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北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた  作者: ジュピタースタジオ
第一章 本物のハンター、異世界に行く
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2.女神様のチュートリアル


 見回す。

 ……森の中だ。

 僕の格好。

 迷彩の上下、トレッキングシューズ、オレンジ色のジャケットと帽子。

 横に転がっているのは僕の愛銃、古いレミントンM870です。

 ポケット……サボットスラグ弾が十七発。


 バックパック。

 ハンティングナイフとスイスアーミーナイフ、ロープ、ビニール袋、手袋、スプレーのペイント缶。ペットボトルの水とおやつの菓子パン。

 チョコレートバー、非常用断熱アルミシート、双眼鏡、マグライト、ガスライター、財布。

 ティッシュ、手ぬぐい数枚、ニコンのレーザー測長計(レンジファインダー)

 胸ポケットには銃砲所持許可証と町発行の害獣駆除従事者証。 

 腕にはコンパス付きソーラデジタル。ズボンのポッケに携帯電話。


 携帯ってバカにしないで。山歩きするんだから防水でタフでないとダメなんです。

 ダメだ圏外だ。

 腕時計のコンパスのスイッチを入れてみます。

 ……東西南北はわかるかな。


 無線……肩の無線(※1)。誰かいるかな?

 今までの全部夢で、ここ、日本かもしれないし。

「こちら中島、こちら中島。応答願います。こちら中島」

 ダメだ反応無い。

「こちら中島……」

”はいーっよく聞こえますよ!”


「うわ!」

 びっくりした! 女の人の声じゃないですか!


「こちら中島です。そちらの状況お知らせください」

”こちらナノテスでーす!”

「ナノテスさんて……。さっきの女神さん?」

”はーい! 今日からあなたの担当です! この世界の女神です!”

 あっかるいな! ぜんっぜんさっきと雰囲気違うんですけど!

 そんな気分じゃないんですけど僕!


「なんでそんなにウキウキしてるんです……」

”いやあ私の世界にもやっと異世界人が来てくれたと思うと嬉しくって”

「ムリヤリ拉致してきたようなものじゃないですか……」

”かたいこと言わない。せっかく生き返れたんだから”

 そうか。僕死んだんだった。いつまでもグズグズしていられないや……。


”これからも困ったことがあったら無線で連絡してくださいね?”

「いや、そんなに使ってたら電池切れちゃうし」

”切れないようにしておきました!”

「それは素晴らしいんですがどうせならケータイにしていただけると」

”そこ圏外ですんで。ほかに電話できる人もいないでしょう”

「……ケータイぐらい使えるようにして下さいよ」

”あなたねえ、携帯電話使えるようにするのにどれだけインフラ整備しないといけないか知ってるでしょう? あちこちにアンテナ建てまくって中継局作ってサーバー整備して国家的な事業になるじゃないですか……。とにかく異世界ではケータイもスマホも禁止です!”

 ……そんな古い校則みたいな……。


”ではチュートリアルです。よく聞いてくださいね”

「……はい」

 強引ですね女神様……。


 さて女神様のお話では、ここはヨーロッパ風の世界で、王様がいて、貴族がいて、平民がいて、人間以外の種族もいてそれぞれ共存している世界らしい。あれかな? ファンタジー映画みたいな世界かな……。

 で、魔物もいて、人間たちとは対立してると。

 へーそーですか……。


”ゲームのRPGとかアニメの異世界ものそのまんまだと思ってもらえば”

 実感湧かないです。

「僕はそういうのにあんまり興味なかったから知識が無いですよ」

”えっそうなんですか? 生前どんなゲームやってました?”

「ゲームはあんまり……友達の家でレーシングゲームとかバイオハザードとかやったぐらいで……」

”好きなアニメは?”

「ジブリだったらなんでも好きです。一番はやっぱり天空の城ラピュタかな」

”好きなアクション映画とかは?”

