27.目標達成!
翌日、市内の金物屋に行って一番安いフォークとスプーンを二百五十本注文。
百均感覚で一本百円ぐらいと思ってたのにこっちでは安くても大銅貨四枚でしたね。真鍮製で三百円ってところかな。でも大量注文しましたので少しまけてもらって金貨十二枚。
手付に金貨六枚を支払い、受け取りに残り六枚を払います。
三日後に来てくれってことになりました。
それから鍋とフライパンを一つずつ。
サランが嬉しそうに選んでおります。ほほえましいです。
でもその極厚フライパン、それで殴られたら僕頭蓋骨真っ平になりそうです。お肉がおいしく焼けそうですけど。
タップリ時間をかけて吟味したやつをマジックバッグに入れて、ギルドへ。
優先順位の高そうなやつ……。
やっぱりオオカミかな。
子供や女性のような弱い人が襲われるような人命にかかわるものを優先だね。金貨五枚の仕事です。
地図にある農道をたどって村に行き、村長さんから事情を聴いて、出現現場を特定。二人でシカを獲ってちょっと広い場所で解体して木に吊るす。
少し離れた場所の木に登って待機。血の匂いに誘われ集まってきたオオカミたちをサランの矢で次々に射っていきます。
「(弓って音がしないからいいよね)」(小声)
「(でしょーっ、弓だってね、てっぽうに負けないんだから)」(小声)
ニッコニコですサラン。久々の大活躍ですから。僕にはまねができないなあ。
日本で弓で狩猟をする人がいないのはですね、法律で禁止されているからです。
不思議な法律ですよね……原始時代から使われ続けているはずなのに。
海外では、弓でハンティングをする人はたくさんいます。
狩猟用の弓が人気でしてね、「コンパウンド・ボウ」と言いまして現代の弓は滑車とテコがうまく組み合わされていてコンパクトなのに長弓よりずっと強力なやつがありますよ。クマを獲った例もあります。
弓はね、長いほど強力なんです。日本の和弓は大きいですよね。人間の背丈より長いです。あれは世界的にも強力な弓の一つです。
短い弓だとしなりが大きくなり、引き始めと引き切ったときの張力の差が大きくなってしまいます。なので強力な弓を作ると人間の力で引き切れません。長い弓ならしなりが小さいので、大丈夫です。
引き始めと引き切ったときの張力の差が小さいのが長弓の特徴でして、そのため全体として強力な弓が作れます。
コンパウンド・ボウはその長弓の特徴を滑車とテコでコンパクトに再現しているということですかね。あんまり詳しくは知りませんが。
いつかサランにプレゼントしてあげましょうかね。サランだったら一番強い弓でも軽々と引くでしょうから。マジックバッグで買えるといいんですが。
木の上の僕らに気が付いて、相当数が襲ってきますね。
こうなると散弾銃の出番です。
ドゴン! ジャキッ!
ドゴン! ジャキッ!
ドゴン! ジャキッ!
連射しまくって、更に五匹を退治。あとで毛皮を取るので頭を狙います。
総勢十五匹のオオカミを駆除することができました。
シカはオオカミに食いつかれて肉が荒れてますから、これはあきらめてオオカミの皮を剥ぎます。二人で交代で見張りながら。
サランのほうが上手ですね。そりゃそうか……僕はオオカミの皮剥ぎなんてやったことないですからね。
オオカミの匂いのおかげか、他の動物がやってくることも無く、十五枚の毛皮を剥ぐことができました。
まだ生ですしマジックバッグに入る大きさでもありません。
袋に入れてサランがかついで村まで引き上げます。
村長に毛皮を見せて討伐証明にサインをもらい、トープルスのギルドに帰って報告。
報酬に金貨五枚をもらい、毛皮を一枚銀貨六枚で買い取ってもらいました。
金貨十二枚半の儲けです。
「クマか――!」
「クマね」
これもやっとかんといかんでしょうなあ。
農家さんが怖くて農作業ができません。
僕はヒグマに殺されてこの世界に来ましたからね。クマにはトラウマがあります。
今の僕にはライフルもあるんだから、それぐらい克服しないと……。
「サラン、クマってどんなの? 大きさは?」
「黒くてね、首の下に白い三日月みたいな模様があって、シンよりちょっと大きい」
ツキノワグマかよ!
ヒグマじゃないのかよ!
