30.初めてのピストルと衝撃の事実
高校の同級生の本田くんがくれたエアソフトガンは、グロック17でした。
本田君熱心なグロック信者だったようです。
うん、その後一時間にわたってグロックのすばらしさを説明されましたね。
「ベレッタがいい。ダイハードでマクレーンが使ってたし」って言ったら、「あんなのは中二病が使う銃だ。プロはこれだ!」って言うんだよ。
どういう価値観ですか。米軍は全員中二病ですかね。
「覚えておけ。銃はカッコよければカッコいいほど使いにくい」
カッコいい銃にダメ出しする本田君、あんたなんのプロなんですか。
「知ってるだろグロック17。ダイハード2で敵役が持ってた」
「ああ、あの真っ黒いピストルね。ドイツ製でX線に映らなくて所長の給料全部払っても買えないとか」
なんだこりゃ、ぬるっとしてて四角くて安いオモチャみたい。
「それは間違い。これはオーストリア製でスライドは特殊合金鋼、グリップと金属フレームが一体成型のプラスチックで造影剤が混ぜてあるからX線にもちゃんと映る。値段も600ドル程度さ」
「いやこれ日本製で東京マルイで一万円ぐらいじゃない」
それぐらいは知ってるよ僕だって。
銃の練習のために東京マルイのライフルのエアソフトガン、VSR-10買いましたから。
それ持って毎晩構えの練習してました。
「グロックのいいところは17連発を実現しながらも軽量で信頼性が非常に高いことだ。構造も取り扱いも非常にシンプル。それにこれは安全装置が無いから撃つ前にセイフティを外す必要が無いんだ」
スルーですか。
「安全装置が無いってそんなの危ないじゃない」
「ちっちっち、安全装置は全て内蔵されているんだ。グロック社特許のセーフ・アクションという三重のセイフティ機能によって暴発の危険性は全くないと言っていい。チャンバーに弾を込めたまま安全に持ち歩ける最新のオートなんだ。引き金を見ろ」
「……なんかちっちゃいレバーがついてる」
「それが第一の安全装置だ。引き金に指を掛けない限り絶対に暴発しない。撃つ時はトリガーと一緒にそのレバーも引き絞るんだ」
「あのねえ、銃の暴発事故は、『うっかり引き金に指をかけちゃった』ってのが一番多いの。こんなのは安全装置でも何でもないよ……」
実は猟銃でもこの方式増えてます。スターム・ルガーとか、サベージとかのライフルは、引き金そのものにこのグロックみたいなレバーがついていて、それと一緒に引き金を引かないと撃発しないようになっています。僕は上の理由で、「それ意味あるの?」ってどうしても思っちゃいますけどね。
「うっ……。それにな、引き金が少し重い。変則的なダブルアクションなんだ。ストライカーは常にハーフコックされている。引き金を引き切った時だけしかフルコックにならず引き金を引かずに戻すとハーフコックに戻ってしまう。第二の安全装置だな」
「オートって、自動的にハンマーを起こしてくれるからオートでしょ? シングルアクションで引き金が軽くて命中精度が高いところがオートの一番いいところなのに、ダブルアクションしかないんじゃオートマチックの意味が無いでしょ。リボルバーとおんなじだよ。オリンピックで使うような射撃競技用のピストルは全部オートだよ」
「ぐはっ……猟協会のツッコミ正論過ぎて怖え」
かちっ。
「引き金軽いんですけど」
「いやそれエアソフトガンだから」
「だからずっと僕はそう言ってるよね」
「ノリが悪いなあお前は」
「本物の猟師ですから」
「エアソフトガンだから残念ながらそこまで再現はできてない。本物のグロックのトリガープルは2.5kg程度だ。ハーフコックにするところまではオートでやってくれる構造で、スプリングのアシストもあり通常のダブルアクションよりかなり軽くストロークも短い。リボルバーのダブルアクションは4~5kg、通常のシングルアクションは2kg程度なのが普通なこと考えれば十分優秀だろ」
「散弾銃の引き金は3kg近くはあるのが普通だよ」
