19.ハト殺しのシン
ライフルを入手して初日。
プレイリードッグがいるという例の農家さんを訪れました。
プレイリードッグに308はオーバーキルです。明らかにパワー過剰です。
でも、数を撃って経験積むにはいい相手……、と、言えなくもありません。
普通は22口径とかで十分獲れる獲物です。プリチャージエアライフルで駆除してる人だっているんです。
レーザーレンジファインダーで距離を測定し、巣穴から立って周囲を眺めているネコぐらいの大きさのプレイリードッグを150mで狙います。
ドォ――ン!!
……。
双眼鏡で見ていたサランによると、胴体が二つに分かれて飛んでいったそうです。
やっぱり22口径の獲物ですねえ……。
音が凄いのでね、潜ったまま出てこなくなってしまいました。そういう点からもやっぱり音の小さな22口径で獲るべき獲物ですね。
巣穴が畑に十か所ぐらいあって、順番に五匹ぐらい獲って……ぐちゃぐちゃになって飛んでいくプレイリードッグ見てこれにはサランもドン引きです。
プレイリードッグは見た目やしぐさが可愛いし、巣穴近くで家族連れだったりしますので罪悪感が凄いです。
「もうやめようよシン……」
「うん……」
死体が回収できないほどひどい状態でしてね、農家さんにはちょっと難しかったですという話だけしてお金は受け取りませんでした。
次の日、懸念してたコヨーテの被害に悩む農家さんの元を訪れました。
羊とか、牛とかを飼ってます。
柵の中の牛や羊たちから離れ、草原を見渡せるところまでやってきました。
コヨーテは身を隠しながら近づいてくるなんてことはありませんね。
大胆に昼間から堂々と草原を渡ってやってきます。人間ナメてますな。
150mぐらい近づいたところで……。
ドォ――ン!
「あたり!」
よし!
目いいなサラン……。
さて、もっと待つ……。
200m? レンジファインダーで測定する。
スコープの十字線1ドット下で狙い……。
ドォ――ン!
「あたり!」
この農場を襲うコヨーテはこの二匹だけだそうで、一安心ですな。
オスとメスでした。夫婦かな。
悪く思うな、若夫婦。
「らいふるって凄いねえ!」サランも感心です。
うん、あの距離を攻撃できる手段はこの世界にはないでしょうね。
着弾を見ると貫通していましたね。射出口がきれいです。
銅弾は硬いので、コヨーテの体ぐらいなら潰れずに通り抜けちゃうのかもしれませんね。コヨーテは肉を取ったり毛皮を取ったりしませんので、どこに当たってもいいんです。
謝礼に羊毛を大きな袋に一抱えもらえました。
お金じゃない場合もあるんですね。ギルドに売ってみましょう。
サランがニコニコと上機嫌です。
ふわふわの羊毛が気に入ったみたいです。
「これって布団にできるかなあ! エルフでも羊飼いたい!」
そっちですか。
ずーっとふわふわベッドにご執心でしたものね。
じゃあ、これは売らずに持って帰りますか。
なんとか苦労してマジックバッグに詰め込みます。
「敷布団にはいいよね。でも掛布団の高級品はやっぱり羽根布団」
「羽根布団?」
「鳥の羽毛を集めて布団にするの。軽くて暖かいよ」
「うわーそれいいなー! それだったらエルフでも作れそう」
「羽根布団使ってる宿屋さん探してみようか。きっと気持ちいいよ」
……。
自分で言ってて、二人で赤くなっちゃいました。
新婚ですから。
「おいっ、どこ行ってた! 仕事だ!」
ギルドに戻ると、ギルドマスターのバルさんに声をかけられます。
「どこ行ってたって、仕事に決まってるじゃないですか」
「お前たちに指名の仕事が来てんだよ。領主様からだぞ!」
領主から!?
