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北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた  作者: ジュピタースタジオ
第三章 あんまり役に立たない現代知識
49/108

49.世界はゆっくり変わればいい


「面白いモンがある。見てくれ」

 バルさんに案内されて工房街にやってきました。

「お前の書いた例のレポートな、あれ見て領主が興味持ってな、今こういうモンを作ってる」


 でっかいですね!

 これは……大型のクロスボウですね。乗用車ぐらいの大きさあります。やっぱりこっちの世界にもあるんですね!


「大昔、国と国で戦争してたようなときに使ってたものだ。城をぶち壊したりするのにも使われてた。バリスタって言うんだ。平和になると必要ねえが、それで平和ボケしちまうのもやっぱりよくねえ。備えあれば憂いなし。また先日のライルスライムみたいな騒動が起こるかもしれねえからな」


「(シンが作ってたのとそっくりだね。これは大きいけど)」

 サランが小声でささやきます。

 どこの世界でも考えることは一緒ですね。

「弓の専門家といやあやっぱりエルフだ。いろいろ意見を聞きたいねえ」


「これ(つる)を引っ掛けるのはどうしてます?」

「今は五人ぐらいで引っ張ってる」

「それは巻き上げにしたほうがいいですね」

「たとえばどんなだ」

「ハンドルが付いたリールをぐるぐる回して巻いて引っ張るんです。歯車で押さえられるようにしておくと安全です」

「ああ、そりゃあいいな。よし採用!」


「弦は放ち終わったときが一番切れやすいです。弦は少したるませて、その分前もって弓の方をなにかで曲げておいて押さえるか、ショックを吸収するようなものが欲しいですね。弓と弦を同じ長さにするのもいいです。引っ張る量増えますが」

「よしそれも採用!」


「これ狙いが付けづらいでしょう。なにか照準器が要りますね」

「筒にしようと思ってるが」

「それだと視界がかえって狭くなります。凹凸でいいんです。矢って、こうー……放物線を描いて飛びます。その弾道がわかってれば、距離でどれぐらい矢が落ちるか前もって知ることができますから、照準器は角度を調整できるようにしておいて、距離によって変えられるようにしたいですね」

 弾丸はもうまるっきり物理の計算通りに放物線を描いて落ちます。空気抵抗のロスはありますが、弾丸には揚力は無いですから少し上に発射した弾丸は山なりのグラフ通りの曲線で飛んでいきます。スローモーションで弾が飛んでく動画とか見るとよくわかります。

 それに対して、矢は形が複雑ですし計算したとおりに飛ばないでしょう。実射して合わせていくしかありませんね。


「すげえなお前……よしそれも採用! でも敵との距離ってどうやって測るんだ?」


「距離計があるといいですね。こう、離れた場所から二点、角度を決めて見られるようにしておいて、それが交差する場所を細かく目盛りにしておけばわかります。あとは試射を繰り返して距離と角度を記録しておきます」

「どんなふうにだ」

「紙とペンあります?」

「持ってこさせる!」


 ……バルさんが走って行ってからすこし考えなおしました。

 こういうふうに知識ひけらかすのも、無駄に発達させるのも、なんか危ないような気がします。やっぱり自分たちで考えさせるのが一番いいんじゃないかって。僕がいろいろ兵器に口出すなんて、やめたほうがいいんじゃないかって。


 そう思って、口に出しちゃった巻き上げ機と、照準器、測長機だけ、スケッチにして残しました。

「僕が思いつくのはそれぐらいですかね」とか言ってごまかしてね。

 でもこれが街を守るのに役に立つなら、それでいいでしょう。


 僕が言わなくてもこの世界は勝手に発展していくでしょう。

 バリスタがあるならクロスボウだって昔はあったに決まっています。

 でも、だからと言って僕が手を貸してその発達のスピードを速めるようなことは、やらないほうがいいですね。




「おーい!」


 街を歩いてると、商人さんから声をかけられました。

「たぬ……ラクーンヘッドかい?」

「はい」


 街でたまにね、アライグマとかキツネの毛皮の帽子被ってる人見ましたよ!

 売れてるんですね! 嬉しいですね!

 でもよく僕らがわかりましたね。


「ああ、タヌキ頭で大女と少年のコンビといえば君たちだからね」

 ……僕少年に見えるんですか。もう二十二歳になるんですけど。


「君ら、ムラクさんに会いたいんだったね!」

「あ、はい! 今来てるんですか?」

 サランも知ってる、エルフ村に出入りの商人さんです。

 あちこち回ってますのでね、ここで会えるのは運がいいですね!


