表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/108

60.バレット ※


 夜が明けます。

 僕とサランはオペラハウスの屋上で監視を続けます。


 商人ギルド商工会館。

 こちらは既に警備済み。

 怪しい奴がいたらすぐにとっ捕まえることになってます。


 バルドラート公爵様のお屋敷。

 こちらも公爵様の全面協力で猫の子一匹通さない警備体制が屋敷にとられています。

 そして僕らの担当、オペラハウス。


 教会の時計塔が見えます。

 距離150m。僕の一番得意な距離です。愛用のレミントンM700・308ウィンチェスターはこの距離でゼロセット済です。


 あと六時間。

「おなかすいた」

「これ食べて」

 マジックバッグで携帯食のチョコレートバーを購入して、二人で食べます。

「おいし――――!」

 サラン大喜び。

「特別だからね」

「もっと食わせろ」

「ダメ」


挿絵(By みてみん)



 十二時まで、あと一時間。

 そろそろ、王宮に大司教が到着する頃でしょうか。十二時から大司教を招いての昼食会。二時から諮問(しもん)委員会です。



「(来た来た来た――――!)」

 サランが大興奮して僕を突っつきます。

 僕らはオペラハウスの上の大看板に穴を空けて教会の時計塔を眺めていました。

 時計塔の屋根の天窓が開いて、男が出てきました。

 ばかでっかいライフルを引っ張り上げます。

 対物ライフルです!

 黒づくめの服着て……。

 案外若いです。二十代? 僕とあまり変わりません。

 どこからどう見ても日本人です。

 テロリスト風にニットの帽子なんかかぶっちゃって。(※1)

 自分の耳に耳栓を入れました。

 僕らもそうします。


 自分が狙われているなんてまったく思っていないんでしょうね。

 周りを警戒する様子はまったくありません。

 僕もマットレスの上にプローンで伏せて、ビーンズバッグの上に手を載せ、そして、M700の先台を置いてボルトを操作し、薬室に弾を込めます。

 男、腕時計をちらり。

 時計塔の上にいるんじゃ、時間わかりませんものね。

 対物ライフルを置いて、その後ろで座ってリラックスしてますね。

 こちらからは時計塔が丸見え。


 いままでの行動パターンから、十二時の鐘に合わせて試射(※2)をし、スコープを合わせるはずです。そして三時の御前会議で国王の後頭部を狙撃。

 ものすごいでっかい立派なスコープが付いてます。

 五分前。


 男がライフルの後ろに寝て、プローンでスコープを覗きます。

 バイポットが付いてますね。左手は肩の下に入れて、銃床を上下左右にコントロールするやり方ですか。

 すっとトリガーに手をかけて、いよいよ試射ですね。

 僕は対物ライフルで狙いをつける男の真横150mから……。


「(一分前)」

 サランがそっと声をかけます。

 すっと引き金を手前にまっすぐ引き……。


 ドォ――――ン!!


 ドッゴォオオオオ――――――ン!!!

 一瞬遅れて対物ライフルが暴発しました!

 スコープで見ると、対物ライフルの上のでっかいスコープが引きちぎれております。狙い通り!

「命中!」

 サランの歓声が上がります。


 男、目を押さえて暴れております! 反射的に引き金を引いてしまったんですね。そのせいで暴発ですか。弾はどこに飛んで行ったんだかわかんないです。ケガ人とかでなければいいんですが。


 覗き込んでいた大口径の大型スコープが真横から撃たれたんです。

 中のガラスが飛び散って、男の目に刺さりましたか。

 射撃の際は、アイプロテクターを忘れずに。


 対物ライフル、男に蹴られて、ずるずると屋根を滑り、転がり落ちてゆきます。

 スコープ無しで700mが当たるわけもありません。もう大丈夫ですね。

 下を眺めると、近衛隊の皆さんが大聖堂に一斉に突入しております。

 うわああああ――――!

 おおー、凄い凄い。


 ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……


 十二時になった時計塔の鐘が鳴ります。

 教会は大混乱ですね。

 立ちふさがる僧服のみなさんが次々に近衛隊に吹き飛ばされております。

 相手になるわけありませんね。

 近衛隊が時計塔に侵入開始しました。


 男、顔を血まみれにして、ウロウロしています。

 対物ライフルは屋根から落ちちゃったよ。もうどうにもならないよ。

 懐から拳銃を引っ張り出しました。

 あれはマズいかな。

 チャキッ!

 ボルトを操作して、男を狙います。


 ドォ――――ン!!


