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53.スナイパーも楽じゃない


 次の日、教会に行って色々調べました。

 この国の(ほこら)、巡礼の道があるみたいですね。場所を書いた地図があります。

 それほど危険な道とも言えませんね。


 マジックバッグでサランと二人でかぶれるぐらいの迷彩シートを買います。

 あと、迷彩模様の幅広テープ。

 愛用のレミントンM700にグルグル巻きにして光る部分を全部隠します。ステンレスモデルですからね、ピカピカしすぎですし。

 それに、スコープにもフード状に紙を巻いて迷彩テープで覆います。

 レンズの反射で位置がバレますから。

 それをやってから、バリステスのホームに行って最新情報を聞きます。


「明日なんだけどよ! 俺たちはいらねえってよ!」

 バーティールさん不貞腐れておりますな。

「面倒が無くてよかったじゃないですか」

「いや、けっこういい収入になるかと思ったんだけど」

「勇者にして見りゃ毎年やってるんでしょ? 恒例行事でしょう」

「なんだけどよ……断られてみると、それはそれで腹立つな」


 地元ハンターの同行を断ったということは、なにか見られたらマズいことをするつもりがあるんでしょうね。


「どんなやつらでした?」

「勇者は、白い鎧着てちょっとヒョロくて金髪の色男だ。でっかい剣背負ってる。パーティーは美女に美少女。二人いる。一人は目のやり場にも困るビキニアーマーの痴女で魔法使い。でっけえ杖持ってるぞ。一人は僧侶で回復係なんだろうな。清楚っぽい白いローブ姿でほっそい銀のロッド持ってるけどこれも胸がすげえ。どいつも腕利きなのは間違いねえ」

「そうですか。見たいですね」

「サランが聞いたら泣くぞシン。のみくい天国にでもいるんじゃねえの?」


 ……夜になってからこっそり行ってみます。

 うーん、スゴいですね。

 のみくい天国なんて安い居酒屋じゃなくて、ちゃんと立派なレストランで食事してます。

 人だかりができてますのでね、すぐわかりました。

「あの格好は無いわー……」

 サランが思わずつぶやくようなビキニアーマー。

 胸がサランといい勝負しています。

 ほんとに百歳超えてるんでしょうか。二十代ぐらいに見えます。

 大きな杖持ってますね。



 はい、わかりました。十分です。

 っていうかあんな格好の人、見間違えたりするわけありません。

 その夜のうちに街を出ます。

 門番さんには農家さんに夜行性の動物の駆除を頼まれてるって言って出てきたので大丈夫です。


 そのまま、ランプを照らしながら月明りの巡礼の道を進みます。

 途中でオオカミが出ましたけど、ショットガンとサランの矢で追い払いました。


 懐中電灯で祠を照らします。

 僕らの村の近郊にある祠と似てますね。石造りですけど、ちゃんと手入れがされていて綺麗です。

 真夜中ですからね。誰もいませんね。丁度いいです。

 大きな岩の真ん中に小さいLEDミニランプをぶら下げます。

 マジックバッグで買ったやつですね。キーホルダーにするような小さいやつです。

 別のランプで岩を照らすようにしておきます。


 場所は……あそこでいいか。

 小高いガケがありましてね、森に囲まれておりますな。

 ちょっと後ろからになりますが、まあいいでしょう。


 サランと二人で苦労して登って、頂上にたどり着きます。

 平民の服から迷彩服に着替え、シートとマットを敷いて、寝袋も敷いて、その上に毛布と迷彩シートをかぶせます。虫よけの防虫ロウソクと蚊取り線香はないとダメだね。これもマジックバッグから買っておきます。

 狙撃用のベンチレスト枕を置いて、その上に迷彩テープ巻いたレミントンM700を乗せ、安物じゃないほうの射撃競技用フルメタルジャケット弾を並べて置き、先ほどのLEDミニランプをスコープの視界に入れます。


 サランにも耳栓を手渡し、レーザーレンジファインダーで測長、184m!

 16倍の最大倍率で慎重に狙って……。


 ドォ――――ン!


 バサバサバサッ!

 野鳥たちが飛んでいきます。


 スコープで着弾を見ると下に6cm、右に1cmぐらいですかね。普段使ってる弾と違いますからね。例によって射撃競技用のフルメタルジャケット・マッチスペシャルです。

 スコープを調整します。今回は事前にスコープ調整できるんだから十字線の真ん中に合わせちゃいましょう。

 スコープのターレットには1click=100yd-1/4inchって書いてあります。

 一回カチッと回すと91mで6.35mm移動するってことです。

 200mだと14mmですね。

 UP方向に4クリック、L方向に1クリックです。


 ドォ――――ン!