「えっそうなの?」
相当なガンマニアでも猟銃のことはなんにも知らない人が多いから不思議ですね。
日本の一般市民が持てる唯一の実銃なんですけどね。
実銃はトリガーやシアが研磨された鋭い鋼鉄製ですからモデルガンやエアガンより抜群にキレがいいです。だからエアガンやモデルガンしか触ったことのない人は、その「トリガーの重さ」に気づかないことがあるかもしれません。
「それにその銃は撃針ブロックがついていて固定されている。引き金を引かない限り撃針が前進することはあり得ない。第三の安全装置だ。投げても落としても暴発しないよ」
「それはいいな。猟銃ってバッタリ倒しただけでも暴発するから」
「えっそうなの?」
「そうだよ」
「……猟銃怖え」
そう、だから撃つ直前に弾込め、撃たなかったらすぐ脱包。
猟師だったら誰でもそこは徹底するよ。安全装置を信用している猟師なんて一人もいません。
猟銃って基本設計が何十年も前のまんまですからそのへん古いんですよね……。ほとんどが引き金が引けないようにロックするだけで、シアやハンマー、撃針といった内部構造そのものをロックする機構なんてのはありません。なので安全装置がかかっていてもバッタリ倒すと勝手に撃発したりします。そのへんは安全講習で必ず習いますし、弾を薬室に入れたままにして持ち歩くとたとえ安全装置をかけていても銃刀法違反となります。「薬室に弾を入れて安全装置をかける」というハンターは日本には一人もいないんです。意外かもしれませんが。
「それに何と言ってもそのシェイプ!」
「オモチャっぽい」
「言うなあああああ――――!」
そこ、気にするところなんですかね。
「ズボンに差してみろ」
うん、差してみた。するっと入る。
「抜いて構えて見ろ」
うん、するっと抜けて構えられます。
「イイ構えだ。それに引き金に指をかけずに伸ばしてるところもさすがだ」
どういたしまして。これはもうクセですね。僕は携帯で電話してる時でも人差し指が伸びたままですよ。ハンターだったら誰でも徹底していることの一つです。
「まったく引っかからないだろ? ベレッタじゃこうはいかないよ」
「えっ本物もこのデザインなの?」
「そうだよ。少なくとも外観はパーツの一個一個まで、実物もまったくそれと同じ形してる」
「なんかいろいろ省略してるのかと思った」
「『プロが使う銃』ってのは、なにも射撃のプロって意味じゃない。これを毎日腰に下げて仕事しなきゃいけない人たちの事なんだよ。いくら性能良くても、毎日撃つわけでもないのに重くて、厚くて、デカくて、パーツがあちこち飛び出してる角ばった銃持って歩けなんて言われたら嫌だろう」
「そりゃそうだね」
「だから見た目はカッコ悪くても、実際に毎日携帯する警察や軍がこれを選ぶのは不思議じゃないんだ」
うーん、この素っ気ないのっぺりしたデザイン、そういう意味があったんですね。
そういや東京マルイのVSR-10、あれ、レミントンのM700にそっくりなんですよね。ボルトハンドルの形から安全装置の位置まで全部。あのおじいちゃんが喜んでたぐらいです。あれで銃の構え方とか、おじいちゃんから習いました。
「ハンマーが無いストライカー方式だからな。グリップも細いし、銃の高さを低くできる。人差し指のすぐ上に銃身があるだろう。だから発射の時の銃口の跳ね上がりも少ない。連射にとても有利なんだ」
確かに。この妙に角度があるグリップは射撃競技で使うピストルに近いものがあると思う。好みがわかれそうだけどね。
そういえば上下二連銃も通常一発目の発射は下の銃身からです。銃口が跳ね上がりませんので二発目の射撃が全方式の中で断トツで早く、オートより速射できます。クレー射撃で選手がみんな上下二連を使うのはあれが圧倒的に有利だからで、別にルールで上下式を使えってことになってるわけじゃありません。
