33.事後処理って大変だ
「さて問題は、だ」
朝からサープラストのハンターギルドに来ております。
ギルドの一室でギルドマスターのバッファロー・バルさん。
僕とサラン。
なぜかいるチーム・バリステスリーダーのバーティールさんとエルファンのベルタスさん。ムリヤリ付いてきちゃいました。
「タヌキ頭の姉ちゃんが前から狙われてたか、今後も狙われるのかってことだ」
「あの、タヌキ頭はそろそろやめて、ラクーンヘッドにしてもらえませんかね」
「そこかよ……。で、お前の意見は? あの執事とは顔見知りだったんだろ?」
「僕は、問題ないと思います」
「なぜ?」
バルさんが聞きます。
「僕らがハクスバル伯爵家のハト駆除をしたのはトープルスに到着して四日目でした。トープルスには十日間ぐらいいましたけど、その間なにもありませんでした。つまりサランがエルフだってことには気が付いていなかったと思います」
「その帽子で耳を隠してたのか?」
「はい」
「そうか。姉ちゃんは耳さえ隠せば、まあエルフには見えんからな」
あの、その発言はいろいろと問題があります。
本当にやめてください。サランが……。
うわあ……。目が細くなってます。殺気はやめようよ殺気は。
バーティールさんが、「こっそり監視されてたとかは?」と心配します。
サランが心配ですか。そりゃそうでしょうねえわかります。
「それも無いです。僕らその後トープルスでオオカミの群れとかクマとか退治してましたから監視してたならそれなりに強敵だと思ったはずです。あんなふうにたかが『ハト殺し』だと思って簡単に誘拐できるとは思わないでしょう」
「お前らそんなことしてたのかよ……」
「ぜひパーティーに入ってほしい……」
うん、リーダーさんたち、本音が出ましたね。
目的はそっちでしたか。そりゃあ男ばっかりのパーティーにサランが入れば華にもなりますわね。もれなく僕がついてきますけどね。
「なるほど、あいつらたまたま酒場で姉ちゃんを見つけて、急きょ誘拐することにしたと」
「はい、数日前にもエルフ狩りの人集めでジニアさんに声をかけてたんです。この街にエルフがいるって情報は持ってなかったはずです」
「……お前頭いいな」
「すげえよシン……」
これでも元役場の職員ですから。
「その後どうなりました?」
「どうもこうも無い。昨日の夜のうちにさっさと共同墓地に無縁仏で名前も無しに埋めちまったよ。こっちの領主に、『昨夜市内で誘拐未遂事件があったので、たまたまいたハンターたちで犯人を全員捕殺しました』と今日にでも報告して終わり。別に珍しい話じゃねえ。『街道に出た野盗を捕殺しました』とおんなじさ」
「身元がわかるようなものを持ってました?」
「無し」
「当然ですね……。でもこの街に五人で滞在してたんですから、拠点にしていた場所があります」
「それは俺も考えた」とバルさんが頷きます。
「女を誘拐するんだ。宿を使うわけにもいかねえ。ハクスバル家ともなればもちろんこの街にも支所はある。倉庫街に出入りの事務所だ」
「つまり手出しできない」
「そう」
「執事さんのような重要人物が昨夜戻ってこなかったんです。今日中にハクスバル家に連絡が行くと思いますが」
「それはやってる。ハクスバル家の馬車が出たら教えろって門の衛兵に握らせてるよ」
賄賂ですか。悪い習慣ではありますが、あれこれと便利な大人の手段ですね。
「俺は思うんだが、こういう危ないことは大っぴらにできない。身内でもな。執事というハクスバル家の重要人物が指揮してるぐらいだから、何をやっているのか見るな、聞くなが普通だろう。事務所の連中がなにか知ってるとか、手を貸してるとか何もないはず。たぶん」
