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45.ライルスライムの生態調査についての報告書


 その日の夜にようやくサープラストに到着です。


「どうだった!」

「バッチリッス」

「全部撃退してきたっス!」

「お前らには聞いてねえよ!!」

 ギルドマスターのバッファロー・バルさんがチーム・エルファンを怒鳴ります。


「まあ何とかなりました。詳しい報告は明日します」

「そうか、よくやった。まあシンが大丈夫って言うなら大丈夫だろうな」

 えーえーえー……。

 チーム・エルファンから抗議の声が上がります。

「今日は休んでくれ。報酬は明日渡す」

「明日には僕らもう帰るんですけど」

「そうか、そうだったな。いろいろ世話になった。礼を言う」

「いえいえ」


 おーいとバルさんが奥に声をかけます。

「報酬、今日渡してやれ!」


 奥から事務員さんが革袋持ってやってきました。

 金貨五十枚が入ってます。

 ギルドの天引き無しの領主様から(たまわ)ったそのまんまですよ。太っ腹です。


「それからこいつは姉ちゃんに頼まれてたやつだ」

 大きな布袋を渡してくれました。中身を見ると袋いっぱいに羊毛が入ってます。

「どうも、マスター」

「ありがとうございました。助かります」


 二人でお礼を言うと、「買い付けに行くヒマ無かったのは俺らのせいだからな。これぐらいさせてくれ」とバルさんが笑います。

「いくらですか?」

「銀貨一枚」

「そりゃあ安すぎです」

「大サービスさ」

 あっはっは。


 言われた通り、銀貨一枚渡して、顔を見合わせて笑います。

 サランもやっとにっこりしてくれましたね。


「さあー! お前ら! カード返却しろ!」

 チーム・エルファンがしぶしぶハンターカードをバルさんに渡します。

 彼らはこれでハンターはクビです。明日からは就職先を探さないといけませんね。

 新しい人生に幸あれです。



 最後の夜ですしお金も稼げましたので、かなりいいお宿を取りました。

 雑貨屋さんで買ってきた1ナール定規とインク、紙とペンを出します。

 成人男性が手を広げた時の親指から鼻先の長さが1ナール(約91cm)だそうです。これがこの国の長さの単位です。ヤードと全く同じですね。

 まあ、異世界でも考えることはだいたい同じってことですね……。


 部屋のランプが明るいので、筆が進みます。

 サランは先にお風呂に入って寝ちゃいました。



――――――――――――――――――――――――――――

 ライルスライムの生態と対策

 

●概要

 幼体時は直径2ナール以下の水色。ゼリー状の体内組織を持ち、粘膜状の透明の外皮を持つ球体が潰れたような形をした生物。

 幼体時の見た目はどの種も酷似しており、判別は非常に困難である。

 移動は内部組織を回転させて外皮を転がして進むため移動速度は遅く、人が歩く早さから小走り程度の速度で動く。

 幼体時は防衛のため外敵に対し酸の体液を吹き出し攻撃を行う。

 捕食は小動物、植物等を直接その体で包んで体内に取り込み、消化、分解を行う。

 基本的に川、湖、沼地、湿地帯を好み、乾燥した環境では生活しない。


●成長と変態

 幼体から成長すると、複数の個体が集まって合体し、成体となる変態を行う。

 成体時の大きさは直径5ナール、高さは1ナールの平べったい半球状だが、自在に変形を行う。

 移動方法および移動速度は幼体時と変わらないが、粘着して壁を登るなどの行動をする個体も見られる。

 成体の特徴は攻撃を受けると敵意を示し、色が青色から赤い蛍光色に変化する。この状態では積極的に攻撃、追跡を行い、敵が逃げた場合でも嗅覚により追跡を行い、敵に対する執着が非常に強い。

 また、幼体時には剣や槍で容易に切断できた体も、弾力性が強くなり、外皮も強靭となるため剣や槍等の通常武器が通用しない。

 魔法や火炎の攻撃も寄せ付けないが移動速度は遅いため、発見したら逃げることが最善の手段となる。その場合嗅覚による追跡を防ぐため、川を渡る、他の匂いの強いものを撒くなどが緊急避難的に有効だと思われる。

 倒す必要がある場合は、中央に見える核部分を何らかの方法で破壊しなければ無力化できず、きわめて強力な重量のある先端の尖った投擲物が必要である。集団で襲われた場合、数体を殺すと攻撃性が消え、逃亡を行う例がある。