上下二連は見た目で古臭いと勝手に思っている人が多いけど、歴史上連発式散弾銃が発明された順で言うと、水平二連、レバーアクション、ポンプアクション、オート、上下二連の順です。上下二連銃は最新式の散弾銃なんですよ。だから最も性能良くてもなんにも不思議はありません。
「でもエアソフトガンに反動なんてないよね」
「それブローバックするから、けっこうガツンと来るんだけど……。まあ本物撃ってる人に言われるのは、仕方が無いのは認めるよ……。でもグロックはマズルジャンプしない設計になってるのに、銃口が跳ね上がらなくて手ごたえがないっていうわかってないアホたまにいるわ」
映画の主人公は拳銃を片手でもパンパンパンパンッって連射しますけど、あれ空砲だからできるんです。実弾だったらいちいち銃口跳ね上がるのであんな連射できるわけないと思います。
その後ガスチャージをしてもらって弾を込めてスライドを一回引いてぱんぱんと段ボールを撃って遊びましたね。
スライドがガス圧でカシャカシャ動くところは実銃のオートそのまんまで、リアルでした。エアソフトガンって凄いんですね。全弾撃ったらスライドが後ろで止まる機構は面白いです。猟銃には一部のオートを除いてそんな機構無いですから。
片手でまっすぐ前に出すと、グリップの角度が変なのか、銃口がちょっと上を向きます。
「このグリップ角度、ちょっとおかしくない? もうちょっと普通にできなかったのかな……」
「素人が良くそう言ってグロックはグリップ角度がダメだと言うんだよな。じゃ、目をつぶって両手で持って前に出せ」
やってみました。銃を握った右手に左手のひらをかぶせる、プロっぽい人たちが良くやる撃ち方です。
「眼を開けろ」
目を開けてみると、不思議とフロントサイトとリアサイトがちゃんと水平に並んでいます。
「な? グロックは片手で撃つような競技射撃の構え方じゃなく、ちゃんとタクティカルな両手保持の撃ち方を前提に設計されているんだ。グロックは的当てじゃなくて、本物の銃撃戦を前提に設計されてるのがわかるだろう」
はー……。こっちのほうが現代的なんだ。銃の進化って凄いですね。
僕が体を斜めにして構えたら、「ウィーバースタイルはもう古い。今はアイソセレススタイルだ」と言って正面で銃を構えるやり方に直されました。
ホントですかあそれ? 正面で構えたらかえって相手に撃たれやすくなりません?
グロックは次々と改良型が出るらしくて、本田君新しいの買ったからタダでもらうことができました。ガスが無くなっちゃったんでそれっきり机の引き出しに入れたまんまですが。
ていうわけで僕が撃ったことがあるピストルはグロック17ってことになりますか。しょうがないね。触ったこともないピストルじゃあうまく使えないだろうしね。
本田君に言われてみれば、たしかにベレッタはグロックのシンプルさに比べてゴチャゴチャとレバーやらハンマーやらいろいろ飛び出してて僕には使うのが難しそうです。
600ドルだったっけ。マジックバッグに金貨を六枚入れて、っと。
「グロック17」(※1)
……。
反応無し。
え……。もしかしてピストルって買えないの?
お金が足りないのかな?
確か600ドルとか言ってたと思ったけど。
金貨を二十枚入れてもう一度。
「グロック17」
……。
反応無し。
「ベレッタM92」(※2)
ブルース・ウィリスが使ってました。
「ワルサーP38」(※3)
ルパン三世の愛銃です。
「コンバットマグナム」(※4)
次元大介の愛銃です。
「44マグナム」(※5)
ダーティハリーの愛銃です。
「ワルサーPPK」(※6)
007の愛銃です。
「チーフスペシャル」(※7)
ゴルゴ13の愛銃です。
「コルト・ピースメーカー」(※8)
西部劇の定番です。
「コルト・ガバメント」(※9)
説明不要の第二次世界大戦米軍正式拳銃です。
「南部十四年式」(※10)
ひいおじいちゃんのたぶん使ってたと思われる銃です。
全部ダメか!!!
僕でも思いつくピストルってせいぜいこれぐらいだよ!
拳銃って、買えないんだ!!