 フッ。

 LEDランプが消えました。

 OKです。


「ランプとってくる」

「私が行くよ」

「うーん、じゃ、一緒に行こう」


 ミニランプを見に行くとどんぴしゃり当たって粉々になってました。

 僕も腕が上がったものです。

 というか、プローン(※1)の依託ですからね。これで当たらなかったら腕がいい悪いじゃなくて目が悪いですわ。散らばった部品を回収して、弾痕のついた岩に砂をかけてごまかしておきます。


 本物のスナイパーだったら試射無しで一発で決められるのでしょうけどね。

 僕はド素人ですからね。ちゃんと試射しておかないと当てられる気がまったくしません。

 銃を依託して、固定した状態で撃つなら誰にでも当てられます。

 着弾見て、修正していけばいいんです。


 でも、スナイパーはそれができません。最初の一発で当てないといけません。

 その一発をどうやって当てるか。それは計算しないとダメです。スナイパーの腕前ってのはまさにそこにあります。経験や勘ではないんです。それまでの射撃データーの積み重ねです。スナイパーだったら誰でも自分の銃の弾道表(バリスティックチャート)を持っていて、それを見ながら撃つはずです。

 せいぜい300mぐらいしか当てられないハンターと、500mを超える距離でも当てられるスナイパーの差はそこにあります。

 僕はミリオタじゃないんでそのへん詳しくないですけど。


 距離184m……。

 今の僕の腕前とM700の性能でもグルーピングは最大4~5cmぐらいでしょうか。

 ギリギリです。

 弾速が秒速800mとして発射から着弾まで0.23秒。

 弾丸の落下量は銃身線(ボアライン)から空気抵抗を入れて26センチ。

 見下ろし射撃だと弾丸は水平射撃よりやや上に当たります。

 これは銃を真上に撃った時のことを考えればわかります。

 水平で26センチ落ちるはずの弾丸が真上に撃ったら落ちませんから射手から見て26センチ上に当たっちゃうということです。真下に撃っても同じです。

 だから銃は斜め上を狙っても、斜め下を狙っても、狙ったところより上にずれるのです。

 角度20度ぐらいで距離184なので1cmほど上にずれるはずです。

 それに落下量が26cmあるとライフリングが右回りですから弾丸は右回りに回転していますので偏流で右にも5mmほどずれてしまいます。

 ハンティングなら無視できる誤差ですが、今回は精密射撃ですのでいずれも無視したくありません。

 やっぱり試射してスコープを合わせておかないと、不安ですね。


 気温、気圧は良く言われるほど影響しません。マンガの話は大袈裟です。

 気温0度と35度で200m先の着弾が1cm以下。

 気圧も台風並みの990mbから日本晴れの1020mbでも1cmぐらいしか変わりません。これは日本にいたころパソコンの弾道計算ソフトで確かめたことがあります。なので僕は気にしたことがありません。気温が違うと火薬の燃焼速度が変わるとかありますけど、真冬に調整して真夏に撃つとか台風来てるのに撃つなんてことないですよね? だから実用上無視していいんです。定期的に試射して調整していれば済むことですし。

 そんなことより横風のほうが断然影響でかいです。

 風速3m/sで8cmも流されるんです。

 気温が気圧が地球の自転がとか言う前にまず風です。射撃で一番影響するのは重力と風なんです。

 弾道計算ソフトをいろいろ試しましたが、地球の自転がコリオリ(りょく)がとかが影響するのでしたら東西南北「射撃の方角」を入力する必要があるはずなんですけど、方位磁石を持って方角を入力する弾道計算ソフトなんてありません。艦砲射撃ならともかくライフル射撃程度でしたらそんなの無視していいんです。 

 コリオリ力がどうのこうの言う人向けに超高性能スコープに方位磁石を取り付けるオプションがあれば売れると思うんですけど見たこと無いし。

 明日が無風なことを祈ります。



 二人で一緒の寝袋に入って、迷彩のシートかぶって、おとなしく夜明けを待ちます。二人でぽりぽりとクッキーなど食べておりますと、みじめですねえ。

 スナイパーは待つのが仕事。

 つらいです。


「……シン」

「うん?」

「勇者たちが魔王復活させようとしてるって話はわかった。でもこれって、結局、誰に頼まれてるの?」


 ……。

 サランには言っておいたほうがいいかもね。


「……神様」

「そんなこと言って……」

「うん、信じてもらえなくても全然かまわない。自分で言っててウソっぽいもん」

「言ってることは信じられないよ。でも、シンは信じる」

 ぎゅっと抱いてくれます。


「シンって不思議。まるっきり普通の男だと思うんだけど、でも誰も知らないことをいっぱい知ってて、黄色いかばんとか、魔法だとも思えない不思議なものも使うし、てっぽうもこの世に無い物だし、別の世界から来たってのも信じてる」

「ありがとう」

「そんなシンをこんなところに連れてくるの、神様でもなけりゃできないよね」

「うん……」

「最初はこれ、悪いことなのかと、ちょっとだけ、思った」

「そうだよね。勇者の邪魔するんだからね」

「でもね、神様がそうしろって言うなら、きっといいことなんだよね」

「たぶんね」

「それにね……」

 そんなにぎゅっとされたら息ができないですう!


「悪いことだったら、シン、絶対引き受けないもん」

 返事の代わりに、うんうんって頷きました。

 結果的にぱふぱふになってしまいました。






――――作者注釈――――


※1.プローン

 プローンポジション。伏せ撃ち姿勢の事。地面に寝て銃を構えること全般を意味する。

 銃を地面に接地した肘、腕で支持するので最もブレが少なく命中精度が高い姿勢である。

 また、敵から見て投影面積が少なく被弾する可能性が低いため兵士の最も基本的な射撃姿勢である。ミもフタも無い言い方をすると初心者やヘタクソでもちゃんと当たる姿勢でもある。

 猟師はこんな姿勢で撃つことはまずない。藪や木立が邪魔になるし、服が汚れるし、鹿は撃ち返したりしないからである。

次回第四章最終回「魔女の最後」

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