17.ハンターの本来のお仕事
「おうっ来たか!」
朝になってハンターギルドの掲示板を見に行くとバルさんがニヤニヤ嬉しそうに待ってましたね。
「……なんですかね?」
「いや、お前らに頼みたい仕事がいっぱいあって」
「悪い予感しかしないんですけど……」
「私はもう少し仕事を選びたいねえ……」
僕はともかく、サランはこの世界でも一流のハンターですからね?
あんまり変な仕事は、お断りしたいですねえ……。
「まあそう言うな」
そう言ってバルさんが次々に掲示板に依頼書の紙を貼る。
「上のハンターは大物魔物の討伐とかに出払って滅多に帰ってきやしねえ。中堅のやつらは商人の護衛任務で西に東、下っ端の若い連中はカネカネカネでデカい仕事ばっかり夢見て下積み仕事はお断りだ。本来ハンターがやらなきゃならん、人の役に立つ仕事ってのが案外人気がねえんだよ」
「ハトの駆除みたいな?」
「そうだ。あんな仕事引き受けてくれたのはお前らが初めてだよ。あれは助かった」
……そうですよね。
ハンターって言うのはね、日本でも、儲かる仕事じゃありません。
収入度外視なんです。
趣味であり……ボランティアですね。
「うーん、でも、シンはお金が欲しいんでしょ?」
言い方。
サラン言い方。
そんなミもフタも無い言い方しなくてもさ……。
「僕はここではまだ駆け出しハンターさ。地道に仕事をして、実績を上げて、信頼されるハンターになるのが筋だと思うんだ。ハンターって、誤解されやすい職業だからね」
「その通りだ!!」「その通りですよ!」
バルさんと買い取りじいさんが声を上げます。
「いやあお前はわかってるな。若いのに大したもんだ……。俺たちの悩みの種ってのはまさにそれだ。仕事を選り好みし、楽で割のいい仕事とか名を売れるような仕事ばかりやりたがり、あちこちでトラブルを起こして金にがめつい。ちょっと強いからとか名が売れたからって調子に乗ってるような奴らが多いんだよ……」
「ハンターはあんな仕事はやってくれない、こんな仕事はやってくれない、市民にも農民にもだんだんそう思われるようになってしまいましてな、偉そうにふるまう傲慢なハンターも少なくありません。底辺職のイメージがどうしても無くなりませんな」
うん、日本でも同じ。猟協会は銃を振り回して動物を殺して喜ぶ田舎の爺さんたちがやる最低の仕事だと考える人は少なくない。地道に仕事して農家さんの畑を守って頼みを聞いて、田舎の地元では信頼されてる組織であるために、僕たちは日々努力している。でもたった一件の事故や失敗でこの信頼はあっという間に完全にゼロになってしまうんだ。損な仕事だよ……。若い人はだれもやらないし、都会の人たちにはなかなかわかってもらえないけどね。
僕みたいな二十代のハンターなんて珍しいよ。他の猟協会支部から羨ましがられるぐらいさ。
でも僕の役割は、死んだシカを山からひきずってくるだけの簡単なお仕事ですけどね。若いからね。うん。
「そんなわけでな!」
バルさん、びしっと掲示板を指さす。
「農家からの依頼がけっこうたまっている! お前らこれ片っ端からやってくれないか!」
「……」
「頼むよ。特別報酬もギルドから出すからさ……」
「えっと、サラン?」
「はい」
「僕としてはね」
「やりたいのね?」
「うん!」
「しょうがないねえ」
ニカッと笑ってくれるサラン、嬉しいね。
「リス! リスがいっぱい来てんだよ!」
リスかあ。ナッツがかじられてしまうんですよね。
リスが食べる分なんてたかが知れてますけどね、目の前で食べられちゃうとやっぱり腹が立ちますよね。ナッツ農家さんの大敵です。
空気銃で片っ端から撃ち落とします。
日本ではリスは狩猟禁止です。
かわいいリスさんを撃つなんてとんでもないといわれそうですけど、アメリカでのリス撃ちはナッツ農家さんの農作業の一つです。
二十二匹落として農家さんから直接金貨二枚の報酬です。
……こんなにいるとさすがに農家さんの収入減になるか……。
ナッツもいっぱいもらいました。
カシューナッツに似てますね。おいしいです。
「プレイリードッグが牧草を穴だらけにしちゃうんだよ!」
猫ぐらいの大きさのげっ歯類です。
うーん……近づくと穴にはいっちゃいますし、的は小さいし用心深い……。
100m以上の距離があります。散弾銃でも空気銃でもちょっと取れませんね。
サランの弓でももちろんダメ。
223レミントンとかのバーミントライフルが欲しい。日本では22口径での狩猟は禁止です。でもアメリカではみんな小口径ライフルでプレイリードッグ一日に何十匹も駆除してます。
223レミントンが一発50セント以下、22LRだったら10セントしません。
こちらはちょっとお話だけ聞いてなんとかならないか考えます。
「コヨーテが牧場の牛や羊を襲うんだ」
夜行性ですが昼もやってくるらしいです。これもライフルの獲物ですね。
近日中になんとかするってことで、とりあえず話だけ聞いておきます。
「シカが畑を荒らすんだよ!」
それは任せてください。僕のサボットスラグ弾とサランの弓で十分です。
サランと二人で追跡して近隣の森で見つけ、三頭捕獲しました。
農家さんが荷馬車を出してくれて回収し、東口からサープラストの街に入ります。
金貨二枚を報酬にもらい、手を振って農家さんが荷馬車で帰っていきました。
東口からギルドの建物はすぐそこなのでね、ギルドの人に来てもらって運び込み、丸ごと買い取ってもらいましたよ。