「なにやってんの」
サランさん半目はやめてください。
僕は今打ちのめされています。
慰めてください。
……むにゅむにゅ。
翌朝、「朝の散歩」って言って、久々にデジタル無線機ポケットに入れて宿屋街をフラフラします。
僕っていつもサランと一緒だからね。ここまで一人になることってほとんどなかったから、女神様とも全然通信してなかったよ。
「ナノテスさんナノテスさん、聞こえますか?」
”あらー、中島さん久しぶり!”
「その名前で呼ばれたのも久しぶりですね」
”異世界楽しんでますかー!”
「うん、まあね」
どうして無線だとこうテンション高いんでしょうね女神様は。
”それはなによりですー。ご活躍、いつも見てますよ”
「どこから見てるの!!」
”それは企業秘密です”
……。
宿屋とかも見てないよね。
僕の性癖とか全部把握してたりしませんよね。
僕けっこうサランに甘えんぼさんなんであれ見られたら恥ずかしくて死にそうです。
「ちょっと質問なんですけど」
”はい”
「マジックバッグっていろいろお買い物できて便利なんですけど、ピストルは買えないんですか?」
”えーと……、無理みたいですね”
「なんで?」
”ほらアメリカでも拳銃は許可制(※11)じゃないですか。売るほうだってちゃんと届け出して許可してもらえないと売れませんよ”
「えっそうなの?」
”そうですよ”
「だから買えないと」
”猟銃しか扱ってないんで、そうなります”
……がっくり。
「つまりナノテス様は」
”……はい”
「これがアメリカのハンティング・アウトドア用品店と繋がってるということを認めるんですね」
”……はい”
「やっぱりかー……」
”そりゃそうでしょ。私が鉄砲の事いろいろ詳しく知ってるわけないでしょ。いちいち用意できるわけないでしょ。専門店に丸投げするほうがいいでしょそこは!”
いや僕に逆ギレされましてもね。
「いったいどこと繋がってるんです?」
”それは秘密です”
「お店に迷惑とかかかっていませんよね?」
”それは大丈夫です。お店から在庫が消えますが、そのかわりお金や金貨が置いてありますから”
うあああああ――――!
「いやそれ大問題じゃないの?! お店で大騒ぎになってません? 夜ごと何者かが侵入して、銃や弾を盗んで、お金を置いていくって、どういう怪盗ですか!」
”店長さんがね、金貨や銀貨の価値を調べて、ちゃんと儲けになってるからって、店員にも口止めして、帳簿も誤魔化してうまくやってくれてますよ”
「ダメじゃんそれ――! ダメでしょうどう考えても!!」
”お金が置いてあるんだから盗みにはなってませんて”
「あううううう……」
”そんなわけでしてね、これからも気兼ねなくご利用ください”
「……わかりました。で、ピストルは」
”ダメです”
「なんでえ?」
”大人の事情です”
「どんな事情?」
”とにかくダメなものはダメなんです。そういうのをずるずる許すから異世界で日本人が調子こく事案が多発するんですから!”
……なんでそこ日本人限定なんです?
あくまでミリオタ系は封印。
猟協会縛りが続くんですね。
本当はピストルを不許可にしてるのは、ナノテスさんなんじゃないですかね?
