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北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた  作者: ジュピタースタジオ
第一章 本物のハンター、異世界に行く
16/108

16.最初はやっぱりスライムですか


 ……もう三日もギルドの倉庫のドバト駆除やってます。駆除した数は200羽を超えました。

 数は激減させることができましてね、もう、はぐれバトが飛んでくるのを待ってるだけのお仕事です。

 ヒマな時間は、市場調査してますよ。

 斧とかノコギリとか刃物とか、エルフたちが商人から買ってる鉄製品ですね。

 調べてみるとエルフさんたちはこちらの卸値の1.5~2倍程度の金額で買っていることになります。

 商人さんの儲け、それほどボッタくってるとは言えませんね。エルフ村まで出向いてくれる手間、旅を護衛するハンターの危険手当を考えると妥当な線でしょうか。


「今エルフ村に来てくれてる商人さんはまっとうな方と言っていいだろうね。大事にしてあげたほうがいいよ」

「シンがそう言うならそうなんだろうね。私からも村長に言っとくよ」

「それにしても、そろそろちょっと、大きな仕事をしたいな」

「うん。私もちょっと、イライラしてきた」

 うーんサランにもちょっと我慢をさせちゃってるな。


「いやーすまんすまん。助かってるよ。さあ食べろ」

 ギルドマスターのバッファロー・バルさんがお昼を持ってきてくれました。

 瓶に入った果実ジュースと、肉を挟んだサンドイッチです。屋台で買ってきてくれたんですね。


 ハトは黴菌(ばいきん)だらけです。食事前によーく手を洗います。


「ほとんどいなくなったなあ!」

「カラスですとね、死体を吊るしておけばもう来ないんですが、ハトは仲間の死体が吊るしてあってもまったく気にしませんからね」

 ハトを追い払うのは日本でもほんっとーに難しい。全滅作戦一択です。


「これだけやってやってるんだからさあ、割のいい仕事のひとつも紹介してよバルさん」

「わかってるわかってる」

 サランに文句を言われてバルさんが頭を掻きます。


「あんたたち何が獲れる?」

「キツネ、カラス、ハト、カモ、アライグマ、ウサギ、シカ……」

「クマ、野牛、オオカミ、魔物とかも」

 ……いいんですかサランさんそのラインナップ、僕やったこと無い物ばっかりです……。


「一通りなんでも獲れるな。さすがだよ」


「前から疑問なんですけど、野生動物と魔物の区別って、どうなってるんです?」

「人間見て逃げるのが動物、襲ってくるのが魔物」

「エルフでもそうだね。ワニとかジャイアントスネークとかスライムとかゴブリンとかオークとかは魔物扱いだね」


 ……そんなのいるんですか。襲ってくるんですか。それは怖いな。

 僕がハンターやってて襲って来たのは手負いのクマぐらいですよ。


「魔族もだ。魔王、悪魔、グールにゾンビ、ワーウルフみたいな魔族化した魔物……まあこいつらは魔王が復活すると出てくるわけだが」

「魔王……いるんですね」

「百年に一度出るかどうかってぐらいだ。今は平和さ」


 あと百年でその平和がなくなるかもしれませんよ。女神ナノテスさんが言ってました。


「スライムが増えてる水田がある。6級パーティーいくつか派遣してやらせようって話が出てるが若い奴はやりたがらねえ。お前らやるか?」

「ぜひ!」

「うーん、まあシンがやりたいなら」


 スライムといえばゲームとかに疎い僕でも知ってます。

 水玉みたいで一番弱い魔物ですよね。見たいです!



