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北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた  作者: ジュピタースタジオ
第一章 本物のハンター、異世界に行く
34/108

34.合同パーティーで大仕事


「さあてせっかくだから何をするかだが」

 全員でサランの作った朝食を囲んで、相談です。

 僕の提供した塩コショー使ってますからね、エルフ風料理にひと手間加えて、なんでもおいしくできますよ。素晴らしい女子力です。


 さすがは2級パーティーのホームですね。

 一軒家でしてね、僕らは特別に屋根裏部屋をもらいました。

 あんまり暴れると家が揺れそうですね。さすがに人の家では控えますよ。


「俺たちはほとぼりが冷めるまでちょっと街を離れてたほうがいいと思うんだ」

 バーティールさんがそう言います。


「そうだな。久々になにか大仕事やるか!」

「これだけのメンバーならかなりデカブツも狩れそうだしな!」

「アタシも護衛ばかりでいい加減飽き飽きしてたしね」

「賛成です」

「えー、私はもうエルフの村に帰りたい……」

「……僕もです」

「そう言うな」


 そう言ってバリステスのメンバーが笑います。

「な、帰る前にちょっと土産話になるようなことしていけよ。せっかくバルさんが一緒にやれって言ったんだしよ。先輩ハンターの仕事ちゃんと見ていくのも勉強になるからよ」

 豪快ですねえバーティールさん。


「お前たちなにかやりたいことあるか」

「ワイバーン討伐」

「強盗団退治」

「ダンジョン攻略」

「賛成です」

「ハト駆除」

「お留守番」

「少しはやる気出せタヌキ頭」

 はいはい。


「シン、お前の魔道具って、どれぐらいの獲物まで倒せるんだ?」

「うーん、クマか、それよりちょっと大きいぐらいまでですね」

 自信をもって言えるのは308ウィンチェスターだとそのぐらいです。

 米国内にいるアメリカグマはだいたいツキノワグマよりちょっと大きいぐらいです。308が想定しているのはそのあたりの獲物ですね。

 北海道でもヒグマは308で獲れないことはありません。


 灰色グマのグリズリーとかヘラジカとかはアメリカ本土ではなくカナダやアラスカになります。

 こうなると300マグナムとかの、マグナムライフルの出番です。

 僕にはまだ無理ですねえ。


 弱威力の弾を何発も撃ち込むっていうのは、大威力の弾を一発撃ち込むかわりにはなりません。急所に到達しないんです。

 野生動物はね、急所を撃たないと死にません。

 必ず逃げてしまいます。ヒグマだと逆に襲われることもあります。

 ハンター二名が犠牲になった巨大人食いヒグマの例では、7mmレミントン・マグナム一発を肩、30-06一発を首、12番スラッグ五発、ハンターを咥えて離さないヒグマの頭に直接銃口を押し付けて放った12番スラッグが脳に一発でやっと絶命した例があります。

 軍用弾じゃないですよ? 狩猟用ホローポイント弾をそれだけ受けても狂暴化するだけで死なないんです。驚きですよね。


「飛んでる奴は?」

「ハト、カラス、カモ」

「ガッカリだよシン」

 散弾銃のバードショットになりますから。

「いやいやリーダー、飛んでる奴を撃ち落とせるってのがまず凄いわ。弓でも魔法でも絶対無理よ」

 おネエさんフォローありがとうございます。散弾銃は12ゲージの規格内で弾がいろいろ選べるだけで火薬量はおんなじなので威力のある散弾銃と言うものは無いんですよね。クレー射撃を見ればわかるように最初から鳥撃ちを想定したスポーツ用の安全第一な銃なんです。


「ってことは、ワイバーンはダメと。はい消えたー」

「ダンジョン攻略もダメですね」

「なんで?」

「ものすごいでっかい音がするからです」

「あー……」

 みんなでガッカリします。

 ダンジョンって洞窟みたいなとこですよね。あんなところで銃ぶっぱなしたら全員難聴になりますって。

「雷みたいだったもんねえ」

 そうそう、護衛で野盗撃った時のことみんな覚えてますよね。

「そうすると、残りは強盗団?」

「ハトもです」

「却下だ。どんだけハト好きなんだシン。せっかくなんだからさあ、大きいことやろうぜえ? な?」


「強盗団って言っても、アジトの場所でもわかればねえ」

「うーん……それに一番金にならんじゃないか。護衛の途中だって言うならともかく、こっちから潰しに行っても賞金もでねえよ?」

「……シン、お前意外と使えねえな」

 なんで僕を使う前提なんですか。先輩たちがいつも獲っているものでいいじゃないですか。


「バリステスの皆さんで倒した一番の大物って、なんですか?」

「ヒドラ」

「ヒドラだね。俺たちあれで2級になったもんね」

「俺らが獲ったのは三つ首だった」

「四つ首とか五つ首とかもいるからな」

「よしそれ探しに行くか」

「賛成」

「賛成だね」

「異議なし」

「賛成です」


 回復さんさっきから「賛成です」しか言ってません。

 ちなみにニートンさんと言います。

 ハンターやるような魔法使いは変わり者とは聞いてますが、確かにおネエさんと賛成さんはちょっと変わっているかもしれません。面白い人たちですけどね。メンバーに魔法使いがいるってパーティーは貴重でしょうね。