ま、アメリカのハンティング専門店だとピストルは扱ってない店も普通にあるか……。
了解しました。
「通信終わり」
”あっちょ” ぷちっ。
電源切って、ポケットに突っ込んでやりました。
――――作者注釈――――
※1、グロック17
オーストリアのグロック社が開発した自動拳銃。軍用ナイフメーカーだったグロック社がそれまでの銃の常識にとらわれずに、持ち前のナイフ用特殊合金鋼と防錆処理、グリップのプラスチックを使いまったく新しい設計思想で作った銃の歴史を塗り替える画期的な機構を持つ。その構造は言ってしまえば引き金を引いた力でバネを縮めてはじくと言う「銀玉でっぽう」そのものというシンプルさ。
ダブルアクションオートと言えば初弾は引き金が重いはずだが、トリガーをスプリングでアシストするという銃が発明されて以来数百年もの間、誰も思いつかなかった逆転の発想で初弾からシングルアクションに近いトリガープルを実現している。
あまりにも斬新ゆえ、批判も多く好き嫌いがわかれているが、アメリカをはじめとする各国の法的機関や、軍で次々に採用され続けている実績が優秀さを証明している。設計をほとんど変えることなく多種多様の弾薬・サイズの銃がシリーズ化されており基礎設計の優秀性がうかがえる。
見た目は大変素っ気なく、三歳児が描いたような微塵もカッコよさを考えていない不格好なデザインのせいで、ハリウッド映画ではなかなか主人公に使ってもらえない不遇銃。しかし段差や突起物を完全に廃したきわめてフラットで、なにより17連発を実現しながらコンパクトで軽いその革命的デザインは、軍や警察ならやっと欲しかったものが登場したと思ったはずだ。グロックによく言われる「プロが使う銃」というのは、「一流の殺し屋はこれを選ぶ」という意味ではなく、「年中銃を腰に下げてパトロールするのが仕事」の人たちの事を差していることは理解が及ぶと思う。
米市場での銃は性能より「見た目の格好良さ」のほうが実は重要で、どんなに性能が良くても見た目が格好悪い銃は全く売れないのが現実なのだが、その見た目にもかかわらず性能だけで市場を獲得した稀有な成功例がこのグロックである。
特許が切れると同時に世界中の銃が全部グロックの亜種になってしまい、どれを選んでも大差ない、となってしまったのはいささか残念ではある……。
※2.ベレッタ92F
イタリア・ベレッタ社が開発した軍用拳銃。米軍の正式採用トライアルでコルト・ガバメントに代って全米メーカーの銃を蹴散らして採用されたことで有名。装弾数が15発と多いので、それまで6発以内で勝負が決まっていたハリウッド映画の銃撃戦の常識を塗り替えた。イタリアらしくとにかくデザインが凝っていて見た目がカッコよく映画や漫画やゲームで大活躍の中二病を代表する主人公専用銃。ショートリコイルの方式が直線的で銃身が傾かずトリガーも良いため命中精度は高く最新の銃と並べてもけっして凡庸な銃ではないが、デザイン優先過ぎて耐久性が今一つというウワサはなかなか無くならない。
意外なことに発展途上国を含め世界30国以上で警察、軍用として正式あるいはコピー生産品が正式採用されている。さすがの米軍も、ポリマー全盛の時代には逆らえず「大きく重く故障が多くグリップが太すぎる」ことに嫌気がさしていて、次期にはもう採用されないことが決まっている。お疲れさまでした。
※3.ワルサーP38
現代銃の基礎を確立した第二次世界大戦のドイツ軍制式銃。初弾からハンマーをコックしなくても撃てるダブルアクションと、薬室に弾薬を入れたまま携帯できる撃針ロック式の安全装置は多くの銃でコピーされ、先に述べたベレッタ92などは見た目が違うだけでメカニズム的にはワルサーP38のフルコピーと断言してもいい現代銃が避けて通れない名銃。
軍用拳銃にここまで凝る必要があるのか、本当にこれを量産しようと思ったのかというドイツ的な作りが素晴らしいデザイン的にも優れた傑作。ただ、スライドがグリップよりかなり分厚いという変態設計だけはもうちょっとなんとかならなかったかと思う。ヘッケラーコックやグロックが登場するまでコルトガバメント同様80年代まで少しの不具合修正だけで西ドイツ軍、オーストリア軍の制式銃の座を守っていたことはあまり知られていない。
「ナチスの銃」というイメージが強く映画では悪役が持たされることが多い。忘れがちだがルパン三世も悪役である。