「商人ギルドに行ってごらん。今いるはずだよ」

「はいっありがとうございました!」


 行ってみると、ひげもじゃで、頭にバンダナをまいたオジサンです。

「ムラクさーん!」

「あっ……ってええ!? サランちゃん? えええ? なんでここに!?」

 ムラクさんびっくりですよ。


「ムラクさん見て見てホラ私の旦那!」

「旦那って……、サランちゃん結婚したの?!」

「初めまして、シンと言います」

「えええ……。またちっちゃ……エルフに見えない男だねえ」

 大きなお世話です。

「シンは人間よ」

 サランが僕の帽子をすぽんと持ち上げてしまいます。

 耳を見ろってことですかね。

「……びっくりだよ」


 その後、僕とサランでムラクさんの荷運びを手伝って早く終わらせ、レストランで一緒に食事することになりました。



「なるほどねえ……」

 僕がエルフの村にお世話になったこと、カヌーでたまに街に来ていること。出稼ぎで少しお金を稼いでいること、たまには毛皮を売ったりしていることも正直に話しました。鉄砲の事とかは話しませんが。

「シン君は私のライバルと言うことになるのかね?」

 そう言って笑う。

「いえいえ。カヌーで運べる量なんてたかが知れてますから。商売では専門の商人さんにかなうわけがありません」

 マジックバッグがけっこういい仕事してくれてますが、さすがにそれは内緒です。


「まあ、サランちゃんが惚れこむ男だ。小ズルいことはやるような男じゃないことはわかってるさ。君らに現金収入があれば、私も君らに金貨で物を売れる。今までみたいな物々交換にもう少し別の商売の幅が出る。エルフの村に特産物ができて生活が豊かになり余裕ができれば私にとっても損になる話じゃないよ」 

「ありがとうございます」

 話が分かる人で良かった。商売敵(しょうばいがたき)として敵視されることもありえましたからね。小ズルいことにかけては僕もなかなかのモノだとは思うんですがそれは黙っておきましょう。


「さっき荷物を積み込んでいたのはムラクさんの船ですか?」

「そうだよ」

「あの、お願いしたいことがあるんですが」

「なにかな」

「子羊をつがいで二頭、コポリ村に運んでもらえませんか」

「子羊か……」

 ムラクさんが考え込む。


「はい、今村で羊毛で布団を作るのが流行ってまして、どうせなら村で育てられたら、羊毛で衣類などもつくれたらと思いまして」

「新しい村の特産にするのかい? コポリ村で羊を飼うとしても大きな牧場は作れないと思うが」

「そこまでは考えてなくて、村の中で自給自足できる程度で。十数頭もいれば十分ですしまずはつがいから始めようかと」

「ふむ、面白いな。案外村にとっていい商売を始めるきっかけになるかもしれん。次に行くときに手配するよ」

「ありがとうございます。シラーツァーのナトラルさんの牧場に話をしてありますので、子羊をもらえることになってますから、そちらで」

「ああ、知ってる。羊毛を扱ってるやつらのお得意先だ。話をしてみよう」


「ムラクさん、次はいつ村に来るの?」

「んー、じゃ、一か月後ぐらいにしようかな。それでいいサランちゃん」

「うん」

「なにか欲しいものがあったら言ってくれよ。いや、それぐらいはもう自分で買えるか。こんなところまで来てるぐらいだしね」

「……なんかすいません」

「いやいや。サランちゃん、いい旦那をもらったね。ちょっと話しただけだけど頭もよさそうだ。きっと村を良くしてくれるんだろうね。うまくいくことを願うよ」

「ありがとうムラクさん」

「いろいろありがとうございます」


「村長の家に泊めてもらったことがあるけど、たしかにあのベッドはひどかった。羊毛布団、期待してるよ」

 そう言って、ムラクさんはゲラゲラ笑いました。

 これからも取引相手として、大事にしていきたい人ですね。


「羊毛刈るならバリカンがいるよ。一緒に持っていくからね」

 ……。さすがですムラクさん。

 一枚も二枚も上手(うわて)です。



 せっかく商人ギルドに来てますのでね、今日の取り扱いリストを見てみます。

 パチンコに使えるゴムとか、ビタルフィッシュの軟骨とか、そんなものはありませんでした。残念です。ゴムはゴムの木から採れるんだっけ?