「ダイハードとかターミネーターシリーズとかですかね。エイリアンとかプレデターも好きです」

”はあー……、オタクじゃないんですか……。説明が面倒ですね……”


「……いやそんなこと言われても……」


 ……。


 無線入ってこなくなっちゃった。




”……こほん。中島さん、それではですね、異世界を生きるための必須能力!”

「はい」

 誤魔化したな。

”あなたのチートについて説明させていただきます!”

「ちーとって?」

”……まあ手っ取り早く言うとその異世界の人が持っていない特別な能力のことです”

「はあ」

”『マジックバッグ』って念じながら唱えてください”

「マジックバッグ?」


 ぽん!

 うわっ目の前に黄色い鞄出た!

 あわてて受け止めます。


”それがあなたのチート能力です”

「かばんがですかあ――?」

”黄色い鞄はある黒い猫によってですね、万能とされる由緒正しいすばらしいアイテムなんですよ知りません?”

「知りません!」


”中を開けてください”

「……空なんですけど」

”お金を入れてください”

「イヤな予感しかしないんですけど」

”日本円でもドルでもユーロでもこの世界の金貨でも銀貨でも、お金ならなんでもいいんです。自動的にレート換算されますから”

「じゃ……五百円だけ」


 財布から五百円玉を取り出して入れます。

 ここが本当に異世界ならもう持っていてもしょうがないお金だし。


”そして、鞄を閉じて欲しい物を口に出してください。そうですね……鉄砲の弾とか”

 そうだ。

 僕は今この世界で一丁の銃と十七発の弾丸だけしか持っていないんだった。

「フェデラル、サボットスラグ、カッパー、12ゲージ2・3/4インチ」


”鞄を開けてください”

 ……見慣れたショットシェルが一発、鞄の中に入っていた……。


 僕の愛銃、レミントンM870ハーフライフル、スコープ付き。

 普段はキツネや鳥撃ちにスムースボアのショットガン銃身を取り付けているんだけど、鹿撃ちではサボットスラグ専用ライフル銃身に取り換えます。

 銃身が簡単に換装できるのがM870の特徴です。弾倉の先にあるエンドキャップを緩めて外すだけで銃身が丸ごと取り外せます。

 とは言っても日本の法律でライフリングを半分以上削ってあるハーフライフル銃身なんだけど。こうしないと散弾銃としての所持が認められません。残念です。(※2)


 銃身そのものにカンチレバー(※3)でスコープを付けているんだけど、これで50~100mぐらいまでの動いていないシカならまずどこかに当てられますね。シカは大きいからね。

 150mは、僕の腕前だとまだ無理かな……。


 通常のスラッグ弾と異なるのは、弾丸がライフリングに食い込むプラスチックのサボットに包まれていて、回転しながら撃ち出されること。そのために命中精度はスラッグ弾以上です。

 問題は弾が高いこと。

 一発五百円もするんだよ(※4)。通常の散弾なら一発百円しないのに……。

 あ、ちなみに散弾銃の弾は装弾(ショットシェル)と言い、通常の弾とは区別されてます。


”どうです。すごいでしょ! お金さえあればこれで買い物できますよ!”

 そりゃあすごい……。

 あ、お釣りが入ってる。1ドル紙幣? が二枚……。

 なんでドル? 一発3ドルなの? 日本だと一発五百円する弾だよ?


「ありがとうございます。これで何でも買い物できるんですか?」

”いいえ、あなたが明確にイメージできるもので、それなりに制限があります。現在はあなたの武器……銃に関する物だけはほぼ無制限です”

「困った制限ですね……。キャッシュカードは使えますかね」

”うーん……OKにしましょう!”

「はい、ありがとうございます」

 財布の中、二万円ぐらいしか入ってないもんね……。

 貯金はえーと百万円ぐらいはあったかな。軽四駆を買おうと思って貯金してた。

 収入が無いと節約しても日本だと半年で一文無しです。


”もう一度、『マジックバッグ』って唱えてください”

「マジックバッグ」


 ……かばんが消えた。


”どうです?”

