表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた  作者: ジュピタースタジオ
第一章 本物のハンター、異世界に行く
25/108

25.やりすぎたかもしれない


 街道に転がる十一人の男。

 バーティールさんが一人一人槍を突き刺して止めを刺していきます。

 まだ死んでないやつもいるんでしょうね。

 弓のラントさんと剣のミルドさんが山から下りてきました。

「三人、残党無し」


 

「いやいやいや……」

 バーティールさんが首を振ります。

「俺たちの出番が無いとは……」

「アタシは一人倒したけどね!」

 おネエさんあなた外してたような……。いえなんでもありません。


「すげえよお前ら……」

「いや、ハト殺しがこれほどとは……」

「嬢ちゃんの弓も凄かったけどよ」

「やっぱそれだよ。その魔道具」


 ……やりすぎましたか。

 ライフルのM700は馬車に隠れてこっそりマジックバッグにしまって、今はショットガンのM870だけ背負ってます。


「サランが先に見つけてくれたのは運が良かったですし、あいつら逃げ出したのもみなさんがいたからです。先に囲まれてたら僕じゃどうしようもありませんよ……」


 正直そう思う。

 銃が一丁あったからって十二台の馬車を十四人の野盗から守り切れるわけがありません。


「ダメだこいつら。こんだけだ」

 ラントさんが盗賊共の懐を探って、お金を集めてきました。

 銀貨が数十枚と言ったところでしょうか。

「これだけの数だ。どっかにアジトがあるな。まあ探してる暇ないし、踏み込んだところで大したもんはないだろう。剣は?」

「クズだね」

 盗賊の持ち物は護衛パーティーの物ですか。

 弱肉強食な世界ですね。


 盗賊たちの死体を道の横に放り投げていきます。

 あとはオオカミとかコヨーテとかタカやカラスが処分してくれるそうです。


「あの」

「ん」

「すいません。調子に乗ってやりすぎました」

 頭を下げる。

 正直、本当に申し訳ないと思います。

「いい。驚いた。いい腕だ」

 バーティールさんが苦笑いする。


「お願いがあるんですが」

「なんだ」

「あれ全部皆さんが倒したことにしておいてくれませんか」

「……ああ。いいよ」

 バーティールさんが頷く。

「いやそれは」

「それはさすがに」

「待て待てみんな。要するにこいつら、知られたくないってことなんだろ」

 その通りですラントさん。


「それでいいな?」

「まあアレが有名になったら大変だよな……。りょーかい」

「賛成です」

 うん、バリステスのみんなが納得し……。


 そして、やっと笑顔になりました。

「やるなシン!」


 よかった。負傷者もなく無事に終わりました。




 その後、特に何もなく、サランと僕とバーティールさんで見張りを交代しながら夕暮れには目的地トープルスに到着です。


 僕が御者台の横に座ってる間、バーティールさんがサランと仲良くなりたげに盛んに話をしておりましたね。大男のバーティールさん、自分と同じ体格の女性って初めて見たでしょうね。


 やっぱりハンターと言えば話題は自慢話です。

 アレを倒したアレをやっつけたあの盗賊団を壊滅させたのは俺たちだ。

 あっはっは。猟協会の飲み会を思い出します。


「嬢ちゃん、エルフだったのか!」

 あーあーあー、それ言っちゃいますかサランさん。


「アレが旦那? 嬢ちゃんあいつの嫁なのか!」

 それも言っちゃいますか。僕たちどういうコンビだと思われているんでしょうねえ。


「なんてうらやま……いや、なんでもない」


 街に到着して、商館の前で馬車隊が止まると、解散です。

 バリステスのみなさんが僕たちにも報酬の分け前をくれようとしてくれましたが、今日は実習、僕たちはお客扱いですのでね、断りました。


 護衛の仕事はですね、盗賊が出ても出なくても最初に決めた通りです。

 報酬が変わることはありません。

 これ成果制にすると絶対トラブルになりますからね。

 強盗が出なかったからと言って商人が護衛料を値切ったり、盗賊を倒したからと言ってハンターが料金を上乗せしたり、そんなことがないようにです。


「ギルドマスターには報告しとく。合格も合格、大合格だ。俺が保証するよ。おめでとう」

 バーティールさんが笑うと、みんなも僕の肩や頭を叩いてくれた。

 痛いです。


「帰ってバルさんには正直に報告していいんだろ?」

「はい、バルさんは全部知ってますから」

「了解だ。お前ら俺らのパーティーに入ってもいいんだぞ?」

「もう少し修行します。また会う機会があれば」

「楽しみにしてるからな! タヌキ頭!」

「いえっそこは、『ラクーンヘッド』でお願いします!」


 商人の皆さんも、「なんか凄かったねえ。何をやっているのかはまったくわからんかったけど、音が凄かったよ。これでこの街道もしばらく安全だな!」と言って喜んでくれましたね。