●繁殖

 いわゆる、「粘菌」にきわめて近い性質を持つ。

 数十体の幼体が合体して成体となり、その成体がさらに10匹程度が合体をして、一つの巨大な生物となり、キノコ状の形状に変化する。

 下部のスライムたちは乾燥して根を張った樹木のような形になり、上部の柔らかい組織が上に伸び、キノコ状の傘を作る。

 ライルスライムの場合その高さは30ナール近く、巨木もしくは巨大キノコ状となる。目撃された個体例ではこの植物化は夕刻より明け方にかけて行われた。

 傘の完成に伴い、通常のキノコ等の菌類と同様に、傘部分から胞子を撒き、その胞子がやがて成長してスライムの幼体に変化することが考えられるが確認はされていない。

 植物化したスライムは、動くことができず、通常の植物同様、無抵抗かつ無害な状態となる。また、外観は巨大な細身のキノコそのままなため、発見は容易である。これも、スライムの生活圏同様、川、滝等の水源の近い場所で植物化は行われる。

 この状態で発見できたら、胞子が撒かれる前に速やかに幹を切り倒すか、傘の部分を切り落とすかして、早々に対策をする必要がある。切り倒した幹、傘部分は水を吸い上げる導管が破壊されるため急速にしなびる。胞子の拡散を防ぐため倒した部位は可能な限りその場で焼却すること。


●対策

 ・通常の攻撃が可能な単独の幼体時にできるだけの数を倒して個体数を減らす。

 ・複数の個体がある場合はその場で合体し成体に変態するので攻撃は不可。

 ・攻撃時は体液が酸性のため腐食しない金属を使うのが望ましい。

 ・成体は攻撃がほとんど通らないと考え、避難、監視に留める。

 ・成体のスライムが集合して植物化するのを待ち、切り倒すことが望ましい。

 ・倒すのに成功したら、傘、幹の部分に油などをかけて早急に焼却し、

  胞子の拡散を防ぐこと。


              以上。



――――――――――――――――――――――――――――



 ふうー……。

 こんなところですかね。

 なんだか役場の報告書みたいになってしまいました。

 ちょっと長いですね。


 こういうのは本当はA4用紙一枚に収めるのが理想です。

 一枚なら最後まで読んでくれます。

 でも二枚になると最後まで読んでくれる人は半分に。

 三枚になると三分の一、四枚になると四分の一の人しか最後まで読んでくれません。そういうもんです。統計取ったわけじゃないけど、役場で資料とか作る仕事とかした感じではそれが実感。

 重要な通達、情報ほど、紙一枚で済ます、ということが大切になります。



 サランはもう寝ています。

 いつもむぎゅってされてますのでね。

 今日は僕がむぎゅってしましょうかね。

 おやすみ。





 朝になって、商人ギルド裏の桟橋からカヌーで出発です。

 みんな見送りに来てくれています。

 ギルドのみなさん、それに、チーム・エルファン。

 なぜか、バリステスのパーティーも。

「シン! また大仕事したらしいな! なんで俺たちを連れて行かん!」

「……あんまり大っぴらにできない仕事でしたので」

 バリステスのリーダー、バーティールさんが不満顔です。


「ほとんど商売抜きですよ?」

「それでもだ。お前らのやることは面白いからな!」

 はははは……僕はもうゴメンなんですけどね。


「バルさん。昨日の報告書です。お偉いさんたちも見られるようにして下さい」

「……こんなもん書いて寄こしたのお前らが初めてだぜ。学者でもやってたのか」

 役場の職員ですけど。


「ハンターにしとくのはもったいねえ。いや、宮仕えさせんのがもったいねえか。ハンター連中がみんなこんなモンが書けるようになればギルドももっと良くなるが、そんなやつはハンターなんてやんねえしな」

 残念ですよねバルさん。


「魔物の倒し方なんて、一流のハンターほど教えてくれねえよ。お前、変わってるな」

 ああ、そういうことですか。

「とにかく対策については参考になりそうだ。お前のアレほどのものは作れねえが、なんか考えてみるよ。ありがとな!」

「お世話になりました」

「そっちの用事終わったらすぐ戻ってこい。農家の仕事がたんまりあるぞ」

「……考えときます」

「いや、そっちのハンターもっと頑張ってよ」

 正論ですねサラン。


「違えねえ」

 みんな苦笑いしてから、爆笑します。


「それじゃ!」


 サランが手綱を弾くと、川イルカくんがバシャバシャと泳ぎ始めます。

 ゆっくりと、スムースに、カヌーが桟橋を離れ、上流に向かって力強く進み始めました。



次回第二章最終回「エルフの村の結婚式」

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