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44.スライムの正体


 馬車で森林地帯まで向かいます。チーム・エルファンも一緒です。

 歩きで一日かかる場所だそうですよ。今日は馬だから半日ぐらいかな。

 二頭引きの馬車が二台。先頭はチーム・エルファン。

 タイトさんとアンダルさんとジニアさんが乗ってます。

 僕たちの馬車はエルファンの今はリーダーをやっているベルタスさんが手綱を取り、僕は隣で一応スムースボアのスラッグ銃身付けたM870の弾倉にバックショット詰めて座ってます。後部荷台にはサランが後方監視。

 馬車はギルドが貸してくれました。



「スライムってどこで見つけたんですか?」

「滝つぼ。山の中狩りしてて、キャンプしようと思ってさ、水浴びもしたかったし、そしたら滝つぼの周りにスライムいたんで、邪魔だから斬ったらたちまち集まってきて合体はじめて大きくなって」

 そりゃあ驚くでしょうね……。


「で、赤くなって激怒して襲ってきて、そしたら剣も槍も効かなくて逃げ出したんだ。あれがライルスライムだとは思わなかったよ。逃げに逃げたんだけどさ、俺たちの匂いがわかるのかな、ずっとそれたどって追ってくるのさ。足が遅いから助かったけど、執念深く街まで来やがって……」


「あんたたち、滝に行ったなら川があったでしょう。なんで川を下らなかったのさ。そうしたら匂い追われることも無かったのに」

「あっそうか! その手があったか!」

 サランが注意するとベルタスさんがはっとした顔になります。


「ライルスライムを見たら川に入って逃げろ。エルフじゃ常識よ?」

「すいません……」

 ベルタスさんがガックリします。


「でも滝つぼってことは、生息地の周辺に見下ろせる高い場所があるんですね」

「そうだ」

「そこに案内してください。ライルスライムって平べったいから上から狙わないと核が破壊できません。安全のためにもそうしてください」

「わかった。それは大丈夫だ。でもだいぶ距離があることになるけど」

「ちょっと馬止めてください」


 ベルタスさんが馬を止めると、先行してるチーム・エルファンの馬車がどんどん先行っちゃいます。

「うん、アレぐらいの距離までは大丈夫ですかね」

「こんな距離で!」

 はい、だいたい100mぐらいです。



 近隣の農家さんに馬を預けて、徒歩で森林に入ります。

 荷物を背負ったチーム・エルファンが案内役で先行。僕らは後ろからついていきます。

 半日ほど山を踏破しますと、もう午後もかなり昼下がり。

 一度簡単な保存食で腹ごしらえしてから斜面を登り、滝の上の川近くまで到達します。


 ドドドドドドドド……。

 滝の音が聞こえてきましたね。


 顔を出すと、滝つぼです。


 そーっと顔を出すと、うねうねごろごろ……。

 眼下にスライムたちがうようよしてます。二十匹ぐらいでしょうか。

 二十発もアレを撃たないといけないんでしょうか。

 なんか、ウンザリです。


「ここ、切り開いて平らにしましょう。お願いできますか」

「ああ」

 メンバーが剣やナタを振るって、広い場所を作ります。

 その間、サランが伏せって双眼鏡を観察しています。


「様子がおかしい」

 僕も滝つぼを見ると……。


 直径5mもあるライルスライムたちがさらに積み重なって集まってます。

 十匹ずつでしょうか、二つの大きな山になってますね。


「うわあ……。これじゃあ撃てないな」

 あの厚さ1m、核まで50cmはあるスライムの厚さがさらに厚く!

 どうしよう……。これはダメかも。


「ひいい……」

 藪払いを終えたエルファンのメンバーたちも恐る恐る顔を出して見て驚愕します。


「どうする!?」

「様子を見ます」

「様子見るって、このまんまもっと大きくなったらどうすんだよ!」

「ちょっと確かめたいことがあるんです」


 もしスライムが粘菌の一種だとしたら……。あるいは……。


 大きなスライムの山の土台になってるスライムたちが干からびた感じで硬質化し、土台になります。

 上に乗っかったスライムたちがやわらかく合体し上にひょろひょろと伸びていきます。

 ゆっくり、ゆっくりですね。

 やっぱりか……。


 伸びた先が丸く水玉みたいです。

 ぐにゃぐにゃしたマッチ棒って感じですね。


「交代で見張りましょう。全員キャンプの準備を」

「そんなのんきな!」

「どっちみち今は攻撃できません」




 簡単な食事して、夜になって、交代で見張り続けて、朝になりました。




 ほっそいエノキ茸が一本だけ、乾いたスライムの山から生えてるみたいな形になりました。先端はまだ丸いです。

 巨木です。30mはあるでしょうか。

 それが二つの元スライムの山から一本ずつ、二本できました。

 先端はまだ開いていません。


「やっぱりです。スライムは粘菌です。あそこの先端から胞子を撒くんです」

「……なんだかわからんが、アレを破壊したほうがいいのか?」

「そうします。みなさんは周囲の警戒をお願いします」


 マジックバッグから375H&HマグナムのレミントンM700を取り出し、シューティング用のベンチレストがついた三脚の上に先台を載せて、座った姿勢で狙います。後ろではサランが双眼鏡で観ながら、着弾観察です。