 掲示板見に行きました。

 水田が近い所に大発生ですか。全部駆除で金貨十枚。なんとかなりそうです。

 よしっ。これにしよ。


「酸を飛ばしてくるからね。あんまり近寄らないようにね。ちょっと離れて攻撃するのが基本。シンのてっぽうなら楽勝だね」

「サランはどうするの?」

「矢がもったいない。私は槍を使うよ。バッグに入れてくれてたでしょ」

「うん」

 マジックバッグからサランの槍をひっぱりだす。

 ……2.5mはある長槍ですな。

「ミスリルの刃を使ってるから酸に強いんだよ。スライム相手ならコレだね」

「へえー……」

 改めてみると、刃の部分、これチタンですね……。

 ファンタジーで有名なミスリル鋼、実はチタニウムなんですか……。

 魔法で精製するそうです。今ではこれできるエルフも少ないそうですよ。

「これ売ればすっごい値段になるんじゃないの!」

「コポリ村には職人もういないよ。残念だけど」

 めっちゃ残念です。できる村に紹介してもらって弟子入りしたいです。

 硬い金属のアダマンなんとかも実はタングステンだったりするんでしょうかね。


「レミントンM870用、エクステンションマガジン+3」

 バッグで買い物します。

 僕の愛銃、レミントンM870の弾倉を延長して今の4連発を7連発にしてくれるパーツです。55ドル。日本じゃ違法ですよ。

 バネを交換してマガジンキャップのかわりに取り付けるだけですから簡単です。(※1)

 僕のM870が上下二連銃みたいに下のチューブが銃身の長さだけ前に伸びました。薬室の分を入れるとこれで7+1で最大8連発です。

 今回、数が多そうなので沢山撃てるようにしておきたいですからね。

 こういうパーツが安い値段でいくらでも手に入るのがM870のいいところですね。

「こんなパーツがあったらな」ってパーツが必ずあります。


 弾は取り合えず一番強力なバックショットにしておきましょうか。

 25発入り18ドル。4箱買って金貨一枚でお釣りが来ます。


 実は僕は誘拐団と対峙するまでバックショットを撃った経験がありませんでした。

 北海道では直径7mmを超える鉛弾の散弾は使用が禁止されています。

 バックショットは8mm以上ありますからね。でも人間相手に使うならコレ、ということぐらいは僕でも知ってます。有名ですから。


 二人で東門を出て、てくてくと歩いていきます。

「人間の畑大きいー。また農家が凄いいっぱいいるんだね」

「人口がエルフとケタ違いだよね」

「人間って寿命短いくせにいっぱい増えるなあ。うらやましいよ」

「はいはい、人間は人間、エルフはエルフ」

「はーい」


 野菜畑、小麦畑。野菜の種類もエルフより豊富ですね。

「人間はいいもの食べてるなあ……」

「ほら、人間って農業以外の仕事してる人のほうが多いでしょ。自分が食べる分だけじゃなくて、売る分まで作るから」

「ここまで発展するのは、まあのんきなエルフにはちょっと無理かな」

「自給自足してますもんね、君たち」

「悪い?」

「いや、すごくいい。僕はエルフの仲間になれてよかったと思ってる」

「そう思ってくれるなら嬉しいよ」


 なんかこうイチャイチャしながら旅する感じがすごくいいです。

 新婚ですからね、僕たち。


 ギルドにもらった地図を見ながら農村を歩き、沼地の近くまでやってきてから近隣の農家さんに話を聞き、スライムが発生している水田の近くまで来ました。

 水田とは言っても稲を育ててるわけじゃなく、なんか(ハス)みたいな植物ですね。がっかりです。水田と聞いて米が食べられると思ったのに……。

 水中に芋みたいな作物が育つそうです。


「いるいる――!」

「うわあ……」


 なんかドロドロ、うねうねという感じの青いぶよぶよした水風船って感じ。

 百匹以上いるんじゃないの? あの、顕微鏡で見るアメーバーが巨大化して70~100cmぐらいの大きさになったと言ったらいいんでしょうか。


 サランが槍を振り回してスパッと斬ります。なぎなたに近い使い方かな。

 プリンかゼリーみたいな切り口。斬るとべしゃっと崩れます。

 ぴゅっと液を飛ばしてきますね。サランは上手にかわしてます。液の射程距離は3mと言ったところか。危なげなく倒していきます。


「よーしっ、やってみるか!」


 一匹に一発ずつ、バックショットを撃ち込んでいきます。

 ドウンッ、シャキッ、ドウンッ、シャキッ。

 近づいて10mぐらいから撃ち、5~6発撃ったら離れます。

 M870のチューブ弾倉は薬室にショットシェルを入れたまま、残弾のあるうちにどんどん追加でショットシェルを弾倉に押し込めますので弾切れで撃てない、なんて状況が他の銃器より少ないですね。


「真ん中撃ちな! 核があるから!」

「了解!」


 ドウンッ!