 そんな南国の商品、出回らないよね。

 パチンコはあきらめるか……。



 事前にバルさんからお勧めされた武器屋さんにいきましてね。

 初めて行く武器屋さんにサランも興味津々です。

 弓は……サランの持っている奴のほうがずっとマシですね。

 剣はピンキリです。宝飾されたものからフェンシングの針みたいな剣にサーベルも。こちらの兵士さんたちが腰に下げてる丈夫そうな実戦剣までいろいろです。


「見た目はどうでもいいからとにかく丈夫で折れない剣を一本下さい」といって出してもらいました。うわあすげえ。厚みがあって……研いでありません。

「練習用剣だ。本物の剣より少し重くて、訓練で打ち合わせるから最初から刃はついてなくて折れにくいようにできてるんだ。本物の剣より丈夫だぜ。武闘会で使うのもコレだ。値段も高くないし折れない剣がいいならそれがうちの店じゃ一番折れにくいってことになるんだがそんなんでもいいのかい?」

「ええ、これがいいです。折れなくて丈夫ならなんでもいいので」

 そんなわけで金貨三枚で買ってきました。


 買い出しリストもだいたい買えましてね、村に帰ることにしました。

「帰る前にこの仕事やっていってくれよ」

「イヤです」

「領主からの頼みなんだよ」

「絶対イヤです」

 もうバルさんがしつこいです。

 なんですか巻き狩りの勢子って……。

 そんなの僕らでなくてもいいじゃないですか……。


「ほら御領主様のお狩りでな、獲物がゼロだと格好つかねえじゃねえか。だから領主様が狩りをするときは、こっそり腕のいい狩人が付いていくもんなんだよ」

「だからイヤですって、鉄砲見られたら厄介になるだけじゃないですか」

「……それもそうか。わかったよ。また来いよ」

「それはもう」

「お前ら面倒だな。使えるのに使えねえ」

「悪いとは思ってますよ」

 あっはっは。


「まあなんだ。月に一度ぐらいは来てくれや。それだけで大助かりさね」

「ふた月に一度で……」

「それでもいい。頼むわ」

「はいはい」



 なーんもなし。

 そんな穏やかで普通の日常、大事にしたいですね僕は。


「さっ行くよ!」

「お――!」


 すいーっと川イルカくんがカヌーを曳いて川に泳ぎ出します。

 今回はなにも事件無し。

 よかったよかった。



「シン! シン! いたいた!」

「なにが!」

 突然のサランの声にびっくりします。


「ビタルフィッシュ!!」

 えーえーえー。

 ジャッキーンッ! 反射的にM870のフォアエンドを前後させてしまいました。


「どこ!」

「あっちあっち!!」

 サランが指さします。


「横に付けて!」


 もうやってます、サラン。

 川イルカくんの手綱を操って右へ右へ。


 ドッカーン! ジャバ――――ッ!

 ドッカーン! ジャバ――――ッ!

 ドッカーン! ジャバ――――ッ!

 水中のうねうねとした何かにバックショット三連射!


「ぎゃー! やめてやめて!」

 サランが耳をふさいで叫びます。

 キューキューキュー!!!

 川イルカくんも水から頭を出して大ブーイングです。


 ……ごめんなさい。

 耳栓なしの至近距離での三連射はきっついですよね。


 水に銃弾を撃ち込むと、あらぬ方向に飛び、かつ数メートルで威力が無くなります。角度が浅いと水きりのように跳ねることもあります。水中で発射するとさらに短いですよ。(※1)

 ゆらゆらゆら……。

 水中になにか沈んでいきます!


 僕はカヌーの座席にM870をツッコんで、水に飛び込みました。

 逃がすかあああああ――――!


 ぎにゅっ。

 つかんだ!

 にゅるにゅるしてる――ううう!

 気持ち悪いいいいいい!


 持ち上げて足をばたつかせて水面へ!

「獲れた――――!」


 カヌーの中に投げ入れます!

「うわあ……」

 サランドン引き。


 頭付近を血まみれにして動かないビタルフィッシュ。

 長いです。深海魚のリュウグウノツカイにちょっと似てます。


「これ、おいしいの?」

「水っぽいし、まずい」

 ガッカリです。




――――作者注釈――――

※1.たいていの銃は水中でも発射できる。銃口が水に塞がれているので破裂しそうだが、水圧は10m潜っても1気圧。激発時1000気圧以上にもなる薬室や銃身が水圧に負けることは無いのだろう。

 弾は2~3m進めばよいところ。つまり映画やマンガに見られる「水中からの狙撃」はウソである。逆に水に潜って敵弾から逃げるシーンは数メートルの深さでも実際に効果があると言える。

 ダイナマイトで魚を獲るという話から、水中で銃を撃つと衝撃波で人間がやられると思いがちだが、ダイナマイトに対してスプーン一杯分の火薬しか使わない銃では水中で発射しても撃たれても人間が気絶するほどの衝撃は無いらしく、海外動画で銃の水中での発射実験で、撃った人がぷかーっと浮いてくる場面は無い。


次回第三章最終回「楽しいエルフたち」

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