24.初めての護衛実戦
「どこだ?」
「森の小山の上。木に隠れてるけど弓が見える」
「……見えないな」
双眼鏡で見てみます。
ああ、山の上にいますね。
「それ遠眼鏡か? いいの持ってるな」
まあね。
「あいつらたぶん後ろの隊だな。俺たちが通り過ぎてから後ろから矢をかけて、前のやつらが道をふさぐ。総勢十人以上の盗賊で挟み討ちってことになる」
「……どうします?」
「そうだな。嬢ちゃんのおかげで先に発見できたのは良かった。俺たちで先行して、おびき出すか、出てきやがれ!って脅すか……。御者さん、馬車止めて」
隊列が止まります。止まったことで相手にもこちらが発見したことが伝わったでしょう。
「先にこっちから仕掛ける?」
サランが言う。なんかワクワクしてんのが気になりますけど……。
「まず僕が撃ってみるよ。それでいい?」
「もちろん」
「おいおい!」
バーティールさんが驚く。
「こんな距離で攻撃できんのかよ!」
150mはありますね。まだ弓の射程外です。楽勝です。
「任せてください。攻撃始めたらやつら逃げるか、かかってくるかのどっちかだと思いますが」
「……とりあえずメンバーを前に集める」
バリステスのメンバーが集合しました。
「賊だ。前の小山に弓多数。見落としたやつがまだ後ろにいるかもしれん。ラント、後ろ見て来い。こっちで攻撃が始まったら後ろに出てくる場合もある」
「了解。出たら鏑矢(音のなる矢)で知らせます」
声をかけられた弓兵のラントさんがダッシュで隊の最後尾に向かって走っていきます。
「ハト殺しのシンが最初に仕掛ける。遠距離攻撃が得意だそうだからな。その後賊がこっちに向かって襲ってくるだろうから俺たちで切り伏せる。サランは弓で後方から援護してくれ」
「了解」
「大丈夫かいシンさんよ。相手はハトとはわけが違うぜ?」
「まあ新人だからな。後は俺たちに任せりゃいいさ。初陣譲ってやるぜ」
「賛成です」
「アタシの魔法の威力を見せてあげるわ。驚かないでよ」
……一人おネエがいるとは気が付きませんでした。
どさくさにこっそり取り出しておいたライフルのレミントンM700を下げて前に出て、道の横の斜面に伏せます。
馬が驚きますのでね、ちょっと離れておかないとね。
レミントンM700を伏せの姿勢から見上げ射撃。
スコープを覗くと……。
うわっ……確かに汚いな盗賊って。
弓持って、僕らが通り過ぎるのを待ってるわけですね。
すぐにも引き絞れるように矢をつがえて、準備は万端ですか。
ではまずその弓隊から……。
ドォ――ン!!
一人倒れ!
チャキッカシャッ。 次弾装填。
ドォ――ン!!
二人目!
大騒ぎになっておりますな。
慌てて矢をつがえてこっちに向けた奴に三発目。
ドォ――ン!!
このままじゃマズいと思ったのか、山を駆け降りてきます。
道に出たところを……。
ドォ――ン!!
四人目! 剣を持った男がバッタリ倒れます。
ばらばらと道に四人駆け下りてきました。
150mの距離の街道を走ってこっちに向かってきますね。
その更に後ろに六人こちらに駆け付けてきます。音を聞いて出てきたのでしょう。前をふさぐ予定だったやつらでしょうかね。
走ってる相手にはライフルはちょっと当てる自信がありません。
それにこれ以上やると今度はあいつら逃げるでしょう。
すっと立ち上がって銃を下げみんなの元に走って戻ると……。
全員、ポカーンですな。
「来ます!」
「来るぞ! 話は後だ!」
バーティールさんが槍を構えて声をあげるとみんなが正気に戻ります。
魔法の詠唱を始めるおネエ。
剣を構える剣士さん。
僕はみんなの横に回ってライフルのM700に弾を4発装填します。
ドォ――ン!!
ドォ――ン!!
これも伏せで、距離がある一番後ろの六人のうちの二人を倒しました。
逃げられやすそうなやつから倒してしまったほうがいいでしょう。
残り八!
ビシュッ……ルルル……。
どごっ。
サランの矢が60m先の賊に貫通します。
さすがサラン。冷静ですね。
残り七!
M700のズームを4倍に下げ、しゃがんだ膝撃ち姿勢で構え!
50m先の剣を持った賊二人に、
ドォ――ン!
ドォ――ン!
近距離からライフル弾を食らわせます。
走っている勢いのままバタンと前に倒れる二人の男。
映画とかでやる、撃たれて後方に吹っ飛ぶ犯人。
あんなのは演出ですね。実際には弾がブスブス体に食い込むだけで後ろに吹っ飛んだりはしません。
敵が吹っ飛ぶなら、それを撃った僕も吹っ飛ばないと物理的におかしいでしょ。
残り五人、「う、うわあ――――!!」と逃げ始めました。
ひゅるるるる……どご!
サランの矢が突き刺さり、残り四人。
魔法使いさんの魔法の火の玉が飛んでいきます。
はずれ!
残念!
M700に弾丸を4発込め、片手をついて地面に伏せ、構えなおします。
ドォ――ン!!
ドォ――ン!!
残り二人!
ドォ――ン!
ハズレ!
ちょっと慌てすぎたか。
ドォ――ン!
最後の一人!
弾倉がカラになったのでポケットから一発直接排莢口に装填!
距離200!
慎重に狙って……。
ドォ――ン!!
終了。
なんて簡単なんだ……と思う。
野生動物は、逃げるとき、横に逃げる。僕を見つけて、方向を変えて。
まるで、どうすれば銃に当たらないか、本能で知っているように。
そして、たちまち木立でも林でも森でも草むらにでも駆け込んでしまう。
なのに、人間は真っすぐこっちに向かってくるかと思えば、背を向けて真っすぐ向こうに逃げてゆく。なんの邪魔も無い街道を真っすぐに。
立って走っているから頭、喉、心臓、胸、腹、急所が縦一列に並んでいる。
どこに当たっても致命傷です。上下は適当に、左右だけきっちり合わせて撃てばいい。
猟協会の会長が言ってた。
『人間なんて撃って面白いわけが無いよ』
会長、今、僕は人間を撃っています。
あなたの言った通りです。
でも、こんなになんにも感じないなんて、思ってもみませんでした。
僕が撃たなきゃ、あいつら誰かを殺すんだろう。
そんな嫌悪感だけが沸いています。
銃を手に入れて、猟協会のみんなと猟に参加して、初めて獲物をしとめた時の、あの「やったー!」という高揚感。
そんなものさえ、ありません……。
次回「やりすぎたかもしれない」