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北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた  作者: ジュピタースタジオ
第一章 本物のハンター、異世界に行く
23/108

23.先輩ハンターの護衛実習 ※


「護衛任務を引き受けるにあたって、一度、ベテランと組んでもらって実習することになってる。商人の護衛商隊に加わって一度経験してもらうからな。これは必須だ。お前たちは素人だから客扱いだ。旅費がいるぞ。それは自前だ」


「そういえばゴブリンの討伐の報酬どうなりました?」

「……領主様のお言葉を伝える」

 うん、悪い予感しかしないんですけど。


「『大儀(たいぎ)であった』と、アルタース子爵様からお言葉を(たまわ)った」

 ですよねー……。


「すまん。あいつらはな、事前には金を出すが、事後には出さん。まあ、そういうもんだと思っててくれ。何かやる前にはちゃんと契約をし、報酬をできるだけ前払いしてもらうか、ちゃんとギルドに発注された仕事をギルドから受けるかしろってことになる。覚えとけ」


「……はい、身に染みてわかりました」

 抗議するのもアホくさくなってしまいました。

 サランもおんなじみたいですね。半目です。


「緊急で頼んだのは俺だからな。悪かったと思ってるよ。だから実習の料金はギルドで出してやる。組むパーティーも紹介するからよ。それで勘弁してくれ」

「はい」

「しょうがないねえ」



 三日後、シカやコヨーテなど駆除しながら待っていると、参加する商隊が決まったと買い取りじいさんから教えてもらいました。

 朝、東口に出向くと多くの馬車隊が荷物の積み下ろしをしています。

 十二車両かな。

 昔の西部劇で観た駅馬車って感じですかね。


「ようっ、お前らが『タヌキ頭』か。すげえカッコだな」


 ……僕たちそんな名前になってたんですか。

 僕たち二人がおそろいでかぶってるのはアライグマ(ラクーン)の帽子です。

 断じてタヌキじゃありません。着ているのは上下全身迷彩服ですが。


 ゴツそうな、サランと同じぐらいの背の高さの大男で使い込んだ鉄板張りの防具を付けた中年男性に声をかけられました。


「そっちが大女のサラン、お前がハト殺しのシンってわけだ」

 もうちょっとマシなニックネームにしてもらえませんかね。

 もうそれで有名なんですね。なんだかなあ……。


「俺は2級ハンターのバーティールだ。チーム『バリステス』のリーダーやってる。ギルドマスターから話は聞いてる。十二匹のゴブリンの巣を全滅させたってな。どんなやつが来るかと思ってたが、お前らだったとは……」

「僕らのことを知ってるんですか?」

「ここでハトを撃ち落としてるのを見たよ。かわったパチンコを使ってたみたいだが、あんなのでよく当たるな」

 そういって笑う。豪快な人ですね。


「あと他にも不思議な道具を使うとも聞いている。マスターに言われたのはな、『聞くな。見るな』だ。だいぶ変わった物を使うらしいな。魔道具使いか?」

「まあ、そんな感じですかね。二人とも遠距離攻撃です」

 僕は26インチの散弾銃身に換装したM870にバックショット。銃カバーかけてますので僕が何を背負っているのかはわからないと思います。

 サランはあの超長弓です。槍でもよかったんですけど。



 ふむ、とバーティールさんが頷く。


「まあ、それでもラバラスワニを仕留め、十二匹のゴブリンを倒せるなら本物だろうしな。そこは信用しているよ。バルさんが期待の新人とお墨付きをくれたんだから。よろしく頼む」

「はい、お世話になります」

 そう言って二人で頭を下げます。


「とりあえずお前たちは客扱いだ。俺たちの仕事を見てろ。だが実習だから見張りも一緒にやってもらうし、戦闘になれば参加しろ。基本俺たちに任せてサポート業務だ。それでいいな」

「はい」


「バリステス集合!」

 メンバー紹介してもらいました。

 槍使いのリーダー、バーティールさん。片手剣に盾の剣士ミルドさん。

 この二人は長年コンビを組んでたようで、齢が近いです。

 あと魔法使いさんが二人。一人は攻撃魔法、一人は回復とか防御系だそうです。

 それに弓が一人、五人パーティーですね。全員男性です。


 ……そうだよね。

 ハンターなんて仕事女性がやるわけないですよね。

 なんかファンタジックに美少女冒険者とか、いるわきゃないですよね。

 僕の所属してた猟協会にも女性は一人もいませんでした。

 最近話題の猟ガールなんて僕みたいな田舎町じゃただの都市伝説ですわ。

 ハンターなのに結婚してて奥さんがいて一緒にハンターやってくれてるってのがもうこの世界ではありえないらしいです。バルさんが言ってました。はい。

「女房がいるならまともな職に就けよ……」と言われましたからね。

 できるものならそうしたいかもしれないです。はい。


「草や葉っぱをくっつけてるのかと思ったら、それ染物か……。すごいな」

「はい、山や森で隠れて獲物に近づくための装備です」

 バーティールさんが僕らの迷彩服を見て感心する。

「俺たちゃハンター(何でも屋)だが、お前らは狩人ってことなんだろうな」

「まあそうですね」

「なに大した違いはない。相手が人間か、動物かってだけさ」

 ゲラゲラ笑います。

 僕はあんまり笑えません……。


 みんなそれぞれ先頭馬車、しんがり馬車に分乗。しんがりはミルドさんが指揮します。僕らはバーティールさんと一緒に先頭馬車。

 野盗はバカなので後ろから襲えば勝てると思ってるらしいんで、後ろの人数を多めにするんだそうですよ。


 さあ出発です!


