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北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた  作者: ジュピタースタジオ
第一章 本物のハンター、異世界に行く
6/107

6.お仕事開始 ※


 さあっ今日から本格始動。

 サランと二人で山に分け入ります。


 シカの痕跡を追い、潜伏地点を予想。僕が待ち受けでサランが勢子になり鹿を追い立てます。

 ひゅるるるるるるるるぅぅぅぅぅぅぅ――――。


 サランが鏑矢(かぶらや)を放ちます。音がする矢です。

 それに追い立てられて鹿が走ってきます!

 ドウンッ! ドウンッ! ドウンッ!

 四頭いたうちの二頭が倒れ!

 走っている鹿でも正面からなら僕でもなんとか当てられます。

 ドウンッ!

 最後の一発!

 当たり!


 当たり所が悪かったか。まだもがいてます。

 フォアエンドを引いて排莢口(エジェクションポート)に直接ショットシェルを放り込んで戻し止め刺し!

 ドウンッ!


 一頭逃がしたか……。でも三頭獲れた。

 ここのシカは人間をあんまり恐れないので僕を見ても進路を変えたりしませんね。

 北海道の鹿なら横っ飛びで逃げちゃいますが。

 おかげで僕の腕でもなんとか獲れました。

 ポンプアクション銃はオートほどじゃありませんが、それでもボルトアクション(※1)よりはずっと速く連射できますからね。


「いやあ大猟大猟!」

 サラン嬉しそうですね。

 ぶおっぶぉ――――――――!

 サランがホルンを吹くと村から男どもがやってきました。


「おうっすげえなあ!」

 三頭の鹿を見てみんなびっくりですな。

 サランも含めてみんなで抱えて持って帰ります。


「もう食い飽きたよ……」

 贅沢を言ってはいけませんよクソガ……お子様たち。


「燻製にするか」

「ソーセージもいいな」

「まずは干し肉といくか」

 村人たちの顔も明るいです。



 その夜、村長の家に呼ばれました。

「緊張しなくていいよ。礼を言いたいんだとさ」

 サランと二人で村で一番大きな丸太小屋に入ります。


「よく来てくれた。さあどうぞ」

 出迎えてくれたエルフの(おさ)、中年男性ですな。

 こう見えて実は数百歳だったりするんでしょうか。

 ものすごい美男子です。さすがエルフ。俳優さんみたいです。

 お酒を勧められましたが、僕は酒が飲めないので、申し訳ないのですが断りました。少し驚かれたけど、無礼にならなければよいのですが。


「別に失礼と言うことは無い。エルフにも酒が苦手な者は珍しくは無いし、その分食ってくれ! 遠慮はいらぬ」

 いろんな食事を勧められて嬉しいです。

 味付けは……どれも薄味ですね。よく言えば自然食品、悪く言えば塩気が足りないエルフ流ですか。


「変わった魔道具を使うと聞くが?」

 うん、いつか聞かれると思ってました。

「これです。鉄砲と言います。実は魔法を使っているわけではないんですが」


 愛銃のレミントンM870を手渡します。

 もちろん弾は抜いてありますので、どういじっても暴発はしません。


「ふむ……。鉄が使われておる……。実に見事な細工の物だ。飾りらしい飾りも無く野蛮に見えなくもないが、その一方で実に洗練されておる……。このようなハガネの細工、人間の技術はすさまじい。どうやって獲物を獲るのだ?」


「仕掛けは案外単純で、中で火薬を爆発させて、その勢いで銅の弾を飛ばします。目に見えないほどの速さで。それで撃つときに大きな音がします」

「なるほど、薬を使うのか。興味深い。これは手に入れるのは難しいか?」

「僕がこの世界に来た時に持って来たものです。残念ながらこの世界にはこれ一つだけだと思います」

「そうか……。これを使うのは貴殿だけだということか。人間がみなこれを使うということは無いのだな?」

「そうですね」


「この世界と言ったか?」

「はい」

「まさか、別の世界から来たとか言うまいな」

「そのまさかになるんでしょうか……。僕のいた世界にはエルフはいなかったので」

「ふむ……」


「僕のいた世界では、もう僕が死んだことになっていると思います。僕はクマに襲われてその後の記憶がありません。気が付いたら山の中にいたんです」

「……そんなことがあるのかのう。にわかには信じられぬが、この魔道具を見る限りこの世界に無い物だ。あり得る話かもしれないな。貴殿のその装束も、使っている物も全て、私には不思議なものばかり」

 サランと二人でうんうんと頷いている。納得できる話なんでしょうかねえ。

 自分で言っててすごく嘘くさいと僕は思うんですが。


「これで我らを殺すことも簡単にできるのではないのか?」

 じっと僕を見る村長。

「……できると思います」

「貴殿は人やエルフを殺したことがあるか」

「ありません」


 ……。


「ふむ、貴殿、嘘をつくのがヘタと見える」

 そういってにやりと笑う。

「あの、嘘はついていませんが……」

「わかっておる。嘘をつくならもうすこしマシな嘘をつくはずだということだ。馬鹿正直に誰にも信じてもらえなさそうな話をヌケヌケとする貴殿がおかしくてな。さ、これは返そう」

 そう笑いながら、M870を手渡してくれる。


「鹿の被害を減らしてくれて礼を申す。村民も喜んでおる。これからもよろしく頼む」

「はい!」

「実は鹿だけでなく、カラスやアライグマの作物被害、キツネによる家畜の被害も少なくない。現在は畑を柵で囲うなどしているが、畑を大きくしたくてもなかなか手が回らぬ」

「……そうですか。考えてみましょう」

「頼む」


(おさ)、ほら、それとあれ!」

 なんですかサランさん。なんか隠し立てしてるんですか?