 耳栓を渡します。

 僕も耳栓を付けて、375H&Hマグナム弾を布の上に並べ、三発をM700に装填。ボルトを操作して薬室に一発送り込み、巨大エノキ茸の首元を狙います。


「撃つよ――!」

「はい――!」


 ドッガア――――ン!!( ドッガア――――ン ドッガア――ン ドッガア――――ン……。)

 滝つぼに銃声がこだまします。


「命中!」


 スコープで見ると、エノキ茸の傘下の首が三分の一ぐらい吹っ飛ばされて傾いてます。強力な大口径を超音速で撃ち込むわけですから、当たると水気の多い物は衝撃波で爆発したように飛び散りますね。


 カシャッチャキッ。


 ドッガア――――ン!!!


 傘が皮一枚でぶら下がったようにひっくり返ってブラブラします。


 ドッガア――――ン!!!



 ぼと!


 巨大傘が落ちて、河原の岩場に落ちてべしゃっと潰れました。




 しなしなしな……。

 巨大エノキ茸の大木が水分をぼたぼた垂らしながら急にしぼんで、だらりとひんまがり地面に触れました。

「うまくいったみたい。もう一本」



 大木と化したもう一本のエノキ茸も狙います。

 こちらも三発で傘を撃ち飛ばすことができました。



 後ろを見ると、エルファーのメンバーが耳をふさいで僕らの後ろで並んで見てましたね……。


「あんたたち警戒は?」

 サランが耳栓を外しながらそう言うと、「いや……これを見逃すって手はないだろ。すげえなそれ……」と言います。


「後始末です。滝つぼに降りましょう」




 川をバシャバシャとさかのぼって滝つぼに到達しました。

 なんか干からびた二本のでっかいキノコが生えてる感じです。

 動くものはどこにもありません。スライムたちはみんなコレに合体したようです。


 マジックバッグからキャンプ用品燃料用の灯油1ガロンの缶を購入し、全員に渡します。だいたい4リットルに足りないぐらいですね。いつまでガロンなんて単位使ってるんでしょうアメリカは。4リットルでいいじゃないですかもう……。


「油をかけて燃やします。これを振りかけてください。落ちた傘にも」

「……こんな入れ物見たことねえよ。鉄をこんなふうにできるなんて、エルフの技術ってすごいんだな。油もサラサラだ。ヘンな匂いだ」


 エルフの技術ってことにしときますか。この世界、石油は無くて油は植物油だけですもんね。

 みんなで恐る恐るじゃぶじゃぶかけていきますね。

 落ちて潰れている傘にもです。



 僕は長い枝の先に布を付けて、灯油で湿らせました。


「サラン、火魔法」

「はいよーっ」

「みなさん離れて!」


 サランがちっちゃいファイアボールをぽいと投げると、ぼわっと枝の先に点火されました。

 それを持って、灯油をかけたところに次々と点火していきます。

 ごおおおおお――――っ。

 たちまち燃え広がります。


「うひゃあ……」


「みなさんは延焼に気を付けて。山火事になったら大変です。その缶に水を入れて燃え広がりそうなところには水を撒いてください」


 火をつけてもやっぱり動きませんね。

 動物だったスライムが植物に変わったということでしょうか。

 不思議な生物ですね。




 河原の砂利場だったので、延焼も無く燃やし尽くすことができました。

 煙が出なくなるまで、全員でそこで交代で食事を取りながら監視。

 熾火(おきび)になったところで水をかけ完全に消火します。

 白い灰になっちゃいました。もう安心です。


「……しまった、討伐証明どうしよう」

「なにか持って帰るほうがやっかいです。説明して、信用してもらうほかありませんね」

 うん、そういうことであきらめましょうね。


「シン、ありがとうな。これで俺たちの最後の仕事にケリがついた」

 エルファーの今のリーダー、ベルタスさんが右手を出します。

 その手を取って握手します。


「俺たち、これからどうしたらいいもんか……」

「ハンターは廃業だ。もうコリゴリだ。俺は実家に帰るよ」

「牢屋にぶち込まれなかっただけ、まだマシか」

「なあ、ハンターはダメとして、俺たちで商売でも始めないか」

「俺らにそんな甲斐性があれば、ハンターなんてやってないって!」

「はっはっは! 違えねえ!」


 エルファーさんたち、いろんな思いを吹き飛ばすように笑ってます。

 言いたくないですけど、バルさん、このままだとこの人たち命を落とすと思ったんでしょうね。

 厳しいだけの人じゃないです。ちゃんと彼らのことを考えた上での決定だったと思います。


 これからの人生にいいことがあるように祈ります。



「さ、帰りましょう」



次回「ライルスライムの生態調査についての報告書」

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