26.秘密の花園のヒミツ
屋敷に到着して正門の前でさてどうしたもんかと考えておりますと、白髪の執事さんが飛んできました。
「タヌキ頭のお二人ですな!」
「……ラクーンヘッドです」
「ハト殺しとか!」
「ほかにもいろいろやってます」
「いやあ来てくれてありがたい。さっどうぞ」
全く人の話を聞いてくれない執事さんに正門を開けられて、屋敷に案内されます。
すげえ豪華……すげえ屋敷……。広いホールにものすごいシャンデリア……、ふかふかの絨毯。
白亜の豪邸。ホワイトハウスですかここは。
「わがハクスバル家は王家の血筋にも通じる由緒正しい家柄でしてな。現在ファンデル・ラ・ハクスバル伯爵の元ここの統治を任されておりましてな。その歴史は千年も続いております。そしてこの……あっ、そこは踏まないで」
「あっ、すいません。あの、それでハトは?」
「これは失礼。ベルドバルク家からお輿入れされました奥様が、大変草花がお好きでしてな、その奥様が御自らお手入れなされた庭園がございまして……こちらです」
大理石の階段を踏みしめて三階も登りまして、綺麗なバラ園といいますか花園といいますか、高価そうなお花が咲き乱れている庭園に案内されました。
三階のめちゃめちゃ大きなテラスにありますので空中庭園と言うやつですね。
「奥様はこちらで午後のお茶を嗜むのをなによりもの楽しみとしております。そこへハトが舞い込むようになりましてな」
あー……それフラグです。
「最初は小鳥を愛でハトを愛でエサを振りまいたりしており、巣ができたと言っては喜び卵が産まれたと言っては奥様は喜んでおられましたが、数が増えましてな……」
うん、そうなりますよハトは……。
「もうこのような」
これはひどい。
椅子もテーブルもフンだらけ……。
あっちでくるっぽー。こっちでくるっぽー。 なんというハトの群れ。
「毎日掃除しておりますが、たった一日でこのような。さすがに奥様もお怒りになりまして、ハトがいなくなるまではもうお茶は飲まないと申されまして」
ですよねー。
「奥様はあまりのことに寝込んでしまい、伯爵様も心をお痛めになりましてな。そこで私どもがハンターギルドに依頼をしておったのですが、ハト殺しの名人が街に来ておると言うことでしてな。ぜひご依頼をと願い……」
「了解です。あの、それで」
「はい」
「実は僕、今まで何度も何度も貴族様に報酬を踏み倒されてきたのですが」
「それはひどい。お二人はどちらから」
「サープラストから来ました。それはもう、『大儀であった』とありがたいお言葉を賜ったり、『帰っていいよ』とお暇をいただいたり……」
「そうでしたか。そのようなこと貴族の風上にも置けませぬな。領民を正しく公平に評価せずにどうして領民に働いてもらうことが出来ましょう。それはもう、御心配は無用です。ハクスバル家の名に懸けて」
「では。これから僕がやることは他言無用に願います」
「承りました」
空気銃のダイアナM52を取り出し、サイドレバーをガッチャンと引いてから弾を押し込んで狙います。
バシュッ!
ぼと!
距離が無いのでほとんど即死ですな。
ペレットは今はビーマン・クロウマグナムを使ってます。
エアライフルにしては珍しいホローポイントですよ。先端に穴が開いてます。
貫通しませんので後ろの壁に穴が空いたり血が散ったりもいたしません。
近距離用高威力弾ですね。これで狙われたら即死ですよ。300発入り10ドルです。日本で買うより安いですね!
バシュッ! ボトッ!