「おお、そうだったな! 貴殿、塩を用意できないか?」

「塩ですか。昨日皆さんに差し上げた程度の物ですが」

「もう少し大量に……」

「うーん……」


 できるかなあ。粗塩とかだったら大量に買えそうだけど。


「実は人間の商人がやってきて、毛皮、角、農産物などを買い付けていくが、そのかわりに交換してくれるのが塩なのだ」

「それはずいぶんと……高い買い物ですね」

「そうだ。足元を見られている。買い叩かれている。まあ……そうなる」

「ちょっと待ってくださいね」


 村長の家を出て、マジックバッグを出し、「食塩! 20kgぐらい!」と言ってみるとずしりとバッグが重くなり下に落ちた。

 開けてみると……25kgはありそうなでっかいクラフト紙袋が。

 業務用の食塩だね。値段は25ドル。

 普通のスポーツバッグぐらいの大きさのマジックバッグに、縦長の塩袋が入っているのはすごい不思議。覗き込むと底が深いんだよね。どういう理屈?


 この大量の塩、塩漬け肉を作るとか、そんな用途なのかな。それならアウトドアショップにも置いているかもしれないな。現代の100%化学合成工業製品、混じりっけ無しの食塩だしね。

 もう一袋ぐらいいっとくか。

 高いもんじゃないし、もう一袋。

 いいや、もう一袋いっちゃえ。


「悪い、サランさん、ちょっと手伝って」

 どかどかと村長の居間に運び出す。

「こ……これは……全部塩か!」

「すごい……うちの村全員で使っても一年分はあるよ!」

「で……こ、これをいくらで売ってくれるのだ? いや、金はないのだが、なにと交換してくれるのだ?」

「僕は商人ではありません。どうやって調達したかを聞かない、という条件で、この村の仲間に入れてくれれば無料で差し上げます。僕が税を塩で払ったと思ってもらえれば」


 給料の意味の「サラリー」とは、元々塩という意味があると聞いたことがある。

 塩が調達困難な土地では、お金と同等の価値があるのかもしれません。


 村長が驚いた顔をして、そして、笑ってくれました。

「もちろんだ。私はとっくにそのつもりだ。好きなだけ、この村にいてくれ。シン殿」

 がしっと握手してくれたよ。嬉しいな。



 翌日、朝から塩の配給が始まりました。

 みんなが壺持って村長の家に集まってるよ。

 大喜びで壺いっぱいに塩を入れてるね。

 貴重品なんだなあ……。


「皆の者、集まってもらったところで一つ、報告がある!」

 村長が声を張り上げて、みんなが注目する。

「ここにいるシン殿をわれらコポリ村の村民として受け入れることになった。これからは我らの仲間だ。皆の者よろしく頼むぞ」


 ぱちぱちぱち――――。

 拍手でみんな歓迎してくれた。

 嬉しい……。

 涙出そう。

 いや。

 泣いた。

 ぽろぽろ泣いた。

 そんな僕を見て、みんな不思議そうな顔をしていた。

 サランだけが笑ってた。



 その日から村の風景がガラッと変わったね。

 女の人が歩いてるよ。挨拶してくれたりするよ。

 そういえばこの村、女性いないのかっていうぐらい女の人いませんでした。

 いままで隠れてたの?

 ねえ僕から隠れてたの?

 それってちょっとショックなんですけど。


「ん~、なんていうかさ」

 サランがバツが悪そうに説明する。

「エルフの女ってさ、人間から見るとものすごい美人に見えるらしいんだよね」


 はい。たしかに皆さん美人さんです。右を見ても左を見ても物凄い美人に美少女です。ファッションショーの会場ですか。ミスコンの会場ですか?

 すんごいです。


「だからさあ、昔からエルフの女はよく人間にさらわれたりするんだよね。召使いにされたり奴隷にされたりねえ。だからアンタに見せないようにって男どもが隠してたりしてたかもね」

 衝撃の事実ですガックリです大変に不本意です。


「サランさんだって女じゃないですか……」

「私はホラ、人間が喜ぶようなタイプじゃないから」

「そうですかねえ、需要はあると思いますがね」

「誰に」

「僕に」


 かなり強く殴られました。痛いです。


挿絵(By みてみん)(耳長くするの忘れた……)



――――作者注釈――――

※1.ボルトアクションの散弾銃というのは現在人気で北海道でも使用ハンターが増えている。

 サベージ社のF212やF220といったライフル銃身を持つサボットスラグ専用銃がある。

 日本の銃刀法の規制で、ライフリングは半分以下に削られているが命中精度は50mで5cm以下と良好。ライフリングを半分に削っているのは世界中で日本だけだが、だからと言ってグルーピングが倍になったりはしないようで、海外動画でフルライフルを撃っているユーザーのグルーピングを見る限りフルライフルでもハーフライフルでも命中精度には見てわかるほどの差はない。意外である。


※備考

 サベージのF212やF220を使っていて、ボルトを引くと薬莢が詰まって出てこないというトラブルが多発していて評判が悪い。詰まって手で取りだしている動画がたくさんある。

 実はこれ排莢するときにスコープやスコープマウントに当たって跳ね返っているのである。排莢口の角度が悪いとも言えるが欠陥と言うほどでもない。

 このトラブルが発生している人はスコープのマウント位置を変更して排莢口にかからないようにするか、スコープマウントを背の高いハイマウント化するか、シンプルな形状のスコープに買い替えるなどで対策できる。


次回「異世界には銃刀法も鳥獣法も無い」

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