40.なんかまた大事件が起きてます ※
村ではトンカントンカンと、二人の新居の建設が始まっています。
ミルノくんの実家に新しい部屋を増設するんです。丸太が組まれています。
これも村人総出ですね。お祝い事ですからみんな楽しそうです。
「サランさん、ありがとうございます。お手間かけます」
カノちゃんがやってきて、アライグマの帽子、キツネの帽子を持ってきました。
三十ぐらいあるじゃないですか。がんばりましたね。
「おめでとうカノちゃん」
「いやあ……、十年も待たされちゃって……。今更って感じですよ」
……カノちゃんあなたいくつなんですか。
僕より年上ですよね。エルフの時間感覚っていったい……。
サランの齢は聞いたことがありません。
聞かないほうがいいと思います。
「カノちゃんも欲しいものある?」
「はい!」
なんかぎっしり書いた木の板を渡されました。
だいぶミルノくんが書いたものとかぶってるような気がします。
「実はミルノくんからも買い物リスト預かってて……」
「見せてください」
「いや、それはこちらでうまく調整するから」
「いいから見せてください!!」
サランがゲラゲラ笑いながらミルノくんの買い物リストを持ってくると、それを強引に奪われました。
目をカッと見開いて二枚の板を見比べております。
「ペン貸してください」
羽ペンとインクを渡すと、ミルノくんのリストに容赦なく横線引いて削除しております。
女ってこええ……。
ミルノくん、尻に敷かれるの決定ですな。
……うちもそうか。
「じゃあ、行ってくる」
「お気をつけて――!」
「早く帰ってきてくださいね――!」
「帰ってきたらすぐ結婚式やるからな! あんまり待たすなよ!」
村長始め、村のみんなに見送られて、僕らはカヌーを漕ぎだしました。
毛皮とか、ミルノくんの果樹園のドライフルーツとか、いろんなものを収納して、三か月ぶりのサープラストへ。
ぱしっ。
サランが手綱を弾くと、すっかり村になじんだ川イルカくんがすいすい、ゆるゆるとカヌーを引っ張って、湖を渡っていきました。
川を下って、二日目。
ようやくサープラストに到着した僕たちは、今度はちゃんと桟橋に停留して、商人ギルドに顔を出してカヌーと川イルカくんを預けようとしたんですけど、なんか街が騒がしいです。
たくさんの荷物を積み込んで沈みそうな船が次々と出ていきます。
大騒ぎになってます。
「あの……どうしたんですか?」
大汗かいて荷物の積み込みをしている人夫さんに聞いてみると、「どうしたもこうしたもねえ! 街がスライムに襲われてんだよ!」と怒鳴ります。
……なにか大事件が起きているようです。
悪いときに来ちゃったな……。
「邪魔なんだよ! そんなところに留められちゃ! さっさとどっかに行ってくれい!」
そう怒鳴られたら僕らも退散するしかないですね。
街は心配ですが、ここは一度引き返してカヌーを別の場所に引き上げたほうが……。
「タヌキ頭! そこの二人、タヌキ頭じゃないですか!!」
見ると、商人ギルドの人です。ヒドラの買い取りの時にいた人かな?