※4.コンバットマグナム
米スミス&ウェッソン社によるダブルアクションリボルバー。型番はM19。
警察用に普及していた38スペシャルを延長し強力にした357マグナムを使用できる。
357マグナムを使える割には小型で軽量なのが特徴。80年代まで全米の警察で最も多く採用されていたのがこのM19と、そのステンレスモデルのM66である。
なお、警察では弾丸にはもっぱら38スペシャルが支給されていた模様。ほっそりした外観の通り357マグナムを無茶撃ちするとガタが来るらしい。
次元大介の銃は銀色だが、ニッケルメッキモデルでもステンレスモデルでもなく、使い込みすぎてブルーが剥げている。
※5.44マグナム
誤解が多いが44マグナムと言うのは弾薬の名前であり、銃の名前ではない。映画「ダーティハリー」で主人公のハリー・キャラハンが使ったことで一躍有名になった当時の世界最強拳銃。型番はM29。
対人用ではなく、本来はハンターや山林作業者がうっかりクマに出会ってしまった時の護身用という目的で開発された。現在でも発売当時のままの鏡のようにピカピカに磨かれたスチールブルーモデルが型落ちもせず入手できるS&W社の看板製品。世界最強拳銃の座は後発のデザートイーグルやS&W M500に譲り渡しているが、まだまだファンが多くメディアへの露出は多いし、ハンターの護身用サイドアームとしての役割は今だ健在。設定が許せばシンの嫁に一番持たせたい銃である。
ちなみに現在の世界最強拳銃、S&W M500のパワーは、シンが使うライフル弾の308ウィンチェスターとほぼ同じ。映画の登場人物がこれらの銃を連発で撃ちまくれるのは「空砲だから」というのは忘れてはいけない。
※6.ワルサーPPK
ドイツ・ワルサー社が警察用に開発したダブルアクション中型拳銃。PPKはポリッツァー・ピストーレ・クリミナルの略で警察用ショートピストルという意味になる。携帯性に優れ、トリガー連動式のハンマーブロック式安全装置を備えた信頼性の高い傑作銃。現在でもまったく変わらないものが生産され続けており、その華麗なデザインと共にドイツの匠の技が光る名銃である。
PPKをはじめワルサー以降のダブルアクションオートは安全装置が内蔵されており、トリガーを引いた時だけロックが解放されるため、ガバメントのようなシングルコックと異なり携帯中は安全装置をかけておく必要は無い。スライド横の安全装置レバーはコッキングされたハンマーを安全にハンマーダウン(デコッキング)する場合にだけ使うというのはあまり知られていない。
なお、PPKを見た目で「小型拳銃じゃないの?」と思う方もいるかもしれないが、拳銃の大型か小型かというのは口径で分類されることが多く、最大38口径(9mm)のモデルもあるストレートブローバックのPPKは中型となる。
映画、007シリーズで主人公ジェームス・ボンドの愛銃として有名。本人はベレッタを使いたいらしいのだが……。
※7.チーフスペシャル
ゴルゴ13がこれを使用しているとマンガの中で具体的に書かれたことは無い。
殺し屋なのでエピソードごとに違う銃を使っているが、中でも登場回数が一番多いと思われるのはやはりこのチーフスペシャル。スミス&ウェッソン社製スナブノーズ2.5インチ銃身の型番M36のリボルバーで5連発と通常のリボルバーより一発装弾数を少なくして小型軽量なのが特徴。
信頼性の高さは言うまでもないが、やはりオートには無い古典的な美しさと携帯していての安心感といった銃としての魅力そのものは未だオート派を黙らせるものがある。
なによりホルスターから引っこ抜いて第一弾を発射する「抜き撃ち」はなんだかんだ言ってもスナブノーズのリボルバーが一番早いというのは見逃せない。
もし護身用に一丁だけ銃を携帯していいと言われたら筆者が選びたいのはコレである。
※8、コルト・ピースメーカー
米陸軍で採用されたシングルアクションリボルバー。またの名をコルト・シングルアクション・アーミー。堅牢性が非常に高く、45口径のためストッピングパワーにも優れるアメリカの45口径神話の原点。時代考証におかまいなしに西部劇に出てくるのは全部コレ。一発ずつしか弾が込められない、弾が抜けない、安全装置はハンマーのセィフティポジションだけ、名前の通り当時は既にダブルアクションもあったのに、と欠点も多いのだが良くも悪くもアメリカの歴史を作った銃。
