52.ひさびさの女神通信
前回の訪問から一か月ぶりですかね。久々にサープラストにやってきました。
途中、トコル村に寄ってドウルさんの鍜治場でサランの新しい剣を受け取ってきましたよ。
木の鞘に漆を塗ってありました。柄は両手持ちの革巻き。エルフらしく直刀で、日本刀の鍔とは違って横から見ると十字の形のハンドガードが付いています。見た目はとてもシンプルですが中身は合金工具鋼のバールを心金にしたこの世界最強剣です。
サランが試し切りをいろいろとやらされましてね、土壇場に横置きした鹿の胴を真っ二つにして喜ばれました。……解体慣れした僕にもあれはさすがにグロかったです。
お礼にバールをもう一本あげると喜ばれましたね!
「まだあったのか! もっとあるのか!?」
いやこれ以上はさすがにマズいでしょ。こんなチート剣出回ったら大変なことになりますよ。
自分用に作ってずっと大事にして下さいね。
「シン、勇者って知ってるか?」
ギルドで毛皮とか買い取ってもらってますとね、ギルドマスターのバッファロー・バルさんが二階から降りてきて聞くんですよ。
嫌な予感しかしませんよね。だってほらサランが思いっきりヤな顔してますからね。
「僕には関係ないですけど、魔王と戦う人でしたっけ?」
「そうだ。王都でな、競技会やって年に一回ぐらい任命されるやつだ」
一番強い奴が勇者ですか。まあ妥当な制度ですねえ……。
「魔王と闘うぐらいですからこの国でいちばん強いんでしょうねえ。僕には関係ないですけど」
「そうだな。儲かる、モテる。やりたい放題。イヤな連中さ……」
「そうですか。僕には関係ないですけど」
「そいつらの仕事ってのがな、今はこの国じゅうを回って、魔王が復活する前兆が無いかって調べて回る仕事なんだがな」
「大変ですね。僕は関係なくてよかったです」
「お前なあ……。だんだん俺との付き合い方がわかってきたなあ」
「そうですかね? 初めてあった時からずっとこんな感じだと思いますが」
「それでだな」
「じゃ、まず第一倉庫のハトからいきますか。今からやっていいですか?」
「聞けよ――――!」
もうっ、なんなんですか!
「だからそいつらがな、今度この街に来るの!」
「そうですか。じゃあ、今日はもう帰りますね」
「なんでそうなるんだよ!」
あったりまえです。面倒事に決まってます。
「……もういいわ。バリステスにも頼んでるしな。ハトはいい。すっかりいなくなったからな」
そりゃあよかった。
バリステスのメンバーですか。久々に顔でも出してみましょうかね。
バリステスのホームを訪ねてみました。
みんないましたね。準備中とのことです。
「いやあ久しぶりだな! 入れ入れ!」
あいかわらず大歓迎してくれます。みんなサランのファンですからね。
さっそく台所の掃除からですか……。ごめんねサラン。
「最近変わったことは無いですか?」
「大アリなんだよ……」
なんでもね、この街に勇者が来るんだそうですよ。
有名な人でしてね、五年連続王都で勇者に選ばれてる人なんだそうです。
クロス・レンチという人です。なんだか工具の名前みたいですね。
「この勇者が来るから案内しろってさ」
「どこをですか?」
「古い祠。代々の魔王を封印している五つの遺跡の一つだ」
ファンタジーっぽいですね。
はい、いかにも初耳という顔して聞きます。
「それを調査して封印が解かれそうになって無いかを見回るわけだ」
「なるほど。でもそれならもう慣れた仕事ですよね。バリステスが同行するまでも無いような気がしますが」
「あんまりいいウワサが無い奴らってことだな……」
「調子乗ってるんですね」
「早い話そうさ」
「この街にも近くに祠があるんですね」
「そうだな」
ふうん……。
サランのお昼御飯ができたようです。
食事の前に僕がトイレを借りますと、いきなり目の前にマジックバッグがボンッて現れました!
えええ――――!
こんなの初めてです。びっくりしました。
どうしたのかと思ってバッグを開けてみると、中に例のデジタル簡易無線機が入ってましたね。
これはもしかしてアレですかね?