一頭金貨三枚。日本の三倍で買い取ってくれますね。いい儲けです。
「オオカミが出るんだ。子供が外を出歩けなくて……」
シカを捕らえて木に吊るし、その場で解体し、二人で別々の木に登って待ちます。
血の匂いを嗅ぎつけてがるるる……と群れで集まってきましたね。
バックショットとサランの弓で片っ端から射殺します。
歯を剝いて襲ってくる強敵ですね。今までで一番怖かったかな。
木に登っていなかったら危なかったですね。
オオカミと言う奴はですね、アレですね、なんか品のない、ヤンキー化したシベリアンハスキーという感じですね。やさぐれてます。地元の高校生を思い出します。
オオカミの毛皮は丈夫で柔らかく毛並みが水をはじきますので農家さんに人気です。一匹銀貨四枚、八匹で金貨二枚半。
シカはさすがにギルドまで運べないので農家さんに直接売り、金貨一枚。ちょっとオオカミにかじられてしまってますし、しょうがないかな。
それとは別に報酬で金貨二枚。いい儲けになりました。
「カラスが……」
はいはい。金貨一枚。
カラスがね、植えた作物の苗を咥えてすぽんと抜いてしまうんだそうですよ。抜かれた苗はもちろん枯れてしまいます。
カラスは良く知られるように「遊び」をする珍しい野生動物です。面白いからやる、としか説明付かない意味のない行動をします。人間がそれをされると困る、という嫌がらせをやるのだから頭がいいですね。北海道でもこのカラスによる作物の苗の被害は一つの町で数百万円相当になります。これは目につくカラスをかたっぱしから空気銃や散弾銃で撃ち落として、死体を竿で吊るしておくと防ぐことができます。
普通はなかなか獲れないカラスを大量に農家さんに提供しまして、これは感謝されましたね。
「ハトが……」
はーい。納屋全滅で金貨一枚。
「キツネがですね」
一匹銀貨二枚……。こいつも夜行性なんで昼間ウロウロしてる二匹しか獲れなかったな。
これは散弾銃の獲物です。牧場の牛舎とかに隠れて近づいてくるのを狙いました。
雑食性ですのでね、家畜の飼料、穀物類も食べに来るんですよ。トウモロコシとか好物です。
「川にワニが」
いや怖いって!
なにこいつ4m以上あるじゃないですか!
一匹にサランの矢五本スラッグ三発ぶち込んでやっと倒しました。
皮が高く売れるのでしてね、金貨十枚でギルドで買い取ってくれました。
肉も旨いらしいです。食べたくありません。
沼にずぶずぶ入って行って、ロープをかけて馬で引き上げてもらいました。
二人とも泥だらけ……。
儲かるけど、これはあんまりやりたくないなあ……。
そんなこんなで一週間ほど働きますと、それでも金貨四十枚になりました。
「よくやってくれた! これでギルドの信頼も取り戻せるってもんだ! 小さい変化だけどな」
「なにごとも少しずつです」
「俺からも報酬出す。これからも頼む」
大きな革袋でズシリとした報酬をもらいます。
え! こんなに!!
……中身全部銀貨じゃないですか。
ウインクはやめてくださいバルさん。そんな強面でウインクされても不気味なだけです。
ほらあ周りの目が……。
うん、そうですね。
他のハンターたちにじろじろ見られてます。僕たちが地味な仕事でもちゃんと儲けているというアピールですね。
周りの若手ハンターたちのよき手本になってくれということですね。わかりますよギルドマスターのバッファロー・バルさん。
銀貨六十枚。つまり金貨五枚のボーナスですね。
「ランクも一つ上げて二人とも5級にしてやる。カードよこせ」
「より過酷な仕事になるんじゃないでしょうかね」
「ラバラスワニが獲れるんだ。当然だよ。俺の推薦で手数料は無料だ」
……あんなワニ獲らなきゃよかった。
二人とも泥だらけでびしょぬれでしてね。
宿屋であきれられましたね。水場を借りて洗わせてもらいました。
もうこれだけが僕たちの憩いの場。ちょっといい宿のふかふかベッドでぐったりします。
まあでも寝る前にこれだけはやっておかないと。
床に座って愛用のM870を手入れします。
「ライフルが欲しいなあ……」
「らいふる?」
「うん、僕の使ってるてっぽうの上位の道具。300m先でも当たるしずっと強力なんだ」
「300めーとるって?」
「このぐらいの長さの300倍の距離」
そういって、僕は1mぐらいに手を広げる。
「そうかあそりゃあ欲しいだろうね。でも高いんじゃない?」
「うん」
高いこともあるが、実は日本では散弾銃を引き続き十年以上の使用実績が無いと許可されません。二十歳で散弾銃の許可をもらったとして、ライフルを手にできるのは最短で三十歳ということになるかな。
ここは異世界だから関係ないけど……。
銃はマジックバッグから買えるだろう。
買えないかもしれないけど。
こればっかりはやってみないとわかんないな。
今まで買ってきたのは弾とかハンティング用品とかばかりだったし、銃なんて大物、僕のイメージだけで買えるかなあ。失敗して金貨だけ無くなったりしたら怖いしね。
「いくらするの?」
「銃とスコープで金貨二十枚ぐらい……。高いよね」
「いいよ」
「うん?」
「シンが欲しいなら使っていいよ。一緒に稼いだお金だし、私にお金の使い道があるわけじゃないし、シンがもっと強い魔物とも戦えるようになるなら私も嬉しいし、好きにして」
「ほんと!」
「うん、でも宿はふかふかベッドがいい」
ベッドに飛び込んで、むにゅむにゅしちゃいました。
よしっ、次回はライフル購入だ!!
次回「ライフル選びは銃よりも弾が先」