
「頭軽ーい!」
ぶんぶんぶんっ、頭を振って喜んでます。うん、似合う。
長く三つ編みにしていた髪形が、少し短くなって普通に首筋の後ろでリボンで縛る程度でまとまるようになった印象です。グッジョブ僕。
「今度街に行ったら、ちゃんと髪結いさんでやってもらおうね」
「いいねそれ。楽しみ」
「はい、もう一度お風呂」
「ええええ――っ」
「切った髪流さないとちくちくするよ?」
「はあい」
サランをお風呂に入れ直しです。
いろっぽいです。素敵です。女の人はほんと髪形が変わるとまた新鮮です。
二人でお風呂した後は、どうしてもベッドで大暴れになっちゃいますね。
新婚ですから。
毎日、そんなふうに、僕らは村でプロのハンターとしてやっていけてるわけで。
冬でも楽しく、暮らせているわけでして。
そんなこんなで春が来ました。
水鳥の羽毛が大量に貯まりましたのでね、そろそろ羽根布団を何枚か作れそうです。
毛皮も大量に集まりましたし、王都に買い出しに行きましょうかね。
今回も、いろんな買い出しリストを村人から預かりまして、お金と交換できる帽子とかの毛皮製品やハムやソーセージを預かって、久々に川イルカくんと湖に漕ぎ出します。
「じゃあ、行ってくる」
「気を付けてねー!」
みんなに見送られて、出発です!
「ひっさびさに見るなあお前ら……」
四か月ぶりぐらいでしょうかねハンターギルドに来たのは。
買い取りカウンターで大量に物を持ち込んで買い取ってもらっておりますと、ギルドマスターのバルさんが顔を出して嫌味を言います。
エルフ産の毛皮の帽子大人気ですよ。どれも金貨三枚で買ってもらえます。
今回の売り上げも全部で金貨二百枚以上になりましたね。
「しょうがないでしょ冬の間川を下って来るなんてできませんもん」
「お前らもうこの街に住んでくれよ」
「この辺じゃあ狩りだけで暮らしていけませんよ。そんなに獲物いないし」
「ハンターの仕事だったらいくらでもあるぜ」
「イヤですって。僕らはハンターじゃなくて、狩人ですから」
「それだけの腕がありながら、もったいねえんだよ……」
「街に住むのはお金がかかりすぎます。僕らはエルフの村でのんべんだらりと暮らしたいんですよ」
「お前らホント使えるのに使えねえ」
バルさんが苦笑いします。
「実はお前らにどうしても頼みたい仕事があってな」
「イヤですよ。買い出し済ませたらすぐに帰ります」
「頼むからよ! 話だけでも聞いてくれよ!」
「まったく……どういう話ですか」
スポーツハンティングの話で、昭和天皇のエピソードを追加しました。
次回「オオカミ男とかどういうオカルトですか」