 撃ち込んだらべしゃっと潰れますね。撃ち込んで体液が飛び散るなんてことはなくてずぽっと入っていく感じです。人体に入ったときの軌道を見るための弾道ゼラチンみたい。エイリアンみたいに酸の体液を振りまかれるようなことにならなくてよかったですわ……。


 正直、気持ちいいです。面白いと言ってもいいぐらいです。

 調子に乗って取り囲まれたりしないようにだけ、注意しないと。

 その辺はサランがうまく立ち回ってくれます。いいコンビですね僕たち。

 間違ってサランに当てるようなことだけは気を付けないと。


 ショットガンの近距離射撃だからって、マンガやゲームみたいに腰だめにして撃ったりしませんよ。ちゃんと普通に肩付けして狙います。なんだかんだ言ってもこれが一番当たるんだからわざわざ外す心配のある撃ち方をする必要はないです。

 照準はオープンサイト、先端に照星(フロントサイト)があるだけで照門(リアサイト)はありません。散弾銃はこれが普通です。動くものを撃つので照星だけに集中していればいいんです。そのかわり構えはいつも正確に。これがショットガンを撃つコツです。


 ショットガンは反動が結構ありますのでね、腰だめにして撃つと反動で引き金にかけた人差し指を怪我することがあります。腕力がある人ならともかく、普通の人は腰だめ撃ちはやめたほうがいいですね。



 僕がショットシェルを七十発消費したころには、すっかりいなくなりました。

「サランは――!」

「四十匹ぐらいかなー」

 うん、槍でそれは凄いよサラン。

「負けた負けた」

「競争はしてないよ」

「私が一匹倒す間に二匹ぐらい倒してたよね」

「サランがひきつけてくれたからさ。僕一人だったら囲まれて食べられてたね」

「あっはっは」

「これからも競争って考えは絶対にやめよう。それ、猟でやると絶対にケガ人が出る一番悪い狩り方」

「……シンも村長みたいなことを言う……。素人っぽいかと思えば、妙に玄人なところもある。シンは不思議な男だねえ」


 うん、おじいちゃんにしごかれましたからね。


 その日は畑のあぜ道で火を焚いて、交代で見張りながら畑の番をしました。

 僕の番になって、数時間後……。

 どろっ。どろどろっ。


 ドウンッ! ドウンッ!


「うるさいよ!!」

 ……すいません……。でもどうしろと……。




 翌朝、すっかりスライムのいなくなった畑を農家さんに見てもらいます。

 喜んでもらえましたね。

 猟師やってていちばんやりがいある瞬間です。

 依頼書に完了のサインしてもらって、帰りました。


「二人だけで百匹以上のスライムを無傷で討伐か。他の6級ハンターに聞かせてやりてえよ」

 バルさんが金貨十枚を渡してくれて言いました。 

 うん、この世界で鉄砲持ってるって、我ながら卑怯です。

 申し訳ありません他のハンターの皆さん。


 一仕事終わったし、お金も入ったし。

 今日はレストランで食事して、いい宿とって、お風呂にも入って、

 ふかふかのベッドにサランが大喜びでしたね。

 今までずっとエルフの草を編んだ寝床か、固いベッドでしたもんね。

 おかげで眠るのがだいぶ遅くなっちゃいました。





――――作者注釈――――

※1.M870は機種が多くエクステンションマガジンの取り付けは加工が必要な場合もある。



次回「ハンターの本来のお仕事」

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[一言] 冒険者?してるって感じ
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