46.エルフの村の結婚式
村に帰ると、ミルノくんとカノちゃんの新居が完成していました!
母屋を増築する形で、新しい丸太小屋ができてます!
僕とサランでベッドの大きさをものさしで測り、今日から結婚式準備です。
村では宴の準備が始まり、僕らの家ではサランが羊毛だらけ、僕は羽毛だらけになって布団づくり。
買ってきた新居の道具類も、きれいに部屋に並べていきます。
結婚式当日は朝からご馳走やお酒が並んで大騒ぎ。僕らが街で買ってきたお酒も大盤振る舞いいたしますよ。
「やったー! コレ、欲しかったんだ!」
カノちゃんに内緒で買ってきたミルノくんへのプレゼント。
大きな魔法ランプが吊るしてあります。
こするとなんか出てくる「魔法のランプ」じゃないですよ。魔力をちょっと注入するだけで光る便利ランプです。人間には魔法を使える人が少ないのでさっぱり人気がなく安かったですね。誰もが普通に魔法を使うエルフの皆さんにはぴったりです。これは僕とサランの家と、ミルノくんとカノちゃんの部屋を建て増ししてくれたお礼に合同で、お祝いのお返しにと村の全戸分買ってみんなにも配りました。
「ああー!!」
新居を覗き込んだカノちゃんが大騒ぎ。
なんでランプがダメなんですか。ミルノくんの買い物リストに勝手にバッテン付けてましたよね。
「それ、ダメって言ったのに――――!!」
「なんでダメなんだよう!」
「決まってるじゃない! 新婚なのよっ? 初夜なのよっ? みんな覗きに来るじゃない!」
「だってコレが無いと俺どうしたらいいかわからんし」
「私は絶対イヤなのよ――!」
「お前だってシンさんとサランさんの初夜見にいってただろが!」
そうだったんですかカノちゃん……。
「何を言っておるお前たち!!」
村長が来て一喝します。
いやそもそもなんで村長が来るんです。
「村にとって若人の婚姻、子作りは大事な営みだ! 村民みんなでこれを祝福し、見届けるのは大切な村の慣わし。今更グズグズぬかすでない!」
いやあなたスケベなだけでは……。
村長まで見に来る気満々なんですか……。
「婚姻前の男女同衾せず! 掟をなんと心得る! 直ちに去れ!」
「いやああ――――!!」
カノちゃん逃げていきました。あっはっは。
「(ミルノくん……)」(小声)
「(はい?)」
「(婚姻前に男子は夜伽の儀を受けるんじゃなかったっけ?)」
「(……カノが絶対ダメだって言って断る羽目になっちゃって……)」
めちゃめちゃヤキモチ焼きなんですなあカノちゃんは。
僕も断っちゃったけど。
村の若者たちが二人の新居を見て羨ましがります。
ピカピカの食器類や調理器具、ふかふかベッド、いろんな生活雑貨。
どれも僕らが街から買ってきたものばかりです。
「いいなーいいなー」
「いいと思うならばお前たちもさっさと結婚して子作りせい! いつまでもダラダラとしておらずケジメを付けい! まったく近頃の若いもんは……」
……これから結婚式があるたびに僕らコレ用意しないといけないんですか村長。
大変すぎます。こんな少子化対策あんまりです。
今回だってどんだけ大事件があったと思ってるんですか。
夕刻。
湖で静かに二人の結婚式が行われました。
僕らもあんなんだったんですね。
おごそかで、神聖な、素敵な結婚式です。
「夫婦となった二人に、幸いあれ」
村長が宣言すると、うわああーってみんなで湖に飛び込み、二人にバシャバシャ水をかけます。
もちろん僕とサランも参加します。
「おめでと――――!」
「おめでとう――――!」
「きゃああああ――!」
ミルノくんとカノちゃん、笑いながら逃げて行っちゃいました。
あっはっは。
「シンは見に行かないの?」
「……行かないよ」
そんな悪趣味な。いくら村の風習とはいえこれはお断りしたいです。
「私は行くよー。見られたなら見返さないと!」
どういう理屈ですか。
「どうぞ。僕もう寝る」
「もうっ」
すーすーすー……。
ああ……ひさびさだなこんな静かな夜……。
かちゃっ。
夜更け、サランが戻ってきました。
するすると衣擦れの音がして、ベッドにもぐりこんできます。
「……シン、起きてる?」
「……今目が覚めた」
ぎゅって抱きしめてくれます。
「……私、シンと結婚してよかった。本当によかった」
いったいなにがあったんですか。
「抱いて。いっぱい」
はい、そういうことでしたら遠慮なく。
「シンさん――――!」
翌朝、ミルノくんが涙目になって僕を見つけて追いかけてきます。
「なに!」
「教えてください――――!」
「なにを!」
「お願いします――――!!」
「だからなにを!」
これ以上の厄介ごとはゴメンです。
僕は全力で逃げ出しました。
――――――――――第二章 END――――――――
――――作者注釈――――
●ここまでのシンの装備。
・レミントンM700 375H&Hマグナム
実は現在はM700の375H&Hマグナムはこの五十周年記念モデルを最後にカタログ落ちしていて作られていない。
プレミアムモデルであり、メモリアルモデルでもある。
今は375H&Hマグナムよりも強力で命中精度も高い338レミントン・ウルトラ・マグナムにその座を譲っている。
375H&Hマグナムの製品化は1912年。決して命中精度が高い弾薬ではないが、100年以上に渡ってアフリカの大型動物を撃ち倒してきた歴史と高い破壊力への信頼性、威力と撃ちやすさの妥協点としてのバランスの良さは多くのマグナム弾があふれる現在においても一定の支持がある。
名前が紛らわしいがリボルバー用拳銃弾のS&W357マグナムとは全く別物のライフル弾。
弾倉は3連発。剣も槍も通用しないライルスライムの核を撃ち抜く威力がある短~中距離用・対大型魔物決戦銃。弾薬は一発2.5ドル(ウクライナ戦争以後3~4ドルに値上がり中)。
最新式の大型弾がいくらでもあるだろうと思うかもしれないが、初心者がまず撃たされる22LRは1887年、みんな大好き9mmパラベラムが1902年、45ACPが1905年、エゾシカ猟で多用される30-06スプリングフィールドが1906年、ハリウッドで大人気のバレット対物ライフルに使う50BMGは1910年と百年以上前に開発された弾薬が現在も最前線で使われているのは別に珍しくはない。
むしろ百年間も最前線にあり続けたこれらの弾薬のほうが最新の弾薬よりよっぽど頼りになると考えるユーザーは多い。
ちなみに「マグナム」というのは本来倍の大きさの酒瓶、という意味があり、「火薬がいっぱい入っていますよ」という銃器メーカーの宣伝のためのネーミングで、どういう弾薬をマグナムと呼ぶかという明確な基準は存在しない。
次回、第三章「あんまり役に立たない現代知識」開始です。毎日更新。