「館の厩舎にハトがたかってしょうがなくってさ、駆除してくれってさ。馬番が」
そういうことですか……。
「もう遅いですしね。明日でいいですかね」
「いや、待たせると厄介だ。今日中に顔だけでも出しておいたほうがいいな」
お偉いさんと言うのはどこでも面倒ですな……。
「わかりました。依頼状は?」
「そんなものはない。使者が来て、命令して、出頭せよ。そんなもんだ」
「……」
悪い予感しかしないです。
「お館ってどちらです」
「見りゃわかんだろ」
わかりますね。わかりすぎるぐらいわかります。一番大きい屋敷ですもんね。
はい、サランと二人で、てくてく歩いていきました。
マジックバッグから空気銃を取り出すところを見られたら面倒なので銃カバーをかけて背負っていきます。
大きな門まで来ましたね。
えーとどうしたらいいんでしょうかね。
屋敷をぐるっと回ります。
別門がありますな。柵越しに使用人さんが庭の手入れをしているのが見えます。
「すいませーん」
「はいな。どうしました?」
「ハンターギルドから呼ばれてきました。ハトの駆除を依頼された者です」
「ああ、聞いてるよ。ちょっと待ってな」
しばらく待つと馬番さんがやってきました。
「やあ、すまないね」
もう夕暮れなんですけどね。
「……おっきい姉ちゃんだな……」
ほっといてください。
もうどこに行ってもそれ言われるんでね。もうさすがに慣れましたね。
サランも最初は笑顔がヒクヒクしてましたが、最近は知らん顔です。
「領主様が馬を見に来た時ハトにフンをかけられてね、それで旦那さんが激怒しちゃって」
あーそーいうことですか……。
「訪問する時はどちらからうかがうのが礼儀でしょうか」
「お客様ってわけじゃないからこっちの門でいいのさ。正門から来てたら失礼だったね。一応ハンターカードを見せてもらえるかね」
……危なかったですね。堂々と正門から乗り込むところでした。
「ふむ、サランとシンね。覚えておこう」
「ハトは何度でも来ますからね。覚えておいてもらうと僕らも仕事がやりやすいです」
「そうなんだよ。ギルド倉庫のハトを全滅させたんだって? ハト殺しのシンさん」
僕ってそんな呼び方されてんですか。
「僕ら最近この街に来ましてね。領主様の名前はなんというお方でしょう」
「キハル・ド・アルタース子爵様だ」
「もし会ったらどう呼べばよいのでしょう」
「アルタース様だ。まあ顔を合わせるようなことは無いと思うが、一応な」
「厩舎を見せていただきましょう」
「こっちだ」
うーん……。もう暗い。
でもくるっぽー。くるっぽーというハトのさえずりは聞こえますね。
「夜間でも駆除はできますので、ランプをいっぱい持ってきてもらえますか?」
夜間の発砲、屋内の発砲は銃刀法で固く禁じられておりますが、ここは異世界。関係ないですね。
ランプが持ち込まれ、厩舎がぼんやりと明るくなります。
馬がいっぱい……。二十頭ぐらいかな。
さすがは貴族。
木造の厩舎の屋根裏に、いるわいるわ……。二十羽以上かな。
ここをねぐらにしてるんですね。木の桟にうずくまってハトがいっぱいいますわ。
「さっそく始めていいですか」
「頼むよ」
カチカチカチカチカッチン。
ダイアナM52のサイドレバーを引き、ペレットをチャンバーに詰め、すっと狙う。
「なんだそりゃ!?」
「ま、道具の一種です。お気になさらず」
「魔道具ね……」
スルーします。
口径50mmの明るいスコープが付いてますからね。暗くても見えますね。
バシュッ!
バサバサバサバサ……ポトッ。
「こ……こんなに簡単に……」
落ちたハトをさっさとサランが拾って袋に入れる。
サランは慣れたもんですね。僕はあんな馬がブルブル鼻を振ってる中に入っていくなんてちょっとやりたくないです。
バシュッ! バシュッ! バシュッ!
もう目につくやつを片っ端から落としていきます。
スプリングエアライフルは音がそんなに大きくありませんのでね。
扉を開け閉めする程度の音ですかね。
なので、馬を騒がせることもありませんね。
暗くてよく見えないところにいるやつは、マグライトを銃に沿わせて先台と一緒に握り、光を当てながら撃ちます。
ぼとっ。ぼとっ。
調子よくハトが落ちますな。
夜はハトはうずくまって寝ていますので、簡単です。
夜間のほうがやりやすいぐらいです。
「そ……そのランプは何?」
あー、この世界ではオーバーテクノロジーな懐中電灯ですよね。
「マグライトです」
「魔具ライトか……」
誤解されてるような気がしますがスルーします。
……腹減った……。
ひもじい……。
お昼から何も食べてない……。
時計をこっそり見るともう夜の12時ですわ。
「あの、ひと段落着いたようなので、あとは明け方にしたいのですが」
「ずいぶん獲れたね。何羽?」
「二十二羽」
袋に入れていたサランが答える。
「寝るときはそっちで頼む」
……わらの上ですか。
いやもう別にそれでいいや。
「じゃあ、俺は明日の朝また来るから」
そういって、馬番さんは帰っていきました。
「なにあれ!」
サランが怒りますねー。無理もないですねー。
「……まあ貴族って使用人もあんなもんなんでしょ。さ、これ食べて機嫌直して」
屋台で買っておいたサンドイッチとか、購入したミネラルウォーターのペットボトルとか出して二人で食べます。
その晩は二人で毛布体に巻いて、寄り添って眠りました。
なんかとってもみじめな気がしましたね。
十二月に馬小屋で出産する羽目になったキリストの母のマリア様もこんな感じだったんでしょうかねえ……。
次回「特にイベントが無いのは何かが起こる前兆」




