59.決戦、王都ジュリアール
さすがにテラスにいるのは気味悪くなりましたかね。
屋敷内のサロンに場所を移して、今後のことを話します。
三人だけです。
「犯人が使ったものは、この聖書にもあるガンだと」
「はい」
「君たちが先ほどハトを取るのに使っていたのもそうだと」
「はい、あえて見ていただきました。ご納得いただけるのが早いかと」
「納得した。また、君らでもないことも確信した。君たちの持つガンではハトしか殺せない。犯人はアレよりずっと強力なヤツを持っていると」
「そうなります。ご覧ください」
そう言って、先ほど掘り起こした50口径の対物ライフルの弾丸の横に、ハト駆除に使っていた4.5mmの空気銃弾を置きます。
「違いは歴然だ」
片や4.5mm、片や12.7mmですからね。
マッチ棒の先っちょと、単三電池ぐらいの差があります。
「君たちはこの国では数少ないガンのエキスパート。そしてその上で、キリフが私の元に寄こしたということになるのだな……」
「はい」
「犯人は勇者教会が召喚した召喚勇者。その者が古の神器、ガンを使って教会の命令通りに教会の敵対者を遠距離から魔弾で暗殺を行っていると」
「そうなります」
いにしえのじゃなくて最新式の、魔弾じゃなくてフルメタルジャケット弾ですが。
「……該当するものがいるか調べさせよう」
「お願いしたいところですが内密にで、ヘタしたらファアル様が撃たれてしまいます」
「だな……」
「犯人は、これとは似ても似つかぬものを持っています」
がちゃり。
横に置いていたダイアナM52の銃袋をはずして、テーブルの上に置きます。
「これより大きくて、長くて、重くて、太い。多分袋に入れて、背中に背負っています。あるいは異次元袋に隠し持っているか」
ダイアナに銃袋をかぶせて、背負って見せます。
「なるほど」
「一か月も前では、人の記憶にも残りにくいかもしれませんが」
「わかった」
「あと、次に狙われそうな人に、心当たりは」
「……」
ファアルさん、ハッとして、顔をあげます。
「国王陛下だ!!」
なんですって――――!!
「一連の貴族暗殺事件、あまりに露骨なのでな、国王陛下が王宮に教会の大司教を召喚して諮問委員会が行われる!」
「いつですか!」
「あ……明日!」
「大至急王都に使者を!」
「私が行く。同行してくれ。陛下をお守りしなければ!」
「了解しました」
「サバスッ!!」
いやあもう大騒ぎですわ。
僕、サラン、そしてファアル様と手綱を取る執事のサバスさんの四人。馬車を軽くするため最小限の人数構成。
六頭立て馬車で走ります!
僕はサバスさんの隣で護衛です。M870を抱えています。サランは後ろ向きで弓を持って警戒です。
王都までの街道、薄暗くなってからも強盗とかも出ず初めて見る王都、ジュリアール! デカいです!!
トープルスの五倍はある規模でしょうか!
見上げるような強固な城塞で守られております。
「開門――――! 開門――――――!」
ファアルさんが叫ぶと衛兵がなにごとかと出てきます。
「トープルス領主代行、ファアル・ラス・ハクスバルだ! 急ぎ国王陛下にお取次ぎ願いたい!」
「もう夜ですよ!」
「緊急だ。一連の貴族暗殺事件の件について。国王陛下が暗殺されるかもしれん! 急いでくれ!」
ファウルさんがハクスバル家の者だということは馬車の紋章が示しています。
青ざめた衛兵が馬を走らせます。
そのまま、その馬について馬車を走らせていきます。
早馬の連絡が先に行ってましてね、王宮の正門を通してもらいました。
「国王陛下がお会いになります」
「すまん、君たちはここまでだ。あとは任せてくれ。サバス、来い」
ファアルさんが申し訳なさそうに馬車を降ります。
しょうがないですね。ハンターの僕らが国王に面会なんていくらなんでもダメすぎます。
「手筈は先ほど申しあげたとおりに」
「わかってる!」
……もう夜中の十時です。たっぷり三時間は待たされました。
サバスさんがやってきました。
「どうでした?」
「国王陛下に了解をいただきました」
「やった!」
「やったね!」
サランと二人でハイタッチします。
驚いたのはですね、キリフさんがいたことです。
サープラストの若き領主様です。執事さんと一緒です。
「やあ、君ら、やっぱり来てたか」
「キリフさん。あ、失礼しました、キリフ様、いらしてたんですか……」
「気にするな。君らが去ってから、すぐに国王陛下に直訴したほうがいいと思ってね。僕も明日の諮問委員会のことを思い出したものだから」
「国王陛下はなんと?」