「私ヒドラってまだ見たこと無いんだ」

「ヒドラってなんですか?」


 全員が僕を見る。

「シン、あのなあ……」

 しょうがないじゃないですか。

 僕この世界来てまだ二か月なんですから。


「ヒドラってのはね、巨大ヘビ。頭が二つ以上あるやつのこと。三つとか四つとか、最大で九つ。九つのやつは不死身でね、首を斬ってもまた生えてくるんだけど、それ以下なら順番に頭を殺していけば倒せるの」

 おネエさんが解説してくれます。


「頭の大きさはどれぐらいですか?」

「人間より少し大きい」

「全長は?」

「この家をぐるっと半周できるぐらい」

 20m近いですね。

「……よく倒せましたね」

「まあ三つ首だったから。今はメンバー多いからもう少し数があっても大丈夫だろ」

「どんな攻撃してきます?」

「噛みつき、毒牙、絞め殺し」

「怖いです」

「ヒットアンドアウェイだ。全員で取り囲めばなんとかなる」

「賛成です」

「万一噛まれたら毒はポーションの毒消しか、ニートンの解毒で」

 帽子かぶったニートンさん、さすがです。

 優秀なんだけど宮仕えが苦手でハンター稼業って感じなんですかね。


「よし、では出発準備。場所はアラガスト森林地帯」

「森林地帯なんですかあ!」

「いちいちうるさいぞシン」


 はい、乗合馬車で一日かかって移動。一日キャンプしてから、いよいよ山に踏み込みます。

 気が重いです。




「よしっ。ここをベースキャンプにしよう」


 山に入って一日目。

 見晴らしのいい高台。大きな木が数本あります。

「動物に荒らされないように、荷物は木に吊っておこう」

 キャンプ用具、その他をまとめてロープで縛り上げ、木にひっかけて高く吊るしておきます。みんなできるだけ軽装にしておく方法ですね。荷物を背負ったままじゃ戦闘なんてできませんから。

 僕とサランは、マジックバッグに装備をだいぶしまっておけますが、まあこの辺は他のメンバーにはあやふやにしときます。全部ばらしてしまうといろんなものを片っ端から押し付けられるに決まってますから。


「この高台が見える範囲で捜索だ。全員あまりバラバラにならないように。いつもの通りだ。シンとサランはニートンの後ろ、中央だ。よろしく頼む」

「はい」

 例によって18インチスラッグ銃身のM870の弾倉にバックショットを装填して薬室は空にして歩きます。咄嗟になにか出てきたって場合はやっぱりコレです。


 僕も体が鍛えられてきましたかね。

 ヒイヒイ言いながらもなんとかみんなについていきますよ。

 ニートンさんもおネエさんも僕と体力があまり変わりませんでね、みんな合わせてくれます。


 ひーひーひー……。

「大丈夫シン?」

 僕の後ろはサランです。

「水飲みたい……」

「はい」

 サランが両手をそろえて上にウォーターボールを作ってくれます。

 それを口をくっつけてゴクゴク飲ませてもらいます。

 ああ……。本当にいい嫁さん……。


「ケッ」

 ……なんか申し訳ありませんみなさん。


「これヒドラの道じゃねーか?」

 先頭の弓のラントさん。何か筋状に押しつぶされた獣道を見つけましたね。

 

「……脱皮中か」

 透明の皮のようなものが木にこすりつけられています。あちこちに。

「体をそこら中にこすりつけながら進んでるな」


 これがヒドラと言うやつの道だとしたら、ヒドラの胴体は直径70cmはあるってことになりますね……。人間とか一飲みできそうです。

「よし、今日はここまで。ベースキャンプまで引き上げる」

 助かった……。今から捜索して戦闘したら確実に夜だもんね。


「サラン、ヘビがいたら教えて」

「ヘビかい」


 サランがみんなからちょっと離れてガサガサ森の中を進んで、戻ってきました。

「ほら」

「ぎゃああ――――っ」

 サランがヘビの頭下握って持ってきました!

 まだ生きてます!

 サランの腕に巻きついてます!