現在もコルト社から再販されているが、現行モデルは米安全基準に合わせ巧妙に撃針をブロックする安全装置が組み込まれているらしい。
※9.コルト・ガバメント
1911年に米軍で正式採用されてから一次、二次大戦、ベトナム戦争を経て80年代に至るまでの長きにわたって使われ続けた泣く子も黙る名銃中の名銃。非常にシンプルであり、かつ堅牢で、45口径のストッピングパワーと合わせアメリカ軍の強さを世界中に知らしめた。
45口径を使う銃としては現在でも替わるもののない高い信頼性と、バレルブッシュによる高い命中精度、ダブルアクションオートには無理なシアをダイレクトに押すキレの良いトリガーを誇りコンバットシューティングの王者の座はいまだ揺るがず。大口径だがスリムで銃身も低く携帯性にも優れ、段差の少ないフラットな形状がブローニングの設計思想を現代まで伝承している逸品。ちゃんと握らなければトリガーが引けないグリップセイフティ、ハンマーそのものをロックするきわめて信頼性の高い安全装置、万一ハンマーが落ちてしまっても撃発前にそれを受け止めるハーフコックポジションなど、開発から100年を超え21世紀になっても通用する完成度の高さはさすがである。
日本の自衛隊も使用していたので退役した人にはこれを撃ったことがある人もいるだろうが、さらにさかのぼればこれに撃たれた日本兵もいたであろう。
※10.南部十四年式
大正14年(1925年)に日本軍に正式採用された軍用銃。
ボトルネック型の弾薬を使うこと、ハンマーのないストライカー方式であること、スライドを使わずコッキングピースが後退することなど、既にコルト・ガバメントのような銃が登場して10年以上経ってから作られたとは信じられないほど当時の技術レベルから見てもかなり異色の迷銃である。設計者はルガーP08の外観とモーゼル・ミリタリーのメカニズムの良いとこどりをして作り上げたつもりであろうが、結果的に両銃の悪いところを集めたようななんとも言えない銃になってしまった。
軍用としては明らかにパワーが足りず、わざわざショートリコイルにしなくてもストレートブローバックで充分な弱威力の8mm弾、片手で操作することが不可能な180度回さないと解除できない安全装置。スライドストップが無いためマガジンフォロアーに引っかかって後退停止し、そのせいでマガジンキャッチボタンを押しても抜けてこないマガジンに、力づくで抜けば元に戻ってしまう意味不明なコッキングピース。誰に聞いても「あったら邪魔」と言われるマガジンセイフティ、すぐにヘタるバネのせいで撃発不良続出など、御先祖様がかわいそうになるほど時代遅れなダメダメ銃。これを改良した九十四式拳銃がさらにダメで不格好な上に安全性に問題がある銃になったことは有名である。
唯一いいところはストライカー方式にしたことによりグリップが細く手の小さい日本人にも握りやすかったこと。解説ではよく「引き金がスムーズですね」と褒められる。つまり褒めるべき点が他にないということである。
※11.許可制
本当はライフルもまったく無許可というわけではない。身分証になるものを見せて「照会するから」と購入に数時間待たされたりするようである。
州により違うと思うが、米国でも拳銃は売る側にも当然ライセンスが必要であり、ホームセンターやアウトドアショップでは猟銃だけで、拳銃やアサルトライフル系の軍用小銃ベースの銃は扱っていない場合が多い。そういう場合は専門のガンショップへ行く必要がある。
※追記:ピストル
「ピストルは拳銃、いわゆるハンドガンの総称であり、ピストルには回転式弾倉のリボルバーと、自動装填式のオートマチックに分けられる」と作者は思っていたが、アメリカはそうではないらしい。
コルトやS&W、スタームルガーなど、リボルバーと自動拳銃両方作っている銃器メーカーのホームページでは「PSTOLS」と「REVOLVERS」に分けられていて、ピストルと言えば自動拳銃のことである。「ピストル」は自動拳銃が登場する前からある単語だと思うのだが。
リボルバーはアメリカのサミエル・コルトの発明・発祥・元祖なので、米国人にしてみれば「リボルバーと、それ以外」という分け方なのかもしれない。
次回「ソウドオフ・ショットガン」