「僕とファアルの二人がかりで説得してね、なんとか引き受けてもらえたよ」
実際に当主を暗殺されて残された二人の次期当主にそろって懇願されたら、国王陛下も無下にはできませんよね。
しかもそれが自分の命にかかわることとなれば。
「ジュリアール近衛隊長、ジラスハル・タンラだ。話は聞いた!」
見事な鎧を身に着けた騎士さんが走ってきました。
「その方なにか案があるか」
「王都の地図をお願いします」
「わかった。来てくれ」
近衛隊の詰所に集合します。
大きな机に王都ジュリアールの地図が張り付けてあります。近衛隊のゴツいメンバーさんたちもそれを取り囲みます。
「教会は?」
「ここ」
「王宮は……こちらですね」
「そうだ」
「諮問委員会が行われる部屋は?」
「ここだな。三階御前会議室」
「教会の一番高い建物は?」
「時計塔」
鐘じゃなくて時計があるんですね。さすが王都。
「時計塔は一時間ごとに鐘が鳴りますか?」
「ああ」
「十二時には十二回?」
「そうだ」
間違いありませんね。
机の上の地図に次々とピンを差していきます。
「縮尺は?」
「五千分の一」
100mが2cmですか。
三階御前会議室から扇状に20cmの半円。
1kmを見ます。
教会の時計塔が700mにあります。十分狙撃可能な距離ですね。
「他に高い建物は?」
「商人ギルド商工会館」
「オペラハウス」
「バルドラート公爵様のお屋敷」
あちこちから指が伸びて地図の上を差してくれます。
「オペラハウスがいいでしょう」
教会を囲む全ての高い建物のうち、全部を200m以内に納めることができます。
「屋上は走り回れるスペースがありますか?」
「もちろん」
「僕とサランはそこで待機します」
「む……」
「近衛隊は突入できるように教会を隠れて包囲。十二時の鐘の音の前に犯人が現れたら合図します。突入して時計塔を目指してください」
「教会に突入か……。間違いがあったら大問題になるぞ」
「なにもなければ突入しなくていいのです。犯人が現れた時だけです」
「800ナールの距離だぞ……。本当に放てるのか?」
近衛隊長が首を振ります。
「間違いなく。僕の父は872ナール離れたところから魔弾を撃たれて亡くなりました」
キリフさんが確信をもって頷きます。
「なんてやつだ……」
びっくりですよね。
ファアルさんの館で150mの距離を御当主が撃たれたのが一か月前。
先日キリフさんの館が撃たれたのが793m……。
最初から長距離狙撃の可能な高性能の銃を使っていたのです。それを最初の銃に選ぶほど、銃に関する知識は持っている人物ということになります。
同じ銃を使い続けていて、少しずつ狙撃距離を伸ばしていけばそれぐらいは当てられるぐらいになれるかもしれません。
どんな銃をこの世界に持ち込む能力があるのか知りませんが、一人で貴族の館に突入して機関銃撃ちまくるようなことをするより、遠距離狙撃のほうがいいって、まあ誰でも考えるでしょう。
「犯人はバカでっかいガンを持ってるはずです。両手を広げた幅ぐらいの」
「おう。聖書に出てくる神器だな」
「みんなで一斉に飛び掛かればなんとかなるかもしれません」
「任せろ。近衛団舐めんじゃねえ」
対物ライフルなら、重さ10kgを超えてますからね。
すぐにさっと人に向けられるものじゃありませんよね。
「シン君がここにいると聞いて」
ファアルさんと執事のサバスさんがやってきました。
「どう? なんとかなりそう?」
「はい。国王陛下はなんと」
「腹を立ててたよ。召喚された大司教、『このような不躾、天罰が当たりますぞ』とかニヤニヤして笑ってたそうだからな。考えてみればあれがもう陛下暗殺の予告みたいなもんだからな」
「一芝居打ってもらうことになりますが」
「大丈夫だ。陛下はこういう小細工、小芝居、大好きだからな。あれでなかなかおちゃめな所もある気のいい人だ。お付きはみんなやめろやめろって大騒ぎだったがね」
あっはっは。
心の中で笑います。
「さっきの合図ってどんなだ?」
みんなが僕を見ます。
「でっかい、バーンって音がします。それを合図に突入してください。時間は恐らく十二時。時計塔の鐘が十二回鳴る直前です。そこで何もなければ、次の機会は午後三時です。十二時か、三時か、どちらかです」
「了解だ」
隊長さんが身を起こして、集合している近衛隊を見回します。
「では解散。夜明け前に作戦開始」
なんか頭の中でデーンデーンデーンデーン、ズンズン、デーンデーンデーンデーン、ズンズンって鳴ってるような気がします。
次回「バレット」