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56.異世界のスナイパー ※


「実は、ここ一か月の間に、貴族の暗殺が横行している」

「うわー最悪です……。絶対関わりたくありません」

「そう言うな。お前らでないと解決できないんじゃないかと俺はちと思ってる」

「依頼が来てるんですか?」

「まあな。うちじゃないが。ハンターギルドに来るのは護衛の依頼なんだが、失敗続きだ。なにしろ殺され方が尋常じゃない」


 ……。


「こう、頭がバーンって、はじけるんだ。肉がグシャグシャになっちまう」


 ……うわあ。


「思いついたのがお前らだ。前にそんなふうにゴブリンやライルスライムをやっつけてたよな」

「僕じゃありませんよ! いつもエルフの村にいるわけですし!」

「わかってるよ。つまり、お前らと同じ、鉄砲を使う奴が他にいるってこった」


 ……それ大問題ですね。


「どんなふうに? 屋敷にいるときにですか?」

「そうだ。ガラスが割れて、頭が吹っ飛ぶ。魔法を撃ち込まれたと誰でも思う。だが、そんな魔法は聞いたこともねえ。どうやって殺されたのかまったくわからん。誰がやってるかもわからないんだ」


「犯人の目星はまったくつかないと」

「そんなことはない。黒幕なんてとっくにわかってる」

「なんでそんなことわかるんです?」

「犠牲者が殺されて一番得をするのは誰か、暗殺なんてそれを考えればすぐわかるさ。誰を殺すかを決めているのは教会だ。勇者教会」


「教会が……」

 衝撃の事実です。


「殺されたのは、みんな教会に不都合な連中だったってわけさ。教会が市民から搾り取る税率を下げようとか、教会の権力を少し抑えようとか、教会のやり方に反対してるやつとか、教会の不正を暴こうとした奴とか……要するに教会に逆らってる奴らだ。バレバレだぜ。子供でもわからあ」

「それなのに誰も教会を捜査できないと」

「ああ、教会は王国に次ぐ権力を持ってるし、死んだやつらには全部『神の天罰が下ったのだ』で通る。今はみんな教会に怯えているし、ヘタしたら自分が殺されちまう。誰も物が言えない状態」

「最悪ですね……」


「もちろん教会のやつらが鉄砲撃ってるわけじゃねえ。専門の殺し屋を雇ってるってこった。それがどんなやつだかわからん。だが、間違いなくこの国にいる。教会の連中にこれ以上調子に乗らせるわけにはいかねえ。ハンターが護衛してても頭がバーンだ。任務に失敗続きじゃギルドの顔に泥を塗られたまんまだし、なんとかしてえ」

「僕もう帰りたいです」

「そう言うな。いや、そう言うと思ったけどよ。少し役に立ってくれないか」


 ……しょうがないですね。


「撃たれた現場見たいです」

「この街だとアルタース子爵の屋敷ならまだそのまんまだ。今から俺と一緒に行ってくれ」

「わかりました……。あの、これ、正式にギルドからの依頼ですか?」

「いや、それはこれから交渉することになると思うぞ」


 そうして馬車に乗って、アルタース子爵の屋敷に着きました。

 前に馬の厩舎のハト駆除をしたことがあります。馬番さんが横柄でケチで最悪の印象しかない屋敷です。

 こんなふうに馬車で正門くぐって入るなんてことがあるなんてねえ。


 バルさんが執事さんに話をして、案内してもらいました。

 屋敷の主人である、キハル・ド・アルタース子爵様が殺されたばかりですのでね、屋敷全体が喪に服しております。


「ここでございます」

 子爵様の書斎ですね。

 窓ガラスが割れてます。

 この時代大きなガラスがまだ作れませんので、20cm四方のガラスを何枚も使ったガラスの窓の一枚が割れて吹っ飛んでいます。

 机の天板と床の絨毯には大量の血のシミ。


 机に座っていて、なにか執務中に後頭部を撃たれたと。



 どこかに貫通した弾痕があるはずですが……。


 ありました。暖炉の中です。

 見逃していましたね?

 でっかい弾痕です。

 どんな弾使ったんだよと思います。

 メジャーを当てて直径を測ってみます。

 13mm?

 巨大な弾ですね。


 13mm?

 そんな弾狩猟用ライフルにもめったにありませんよ?

 50口径?

 12.7mm?

 そんなのあったっけ?


 暖炉から窓ガラスを見ます。

 割れたガラス越しに遠くに勇者教会の尖塔が見えます。鐘突き堂でしょうか。

 えっ?

 あそこから撃ったの!?

 ええー??