「すごいですね。魔法みたいです」

”魔法ですから”

「この世界には魔法あるんですか?」

”普通にありますよ”

「そんな世界で散弾銃だけで僕、生き残れるんですかね……」

”まあそれは、やってみないとわからないということで”

 そんな無責任な……。


”そのマジックバッグは底なしです。なんでも入ります。邪魔なものや使わないものはどんどん放り込んでおいてもらって結構ですよ。盗まれても呪文唱えればすぐに消したり手元に出したりできますので防犯対策もバッチリです。取り出したいときは入れたものを口に出して鞄を開いてください”

「そりゃあ便利ですね!」


 嬉しい。

 なんか少しだけ、やっていけそうな気がしました。


「それで、僕はこれからどうしたらいいんでしょう」

”それは自分で、考えてください。ではー通信終わり!”


 えええええ――――――――!!




――――作者注釈――――

※1.無線

 業務である害獣駆除でアマチュア無線を使用するのは禁止されていたのでこの小説ではデジタル簡易無線を使用している。令和4年より総務省の指導に変更があり、消防、防災、ボランティアなどの分野でアマチュア無線の使用を認めることになり、ハンターの害獣駆除での使用も許可された。


※2.令和6年7月より施行された銃刀法改正によりライフリングを半分に削ったハーフライフルはライフル同様十年以上の散弾銃所持経験が無いと所持が認められなくなった。

 北海道では害獣駆除業務に従事するなら一年目からハーフライフルの所持が認められる特例措置が施行されているが、これでは事実上ハンターへの「害獣駆除従事の義務化」である。経験が浅い初心者マークのハンターも市町村が依頼する害獣駆除に従事し、安い日当で立ち向かわなければ市町村に使用実績なしとして所持が取り消されるというきわめて非情な法改正といえる。

 野球のようなプロスポーツが部活や草野球のようなアマチュア層に支えられているように、ハンターも害獣駆除を業務としない幅広いビギナー・アマチュア層に支えられなければ衰退の一途となることは目に見えているのだが……。


※3.カンチレバー

 散弾銃のM870にはスコープを取り付けるネジ穴などが無いため、スラッグを使う場合機関部に別パーツで取り付ける方式が主だったが、それでは銃身を交換したときに照準が狂うので、銃身に直接スコープマウントを延長してロウ付けするカンチレバー方式が現在の主流である。これなら銃身を交換してもスコープが銃身についたままなのでスコープの誤差は最小限に抑えられる。

 某方面警察でポンプアクション散弾銃の上にスコープを付けていて銃器の知識がある人に笑われているが、それを実際にやっているスラッグハンターはこの小説の主人公を含め数多く実在する。


※4.一発五百円

 コロナ感染拡大による製造、流通のストップ、ウクライナ戦争による戦争需給により現在海外からの弾薬輸入は難しくなっており、サボットスラグ弾の価格は一発800~1200円に値上がりもしくは在庫なしという状況が続いている。(2020~)

次回「僕のチートって、凄いようで凄くない」

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― 新着の感想 ―
>衰退の一途 いやそれは長野の立てこもりの犯のせい 許可基準が狩猟免許取得のみで、すぐにハーフライフル銃を所持できてた方が異常なのでは そもそもビギナー・アマチュアに射程の長い銃を持たせる方が危険だと…
[一言] 本編にほぼ関係ないけど、京セラのSシリーズスマホはそのへんのガラケーよりもタフで防水防塵耐振動耐衝撃ですよん。
[気になる点] 世界を越えてる時点で通信インフラなんか関係ないんじゃない?と何回目かの読み直しをしながら毎回思う。 [一言] 漫画のおまけを読んで女神はいつ本職をこなしてるのか気になり出してきた。
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