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北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた  作者: ジュピタースタジオ
第三章 あんまり役に立たない現代知識
48/108

48.農家さんたちの依頼


 次はプレイリードッグです。

 前回途中で放棄した仕事です。


 これイヤなんですよねえ……。

 なにしろ用心深い。100mや200m近づくだけでさっと巣穴に入っちゃいます。で、これが猫ぐらいの大きさしか無くて的が小さい。

 最初は弓矢でも獲れるんですが、すぐにもっと用心深くなって獲れなくなります。最初っから遠距離射撃したほうがいいですね。

 そんなわけでしてね、これを駆除できる人ってのはこの世界に全くいませんでね、増えるんです。そりゃあもうそこらじゅうを巣穴にして。

 で、牧草地が穴ぼこだらけになりましてね、馬が足ツッコんじゃうと足折ってしまうんです。もう農家さんにメチャメチャ嫌われてます。


 しかも、決定的にイヤなのが、コレ、可愛いんですよ――!

 見た目も、しぐさも! しかもいつも家族連れ!

 数匹で巣穴の上に立って、周りを警戒しています。

 ある程度命中精度が高くて、2~300mで2インチ(5cm)に当たるとなるとどうしても口径が大きくなりまして、それで撃つとこんどはバラバラになって飛び散っちゃってグロいんですよ――!


 罪悪感がハンパないんですが、もうしょうがない。心を鬼にしてレミントンM700でライフル弾を撃ち込みます。

 

 308ウィンチェスターと、それをそのまま軍用弾として採用した7.62×51mmNATO弾は同じものです。互換性があります。

 面白いんですが、308ウィンチェスターとして買うとホローポイントとかの狩猟用弾頭がついていて、7.62×51mmNATOとして買うと、フルメタルジャケットの軍用弾なんですよ。

 バーンズとかの高威力な狩猟用弾頭は一発150円と高いんですが、FMJ(フルメタルジャケット)だと一発50~60円と安いです。

 なんで、プレイリードッグはそっち使います。


「サラン、農場で遊んでていいよ。僕一人でやるから」

「……うん」

 牧場主さんには、大きな音がしますので馬たちを厩舎に全部入れてもらうように頼みました。馬さんたちはデリケートでしてね、近くで発砲音がすると驚いて走り出し事故になる場合が多いです。北海道でも馬の産地で有名な日高町では、牧場周辺での発砲は厳禁です。


 ……めちゃめちゃ精密射撃です。

 いちいち距離計(レーザーレンジファインダー)でちゃんと測らないといけません。

 全部、伏せ撃ち(プローン)で狙撃します。

 いい狙撃の訓練になる、とは思います。

 スコープが発射炎で眩みますし銃口も跳ね上がるので着弾の瞬間は見られませんが、それでも残骸が宙を飛ぶところは見えますのでね、いろいろなにかにゴメンなさいしながら撃つことになります。嫌な仕事ですね……。


 それでも五十匹以上は獲りました。

 下半身だけになったプレイリードッグたちのちっちゃなしっぽをハサミで切り取って、討伐証明にします。

 牧場をぜーんぶ歩き回らないといけませんでね。疲れました。

 牧場主さんに結果を報告します。


「はい」しっぽの入った袋を開けると牧場主さんが驚きます。

「うおお――――! すげえ! これ全部獲ったのかい!」

「はい……」

「これで馬を走らせることができるよ! ありがとう!」

「まだ穴いっぱい空いたままですからね、全部埋めてからにしてくださいね」

「わかってるよ。いやープレイリードッグ駆除してくれるハンターなんてあんたたちが初めてだよ。嬉しいねえ! 報酬弾むよ! また頼む!」


 金貨五枚になりました。

 報酬からも農家さんたちからの嫌われっぷりがわかるというものです。


 223レミントンを使う精密な小動物駆除用(バーミント)ライフルが欲しい所ですが、銃もスコープも、本格的な狙撃銃っぽくなっちゃいますから高いでしょうね。しかも使い道がプレイリードッグ以外に無いと言う……。


 日本ではこういう狩猟禁止です。

 ライフルで撃っていいのは事実上シカ、イノシシ、クマだけです。

 それ以外は全部散弾銃か空気銃で獲らなければいけません。

 キツネ駆除なんてライフルが使えたらどれだけ楽か……。

 でも、禁止なんですよね。



「サラン、帰るよー」

「ううん……。はーい……」

 麦わらの上で寝てました。

 しょうがないか。バラバラになって吹っ飛ぶ獲物なんて見せられませんて。

 背中とかに着いた麦わらをぽんぽんと払ってあげます。



 つぎは羊農家さんです。

 コヨーテですね。サープラストからずーっと離れていて、隣領のトープルスに近いぐらい。

 両方のギルドに依頼を出しているのですが、どちらからも引き受けてくれる人がいないそうです。

 サランに笛を渡して吹いてもらいます。


 ぴぎゅーっ ぴきっ ぴぴゅう――っ ぴぎゅーっ ぴぎゅ――――っ。

 捕まった小動物が動けなくて悲鳴を上げているような音が鳴ります。


 捕食者(プレデター)コーリングと言います。

 これを吹くと……。


 ふらふらとやってきましたよコヨーテたちが!