 男の手に7.62mmNATO弾が着弾して拳銃が吹っ飛びました。

 カラカラカラ~~~~~。

 屋根瓦を滑ってこれも下に落ちていきます。

 男、手を押さえてしゃがみ込みました。

 叫んでいます。


 ゴーン……ゴーン………………。


 時計塔の十二回の鐘が鳴り終わりました。

 屋上に次々と近衛兵の皆さんが上がってきます。

 全員で男を取り押さえました。


 確保終了ー。


 近衛兵の一人が時計塔の上で大きく白い旗を振ります。

 サランが双眼鏡を覗きながら指さします。

 王宮のベランダでもおおきく旗が振られています。

 作戦成功です。


「ふうー……」


 僕は、レミントンM700のマガジンラッチを押して、残弾を取り出しました。

 マジックバッグに突っ込んで、あとは知らん顔です。



 オペラハウスを降りて、教会に向かいます。

 もうあちらこちらで近衛兵たちによる教会関係者の確保が終了しています。

 邪魔する教会の人間は誰であろうと片っ端から縛り上げられていますな。

 誰も教会から出すなと言う命令です。王宮にいる大司教にこの知らせが届いたら、この後の作戦に響きます。


 男が引っ立てられていきましたね。

 頭に布をかぶせられ、グルグルに縛られて。

 手から血をダラダラ垂らしています。まあ死ぬことも無いでしょう。

 僕は知らん顔してたほうがいいですね。どう逆恨みされるかわかりませんからね。


「シン殿!」

 近衛隊長が声をかけてくれました。

「コレを見てくれ……」

 屋根から滑り落ちた対物ライフルが落ちてます。

 でっかいな!


 これ見たことあります。アクション映画でよく出てましたから。

 軍用の対物ライフルじゃないんですね。ボルトアクションです。

 軍用のは確かセミオートだったと思います。


 マガジンがありません。単発ですか。グリップの後ろに機関部があるブルパップタイプですね。銃身の先についてるマズルブレーキがスゴいです。ひん曲がってますが。

 刻印はBarrettですか。バレット? バレッタ? バレッツかな? M99だって。

 時計塔の屋根から落ちてますからね、さすがの対物ライフルもあちこちひん曲がり、もう使えませんね。そのほうがいいでしょう。


「これも」

 拳銃です。

 これも屋根から落ちたせいか一見して壊れてるとわかります。

 ベレッタM92ですね。ダイハードでマクレーン刑事が使ってました。

 フレームにひびが入ってます。

 アルミフレームだからでしょうかね。ライフルで撃ち飛ばしちゃったし、落ちて石畳の上に直撃したようです。


「どっちも壊れてます。もう何の価値もありません」

「惜しいな」

「こんなものない世界のほうがずっとマシだと思いませんか?」

「違えねえ」

 はっはっはって、近衛隊長が笑います。


「さ、あとは陛下がうまくやってくれることを祈りますよ」



――――作者注釈――――

※1.ニットの帽子

 映画ではなぜかテロリストはニット(毛糸編み)の帽子をかぶっているが、あれは本来顔を隠すための目出し帽である。元は防寒用で、顔全体にすっぽりかぶると覆面レスラーのように目と鼻と口だけに穴が開いているというのが正しい使い方で、普段は暑いので巻き上げて顔を出してかぶるとニット帽のようになる。そこを勘違いした映画のスタイリストが普通のニット帽をテロリスト役の俳優さんにかぶせているのがよく見られるが、顔を隠さずテロをやるのでは意味が無かろうという指摘はまあ無粋である。


※2.試射

 状況により異なるが、例えば50BMGを700yd(637m)でゼロインしたスコープで800yd(728m)先を撃つと95cmも下に当たる。900ydにゼロインしたスコープで800ydを撃つと弾丸は122cmも上を飛んで行ってしまう。100yd距離を間違えるともう人間大の標的にも当たらない、それが超長距離射撃である。正確な距離が不明で、試射したことのない距離を一発で当てるのは絶対に不可能。

 また、1000mもの狙撃距離があるとその落下量(ドロップ)は6mを超え、必要とされる調整角度は22MOA(ミニッツオブアングル)にも及ぶ。通常のスコープでは調整範囲を超えてしまうので、直径が30mmとかの太い遠距離射撃専用のスコープが不可欠となる。

 ちなみに800ydを飛んだ50BMGのエネルギーは空気抵抗で半分以下に落ちてしまう。

 海外動画で50BMGを撃ったハンティング動画はいくつもある(「50BMG hunting」で検索)が、距離数百メートルで撃ってもシカなどの獲物の胴体がちぎれたりするような動画は見当たらない。1kmを超えて人間の体を真っ二つに引き裂いたという話はいくらなんでも大袈裟であることがわかる。

次回第五章最終回「冬のご褒美」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