「……すごいですな」
執事さんが驚きます。
どんどん落として三十羽は獲りました。サランの袋が満杯です。
「今まで矢も使えず網にも捕まらず困り果てておりました! すばらしい!」
「ハトは夜になったら戻ってきます。今日は夜まで警戒させていただきたいです」
「ここで寝泊まりなさると言うことですか?」
「いえそれは。夜分失礼してまた明日の朝まいります」
「了解いたしました。昼食と夕食をご用意しましょう」
メイドさんがサンドイッチとお茶の昼食を持ってきてくれて、ハトのフンをテーブルと椅子から綺麗にふき取ってくれまして(なんか申し訳ありません!)二人で食べます。
「うわっおいしい!」
サランが大喜びですな。
「さすがは貴族だよね」
うんうん、今度はちゃんと報酬も出そうだしね。
「綺麗な庭園だよねえ……」
うん、おいしいお茶も入れてもらって綺麗な花に囲まれて、なんか本当に貴族気分。ハトとフンの匂いさえ我慢すれば。
本物のメイドさんって初めて見ました。すごい高そうな服ですな……。
伯爵の使用人ともなるとメイドさんの衣装もすごいです。ドンキで売ってるペラペラのコスプレ用メイド服とはモノが違いますわ。
アレをムリヤリ着せられた高校の文化祭の苦い思い出が……。げふんげふん。
日が落ちて、十数羽のハトがバタバタと巣に戻ってきまして、これも片っ端から落とします。
「今度こそ期待できそうだよね!」
「うん、がんばろう!」
朝早く出ないといけませんので、その日は食事なしの安宿に泊まりまして、朝食もそそくさと日が昇る前に出立し、屋敷に到着します。
庭師の方が正門を開けてくれて、メイドさんに案内されさっそく昨日の続きです。
まだ飛んでくる奴がいまして、五羽を獲って、全く来なくなりましたね。
お昼も近くなり、そろそろ切り上げることにしました。
「素晴らしい……」
ハトでいっぱいになった袋を二つ。
まったくハトのいなくなったフンだらけの庭園の桟を見て執事さんが感嘆します。
「これで一旦終わりです」
「ありがとうございます! あとは使用人総出で掃除をいたします!」
そうしてください。床がフンと血ですごいです。これの掃除はさすがにお断りいたします……。
「シンさん」
「はい」
「どうかこのことはご内密に。あのハトたちを全部殺したとあっては奥様がお心を痛められます。ハンターが追い払ってくれたということにいたしますので」
「わかりました。ハトはいくら追い払っても戻ってきますからね」
「まったくでございます」
「そのかわり、僕の魔道具のことも、内密にして下さいね」
「心得ております」
……こういうのってね、貴族が見たら絶対に欲しがると思うんだ。
その銃を売れ、売れないならよこせ、寄こさないなら牢獄行き、あり得ない話じゃないです。
「報酬でございます。お受け取り下さい」
「ありがとうございます」
ぎっしりした革袋を受け取ります。
ここで開けてみるのは失礼でしょうね。執事さんに見送られて退散します。
「いくら入ってる?」
「……」
金貨二十枚!
大儲けです!
いやー、貴族にかかわっていいこともあるんですね。
サープラストとは大違いです。
貴族の方とお知り合いになる、なんてお約束の展開はありません。貴族の方がハンターのような下賤な職業の者と面会したりするわけがございませんよね。
役場の仕事で市に行っても知事がいちいちねぎらいになんて来ませんからね。
なんかリアルです。でもね、こんなお仕事だったら何度だって受けたいですね。
夜、宿屋で二人で金貨を全部数えてみました。
全部で六十二枚ありました。ずいぶん稼いできましたね。
消費も凄かった……。
ライフル買って撃ちまくって、それになによりキングサイズのふかふかベッド、金貨二枚や三枚のお宿に毎晩泊ってたら、そうなるよね。ちょっと贅沢しすぎてたかな。
新婚ですから。
「ねえサラン」
「ん?」
「そろそろ帰ろっか」
「そだねーっ」
「もしかして、おんなじこと考えてた?」
「うん」
あっはっはっは。
二人で笑う。
「こっちのギルドにも困ってる農家さん、いっぱいいたし、それ終わらせたらサープラストに帰る。サープラストで特に何もなかったら、そのまんまエルフの村に帰ろう。お土産は何がいい?」
「うーん……私は別に欲しい物はないなあ。あ、鍋とかフライパンは欲しい! あとナイフとフォークとスプーンと」
エルフ村ではみんな手で食べてたし、汁物は椀でしたもんね。
宿屋で食事するようになってからサランもナイフフォークが上手になりました。
「僕としては、エルフ村には箸を普及させたいな。あれなら木を削るだけで作れるから」
「あー、シンがたまに使ってるやつね。うん、確かにあれはいいね……でも使うのにすっごく練習しないといけないなあ」
「ナイフはみんな今も使ってるしいらないとして、スプーンとフォークなら村人全員分買えるよねきっと。スプーンとフォーク一本ずつで大銅貨二枚×二百五十人で金貨三枚半……。うん、楽勝」
「計算はや!」
いやこの程度の計算は……。うーん教育って大事だよね。
「じゃあまずここで鍋とフライパンを買おう! サランが好きなの買っていいよ。それから二百五十本のフォークとスプーンを注文。出来上がるまでの間農家さんの駆除をやって、出来上がったら受け取って、あー帰りの商人さんの護衛仕事、なにかないかギルドに聞きに行こう。お金は目標金貨百枚! でもそっちはあんまりこだわらずに」
「わあ――嬉しい!」
「あとね」
「うん」
「宿代はちょっと節約」
「……」
うぷぷぷぷ。サランの顔見て笑いそうになる。
「明日から金貨一枚のお宿にします」
「……」
あっはっは。
その晩は、なかなか寝かせてもらえませんでした。
次回「目標達成!」