「シンうるさい」

 いやあだってねえ僕ヘビ見たこと無いですから。

 北海道ってヘビいませんから。

 いや、いるんだろうけどね、僕みたいな農村育ちの田舎者でも一度も見たこと無いですよ。それぐらいいないです。


「どうすんの?」

「いや生きてるやつでなくていいから」

「そう?」

 サランがぎゅーって握ると、びちびち暴れてますね……。

 おとなしくなってヘビぶらーんってなるまで五分ぐらい。

 なんという生命力。

「ヘビはねえ頭落として皮剥いで料理中もビタビタしてるね」

 ……サランさんちょっそれ食うんすか。



 みんなでベースキャンプについて広場でテント張ったり、焚き木を組んだりしています。

 サランは料理の準備ですね。みんなワクワクしています。

 そんな中、僕はすみっこでナイフ片手にヘビの解剖しています。


 全長1mぐらいのヘビ。

 頭を切り落として、脳天に刃を当て、とんって叩いて頭を縦に真っ二つにしてみます。

 脳は目のすぐ後ろ。やっぱり小さい……。

 ヒドラは頭が二つ以上でしたか。頭を一個一個狙っていくのはやっぱりちょっと大変そうです。


 肛門の位置を確認。けっこう後ろにあります。

 ウナギとか魚とか、内臓って凄くコンパクトで全長の半分無いこともありますが、ヘビは違いますね。全長の四分の三ぐらいまで内臓があるということになります。魚みたいにプランクトンとか消化にいい物食べてるわけじゃないですからね。カエルとか丸のみするんですからね。胃腸が丈夫です。


 お腹を裂いて、内臓を取り出します。

 肺と肝臓が細長いです。並んでます。ヘビは肺が退化していて一つしかないんですね……。

 心臓の位置……肺のすぐ上なんだけど、頭からすごい下にある。これは細長いわけじゃないですね。コロンとしてます。心臓がある場所を胸だとすると、ヘビは首がすごく長いことになります。全長の六分の一が首ですか。


 胃がほとんど体の真ん中近いです。これは意外でした。

 腸ながっ。折りたたまれてぎっしり、内臓の半分が腸です。腸に沿って生殖器やその他の器官が全部細長く沿われています。

 すべての内臓器官が細長いのに対して、心臓だけがコロンと丸く異質を放っていますね……。つまり、適当に撃てば心臓に当たるというわけではないということです。

 ヘビは、爬虫類。首が凄く長くて手足のないトカゲということになりますか。

 心臓の位置はどこになるか一見ではわからないということになりますね。


 やっぱり頭を一つずつ、狙っていかないといけないのかな……。

 でも三つとか四つとかあるし。

 頭がわかれてると言うことは首も分かれてる。

 ああ、そうか!


「独り占めする気かシン?」

 メンバーに声をかけられます。

「いや皮剝いてからさばいたほうがいいだろ! 順番が逆だよシン!」

「串に刺して焼こうぜ」

「賛成です」

「内臓は捨てろ。寄生虫とかいるからなシン」

 全員食うこと前提ですか。

「だってヘビはうまいからな」

 うまいんですかヘビって!


「はい、あげます……」


 内蔵抜き取って頭も切り落としたヘビをぶらーんってさせてバーティールさんに渡します。

 バーティールさん大喜びでヘビの皮に切れ目を入れて、副リーダーの剣士のミルドさんに片方持たせて二人で引っ張り合って「いよお――!」ってびりびりびりびりってヘビの皮を剝いていくうううう――――。

 ぎゃああああああ――っ。


 ……そのあとぶつ切りにして、塩を振って、串焼きにして火にかざしてみんなで食べてました。

 メイン料理はサランのごった煮ですけど。

 美味い美味いって喜んで食ってます。いつもは保存食ばっかりだそうで。

 全員男だもんね……。


「ほら、シンも」

 ミルドさんが差し出す……串焼きのヘビ……。


 思い切って食べてみる。

 うん、さっぱりしてて意外とうまい。骨多い……。


「シンはヘビ食うの初めてか」

「はい、僕のいたところはヘビいませんでしたから」

「北の方か」

「まあそうです」

「ヘビめずらしかったか」

「はい、なので、心臓がどことか、脳はどことか、急所になる場所を探してました」

「ヘビの心臓か……そんなの考えたことも無かったな。首切り落とせばいいし。だいいちヘビの心臓がどこかなんて見てもわからんだろ」

「確かにそうですが」

「私の旦那様は頭使って猟をするんだよ」

 サランがそう言うとみんながほー……と感心する。


「安全第一、いつも口を酸っぱくしてそう言うね。無理するな、深追いするな、競争するな、先駆けるな、離れるな。準備も、練習も、下調べもちゃんとやる。私はシンと一緒になってから危ない目になんかあったこと無いよ」

「なんというヘタレ」

「それでも漢か」

「……賛成です」

「そんな狩りして面白いのお?」

「シン……お前なあ……」

「私の旦那の悪口は許さないよ」

 びしっとサランが言うとみんな黙る。


「旦那様はね、臆病で、用心深く、長生きしてくれる人が最高なの。いつ死ぬかわかんないような奴と誰が結婚したいと思うのよ。だからアンタたちはモテないのよ!」

 サランが僕を後ろからぎゅーって抱きしめて、スリスリしてくれます。


「……シン」

「はい」

「師匠と呼ばせてください」


 いやさすがにそれは。何言ってんすかバーティールさん。



次回「ヒドラ退治」

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