 目的地は隣街のトープルス。僕たちがいたサープラストより大きい街です。川から離れていて内陸部ですね。

 初めての陸の旅、そして僕とサランにとって新しい街です。楽しみですね。


「『見るな聞くな』とは言われたが一緒に戦うこともある以上仲間の武器は一応知っておきたいし、それなんなのか、どう使うのかぐらいは教えてもらいたいな」

 バーティールさんが僕に聞きます。

 今は御者さんの隣にサランが座ってて、警戒してます。

 サランは敵や動物の気配に敏感ですからね、見張りには最適ですね。


「これなんですが……、鉄砲です」

 カバーを外してM870を見せる。


「……こんなの初めて見るぞ。魔法を撃ち出すんだろうけど……」

「まあそんな感じですね」

「どれぐらいの距離まで届く?」

「まあ普通の弓と同じぐらいで、弓よりも威力があります」

「誰でも使えるのか?」

「僕でないと無理ですね」

 うん、正確に言うと「弾が無いと無理ですね」なんですけど。


「お前が作ったのか?」

「いえ、職人さんが」

「なんて職人?」

「エリファレット・レミントンさんです」

 米レミントン・アームズ・カンパニーの創業者です。銃身から銃の製作までやって身を起こした銃器界の巨匠ですね。レミントン社は南北戦争の前からある現存するアメリカ最古の銃器メーカーですから、ウソは言ってないですよ。


「そんなやつ聞いたこと無いな。これほどの物を作れるなら名が知られていてもおかしくないが……」

「もう亡くなって百年以上になります。これは僕が祖父から受け継いだものです」

「そうか。貴重なものなんだろうな。大事に使え」

「はい」

 なんとかウソを言わずごまかすことができました。

 あーコイツ嘘言ってんなってのはなんとなく伝わりますからね。


「あのー」

「ん?」

 そろそろ話を他の話題にしたいです。


「野盗、強盗って、どうやって見分けるんですか?」

「そりゃあお前、武器持ってんのが野盗だよ」

「一般の方が旅する時護身用に剣とか持ってるのでは?」

「一般の人間は武器を持つことは禁じられている。旅する時は駅馬車に乗る」

 えっそうなの?


「……そういえば僕らは二人でよく歩いてあちこち行ってましたが」

「ハンターは別だよ。武器持って歩いてもいい。止められたらカードを見せればいい」

「でもハンターか盗賊かってのは?」

「うーん……、まあそこは見りゃあわかるとしか言いようないな。俺たち護衛ハンターは他のハンターとも顔なじみだ。お前たちもハンター仲間にはよく顔を売っておいたほうがいいぞ。間違って討伐されたら笑えねえ」


 笑えませんね……。


「まあ、野盗ってのは見りゃあわかるぐらい汚くて、臭くて、最悪な連中だ。お前らみたいに小ざっぱりはしてねえし、女連れなんてこともありえない。俺らだって盗賊には見えないだろ?」

 そうですね。どの方も一目見ればかなりいい装備なのはわかります。


「お前らはその帽子ずっと被ってろ。いい目印になるぜ」

 もうタヌキ頭で決まりですか。今度から「ラクーンヘッド」とでも名乗りましょうかね。



「人!」

 サランが声を上げて、僕とバーティールさんで身を乗り出して前を見る。


「……? どこだ?」

「ずっと前だけどね。五人。ハンターっぽい」

「……いい目してるなお嬢ちゃん。一応警戒するか」

 バーティールさんがサランと変わって御者台の隣に座ります。

 僕とサランは後ろから覗き込む。


「ああ、ありゃティラースのパーティーだな。街道のパトロールを任されてる」

 五人、馬車隊に道を譲って横で待つ。

 バーティールさんが手を振ると、五人もかるく会釈して笑う。

 弓とか槍とか剣とか装備してるけど、うーんちと汚いですね。

 野盗ってこれよりさらに汚いわけですか……。

 僕らも身だしなみには気を付けないといけませんね。


「強盗じゃないやつはあんなふうに道を譲って待つのが礼儀だ。下手に立ちふさがったりすると弓で射られても文句は言えんぞ。覚えとけ」

「はい、気を付けます」


「あと、盗賊は数が多い。十人以上が普通だ」

「そんな人数、これだけの護衛で対抗できるんですか!」

「盗賊やるようなやつは食い詰めてるロクデナシだ。少数精鋭なんてのはありえねえ。そんな腕があったらとっくに別の仕事してる。弱いから数で囲んで脅したり襲ったり……ってことだ。俺たちの敵じゃねえ」

 凄い自信ですね。頼もしいです。


「まあ、サープラストとトープルスの間は主要な街道だ。こんな人通りが多い場所で野盗するやつは少ないな。俺たちみたいのがちゃんと護衛してるし、野盗はその場で皆殺しってのがギルドでも徹底してる。百年前ならともかく、野盗なんて今では儲かる商売じゃないさ。それでも最近盗賊団がいるって話はある」


 僕みたいな田舎者でも「死亡フラグ」っていうやつぐらいは知ってますよ。

 あえて口にしないようにしてきましたが、やっぱりねえー……。


「盗賊団が出る。ハンターが護衛をする。盗賊団がいなくなる。安全になると護衛無しで旅する商人が増える。そうするとまた盗賊団が出る。繰り返しさ」

 人間と言うのは学習しないのはどこでも同じですね……。


「人! 五人以上!」

「……賊だな。それにしても嬢ちゃんよくわかるな」


 エルフだからかな。

 すごいよサラン。



挿絵(By みてみん)


次回「初めての護衛実戦」

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