向こうから連絡したいことがあるってことなんですかね。
僕はポケットに無線機をしまい、マジックバッグを消して、さっさと食事を済ませて、外に出ました。
サランが食器を洗っているうちに、デジタル簡易無線機で通信します。
「こちらシン、こちらシン、ナノテスさん応答願います」
”はーい! こちらナノテスでーす! おひさしぶりです中島さん!”
中島って呼ばれるの、久しぶりですね。懐かしい気がします。
”いつもご活躍見てますよ”
「それほど活躍してるってつもりはないんだけど……」
”いいえ、鉄砲でも魔物倒せるってことがわかっただけでも大変な進歩です”
「ナノテスさんは鉄砲をこの世界に普及させたいんですか?」
”いいえ……。それを見極めるために中島さんに来てもらったわけですが、中島さんが非常に慎重に行動されているところを見て考えを改めました”
「慎重といいますと?」
”人間にチートスキルを与えますとね、増長してしまう場合が多いんです。お金をたくさん稼いだり、女をたくさんはべらせたり、成り上がりものになって敵を多く作ったり、敵になるものを排除しようとしたり……”
「そんなふうに調子に乗れるほど僕強くありませんから。サランに殴られたら死にますよ僕」
”アハハハハハ! 中島さんがいつも謙虚で良かったです”
「どうなんでしょうねえ。ナノテスさん的には、実験は失敗ってことになりません?」
”そうでもないです。どんな能力を持たせるか、ではないんです。どんな人を勇者にするか、ということがよくわかりました。結局人となりなのかもしれません”
……そんなの当たり前だと思いますけどね。
「僕はこの世界で勇者になるつもりも、正義の味方になるつもりもありませんよ」
”これから中島さんはどうしたいですか?”
「エルフの村でサランと幸せに暮らして、サランに看取られて死にたいです」
”……なんてつまら、いえ、普通な”
「普通が一番です……。で、こうして連絡してきたのはなにかあるんですよね」
”実は、ちょっと手伝ってもらいたいことがあるんです”
「ナノテスさんもですか……。どんなことですかね」
”うんざりしない。さて、この世界の勇者は、王国が毎年武闘会で選んでいますが、今は五年連続で同じ人がやってます”
「クロス・レンチと言う人でしたか」
”そうです。やっぱり聞いたことぐらいはありますか”
「まあね、有名人でしょうからね。どっかで聞いたような名前なんですけどまさか僕みたいな転生人じゃないでしょうね」
”いいえ。この世界の人ですよ。で、この人がですね、まあ長くやってると調子に乗って、といいますか、ハーレムとっかえひっかえして引き連れてあちこちで贅沢して威張り腐っているわけですが”
「……暗殺しろとか言わないでくださいよ」
”……”
いや、マジで勘弁して。
ほんと関わりたくないからね。
”これがまた調子に乗って、魔王を復活させようとしてるんです”
「そりゃあひどい」
”封印されている魔王の祠を見て回るだけじゃ満足できなくなっていて、魔王を復活させて、それを倒し、教会に名が残る勇者になりたがってるんですよね”
「倒せるんですか? 魔王」
”無理だと思います”
「最悪じゃないですか」
魔王復活させてそれを倒して英雄ですか。
自演ですね。ネットでそれやったら非難ゴーゴーですわ。
しかもそれを倒せなかったら大変ですよ? 下手したら世界が滅びます。
「で、どうしろって言うんです? 暗殺とか絶対イヤですよ」
”いろいろ考えてみたんですけど、中島さんが引き受けてくれそうなもので……”
「誰が引き受けるって言ったんです?」
”勇者は、パーティーメンバーに魔女を引き連れています"
「魔女? 魔法使いでなくて、魔女?」
”はい。魔法使いのふりしてますがその実態は百年以上生きてるほとんど魔物化した人間。その魔女が封印を弱らせる術を祠に掛けるらしいのです”
「それで?」
”その魔女をですね……”
……。
……。
……。
うーん……。
ゴルゴ13ですね……。
「それって、銃弾でなんとかなる物なんですかね?」
”はい、それはもう”
「ホントそれだけ? それ以上なにも言ってこない?」
”はい”
「どうなっても知りませんよ? 僕のせいじゃないですからね?」
”はい”
「……僕が断ったらどうなります?」
”そうですねえ。私にできるのは、せいぜいマジックバッグが使えなくするとかぐらいですかねえ”
「……やりますよ。やりゃあいいんでしょやりゃあ」
”はい、お願いします”
次回「スナイパーも楽じゃない」