僕ら例のアライグマの帽子被ってましてね、それでわかりましたか。
「いいときに来た! 来てくれ!」
「あの、カヌーを留めておく場所が無くて」
「ギルド倉庫の裏の桟橋使ってくれ! 頼む!」
一生懸命指さしながら桟橋を走っていきます。
何事ですか。
もうしょうがないなあ……。
「行くよサラン」
「はいよーっ」
つんつん。
サランが手綱を引っ張って、川イルカくんを誘導します。
いったい何が起こっているんでしょうねえ。
スライムなんて、6級ハンターでも倒せるんじゃなかったですかね。
「タヌキ頭だってえ!!」
ハンターギルドに入ったら、もうみんなが一斉にこちらを見るんですよ。
ラクーンヘッドです。いったいいつになったら覚えてくれるんですか。
「お前ら、いいときに来てくれた。いやマジで、ほんっとうにいい時に来てくれた!!」
そう言ってサープラストのハンターギルドマスター、バッファロー・バルさんが走ってきます。
「いったい何事なんですか」
「うちのバカハンターどもがライルスライムに手出しやがって、今街が襲われてんだよ。ついてこい!」
そう言ってハンターギルド前に馬を出します。
「あの僕馬乗れないんですけど」
「またかよ……。進歩ねえなあシン! 後ろに乗れ! 姉ちゃんはあっち使え!」
そしてバルさんと僕でタンデムして、後ろはサランが別の馬に乗って大混乱の街を走り抜けます。
「正門前にグチャグチャ集まってて扉が破られそうだ。何とかならんかシン!」
「スライムって、6級ハンターでも狩れるんでしょ!」
「そんなもんと訳が違うわ!」
警備兵が並ぶ正門前で馬を留めて馬留のバーに縛り付け、走ります。
バルさんがさっと手を振ると警備兵が道を開けてくれますね。
さすがですギルドマスター。
街をぐるりと取り囲んでいる城壁の石階段を上ります。
「見ろ」
城壁の高さは3mほど、そこの上は1mぐらいの歩ける幅があるんですが、そこから身を乗り出して正門を見ると……。
真っ赤な蛍光色に光るスライムが正門にべっとりと張り付いて二十匹以上ですかね、うねうねと積み重なりながら今にも城壁を乗り越えそうな勢いです。
「どういうことですか」
「うちのヘボハンターどもがな、ライルスライムを怒らせちまって、逃げて来たんだが、あいつら匂いをたどって追いかけて来たんだな。今乗り越えそうになってる奴を警備兵がなんとか防いでるが、刃物は効かねえ魔法は効かねえでどうしようもねえ。お前なんとかならんか」
「なんとかって言っても……」
大きいです。
直径は4mを超えてますか。高さは1mぐらいの平べったい半球です。透き通ってて核が見えますが、厚さ50cmぐらいの粘膜で阻まれています。
警備兵さんが槍で突き刺していますが、ぐにょんっ、ぐにょんって刺さる気配がありません。束になって突き刺して転がり落としてますが、時間の問題ですね。
鉄製の正門がジュージュー煙を立てています。酸でしょうか。
放っておくと破られてしまいそうです。
スライム、厚みがありますね……。バックショットが通用するようには見えません。ライフルで核まで貫通できるかどうか。
周りを見回します。
屋上のある高い建物……。ちょうど正門を見下ろせる……。
「あの建物は?」
「税関」
「屋上に連れて行ってください」
「わかった!」
三人で石階段を駆け下りて、税関の建物まで走ります。
「ハンターギルドのバルだ! 屋上借りるぞ!」
バルさんが大声で怒鳴ると税関の職員が避けますね。
税関の人も避難準備で大騒ぎの中を駆け抜けます。
階段を駆け上がり、屋上のドアを開いて出ました。
柵に駆け寄ると、ちょうど正門を乗り越えようとするスライムたちが見えます。
見下ろし50m!
マジックバッグからレミントンM700を取り出して308ウィンチェスター弾を並べ、サランに双眼鏡を渡します。
ボルトを引いて、弾薬を4発装填し、ボルトを戻して狙います……。
「当たっても、倒せるかどうかわかりませんよ!」
「やってくれ!」
ドォ――ン!!!
ブシュ!
スコープを戻して見ると、スライムに今撃ち込んだ穴がぷすっと塞がっていきます。
「核に届いてない!」
サランが叫びます。
ダメか――!
ドォ――ン!!
ドォ――ン!!
ドォ――ン!!
同じ場所に三連射!
「ダメ! 塞がる!」
なんてこった。
308じゃ全然パワーが足りないのか!
「……ダメか。お前らだったらなんとかなるかと思ったが……」
バルさんがっくり。
「バルさん」
「ん」
「金貨百枚あります?」
「こんなときにカネかよ! そんな場合じゃねーだろ!」
「マジメな話ですって!」
「それがあればなんとかなんのかよ!」
「ちゃんと後で返しますから! 大至急!」
僕が本当に真面目な顔で言うと、バルさん、屋上から駆け下りていきました。
次回「ゾウも倒せるはず」