 距離200~300mを次々にレミントンM700で射殺します。これもFMJを使います。コヨーテの体にホローポイントを当ててもあんまり効果的じゃないですから。


 エルフの村は森の中。湖の湖畔にあります。

 そこで小さな畑を営んで暮らしています。

 こんな大草原、牧草地帯、大きな畑などとは現れる動物がだいぶ違いますね。

 だから獲り方もだいぶ変わってきます。

 おびき寄せる、という狩り方が有効になってきますね。

 五匹獲れました。


「ありがたい。助かったよ」

 そう言って、羊の牧場主さんがお礼を言ってくれます。

 年に羊が十頭ぐらいはやられるそうです。


 前から考えていたことをちょっと言ってみましょうかね。


「あの、僕らの村でも羊を飼いたいと思うんですが、つがいで売ってもらうってことはできますかね」

「ああ、いいが、どうやって連れて帰る?」

「それは商人さんと相談になりますが」

「そうだなあ、つがいなら金貨十枚で、いや、子羊でよければ言ってくれればタダにしてやるよ。今日のお礼だ。あと二~三回来てくれるならだけど」

「それでいいんでしたら、ぜひ」

「都合がついたらまたおいで。とりあえず今日の分は今日の分」

 そう言って金貨二枚いただきました。



 牧場の厩舎で羊を眺めます。

 子羊だったら大きい犬ぐらいの大きさですね。カヌーで運べるかもしれません。

「羊欲しいのシン?」

「うん、羊毛が取れるでしょ? そうするとみんなの布団とか、毛糸の編み物とか、できるじゃない」

「ああそうかー。私羊肉とか羊の毛皮とか考えちゃった」

 食べちゃダメでしょ食べちゃ……。


「ラノアさんちでヤギ飼ってるからね。そこで育ててもらえないかな」

「そうだね。それいい考えかもね」

 村に帰ったらラノアさんに相談してみましょうか。

 そうして羊を眺めていると、牧場主さんがやってきていろいろ説明してくれました。

「ヤギが飼えるなら羊も飼えますかね?」

「ああもちろん。食べるのは草だけだよ。毛を刈るのは夏になる前に年に一回。十年ぐらいは生きて毛を刈ることができるよ。こいつら食って寝ることだけしかしなくて逃げ足も遅いから、他の動物に食べられないようにね。肉にして食べるなら二年目までだ」


 ……ごくり。

 僕北海道出身だから羊には思い入れがありますからね。

 ジンギスカン大好きですから。

 これはぜひ飼いたいですね……。



 あとはハトとかカラスとかコヨーテの続きとか。

 前回みたいな大物はありませんでした。

 三日間そんな仕事をいろいろやって、報告にギルドに戻ってサインもらった依頼書を出して完了報告します。


「いやあ助かるわお前ら。ギルドからは三日で金貨三枚な」

 二人で日当金貨一枚ですか。

 なんだかなあ。ま、害獣駆除ハンターって、ボランティアみたいなもんですからね。しょうがないね。


 掲示板を見ると、けっこう大物依頼があります。


 大型ワニ、大蛇、灰色グマからゴブリンの巣の討伐、オークの討伐、リトルドラゴン、いわゆるファンタジーっぽい異世界魔物の討伐依頼もちゃんとあります。

「……ちゃんとハンターらしい仕事もあるじゃないですか」

「ハンターらしい仕事ってなんだ。仕事は仕事だ」

「こういうの誰がやってるんですか?」

「そういうのはなあ1級2級の連中が喜んでやるよ。月に一度もやればそれなりに贅沢して食っていけるからな」

「僕らにはこういう話全然来ませんよね」

「やりたいのか?」

「いえ、そういうわけではありませんが」

 っていうか絶対イヤです。

 基本的に二人でやる仕事じゃありません。


「お前ら2級に上がったばっかりだし、こういうのはやっぱり数がいないとな」

「そのわりにはゴブリンだのヒドラだのライルスライムだの……」

「悪かったよ。あんときは手が足りんかったからだって。悪く思うな。逆に言うとお前ら動きやすいんだ。五人だ十人だっていうパーティーを金貨数枚で動かすことはできんだろ」


 なるほどね。僕ら二人だから儲けになるけど五人とかで分け合ったら赤字だよね。

 僕ら、ちょうどいい仕事をちょうどよくやっていることになります。

 なんだかんだ言ってバルさん、人を使うのが上手です。


「1級2級の方たちはどちらに?」

「そういうのはさっさと王都に居を構えたりキレイどころに専属で雇われたり……。この街には帰ってこなくなっちまうな。人手が足りねえんだよ。またその足りねえのをいいことにイイ金取るしな。悪循環だな」

「ハンターが増えればいいんですがね」

「よかねえよ。ハンターが増える世の中なんて不幸で、ちっとも平和じゃねえ世界さ」


 ……。


 じゃあバルさんはなんでハンターなんかやってるんですか?って聞きそうになった。


 僕と同じか。

 他にやってくれる人がいないから、しょうがなくて始めたハンター。

 みんなのためになるならって、おじいちゃんの後を継いでハンターになった僕。

 鉄砲撃つのは好きになれたから、ある程度は楽しめてやれているけど、きつい、汚い、危険の3Kで、おまけに動物殺すのが大好きな社会不適合者みたいな誤解もなくならない。警察も次々と規制を強化してくる。まるでハンターを絶滅させようとしているみたいに。

 損な仕事ですよね……。


「損ですね。ハンターって」

「その通りさ」


 バルさんがニヤッと笑う。

「期待してるぜ」


 ……いやそんなこと言われましてもねえ……。



次回「世界はゆっくり変わればいい」

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