だったら楽勝じゃん!
ツキノワグマはね、大きくても大人の人間ぐらい、体重は150kgぐらい。
最大3mとか400kgとかのヒグマから見れば小物もいいとこですわ!
北海道在住の僕は、ツキノワグマを動物園でしか見たことありませんけどね。
食料品店で、マシュマロみたいな砂糖菓子をいっぱい買い込みます。
「えっどうすんのそんなの」
「罠(Bear Crack)」
クマの出る村に行って、村長さんにお話を聞き、古い鍋をもらいます。
クマが出没するという畑まで行って、焚き木を組み、サランに魔法で火を焚いてもらって鍋に砂糖菓子をぽろぽろと入れまして……。
甘い香りがムンムンとしてきましたよ……。
「さっ隠れて」
農機具小屋に隠れまして、ライフルのレミントンM700を取り出して待ちます。
「(来た――――!)」(小声)
サラン大興奮。
くまさんはほんと甘いものに目がありませんね。
クマは火もあんまり恐れませんからね。焚き木をひっくりかえして鍋に顔つっこんで夢中です。
「(耳ふさいで)」
「(はい!)」
ドォ――――ン!!
「うひゃ――!」
「やだ――――!」
小屋の中で発砲したからものすごい埃が降りかかってきます。
失敗でした……。
ツキノワグマですからね。
前足を出した脇の下、心臓へライフル一発で絶命してました。
念のために頭にもう一発撃ちこんでおきます。
クマは生命力が高いですし死んだふりもしますから、
「クマってはちみつとか甘い物大好きだもんね。なるほどねー」
サランが感心します。
Bear Crack Huntingで海外動画で検索してください。
アメリカ人はこうやってクマを獲るんです。
すごい卑怯なような気がします……。
「んっっしょおおおお――――!!」
いやさすがにそれはサラン……。
……って、すげえっ、持ち上がるのそれ?
フラフラしながらですが100kg以上ありそうなクマを担ぎます。
凄いね君。前から思ってたけど多分素手でも僕を撲殺できるよサラン……。
夫婦喧嘩はしないようにしましょう。
とりあえずふらふらしながら村長さん宅前へ。
びっくりですなあ村長さん。
被害にあっていた畑の主さんが馬車を出してくれましてね、それにクマを載せてギルドまでやってきました。
報酬は金貨六枚、クマはまるごと十二枚で買い取ってもらいましたね。
肉も毛皮も内臓もみんな高く売れるんだそうですよ。
いいですねえ……。北海道じゃ熊なんて売れませんよ。全くお金になりません。
調査だとか言って大学とか研究機関が持って行ってしまいます。毛皮も誰も欲しがりません。漢方薬になるとか言うのも全部ウソです。肉も、あんなもの誰が食べますか。スーパーで買う肉より美味しいわけないじゃないですか。「熊売って大儲け」なんて現代の日本じゃありえませんね。
次の日、別の村でもう一頭クマを獲って……。
「金貨百枚達成――!」
「やった――!!」
二人で、ギルドの買い取りカウンター前でハイタッチして喜びます。
「なあ、あんたたち」
カウンターの親父さんから声をかけられます。
「二人でクマを倒せるんだからさ、今度ギルド合同でやるミドルドラゴンの討伐、参加してみないか? 五チーム共同でやる予定なんだが……」
「やめときます」
そんな大勢の前で銃使えないよ。
僕らはね、二人だけでしかやりません。論外論外。
ほらー、サランだって大反対って顔してますよ。
「そんなのはね、上級ハンターの皆さんが名前を売るのにやりたがってるだけでしょ」
「うーん、まあ、そうなんだが」
親父さん渋い顔ですね。
「やりませんったらやりません!」
「欲のないことだねえ」
無いよ。きっぱり無いわ。
「それよりもうサープラストに帰りますんでね、帰りの護衛の仕事ってありませんか?」
「もうちょっといてほしいねえ」
「なんなら他チームとの合同でも」
「ない」
……ほんとはあるんでしょ。僕らにまだいてほしいんでしょ?
なんだかなあ……。
まあ、無いって言うなら二人で歩いて帰るとしますかね。
金物屋さんで数が揃ったフォークとスプーン二百五十セット受け取りまして、残金の金貨六枚を支払って、安宿に戻りました。
次回「旅の商人さん」