「若い二人の初仕事に、お祝いだ!」

 金貨一枚、もらえました。

「私からも」

「おう、受け取ってくれ!」

 ありがとうございます。商人の皆さま方。ありがたくいただきます。


「その帽子、いいな、売ってくれないか?」

「これがないと僕ら覚えてもらえませんので……」

「そうか、タヌキ頭、有名になればいいな」

 ラクーンヘッドです。



「護衛の仕事、儲かりそうだけど、僕らにはまだ無理かな」

「うん、そうだね、これだけの馬車隊で十人以上の盗賊とか、私たち二人だけじゃ守り切れないもんね」

「じゃ、今後も、狩猟と駆除メインでってことで」

「うん、賛成」


 二人で笑う。

 僕たちがどこかのパーティーに所属したり、僕たちでパーティーを増やすとか、二人ともまったく頭に思い浮かびませんね。


 新婚ですしね。


 さ、新婚にふさわしい宿でも探しにいきますか。





 朝。


「シン……」

「ん?」

「肩に(あざ)できてる……」


 サランが上に乗って僕の肩を撫でます。

 たぷんとしたおっきなものが二つ乗っかって気持ちいいです。


「あ、ホントだ」

 308ウィンチェスターは、ヒグマを倒せるギリギリ最低限の威力があります。

 猟銃としては、入門用と言っていい威力のものですね。NATOの軍用弾としても使われていたことからもわかるように誰でも撃てる一番一般的な弾薬です。

 でも反動を逃がせない伏せ姿勢であんなに撃ちまくれば痣もできますか……。


 実際の猟ではあんなに撃つことはありません。

 一日に鹿一頭獲れればその日は上出来です。なんにも獲れず、一発も発砲しなかったなんて日のほうが多かったです。北海道では。


「シン、無理してないよね」

「今のところは大丈夫。でも、僕ってひ弱だよね……」

「そんなことないよ。あんなに敵倒して、頼りになるだんな様」

「でも、ほら山に登ると僕サランについていくのもやっとだしすぐヘバるし、馬にも乗れないし」

「でもほらここは元気」

「……」

 そのまま動かないで、抱きしめてくれます。


「十年経ったら、私たち、どうなってると思う?」

 うーん……。そこは僕も考えてる。


「多分……」

「うん?」

「二人でアライグマの帽子作ってると思う」

「ぷっ。くくくくっ。あっはっは!」

 あの、笑うと、その、おなかが揺れて、振動が……。


「おんなじこと考えてた」

 そっか、嬉しいな。

 そうなったらいいな。

「ねえシン、強くてカッコよくて、勇敢で、すぐ死んじゃう男と……」

「えっ」

「臆病でも優しくて、長生きしてくれる男だったら、どっちがいいと思う?」

「男の僕に聞かれましても」

「私は断然長生き派」


 僕はエルフほど長生きできないと思います。サランはどうなんでしょう……。


「私の父は強く、カッコいい男だけどすぐ死んじゃった。お母さんは泣いていた」


 ……。


「ずっと一緒にいてね、シン」

「うん」




 朝から大暴れして朝食を食い逃し、宿の人に半目で睨まれながらチェックアウトしてトープルスのハンターギルドに行きます。

「おう、タヌキ頭。来たか、遅かったな」

「そこはラクーンヘッドでお願いします」

 受付のオジサン上機嫌ですね。僕らなにかおかしいですかね。


「話はバリステスから聞いてるよ。ギルドマスターの紹介状もな。カード出せ。今日から護衛の仕事してもいいからな。帰りはまたなにか護衛引き受けて行くといい」

 そう言って、僕らのカードにスタンプ押してくれます。

 実習終了ですね。


「どうせなら、この街でいろいろ仕事を引き受けてくれると嬉しいがな」

「それは僕らもやりたいですね」

「より取り見取りだ。若い奴らがシケた仕事をやりたがらないのはここも同じでね」


 掲示板を見る。やっぱりここでも農家さんが大変みたいですね。

「地図をもらえますか?」

「ほらよ」

 うーん。掲示板と比べてみても一日で回れる量じゃないですな。

「それよりハトの駆除やってくれるんだって? ハト殺しのシンさん」

 ここでもそう呼ばれてしまいますか僕……。

 もうそれでいいような気がします。

 ハンターギルドと、それに隣接する商人ギルドの倉庫がハトのフンだらけ。

 どこでも悩みは一緒ですね。


「じゃ、最初にそれやりますか?」

「そうだな。ギルドからの依頼ってことにしよう。商人ギルドにも声かけてみるよ。来てくれ」

 そうして商人ギルドにも引っ張っていかれます。


「ハトの駆除? そんなんやってくれるハンターいるの? ええっ? そんなの聞いたこと無いよ!」

 案内された商人ギルドでもびっくりされます。

「お呼びじゃなかったですか?」

「いやいやいや! 大歓迎さね! さあ来てくれ! 頼む!」

「その前に報酬の相談を……」

「そうだな、全滅させてくれたら金貨十枚! どうだ!」


 やります!

 ぜひやらせてください!


 三日かかって倉庫のハト全部撃ち落としました。総勢二百四十七羽!


 ……放っておくとホントいくらでも増えますねハトは……。

 ハンターギルドと、商人ギルドから金貨十枚ずつもらって二十枚の儲け!

 二人で美味しいもの食べていい宿泊まって街を観光して回り、ほんっといい稼ぎになりました。

 もうこの国を全部回ってハトを全部撃ち落としてしまいましょうかね。

 あんなに喜んでもらえるんだったら、もっとやりたいですわ。


「おうっ、ハト殺しのシンさん!」

 ……もうそれでいいです。自業自得だと自分でも思います。


「仕事の指名依頼だよ。御領主様から」


 うわーやりたくねー!!!



次回「秘密の花園のヒミツ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