 窓を開けて、ニコンのレーザーレンジファインダーで見てみます。

 測れません。500m以上あります。


 ……なんてこった。

「ニコン、レーザーレンジファインダー、1000yd以上測定できる奴で」

 こっそりマジックバッグで買い物します。

 金貨二枚半で買えました。

 買うならやっぱり信頼のニコンです。

 パッケージを開けて、電池を入れ、さっそく見てみます。

 教会尖塔まで872Yd。

 あ、メートルに切り替えないと。

 793m……。


 ……あり得ない。

 対物ライフルでも使ったんでしょうか。


「執事さん」

「はい」

「暖炉の中、ここに何か当たっています。弾が埋まってると思うんです」

 執事さんが暖炉を覗き込んで驚いています。

「レンガが割れていますね!」

「職人さんを呼んでほじくり出してもらえますか?」

「手配いたします!」


「シン、どういうこった」

「割れたガラス窓、子爵さんの頭、暖炉の穴、一直線です」

「……そうして弾が飛び込んできたと」

「窓ガラスの向こうが犯人のいたところです」


 バルさんが窓から外を見通します。

「教会!」

「やはりそうですね」

「あんなところから!!」

「……つまり、この世界の人間の仕業じゃないってことです」

「……」


 バルさんが頭を振ります。

「シン……。お前、もしかして違う世界の人間なのかよ」

「それは聞かないでください」

「……」




「当家主人とご面会ください」

 執事さんに案内されましてね、御子息に会うことになりました。

 キリフ・ラ・アルタース様です。まだ十代ですね。

 先代のキハル・ド・アルタース様が亡くなられましたので、現当主ということになります。


「まだ喪中でね、いろいろ混乱してる。十分なもてなしも出来ずに失礼していると思う。許されよ」

 すぐに部屋に入って来てどさっと座ります。なんか思ったよりまともな人です。

「父上が屋敷で殺された、どうやって殺されたのかわかったのか?」

「今調べています」

「魔法か、呪いか、暗殺者が忍び込んだか、さっぱりわからないのだ。貴殿らはハンターということだが?」

「ハンターをしていますシンと申します。こちらは妻のサラン」

「気がせいて名乗りもまだだったな。キリフ・ラ・アルタースだ。正式ではないが次期当主ということになる。よろしく頼む。バルもかしこまるな」


 そう言って、苦笑いする。

 話が早いです。もったいぶった貴族な感じはあまりせず、なかなかの人物なのかもしれません。


「座れ」

 そう、僕ら全員立ったままで待ってたんですよね。

 貴族に対する礼儀みたいなもんですか。

 執事さんに勧められるままにテーブルに着きます。


「一連の貴族暗殺事件、犯人はわかっている。教会だ。父上は尊敬すべき良き貴族とは言い難く欲深かった。この国での税の教会の取り分が多すぎると抗議している一派に加わっていた。露骨に動いていたと言っていい。ま、子爵なので下っ端ではあるが、見せしめとして丁度良かったと思われる。実際に動いていた連中にはいい脅しになったと思う」

 実に正確な御推察です。冷静ですね。


「ま、そう言って素直に頷く諸君らでもないだろうが……」

 そりゃあね、「そうですね」なんて言ったら失礼ですよね。


「お父上はどのような様子でした?」

「首から上が無くなっていた。血や肉が飛び散って部屋はひどいありさまだった」

「机に座っていて、まるで後ろから吹き飛ばされたように?」

「そうだ。血のシミを見ればわかったか」

「はい」

「吹き飛ばしたのはいったい何かだ。誰かが侵入した形跡はないのだ」

「それは、暖炉に埋まっています。今取り出してもらっています」

「暖炉……」


「殺害された時間はわかりますか?」

「午後三時前後。茶を運んだメイドが見つけた」

「三時ちょうどではありませんでしたか?」

「なぜ?」

「ちょうど教会の鐘が鳴っていた時間ではないかと」

「……確かに。なぜそう思う」

「魔道具で弾を撃ち込むとき、大きな音がします。それをごまかすためです」

「鐘の音と同時に撃ち込んだと?」

「そう思います」

「いったいどこから」

「教会からです」

「バカなことを……。ここから教会までどれほど距離があると思ってる」

「872ナールです」


 御子息が驚いた顔をします。

 ナールはこの国の長さの単位。成人男性が手を広げての鼻から親指までの長さです。つまり1ヤード。


 ノックがして、メイドさんが入って来て執事さんにハンカチーフに包まれた何かを渡します。

 執事さんがそれを持ってきてテーブルの上に置きました。

「暖炉からこれが出てきました」

 潰れた鉛のかたまりですね。銅で被覆されています。

 間違いありませんね。ライフルマーク(※1)が後ろに残っています。

 軍用フルメタルジャケット弾です。狩猟用弾丸ではありません。

 メジャーを当てて直径を測ります。12.7mm。

 決まりです。


「犯人は872ナール先にある教会の鐘突き堂のてっぺんからこれを撃ち込み、ガラス窓を割り、子爵殿の頭を吹き飛ばし、暖炉の奥にめり込ませたのです」

「ばかな……」

「確認しましょう」


 子爵の書斎に戻って、割れた窓ガラス、そして暖炉の弾痕を見ます。

 まだレンガ職人さんがいて片づけをしています。

「ここから割れた窓を見てください」

 弾痕のあった場所にご子息が手をついて寝て割れた窓を見上げます。

「もうちょっと頭をあげて、そうそう……」

「……教会」

「お分かりになりましたか」

「わかった」


 872ヤードも飛ぶと、弾丸はそれなりに自由落下しています。

 つまり角度があるということ。

 少し頭をあげないと、教会の尖塔が見えません。


「お屋敷の周辺を、拝見させてください」

「僕も一緒にいこう。かまわないかね」

「ぜひ」



挿絵(By みてみん)



――――作者注釈――――

※1.ライフルマーク

 弾丸が銃身を通過するときライフルの溝の凹凸が弾丸に斜めの筋になって残る。

 これをライフルマークという。

 銃身のらせん状の溝であるライフリングは切削加工、引き抜き加工、冷間鍛造などによって作成されるが、その時の工具痕によりたとえ同じ工場で同じ工具で加工された同型銃であっても一丁一丁の銃のライフルマークは全て異なり完全に同じものとはならない。言わば弾丸の指紋である。

 そのため、弾丸に残るライフルマークを調べればどの銃から発射されたかが特定できる。

 空薬莢も雷管に付いた撃針痕、薬室に張り付いたときにできる工具痕の転写筋などが銃を特定する重要な証拠物件となる。警察では発砲事件などがあった場合必ず弾丸や空薬莢を回収しこれらを記録して犯罪捜査に役立てている。

次回「現場検証と試射」

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