「そうだといいんですが、執事さんが夜帰ってこなかったとなると」
「これから姉ちゃんを誘拐しに行くってところだ。『今夜は帰らずそのまま領地に戻る』ぐらい言ってあるだろ。ハクスバル家の馬車だったら夜でも門は通してもらえるだろうし、首尾がうまくいけばその夜のうちに領地に逃げ込む計画だったはずさ」
「だったらいいんですけど、ハクスバル家は執事さんと配下がいなくなったことは当然気が付きますし、どうなったか調べますよね」
「そりゃそうだな。でも、まさかあの誘拐犯が貴族様の使用人ですとは言い出せんだろ。五人の誘拐犯が葬られたって話聞いただけでおとなしく引き下がるさ。執事は行方不明、あるいは急病死。そんなところだ」
「だよなー!」
うん、リーダーさんたちは納得ですね。
「あの、ハクスバル家の情報は何かありますか?」
「ああ、たんまりあるぜ。今までエルフ誘拐団のことは皆目わからなかったが、誰が黒幕かがはっきりしさえすればあとはかえって簡単だ。情報はいくらでもある」
そうして、バルさんは封筒から紙を何枚も出します。
「当主はファンデル・ラ・ハクスバル伯爵。もう七十歳のジジイだ。奥方はベルドバルク家のお嬢様。五十過ぎ。次期当主、長男のファルース・ラ・ハクスバルはもういい年の三十過ぎだが評判の悪いドラ息子だ。まだ独身でな、領内の美女をムリヤリ愛人にしたりして最悪だな。怪しいと言えばコイツが怪しい」
「そうですか……。執事さんも悪い人ではなかったですし、こちらの領主さんにハンターへの未払いを注意してくれてました。誘拐に手を出すような貴族だってのが不思議でしたよ僕は」
「貴族じゃな、親は立派な人でも息子がダメってことは珍しくない。親が偉ければ偉いほど息子は増長する。そんなもんだ。執事だってドラ息子の言うことなら聞かなきゃならん事情ぐらいはあるだろう」
ふーん……。
「次男には真面目でよく領内経営にも手を貸してるファアルがいる。コイツを次期当主にって声のほうが多いぐらいだ。一応兄を立ててはいるが、兄貴の放蕩三昧には手を焼いてる感じだな。側室の子でまだ二十歳だ」
へー……。
「この国で奴隷制度を完全に廃止したのは実は五年前でねえ」
「案外最近なんですね」
「それ以前から奴隷制度は野蛮だって運動がずっと前からあってだな、事実上奴隷を持ってる貴族なんてのは少数派だったんだよ」
なるほどねえ。
「その時強硬に奴隷制度廃止に反対してたのが実はこのハクスバル家。反対してたのは例のドラ息子だな。結局奴隷制度は国王の命によって廃止され、各家にいた奴隷は解放されたのだが、そのとき解放された奴隷の中にエルフがいた。ドラ息子はエルフにご執心だったというわけだ」
ほー……。
「そのエルフどうなったの?」
サランが聞きます。
「エルフの村の村長が引き取りに来てね、帰ってもらったはず」
「ああ……そう言う話聞いたことがある。タトン村だったかな」
「ま、俺から言えるのはそれぐらいだな。お前たち、妙なこと考えるなよ? ほっとけばほとぼりが冷める話なんだから。かかわるな」
「はい、まあ」
「とにかくだ。念のため、たぬ……ラクーンヘッドはしばらくバリステスと一緒に仕事してろ。これは命令」
バーティールさんそのガッツポーズはなんですか。
ベルタスさんそこまでうなだれることですか。あなたたち業務停止中でしょ。
「私たちまだ新婚なんですけど!」
「いいからいいから!」
そんなわけで僕らは干しレンガ街のバリステスのホームにまた御厄介になりまして、そこでサランと二人で料理などしてその日は過ごしました。
他のメンバー? もちろん大喜びですわ……。
次回「合同パーティーで大仕事」